レビュー
Skylakeの第1弾となる倍率ロックフリーモデルは,ゲームにメリットをもたらすか
Core i7-6700K
Core i5-6600K
Skylake-KではCPUパッケージがLGA1151となり,2013年6月に登場したHaswellこと第4世代CoreプロセッサのLGA1150とは物理的,電気的な互換性がなくなるなど,マザーボードを含めたプラットフォームごとの刷新が図られた。なかでも注目は,デスクトップPC向けCPUで長らく使われてきたデュアルチャネルDDR3メモリコントローラに代わり,デュアルチャネルDDR4/DDR3L両対応のメモリコントローラを搭載してきたことで,「CPUとメモリモジュール,マザーボードを全部刷新するだけの価値があるのか」というのが,ゲーマーにとっての重要なチェックポイントということになるだろう。
4Gamerでは今回,発表に合わせる形で,i7-6700Kの製品版と,i5-6600Kの性能評価用エンジニアリングサンプルを独自に入手できたので,「ゲームプレイに有用なのか」を,さっそく確かめてみたいと思う。
デュアルチャネルDDR4-2133に
対応するSkylake-K
さて,いきなり残念なお知らせからだが,SkylakeがどのようなCPUかについて,今のところ,Intelは情報をほとんど明らかにしていない。それゆえ4Gamerでは,ライターの米田 聡氏が,数少ない公開情報からその概要をまとめ,同時に,基礎検証によって新しいマイクロアーキテクチャの特性に迫っているので,テクニカルな内容を知りたい人は,そちらをチェックしてもらえれば幸いだ。
Intel,Skylake-Kこと「Core i7-6700K」「Core i5-6600K」を発表。多くの仕様が謎に包まれたまま,Skylake時代が始まる
「Skylake-K」とはいかなるCPUなのか。「Core i7-6700K」ベンチマークで新世代マイクロアーキテクチャの実態を探る
共有L3キャッシュ容量は8MB。デュアルチャネルメモリコントローラはDDR4-2133とDDR3L-1600の両方に対応しているが,マザーボードメーカー各社は,国内市場においてDDR4を優先する姿勢を見せているため,ゲーマー向けマザーボードのほとんどはDDR4メモリスロットを搭載してくることになるだろう。TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は91Wだ。
一方のi5-6600Kは,4コア4スレッド対応で,動作クロックは定格3.5GHz,最大クロックは3.9GHz。共有L3キャッシュ容量は6MBとなる。それ以外の仕様は基本的にi7-6700Kと変わらない。
Haswell世代のデスクトップPC向け4コアモデルの最上位である「Core i7-4790K」
ASUSのゲーマー向けマザーと
組み合わせてテスト
そんなi7-6700Kとi5-6600Kのテストにあたって,今回用意したマザーボードは,ASUSTeK Compuer(以下,ASUSTeK)製のゲーマー向けZ170チップセット搭載モデル「Z170 PRO GAMING」である。
Z170 PRO GAMINGがどういった機能を有しているかなど,詳細は後日,あらためてお伝えしたい。
そのほかテスト環境は表2のとおり。テストに用いるCPUは,先の表1で紹介した3製品だ。また,DDR4メモリモジュールは,4Gamerが“普通に”店頭で購入してきたもので,デュアルランク(Dual Rank)の容量8GB品2枚セットとなる。
なお,OSをどうするかは迷ったのだが,最終的には,DSP(Delivery Service Partner,販売代理店)パッケージングの64bit版Windows 10 Proを用いることにした。Skylake-KとZ170マザーボードを新規で導入する人が,Windows 7やWindows 8.xを利用するというのは考えにくいというのが最大の理由である。
それに合わせ,グラフィックスドライバは,テスト時の最新版で,Windows 10のリリースに合わせて公開された「GeForce 353.62 Driver」を導入した次第だ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション17.0準拠。解像度は1280
また,「Crysis 3」は,Z170環境でのみ,SecuROMがらみと思われるエラーが出てゲームが起動しなかったため,今回はテスト対象から外している。これらについてはあらかじめお断りしておきたい。
オーバークロックでは簡易液冷で全4コア4.9GHzに到達
さて,いつもならここでテスト結果に移るのだが,今回は製品版i7-6700Kでオーバークロックを試みた結果を報告しておこう。
※注意
CPUのオーバークロック設定はメーカー保証外の行為です。最悪の場合,CPU本体やマザーボードなど,PCを構成する部品の製品寿命を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回のテスト結果は,あくまで入手した個体についてのものであり,すべての個体で同じ結果が得られると保証するものではありません。
今回は,4Gamerで独自に用意したH100i GTXを使ってオーバークロックを試みる |
AI Suite 3に用意されたDual Intelligent Processors 5のTPUでは,BCLKや動作倍率,各種電圧など,オーバークロックに関する設定変更が可能だ |
TPUでは,BCLK(ベースクロック)を40.00〜650.00MHzの範囲から0.25MHz刻みで設定できるだけでなく,動作倍率は41〜83倍の範囲から1倍刻みで変更できる。さらに,1コアだけ設定を適用するか,全4コアに対して適用するかも選択可能だ。
さて,まずはBCLKのほうだが,Skylake-Kでは,Sandy Bridge世代以降でPCHに内蔵されていたクロックジェネレータが,再び外付けになった。それに伴い,動作倍率以外にBCLKを変更することで動作クロックを引き上げやすくなっている。
ただ,注意したいのは,BCLKは「ベース」クロックであり,これを引き上げると,追随してほかのデバイスのクロックも変わってしまう点。たとえば,BCLKを100MHzから105MHzに引き上げるだけで,メモリクロックは2133MHzから2240MHzに,CPUキャッシュの動作クロックは4100MHzから4305MHzにそれぞれ上昇してしまう。
もちろん,UEFIを使えば,このAuto設定の利用をやめ,「DDR4-2133MHz」や「DDR4-1866MHz」などに固定したり,メモリのBCLKをCPUと同じにするか,1.33倍にするか選んだりできる。TPUは,UEFI側のDRAM Frequency設定がAutoになっている前提の設定項目であり,それ以上の詳細設定を行いたい場合は,UEFI側を使う必要があることに注意したい。
それを踏まえ,今回用意したすべてのテストが問題なく動作した状態をもって「安定動作した」と判断することとし,まずはBCLKを変化させてみたのだが,結論から先に言うと,その上限は105MHzだった。
i7-6700Kの最大動作クロックは4.2GHzだが,これは1コアにだけ負荷がかかった状態において達するクロックで,2コア以上に負荷がかかった状態だと,最大41倍動作となった。つまり,105MHz×41倍の4.3GHzで動作したことになる。
ちなみに,106MHzでは「3DMark」(Version 1.5.915)実行中にシステムがフリーズ。107MHzだと,AI Suite 3から設定を適用したとたんにシステムがフリーズした。これは,CPUコア電圧の設定を,UEFIのデフォルトであるAutoにした状態だけでなく,−0.635〜+0.635Vの範囲を0.005V刻みで設定できるTPUを使って手動で定格+0.200Vの1.480Vへ上げても変わらずだった。
なおこのとき,BCLKの変更によって,メモリクロックなどは自動的に再設定されており,たとえば107MHz設定時のメモリクロックは1997MHzに下がっている。BCLKのオーバークロックにおけるネックは,メモリ周り以外の場所にあるといえそうだ。
今回は時間の都合で,とことん掘り下げるようなことはできていないが,「単純なBCLKの引き上げはハードルが高そう」「どこがオーバークロックの足枷になっているのかを突き止められる人には面白いかもしれない」ということは言えるのではないかと思う。
さて,今回はそこから動作倍率を高めていったわけだが,TPUを使って倍率変更を行っていったところ,当初はその設定が適用されていたのだが,3DMarkを実行している最中に設定がデフォルトに戻ってしまい,以後,設定が反映されなくなる事態に陥った。そのため,倍率設定はUEFIから変更することにし,結果,47倍,つまり105MHz×47=4.9GHzで安定動作するのを確認できている。
このときCPUコア電圧は手動で0.250V高める必要があり,Autoでは,やはり3DMarkがフリーズしてしまう事態となったことを付記しておきたい。
条件付きながら,i7-6700Kはi7-4790Kより約10%速い
オーバークロックの効果は確実にある
さて,せっかくオーバークロックのテストを行ったので,以下,文中,グラフ中とも,BCLKだけ105MHzに高めたものを「i7-6700K@4.3GHz」,そこからCPU動作倍率を47倍へ変更したものを「i7-6700K@4.9GHz」と表記すると断りつつ,テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1は,3DMarkの総合スコアをまとめたものだが,i7-6700Kとi7-4790Kのスコア差は「Fire Strike」で約2%。よりグラフィックス負荷が高くなる「Fire Strike Extreme」ではゼロだ。CPUの利用効率が上がると見込まれているDirectX 12タイトルはともかく(関連記事),従来型のDirectX 11アプリケーションだと,GPU性能がスコアを左右するようなケースにおいて,一定以上のCPU性能があれば,得られる体感性能は変わらないのだが,まさにその傾向が出ているといえそうである。
なお,i5-6600Kのスコアは,両者と比べて明らかに一段下にある。高度にマルチスレッド対応が図られたアプリケーションでは,4C4T対応よりも4C8T対応のほうが優勢というわけだ。
続いてグラフ2は,上でi7-6700Kとi7-4790Kとの間で約2%のスコア差が生じたFire Strikeで,CPUベースの物理演算を行ってCPUのみに負荷をかける「Physics test」と,GPUとCPUの双方に負荷をかける「Combined test」のテスト結果を抜き出したものになる。
ここで注目したいのは,Physics testの結果「Physics Score」で,i7-6700Kは,i7-4790Kよりも約12%高いスコアを示していることと,そんなi7-6700Kに対して,i7-6700K@4.9GHzがさらに約19%高いスコアを示していること。前者は,Intelのいう「i7-6700Kはi7-4790Kよりも性能が約10%高い」を裏付けるデータ,後者は,オーバークロックの効果を確認できるデータだといえるだろう。
続いて「Far Cry 4」の結果がグラフ3となるが,i7-6700Kのスコアはi7-4790Kに対して11〜18%程度高い結果となった。また,i7-6700K@4.9GHzは,i7-6700Kからさらにスコアが9〜11%程度上がっており,やはりオーバークロックの効果を確認できる。
一方,i5-6600Kは4C4Tであること以上に動作クロックが低いこともあり,
「EVOLVE」では,ここまでと異なる傾向が見られた(グラフ4)。i7-6700Kは,解像度1280
この理由ははっきりしないが,基礎検証レポートで指摘されている「Skylakeにおけるメモリ周り,キャッシュ周りの拡張」の効果によって,よりCPU性能がスコアを左右しやすい低解像度条件でi5-6600Kのスコアを伸ばしているという可能性はあるだろう。
「Dragon Age: Inquisition」(以下,Inquisition)の結果をまとめたグラフ5だと,i7-6700Kとi7-4790Kのスコア差は1280
グラフ6,7はFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの結果だが,全体としてはInquisitionと似た傾向となった。「標準品質(デスクトップPC)」におけるi7-6700Kとi7-4790Kのスコア差は5〜9%程度で,「最高品質」になると3〜6%に縮まっている。
i7-6700K@4.9GHzも,標準品質(デスクトップPC)の1280
i5-6600Kのスコアは対i7-4790Kで87〜96%程度。CPU性能自体は10%以上低いのだが,GTX 980 Tiと組み合わせてプレイする限りにおいてはi7-6700Kやi7-4790Kと大差ないスコアなので,そこを割り切れるかどうかが取捨選択のカギになりそうだ。
「GRID Autosport」の結果がグラフ8で,ここだとグラフはFar Cry 4と似た形になった。i7-6700Kとi7-4790Kとの間には8〜9%程度のギャップがあり,i7-6700K@4.9GHzはi7-6700Kに対して9〜11%高いスコアを示している。
i5-6600Kは,対i7-4790Kで90〜92%というスコアだ。
i7-6700Kの消費電力はi7-4790Kとほぼ同じ
オーバークロックで跳ね上がる
Skylakeは,Broadwellこと第5世代Coreプロセッサから引き続き,Intelの14nmプロセス技術を用いて製造される。Haswell世代で採用されていたのは22nm技術だったので,プロセスシュリンクによる消費電力の低減に期待している人はいることだろう。
一方,基礎検証レポートで指摘しているように,i7-6700Kの最大動作クロックはi7-4790Kよりも200MHz低く,91WというTDPの枠内に収めるべく,Intelが腐心したことが窺えるため,いきおい,i7-6700K@4.9GHzのように,CPUコア電圧を0.250V高めた状態では“たが”が外れる懸念もある。今回もログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみることにしよう。
テストにあたっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,3DMarkのFire Strikeから,Physics testのみ30分間実行し続けた時点を「3DMark時」とした。
その結果がグラフ9で,アイドル時だと,i7-6700Kとi5-6600Kはいずれもi7-4790Kより低いスコアを示した。ただし,これは両者で使用しているマザーボードが異なり,とくに主役の2製品であるPRO GAMING,i7-4790KはR.O.G.なので,オンボードコンポーネントの消費電力の違いも加味すべきだろう。「アイドル時の消費電力は大差ない」と見たほうが,現実に即しているのではないかと思う。
なお,i7-6700K@4.9GHzは唯一の80Wオーバーで,CPUコア電圧を高めた代償を払うことになっている。
一方,3DMark時だと,i7-6700Kのスコアはi7-4790Kより若干高くなった。ただ,ここでも違いは3Wだ。マザーボードの違いや測定誤差を踏まえるに,こちらも両製品の消費電力はほぼ同じと見ておくのが正解ではなかろうか。
i7-6700K@4.9GHzは,テスト対象の中で唯一の200W超え。CPUコアの昇圧が消費電力を押し上げているのがはっきり分かる。
その結果がグラフ10である。i7-6700K@4.9GHzとi7-6700K@4.3GHzではH100i GTX,i7-6700Kとi5-6600K,i7-4790Kではi7-4790Kの製品ボックスに付属するリファレンスクーラーを用いているので,横並びの比較に意味はないが,同じクーラーをで冷却しているi7-6700Kとi7-4790Kで,CPU温度値はほぼ同じこと,3DMark時のスコアを見るにつけ,「Intel Hyper-Threading Technology」が有効になっていないi5-6600Kは温度面で上位モデルより優位であるとは言えるように思う。
3DMark時のi5-6700K@4.9GHzが,大型の簡易液冷クーラーをもってしても80℃近い温度まで上がっているのも,目を惹くところだ。
急いで導入する必要性はないものの,新調する場合やOCを試すならSkylakeは魅力的
以上のテスト結果から,i7-6700Kの性能がi7-4790Kよりもざっくり10%高いというIntelの言い分には一理あるといえる。
ただし,ゲームにおいてそのスコアが得られるのは,標準設定およびそれに準拠したグラフィックス設定の,しかも解像度1280
Skylake-Kの導入にあたっては,マザーボードもDDR4メモリモジュールも購入しなければならないわけで,現在,Haswell世代の上位CPUが搭載されたゲームPCを持っているのであれば,急いでSkylake世代へ移行する理由は,正直,ほとんどない。
また,基礎検証レポートで明らかになっているとおり,Skylake世代において,CPUとしての進化自体は確認されている。これから新たにゲームPCを購入したい,あるいは自作したいという場合には,Skylakeのほうが魅力的に映るものと思われる。
なお,2013年にHaswellがデビューしたとき,筆者は,「4C4T対応でクロックの高いCore i5のほうがゲーム用としてはお勧め」と述べたが(関連記事),Skylake世代のKシリーズに関していうならば,i5-6600Kを選ぶ理由は,価格と消費電力,発熱くらいしかない。基本的には,i7-6700Kを選んだほうが幸せになれる可能性は高いだろう。
Intel,Skylake-Kこと「Core i7-6700K」「Core i5-6600K」を発表。多くの仕様が謎に包まれたまま,Skylake時代が始まる
「Skylake-K」とはいかなるCPUなのか。「Core i7-6700K」のベンチマークで新世代マイクロアーキテクチャの実態を探る
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