連載
【Jerry Chu】うまく写真が撮れない「Assassin’s Creed Syndicate」
Jerry Chu / 香港出身,現在は日本の大学院で勉強中
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
うまく写真が撮れない「Assassin’s Creed Syndicate」
世界の歴史をテーマとするゲームはごまんとあるが,こと歴史に触れる旅行の楽しさにかけて,「Assassin’s Creed」シリーズの右に出る者はいない。
念のために説明しておくと,Ubisoft Entertainmentの「Assassin’s Creed」シリーズは,世界の歴史的な出来事をモチーフにしたアクションゲームだ。プレイヤーはまるでタイムトラベラーになったかのように,十字軍遠征時のエルサレムやルネサンス期のイタリア,独立戦争で揺れるアメリカ,海賊黄金時代のカリブ海など,作品によってさまざまな歴史的名所に身を置くことができる。
2015年11月にリリースされた「Assassin’s Creed Syndicate」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)は,産業革命時代のロンドンを忠実に再現している作品だ。昼間は工場の煙突から延々と煙が吐き出され,テムズ川は貨物船で埋め尽くされている。夜になると,ビッグ・ベンの大時計は皓月のごとく,霧の都を照らす。
街中に目を向けると,マルクスは社会主義を説くために奔走し,ディケンズは都市伝説から創作のインスピレーションを得る。ヴィクトリア朝のイギリスが生き生きと描かれ,活気に溢れた地平がプレイヤーの目の前に広がっている。
「Syndicate」はPS3とXbox 360が対応プラットフォームから外れたためか,それ以前の作品とは比べものにならないほどにグラフィックスが進化した。街の風景やキャラクターの表情,その佇まいまで,あらゆる面がリアルに,より緻密に描かれている。
ところが,「Syndicate」のロンドンに筆者は完全に魅了されたとは言い難い。ロンドンのランドマークを舞台に展開したストーリーミッションはいくつもあったが,建物の特徴と美しさを強調するものは1つもなかったと思う。ロンドン塔にせよ,ウェストミンスター宮殿にせよ,イングランド銀行にせよ,所詮ミッションの背景に過ぎず,ゲームは「この者を暗殺せよ」「その者を捕まえよ」とプレイヤーを駆り立てるばかり。プレイヤーに足を止めさせて,建物を観賞させることがなかった。
もともと「Assassin’s Creed」シリーズは,ゲームプレイで歴史的名所を引き立てることに長けてきた。
「Assassin’s Creed II」の舞台はルネサンス朝のイタリアだ。主人公エツィオはヴェネツィアのドゥカーレ宮殿に潜入を試みるも,柱が高かったため外壁を登れず,レオナルド・ダ・ヴィンチの飛行機械の力を借りて,ようやく上空から宮廷に飛び込んだ。
同じ舞台の「Assassin’s Creed Brotherhood」では,エツィオはローマのパンテオンに潜入する。門番の目が光る正門を避け,神殿の天窓から侵入し,曲がった内壁に沿って地面に降り立った。
両作品のレベルデザインは歴史的建造物の特徴(ドゥカーレ宮殿の高い柱,パンテオンの天窓)を生かしており,プレイヤーはミッションを通じてイタリアのランドマークを観賞できたはずだ。
その観点から言うと,「Synidicate」のレベルデザインはいささか味気ない。レベルデザインが平凡であるばかりか,カメラワークも非常にもどかしい。ご存じのとおり,現行のコンシューマゲーム機にはスクリーンショット撮影機能が標準搭載されている。そして,見栄えのいいスクリーンショットを撮影できるように「フォトモード」を実装している作品も登場している。
しかし,「Syndicate」にはフォトモードがないばかりか,主人公は常に画面の中央に立ったり,画面外に足がはみ出したりと,スクリーンショットが撮りにくい構図なのだ。
視覚芸術には「三分割法」という法則があり,全体を水平と垂直の線により9等分(縦3×横3)したときに,その線の交差点に重要な被写体を置くとバランスが良いとされている。
フランスのDONTNOD Entertainmentが開発を手がけた「Life is Strange」では,主人公が画面の中央ではなく端に寄る。2005年,ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)からリリースされた「ワンダと巨像」は,プレイヤーが馬に乗って走り出すと,プレイヤーを隅に置くようにカメラ視点がズームアウトしていく。
前述の「Brotherhood」においても,エツィオがパンテオンの天窓から降りるとカメラ視点がズームアウトして,神殿のスケールと内壁のデザインを強調する演出が確認できる。
そのような構図であれば,キャラクターはジャマにならず,じっくりと背景を観賞できる。思わずスクリーンショットを撮リたくなるというものだ。だが,「Syndicate」ではプレイヤーがどれだけカメラ視点を動かしても,主人公は画面の中央から動かず,背景を観賞するにもスクリーンショットを撮るにも不都合な構図になってしまう。
「Syndicate」の開発チームはロンドンを美しく再現することに成功したが,その美しさをいかにして鑑賞させるのか,いかにしてゲームプレイで引き立てるのかという点には関心がなかったようだ。「Syndicate」における英国旅行は,まるでパートナーの写真撮影がヘタだったために美しいスポットで撮った写真がどれもイマイチだったような,何とも言えない残念な思い出となっている。
※この記事は「熱血時報 Passion Times」に寄稿されたものを原著者によって翻訳・加筆・修正したものです。
■■Jerry Chu■■ 香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。 |
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(C)2007‐2014 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved.
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