インタビュー
五十嵐孝司氏インタビュー。「Bloodstained:Ritual of the Night」の開発秘話からゲーム開発における責任論まで
「Bloodstained」は探索と横スクロールアクションが融合した横スクロールの探索型ゲームだ。個性豊かな悪魔と戦うスリルと,経験値を得て成長していくRPG要素,そして悪魔の能力を手に入れて行動範囲を広げていく探索の楽しさが融合した作品となっている。2019年6月18日には海外版が発売されていたが,日本国内ではPC版の配信のみとなっていた。この度待望の日本語パッケージ版が発売となったわけだ。
本作のプロデューサーは,“IGA”の愛称で知られる五十嵐孝司氏。氏はかつてKONAMIで「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」をはじめとするアクションRPGを制作したことでも知られている。
そんな五十嵐氏が独立してゲーム制作会社ArtPlayを設立し,Kickstarterで資金を募って制作していたのがこの「Bloodstained」である。2015年に行われたKickstarterキャンペーンは,氏が作る横スクロール型の探索アクションがが長らく途絶えていたことに加え,ストレッチゴールやバッカーアチーブメントなどの継続的な施策で大いに盛り上がりを見せた。結果,目標額であった50万ドルの10倍を超える554万ドルを調達するという大成功を収めている。
日本語パッケージに先がけて登場した海外版は,その完成度の高さから非常に高い評価を得ている。また氏が過去に手掛けた作品のオマージュも多く,長らく待ち望んでいたファンの渇きを癒してくれているようだ。
4Gamerでは,今回の日本語版発売のタイミングで五十嵐氏にインタビューを実施。「Bloodstained」の開発エピソードやこれからのこと,そして五十嵐氏のインディーズゲームへのスタンス,創作における責任論に至るまでさまざまな話をうかがうことができた。ここにそのすべてを紹介しよう。
ついに発売された「Bloodstained」日本語パッケージ版
4Gamer:
「Bloodstained」の日本語パッケージ版の発売,おめでとうございます。まず,先だって6月に発売されたPC版や海外版の反響について聞かせてください。
ArtPlay代表取締役/「Bloodstained:Ritual of the Night」プロデューサー 五十嵐孝司氏(以下,五十嵐氏):
おかげさまで非常に良い評価をいただいています。
4Gamer:
高評価のポイントはどういった部分にあったと思われますか。
過去に自分が手がけてきた作品から大きく変えないことをコンセプトにしたことだと思います。「Bloodstained」は,Kickstarterで資金を募りましたが,バッカーの方たちからは「外に出た五十嵐は,以前と同じようなゲームを作れるのか」という点を問われていると感じていました。
4Gamer:
かつて作られていた作品と同じジャンルの新作を掲げてKickstarterで出資を募った以上,そこから逸脱はしないと。
五十嵐氏:
そうですね。普通のゲーム開発では「これは本当に面白いのか」を作りながら考えつつ進める面があり,時には大ナタを振るって最初の計画から方向性を変えることもあります。
けれど,Kickstarterは最初にゲームのコンセプトを伝えて,それを望む人から出資を募りますから。「Bloodstained」は私が手掛けた過去の作品から大きく変えないことが,面白さを担保することになるわけです。ただ,バグがたくさん出たことについては申し訳ありませんでした。
4Gamer:
国や文化圏による反応の違いはありましたか。
五十嵐氏:
日本と海外であまり違いはありません。ただ1つだけ,開発中にライティングを変えてグラフィックスを強化したときがあったんですが,それに対する評価がまったく異なったことがありました。
Kickstarterのバッカー向けにβ版を出したとき,ステージのライティングについて,海外からは「直した方がいい」というご意見を多くいただいたものの,国内からはそうした声がほとんどありませんでした。むしろ直してから「以前のライティングの方がキャラクターが綺麗に見えていた」と意見があったくらいです。海外では背景美術,日本ではキャラクターの見え方を重視しているという印象ですね。
4Gamer:
キャラクターを重視している日本の特性が表れたと言えそうですね。
日本語パッケージ版は発売が4か月ほど遅れてしまいましたが,何か理由があったのでしょうか。
五十嵐氏:
流通の問題です。販売をお願いしている505Gamesさんがアジア圏に販路を持っておらず,協力会社さんがなかなか決まらなかったので,僕らとしてはお店に置きたくても置けなかったんです。PC版はそういった問題もなかったので海外版と同じタイミングでご提供できていますし,CERO Zというわけでもないので,レーティングの問題でもありません。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
4Gamer:
今後予定されている「斬月モード」「ローグライクモード」などのDLCはいつごろ配信になるのでしょうか。
五十嵐氏:
具体的なスケジュールは現在お話しできないのですが,お約束したものを確実に届けられるよう進めていますので,続報をお待ちいただければと思います。
ゲームの寿命を保つ高難度化,その流れに逆らって生まれた“探索型アクション”というアプローチ
4Gamer:
「Bloodstained」はボス戦で詰まったらレベルを上げてのゴリ押しができるなど,難度を抑えめにしている印象を受けますが,これは意図的なものなのでしょうか。
五十嵐氏:
かつて僕が探索型アクションを作ったとき,「私はアクションゲームは苦手なんですが,初めてクリアできて嬉しかったです」と,あるプレイヤーに言っていただいたことが今でも忘れられないんです。「Bloodstained」でも“ゴリ押しだろうがなんだろうが,時間さえ掛ければ必ずクリアできるゲーム”を目指しました。
4Gamer:
そうしたスタイルを目指したのはなぜでしょうか。
五十嵐氏:
僕が前の会社でゲームを作っていたころ,ステージクリア型のアクションゲームは難度がどんどん上がっていく傾向にありました。これは海外に存在するゲームのレンタルショップ対策であると同時に,「すぐにクリアできるゲームだ」という評判が出回ると売り上げに影響が出るためでもあったんです。
4Gamer:
「プレイ時間の長さが面白さの指標」みたいな風潮はいつの時代にもあるんですね。
五十嵐氏:
当時は難度を上げる=ゲームの寿命を延ばすことであり,そこにはビジネス的な側面が否応なくありました。僕はそうした傾向がすごくイヤだったんです。単にクリアできなくして時間を稼いでいるだけですからね。
そうした中でいかに長く遊べるかを考えて作ったのが“探索型アクション”というアプローチでした。僕は「ゼルダの伝説」が大好きで,その影響を大きく受けています。“今は行けない所にほしいアイテムが置かれているのが見える”といったステージ構成や導線の作り方はまさにそれですね。ただ,「ゼルダの伝説」では敵を倒した際の恩恵が薄かったので“敵を倒すと経験値を得てレベルアップする”というRPG的な要素を取り入れました。
4Gamer:
「Bloodstained」でも「今は行けないけど,この先を探索してみたい」というモチベーションは何度も感じられました。
五十嵐氏:
分かりやすく誘導し,あまり迷わずに最初のエンディングまで到達できるようには心がけています。なるべく序盤に特徴的な地形による分岐や,先に進みたくなるようなアイテムの配置を行い「このゲームは探索するゲームなんだな」と意識してもらうことも重要ですね。
4Gamer:
プレイヤーとしては自主的に探索をしている感覚が強いですけれど,誘導されている側面もあるんですか。
五十嵐氏:
誘導というわけでもないのですが,あまり一本道で進まされている感が強いと,プレイヤーに抵抗感が生じてきます。なので「こっちの方も探索してみたいけど,あっちも見てみたい」と感じられる地形を作ってモチベーションにつなげられるようにしています。
4Gamer:
なるほど。「Bloodstained」では早い段階で意味ありげな地形が出てきますが,それを見て「能力を手に入れたら戻ってこよう」と思いました。
五十嵐氏:
例えば,ゲーム序盤に登場する「血の噴水」は,見た目も非常に特徴的ですし,近づくとカメラが意味ありげにズームします。「皆が想像できる範囲」で分かりやすく作ることを常に心がけていますね。
もし,どうしても分からない場合は,インターネットで調べていただくというのも楽しみ方の1つとしてアリだと思っていますよ(笑)。
4Gamer:
確かに今は,ネットで手軽に調べられてしまいますからね。
五十嵐氏:
ただ,今回は新しい試みとして1か所だけ,誘導がないノーヒントの場所を設けています。“ボスの能力を手に入れて先へ進む”ことが全体のコンセプトなのですが,そうではないところがあるんです。
最初のエンディングまでは普通に進めるけど,真のエンディングを迎えるにはある程度考える必要があるわけです。僕が手がけた最初の探索型アクションもこうした作りでしたが,その感覚をもう一度表現したかったので。
4Gamer:
「Bloodstained」では,敵の悪魔からドロップする「シャード」というアイテムを手に入れると,その能力を自分のものにできます。かなりのバリエーションが存在するだけに,ご苦労もあったのでは。
五十嵐氏:
おっしゃる通りバリエーションを増やすのは大変でした。シャードには攻撃技を使えるものもあり,強化していくことでパワーアップするんですが,膨大すぎて当初の構想通りに作りきれなかったところがあり,没になったものも結構あります。
4Gamer:
広大なマップにたくさんのシャードなどかなりのボリュームで,もし次を作るとなったらにネタが残っているかどうかが心配になります。
五十嵐氏:
入れたくても入れられなかったネタもありますし,次があるならチャレンジャブルな要素を入れることで遊びを変えていきたいです。こうした探索型アクションは物量も多くて大変ですが,自分で選択したことなので。
4Gamer:
「Bloodstained」には,ご自身が手がけられた過去作へのオマージュも散見されました。“歩きながら攻撃できる剣”があったり,あるキャラクターを下からジャンプで突き上げると「デジャヴ」の実績が解除されたり。
五十嵐氏:
今回はKickstarterで出資を募ったこともあって,そうした部分は積極的に取り入れています。バッカーの方に喜んでいただくのが第一ですから。
4Gamer:
逆に新規プレイヤーを意識した部分はありますか。
五十嵐氏:
バッカーの方が満足するものを作るというのが第一ですが,新規お断りと言うわけではまったくありません。
新たな世界観で描かれるIPですし,間口は広げています。チュートリアルはこれまでよりも丁寧に作っていますし,難度はぐっと下がっていますよ。
4Gamer:
難度の話といえば,2014年のGame Developers Conference(以下,GDC)では,五十嵐さんが関わるゲームにおいて“ボスのプログラマーは,そのボスをノーダメージで倒せなければならない”という「鉄の掟」があると語られていました(関連記事)。この掟は「Bloodstained」開発時でも健在だったのでしょうか。
五十嵐氏:
「鉄の掟」はもちろんあります。ただ,今回はとにかく開発時間がなかったこともあり,“チームの誰かがノーダメージか,それに近い形で倒せればいい”と,掟の難度も少しだけ和らげました(笑)。
4Gamer:
今回は「銅の掟」くらいといったところでしょうか(笑)
あと,五十嵐さんの作品では,タイムアタックが名物になっていますよね。バックステップをキャンセルしての高速移動や,特殊な条件下での空中浮遊など,テクニックやバグを組み合わせた結果,最終的には主人公が人間とは思えない変態的な動きをするようになって……。
五十嵐氏:
そうですね。把握しています(笑)。
4Gamer:
「Bloodstained」にも「タイムアタックモード」が存在しますが,超高速クリアに役立つテクニックは,どこまで意図的に用意されているのでしょうか。例えば,明らかにバグだけど,タイムアタックには役立つから残しておこう……というような判断もあるのでしょうか。
五十嵐氏:
各種キャンセルについては意図的に実装したものです。僕らのゲームは未だに“ボタンを1回押すと1発の攻撃が出る”という昔ながらの仕様を愚直に守り続けています。なるべくキーのレスポンスは良くしているものの,それでも少しストレスがあるので,隙をキャンセルし,変態的な連続攻撃や高速な動作をできるようにしているんです。
使わなくてもクリアはできるけれど,覚えれば上達を実感できる。そして,それを見た人は自分もやってみたいと思う……といったように,キャンセルでゲームに奥深さを持たせています。ただ,明らかなバグと言える挙動については,チェックで見つかったものは取っていますから,もし残っていたとしたら単に取り損ねているだけですね(笑)。
4Gamer:
タイムアタックやファンサービスのために,わざとバグを残しているわけではないんですね(笑)。
五十嵐氏:
プレイヤーの皆さんが本当にすごいんですよね。盲点を突いていろいろなバグを発見してタイムアタックに活用しているのを見てこちらもびっくりしています(笑)。
ただ,そういった役立つバグを見つけて有利に戦うのは「ゲーマーの勲章」だと僕は思っていて,「見つかってしまったものは仕方ないからそのままにしよう」というのが基本的なスタンスです。あまりにも致命的なものは修正する可能性がありますが。
4Gamer:
テクニックや役立つバグが見つかるとプレイヤーの皆さんが喜んでるんですよね。「また変態的な動きができるぞ!」って(笑)。
五十嵐氏:
そうなんですよ。バグが見つかって喜ばれる数少ないゲームのひとつだと思います(笑)。
4Gamer:
タイムアタック動画では,独特のネットスラングでコメントがつきますが,五十嵐さんご自身は認識されているんでしょうか。
五十嵐氏:
「IGAAAAAAA」ってやつですよね。作り手としては非常にありがたいと思っていますし,イヤでもなんでもないです。どうもその後に出てくる「IGA、愛されています」ってコメントは,僕の知り合いが最初に打ち込んだらしいんですけど……。
4Gamer:
え,そうなんですか! 世間は狭いですね(笑)。
派手なタイムアタック動画で,探索型アクションというジャンルや五十嵐さんのお名前を初めて知ったという人も周囲に何人かいました。
五十嵐氏:
Kickstarterでは,僕がかつて手がけていたゲームを遊んで下さった30代くらいの方をメインターゲットとしていましたが,そういうタイムアタック動画を見て,それより下の年代の方にも購入していただけているようです。ありがたいことですよね。
4Gamer:
動画とゲームのつき合い方については,ジャンルによっていろいろなスタンスがあると思いますが,五十嵐さんの作品ではプラスに働いていると。
五十嵐氏:
動画については,極端なネタバレをしなければいいというスタンスですね。そのうえで“動画を見た人がゲームを遊びたくなるかどうか”がキーポイントだと思います。楽しみ方は人それぞれですから。
理想の“IGAVANIA”を作るため,独立して市場性を問う
4Gamer:
五十嵐さんは独立してArtPlayを設立し,「Bloodstained」を手がけられたわけですが,そもそも独立のきっかけは何だったのでしょう。
五十嵐氏:
前の会社に勤めていたころ,稲船(敬二)さんが「Mighty No.9」(PC / Mac / PS4 / PS3 / Xbox One / Xbox 360 / Wii U)で展開したKickstarterキャンペーンの成功がきっかけです。国内でもあんな大規模なクラウドファンディングが成立することが証明されたのが後押しになりました。
4Gamer:
稲船さんの事例がきっかけだったんですね。
そうですね。そこにちょうどある人から「そろそろ独立しようよ」と持ちかけられたんです。業界関係者が集まるGDCで「Bloodstained」のプレゼンをするために,会社を辞めた次の日には飛行機に乗ってアメリカに行きました。当初は出資してもらって開発する予定もあったんですよ。
4Gamer:
当初,ということは何らかの理由でその話がなくなって,Kickstarterのキャンペーンを始められたのでしょうか。
五十嵐氏:
パブリッシャからは「探索型アクションに市場性はない,ビジネスにならない」と言われたんです。そこで稲船さんと同じく,Kickstarterのクラウドファンディングを通してジャンルの市場性を世に問うことにしたんです。
おかげさまでキャンペーンではムーブメントを起こせましたし,以降はパブリッシャの見る目も変わりました。
4Gamer:
キャンペーンを成功させるために気をつけた点はありますか。
五十嵐氏:
Kickstarterは出資を取り消せるため,話題性を持続させる必要がありました。コメントなどの集まり具合に応じて追加要素の実装を約束するバッカーアチーブメントを使い,参加型のキャンペーンとして盛り上げていきました。おかげさまで理想的なものになったと思います。
4Gamer:
ストレッチゴールやバッカーアチーブメントの表示が8ビットゲーム風のドット絵になっていたり,バッカーアンロックがゲームのアイテムっぽく表現されていたりと,かなり細かいところにまで気を使われているなとは思っていました(外部リンク)。
五十嵐氏:
そのあたりは「Mighty No.9」のキャンペーンも手がけたFangamerさんとDDM Agentsさんのスタッフがいろいろと考えてくれたんです。「Mighty No.9」のときの経験を踏まえて手を尽くしてもらえたので,非常にありがたかったです。
4Gamer:
古城でワインを傾けながら熱く思いを語るトレイラービデオも話題を集めました。探索型のアクションが制作できない状況に「納得いかない!」と叫びつつ,グラスを投げ捨てるという派手なシーンもありましたね。
五十嵐氏:
あれを撮影した場所はカリフォルニアのナパバレーにある「カステロ・ディ・アモロサ」というワイナリーです。そこはスウェーデンのお城を移築したもので,ワイナリーなのになぜか拷問部屋と拷問機具があるんです(笑)。
4Gamer:
まるで古城のような場所ですが,ワイナリーだったんですね。
五十嵐氏:
昼になると観光客が入ってくるので,邪魔にならないようにしつつ撮影を進めました。あと,撮影で飲んでいるのはぶどうジュースです。忙しくて,結局ワインは一滴も飲めませんでした(笑)。
4Gamer:
ぶどうジュースだったんですか(笑)。ただ,そういったプロモーションの結果もあって,キャンペーンの勢いはかなりのものでした。
五十嵐氏:
ストレッチゴールが次々と達成されていくので,あのときは24時間フル稼働でした。「次の特典はどうしよう!?」とたびたび深夜に緊急ミーティングをしていたので,なかなかに過酷な1か月間になりました(笑)。
期間内にどれだけ盛りあげて最終日を迎えられるか……という点では,コンシューマゲームのプロモーション戦略やゲームの運営にも似ていましたね。
4Gamer:
キャンペーンと開発作業の両立は可能でしたか。
五十嵐氏:
いえ,開発をしている暇はなかったですね。その期間だけはとにかくキャンペーンに集中していました。
4Gamer:
結果的に目標額の10倍以上の金額を集めたわけですが,特に出資が多かった国はどこですか。
五十嵐氏:
アメリカでした。やはりKickstarterがアメリカ生まれのシステムですから,利用者も多いです。面白いところでは,サウジアラビアからバックされている方がおられて驚きました。
4Gamer:
バッカーからはどのような声が届いていましたか。
五十嵐氏:
「好きにやってください」と言ってくださる方が非常に多かったです。
あと,リワードの権利を持った人といきなり連絡が取れなくなるケースがありました。かなり高額のバックをしてくださった方で,リワードを作るために直接やり取りをする必要があったんですが,途中からぱったり連絡がなくなったんです。
4Gamer:
それは,何というか少し申し訳ない気持ちになりますね……。
五十嵐氏:
同じようにKickstarterでキャンペーンを行った「LA-MULANA 2」(PC / PS4 / Xbox One / Switch)の楢村(匠)さんがおっしゃっていたんですが,バッカーさんの中には「このプロジェクトに出資したいから出資したんだ。だからリワードもいらない」という方もおられたのだそうです。その人もそういう思いだったのかもしれませんが,僕としてはせっかくの権利なので,使ってほしかったなと思っています。
4Gamer:
Kickstarterで成功を収めた五十嵐さんですが,これからゲーム制作でKickstarterを利用しようと思っている人にアドバイスなどはありますか。
五十嵐氏:
正直に言ってしまうとアドバイスできるようなことはないんですよ。
というのも僕らがやったことは,通常のKickstarterキャンペーンではないと思うからです。普通ならデモ版やモックを作ってアピールするところを,「Bloodstained」ではそうしたものはなく,企画書だけで投資を募った。戦場に紙切れ1枚持って乗り込んだようなものですよ。
4Gamer:
ファンがいて,五十嵐さんという開発者の名前があってこそ,実現できたやり方ということですか。
五十嵐氏:
ただ,Kickstarterに注目しているファンは熱量の高い方が多いです。なので,デモやモックをしっかり作って面白さの証明をすれば,分かる人にはしっかり届くと思います。
インディーズゲームは自分の作りたいものを貫き通すべき
4Gamer:
さて,ここからはいち開発者としての五十嵐さんについてお話を聞ければと思います。
東京ゲームショウのインディーゲームコーナーやBitSummitといった場所で開発者に話を聞くと,「五十嵐さんにアドバイスをしてもらった!」とか「五十嵐さんに相談に乗ってもらった!」と,結構な頻度でお名前が出てくることがありました。
五十嵐氏:
確かに意見を求められることは多いですね。ただ,インディーズゲームに関しては“自分のやりたいことを貫き通すべき”というのが僕の持論なので,五十嵐に何か言われたからと,安易に方向性を変えるようなことはしないでほしいと思っています。人から言われるままにしてしまうと,自分に責任がなくなりますから。
4Gamer:
自分のゲームを作っているという責任を持ってほしいと。
五十嵐氏:
そうですね。インディーズゲームは,開発者本人が王様なんです。どんな権力を持った人から意見を出されたとしても,それは鼻紙にもならない。なので,僕はいつも「意見は言うけど,それに左右されないで開発してください」とお願いしたうえでお話をさせていただいています。
4Gamer:
第三者としての話ならできると。
五十嵐氏:
はい。これまでゲーム開発をしてきた経験からアドバイスできることはあると思います。
ただ,自分で言うのもなんですが,僕はそこそこに名前が通った開発者ですから,僕の意見で開発者の方が考えたせっかくのアイデアを潰してしまうのは本意ではありません。
4Gamer:
開発者自身が五十嵐さんのファンだと,そのまま聞き入れてしまう人がもしかしたらいるかもしれませんね。
五十嵐氏:
「五十嵐が言ったんだから,その通りに変える」というのはリスペクトではないと思っています。本当は互いに意見をぶつけ合えるといいんでしょうけど,そうもいかないので。僕からの意見は,あくまで責任を伴わない第三者からのものとして聞いてほしいです。
もちろん,その内容に十分納得したうえで,開発者自身の責任において決断を下すのであればいいんです。ゲーム開発においては“大きなところから意見をされた際に,いかに自分を保つか”が重要なんですよ。
4Gamer:
そうした思いで話してもらえるからこそ,開発者から安心して意見を求められるのかもしれません。責任論が五十嵐さんの中で生まれたのはいつのことですか。
五十嵐氏:
はっきりとは覚えていませんが,前の会社でプロデューサーをやっていたときに育まれたんだと思います。あとは,社内に作品を良くするために自分の責任の範囲で努力している方がたくさんおられたので,そこから影響を受けた部分もあったと思います。
当時は上層部の言われた通りにゲームを直すのがとてもイヤだったんです。だって,直してもその人はゲームを買ってくれないですから。うまくごまかして,どう自分を保つかも仕事のうちでした(笑)。
4Gamer:
自分を保つための秘訣みたいなものはありますか。
五十嵐氏:
創作における基準を決めておき,実現できているかどうかをチーム内で確認することでしょう。基準はなんでもいいと思うんです。例えば,目標とするゲームがあって,それと同じクオリティを目指すのであれば,プレイし直すことで基準を満たせているかをチェックできます。
あと,リーダー自身の方向性がずれ始めたらそれをメンバーが指摘してあげることも重要です。リーダーはチームを率いて先頭を走る必要がありますが,それは暗闇の中を走っているようなもので,いつの間にか方向が逸れていることもあります。
しかも,リーダー自身が薄々ずれていることを感じていても,突っ走ってしまうことがよくあるんです。そうなったときにチームメンバーはちゃんと注意してあげる必要があります。
4Gamer:
いざとなったときに引きとめてくれるのはメンバーだと。
五十嵐氏:
はい。そして,リーダーもずれていないか周囲に確認を取りつつ走っていかなければいけません。そのためにも客観的に見て不変な“指針になるもの”を持っておくのがいいんです。
4Gamer:
では「Bloodstained」における指針とは,どういったものだったんでしょうか。
五十嵐氏:
Kickstarterで約束したゲームに盛り込まなければならない要素や,そのクオリティですね。“ここからここまでは,欠かさずゲームに入れておかなければならない”というものが決められていたからこそ,自分を保って開発が進められました。
4Gamer:
チーム内部で指針を共有・理解するうえで特別な取り組みはされましたか。
五十嵐氏:
実現すべきクオリティのラインを決めて開発に臨みました。開発を進めるうちにラインとのずれが起きるので,その度にすり合わせをしていきました。
本来ならコンセプトアートを大量に用意してイメージを統一するところでしょうけど,僕らはそうしたものはあまり作らないんです。グラフィックスがドット絵だったころは,敵キャラクターを作るとしても,コンセプトアートを描くどころか,ドットを直打ちしてましたから(笑)。
4Gamer:
迷走したときに指摘してくれる仲間を作るためには,どうすればいいんでしょうか。
五十嵐氏:
これはじっくりと長くつき合っていくしかないでしょうね。一朝一夕でできるものではありません。「Bloodstained」を一緒に作ってくれたディレクターも,ずっと一緒にいて信頼を置いている仲間ですから。
「自分たちはインディーズではない」。五十嵐氏の考えるインディーズゲームの定義
4Gamer:
インディーズ界隈では,インディーズゲームという言葉の解釈について,たびたび議論が起こります。五十嵐さんが考えるインディーズゲームの定義とはどういうものでしょうか。
人によって定義は異なっていいと思いますが,僕は“自分がいいと思っているものを作りたいように作る”というのを第一に考えているのがインディーズだと思います。
結果的に周囲が賛同してくれたらそれは商売になりますが,最優先は“作りたいものかどうか”です。これについては細かく言えば“同人”との違いも絡んでくるんですが,少なくとも僕自身はそう思っています。
4Gamer:
五十嵐さんはご自身をインディーズだと思っていますか。
五十嵐氏:
思っていません。というのも僕たちは,今までのファンというお客様が第一に存在していて,そこへ向けてアプローチしているからです。しかも,パブリッシャがついて宣伝をかけまくっているんですから。
確かに大手を出てゲームを作っているという点で僕たちはインディーズ的に見えるかもしれません。ただ,自己資金でコツコツと作りたいものを作ろうとする方々と同列に並ぶのは,その方たちに失礼ではないかと思っています。
4Gamer:
以前の会社で作れなくなった探索型アクションゲームを独立されて作ったのですから,そこはインディーズ的とも思えますが。
五十嵐氏:
おっしゃる通り,僕らも自分たちが作りたいものを作っています。「Bloodstained」で目標としているのは,かつて勤めていた会社で作っていた探索型アクションを再び作るということで,思った通りに活動できていますから。
ただ,大きなバジェットの流れと,ゲームを期待されているお客さんがたくさんおられて,そこに向けて作っているものですから。
4Gamer:
五十嵐さんの“IGAVANIA”を待っていたいちファンとしては,インディーズゲームシーンやクラウドファンディングといった仕組みがあったからこそ「Bloodstained」を遊べているわけで,そこには感謝するばかりです。
さて,ファンとしては次回作が気になるところですが,何かお話いただけることはありますか。
五十嵐氏:
今のところは秘密ですので,発表をお待ちいただければと思います。おかげさまで「Bloodstained」はセールス・評価ともに好調ですから,フランチャイズ化やシリーズ化するのが夢ですね。
実はそれとはまったく別で僕自身が作りたいゲームもあるんですが,こっちは絶対に売れないことが分かっているので作れません(笑)。
4Gamer:
「Bloodstained」とはまったく異なるものなんでしょうか。
五十嵐氏:
全然違いますね。アクションゲームではありますが。作るとしたら僕自身の“遺作”にするか,ものすごく儲かったときに税金対策として開発するかのどちらかでしょう(笑)。
4Gamer:
現在予定されている次回作と“遺作”を楽しみにしています。では,最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
五十嵐氏:
「Bloodstained」は“探索型横スクロールアクションRPG”……という呪文のような名前を持つジャンルです。ベースになっている探索型アクションというのは遊びやすいものですし,経験値やお金を稼いでいくと,主人公のミリアムがどんどん強くなっていくRPGのシステムを導入しています。
ゲームがうまい人はより華麗なプレイができ,そうでない方も地道にプレイしていくことですべてを楽しめる内容になっていますので,ぜひ手にとっていただければと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「Bloodstained: Ritual of the Night」公式サイト
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- Bloodstained: Ritual of the Night - PS4 (【初回特典】オリジナルサウンドトラックCD(全46曲入り) 同梱)
- ビデオゲーム
- 発売日:2019/10/24
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