レビュー
「日本市場限定GPU」はナニモノか? 玄人志向ブランドの搭載カードをテスト
Radeon R7 360E
(玄人志向 RD-R7-360E-E2GB-JP)
R7 360Eは,通常モデルとなる「Radeon R7 360」(以下,R7 360)をベースとしつつ,R7 360では必要だった6ピンのPCI Express補助電源コネクタなしに動作できるというのが大きな特徴だ。公称典型消費電力もR7 360の100Wから25Wも低い75Wとなっているが,では,R7 360Eでは,どのようにして消費電力の低減を実現しているのか。そしてそもそも,ゲーマーにとってR7 360EというGPUはどのような価値があるのだろうか。今回は玄人志向ブランドから搭載製品「RD-R7-360E-E2GB-JP」を入手できたので,R7 360Eの実力を明らかにしてみたい。
R7 360EはR7 360の低クロック版という理解でOK。GPUクロックを制御することで低消費電力を実現
※AMDの製品情報ページだとR7 360Eのメモリバス帯域幅は「最大112GB/s」なのだが,4Gamerで入手したAMD公式のR7 360製品資料では104GB/sで,リファレンス仕様とされる玄人志向製R7 360カード「RD-R7-360-E2GB/G2」でも104GB/sであるため,本稿では104GB/sが公式のリファレンス仕様だとして話を進める。
こうやって並べてみても,R7 360EとR7 360のスペックは非常によく似ていて,目に見える違いはメモリクロック程度だということが分かる。
しかし,それだけで本当に消費電力を抑えることができるのだろうか?
今回は,後述するテスト環境で,「3DMark」(Version 1.5.915)のFire Strikeテストを実行し,実行中におけるR7 360EとR7 360のGPU動作クロックを「GPU-Z」(Version 0.8.6)から追ってみることにした。AMDは,未公開の内製のツール以外でGPUクロックの推移を正しく追うことはできないとしているのだが,その内製ツールを使うことができない以上,GPU-Zで取得しても,参考にはなると考えている。
というわけでグラフ1がその結果だが,かなり異なるグラフ波形になっているのが分かるだろう。R7 360はブースト最大クロックである1050MHzに張り付く部分が全実行時間の半分弱に達しているのに対し,R7 360Eでは1060MHzどころか,900MHzさえ超えることがなかった。
「Radeon R9 Nano」でも,AMDはGPUのブーストクロックを低めに制御することで消費電力の低減を実現していたので,R7 360Eでも同じような制御を行っているという理解でいいのではなかろうか。
基板サイズは実測約184mmと比較的コンパクト
電源部は4+1フェーズ構成に
そのカード長は実測で約184mm(※突起部除く)。今回比較対象として用意した玄人志向ブランドのR7 360搭載グラフィックスカード「RD-R7-360-E2GB
GPUクーラーは2スロット占有タイプで,GPUに装着されたヒートシンクを100mm角相当の大きさを持つファンで冷却するという,このクラスの製品では一般的なものになっている。ヒートシンクはメモリチップに密着していないため,メモリチップの冷却はファンによるエアフローに拠るというところも,エントリー市場向けグラフィックスカードではよくある仕様だ。
補助電源コネクタ用と見られる空きパターンと空間。写真右端にある突起部の強度がちょっとだけ心配だ |
クーラーを取り外したところ |
さて,GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為であり,取り外した時点でメーカー保証は受けられなくなる。その点をお断りしつつ,今回はレビューのために特別に取り外して基板を見てみよう。
電源部は4+1フェーズ構成のようで,このクラスの製品では一般的な仕様だ。ただし,先ほど名前を挙げたRD-R7-360-E2GB/G2は3+1フェーズ構成だったので,電源周りは強化されていると見ることができそうだ。
R7 360およびGTX 750と比較
テストはRPGを中心に
用いたグラフィックスドライバは,R7 360EとR7 360が「Radeon Software Crimson Edition 15.11.1」で,GTX 750が「GeForce 359.06 Driver」で,いずれもテスト時において最新バージョンとなるものだ。そのほかのテスト環境は表2のとおりとなる。
テスト方法だが,今回は時間の都合と,製品の位置づけから,変則的なものとなる。まず,4Gamerのベンチマークレギュレーション17.0からは,3DMarkと,「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の2つを選択。さらにレギュレーション18世代を先取りする形で「Fallout 4」のテストを追加した。そして,日本AMDが,玄人志向を手掛けるCFD販売とともに「R7 360Eは『ドラゴンクエストX』など比較的負荷の軽いオンラインゲームに向けた製品」と謳っていることを受け,ドラゴンクエストXの公式ベンチマークソフト(以下,DQXベンチ)もテスト対象に加えている。
レギュレーション17.0に含まれない2タイトルの具体的なテスト方法だが,まずFallout 4は,GPU計28製品で一斉検証を行ったときと完全に揃えている。具体的には,「Corvega Assembly Plant」において実際に1分間プレイし,その間の平均フレームレートを「Fraps」(Version 3.5.99)で取得するというものだ。決まったルートを進行するとはいえ,スコアのバラつきは生じうることから,3回プレイして,その平均をスコアとして採用する。
なお,R7 360Eがエントリー市場向けGPUであることから,プリセットは今回「Low」と「Medium」を選択し,同じ理由からアンチエイリアシング設定と異方性フィルタリング設定はともに「Off」とした。
続いてDQXベンチマークは,総じて描画負荷が低めであることから,「最高品質」を選択。スコアのブレがさほど大きくないため,テストは1回だけとし,その結果をそのままスコアとして採用する。
解像度は,1920×1080ドットとアスペクト比16:9でその1つ下となる1600×900ドットを選択。ただし,DQXベンチマークは1600×900ドットを選択できないため,代わりに1280×720ドットでテストを行っている。
また,筆者のGPUレビューではいつものことだが,テストに用いたCPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性があるため,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
性能はR7 360比で7割程度か。動作クロックを低く抑えた代償は小さくない
テスト結果を順に見ていきたい。
グラフ2は,3DMarkの総合スコアをまとめたものだが,R7 360EのスコアはR7 360比で72〜73%程度となった。グラフ1で明らかにしたとおり,R7 360Eでは消費電力を抑えるためにブーストのかかり方を抑えているわけだが,その代償は決して小さくない印象だ。
ただ,GTX 750がメモリバス帯域幅のスペックという要因によって「Fire Strike Extreme」におけるスコアを大きく落とした結果,R7 360Eが若干ながら高いスコアを示している点は押さえておきたい。
続いてグラフ3,4はFallout 4の結果となる。Fallout 4では,R7 360のスコアが突出した格好になっているが,R7 360Eは,そんなR7 360の73〜76%のスコアと,3DMarkを完全に踏襲する結果になった。描画負荷が高まるにつれてGTX 750とのスコア差を縮めているのは,メモリバス帯域幅の影響だろう。
ただ,現実的な話をすると,Low設定の1600
Fallout 4と比べると描画負荷が低いFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの結果がグラフ5,6だ。ここでは「標準品質(デスクトップPC)」でR7 360EとR7 360の差が14〜15%程度にまで詰まるのに対し,「最高品質」では24〜27%に広がっており,描画負荷が高まると,動作クロックが上がりきらないというR7 360Eの弱点が露呈している。
ただ,標準品質であれば,解像度1920
さらに,日本AMDと玄人志向が名指しで「向く」とするDQXベンチの結果がグラフ7だが,たしかにここでR7 360Eのスコアは良好だ。1920
なお,ベンチマークスコアと合わせて表示される評価だと,E7 360Eは1920
R7 360比で消費電力は最大30W超低下。動作中のGPU温度も低め
スペック上は公称典型消費電力がR7 360の100Wから75Wに下がったR7 360Eだが,スペックどおり25W程度の低減を確認できるのか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比べることで,R7 360との違いを確認してみたい。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時として集計した。
その結果はグラフ8のとおり。アイドル時はR7 360EはR7 360と同じだ。GTX 750比で15W高いが。ディスプレイ出力が無効になる「ロングアイドルモード」に移行すると,「AMD ZeroCore Power Technology」によりR7 360Eは62Wまで下がったので,実質はGTX 750より若干高めといったところか。
一方,各アプリケーション実行時を見ていくと,R7 360EはR7 360から11〜32W低くなっており,スペックどおり消費電力が抑えられていることが分かる。GTX 750とほぼ横並びという点も抑えておきたいポイントだ。
3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」とし,アイドル時ともども,GPU-Zから各GPUの温度を追った結果がグラフ9となる。テスト時の室温は24℃。テストシステムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態に置いてテストを行ったときのスコアだ。
R7 360EとR7 360は同じか,限りなくよく似たクーラーを搭載しており,両製品で温度センサーの位置も同じ可能性が高い。とはいえ,確証が得られていないことから,ここではあくまでもR7 360EのGPUの温度がどの程度なのかを参考程度に見るに留めたいと思うが,R7 360Eは高負荷時に50℃台とかなり低めだ。消費電力が低い分,発熱が少なく,それが温度の低さに表れていると言ってよいだろう。
ちなみに,気になるGPUクーラーの動作音は,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,際立って静音性が優れているとはいかないまでも,十分静かな印象を受けた。少なくとも,今回テストに用いたGIGA-BYTE TECHNOLOGY製GTX 750カードと同等のようには感じられる。
価格差を考えるとGTX 750 Tiが大きすぎる壁。競争相手はいないので,価格が下がれば選択肢になる
R7 360EはR7 360比で7割強という実力を持っており,日本AMDと玄人志向が主張するとおり,ドラゴンクエストXのような,描画負荷が十分に低いタイトルであれば,十分快適にプレイできる。FFXIV蒼天のイシュガルドのような,オンラインRPGにしては描画負荷が高いようなタイトルも,グラフィックス設定次第では問題なくプレイできるはずだ。
繰り返すが,今回テスト対象に用いたGTX 750はすでに現行製品ではないため,「とにかく安価で,オンラインゲームがマトモに動くGPUが欲しい」という場合に,GTX 750の終息で空いたスペースに入り込まんとするR7 360Eは,確かに有力な選択肢となり得る。それだけに,RD-R7-360E-E2GB-JPには,1万円を切る……とまではいかないまでも,1万〜1万1000円程度にまで店頭価格が下がってくれることを期待したいというのが正直なところだ。
そこまで価格がこなれれば,GTX 750 Tiですら高いと考えるような人達にとって,面白い存在になってくるのではなかろうか。
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玄人志向のRD-R7-360E-E2GB-JP製品情報ページ
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