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6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか
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印刷2017/04/17 00:00

テストレポート

6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか

Ryzen 5 1600X
画像集 No.002のサムネイル画像 / 6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか
 2017年4月11日に,4GamerではAMD製新世代ミドルクラスCPU「Ryzen 5 1600X」「Ryzen 5 1500X」のレビューをお届けした(関連記事)。メーカー想定売価が3万800円(税別)で,実勢価格が3万3000円前後となるRyzen 5 1600Xは,6コア12スレッド対応CPUの導入ハードルを一気に下げるものだというのは,記事で結論付けたとおりだ。

 AMDはいまこの瞬間もRyzenの最適化作業を進めているとのことなので(関連記事),現状のRyzenが抱える「特定のゲームでフレームレートが上がらない問題」のようなものはいずれ解決に向かうのではないかと思われるが,一方で,いますぐゲーム性能を何とかしたいと考えている人もいることだろう。そこで今回は,世界初の「3万円台前半で買える6コア12スレッド対応CPU」を常用前提でオーバークロックしたとき,現状,ゲーム性能をどこまで引き上げることができるかを見ていきたい。

※注意
 オーバークロック設定はメーカー保証外の行為です。最悪の場合,CPUやマザーボードの“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回のテスト結果はあくまでも筆者が入手した個体についてのものであり,同一型番の全製品で同じ結果が得られると保証するものではありません。


レビュー時からマザーボードとCPUクーラーを変更。OCで6コアすべてが4.2GHzで「安定動作」


 Ryzen 5 1600XがどんなCPUかはレビュー記事でお伝え済みなので,今回はさっそくテスト環境の説明に入ろう。

 今回,比較対象には上位モデルとなる「Ryzen 7 1800X」と,競合製品となる「Core i5-7600K」(以下,i5-7600K)を用意。AMDから全世界のレビュワーに課された“テスト環境縛り”はもうないので,Ryzenの2製品ではASUSTeK Computer(以下,ASUS)の「X370」チップセット搭載マザーボード「ROG CROSSHAIR VI HERO」に変更し,i5-7600KもASUSの「Intel Z270」チップセット搭載マザーボード「ROG MAXIMUS IX FORMULA」へ変更している。

画像集 No.003のサムネイル画像 / 6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか
ROG CROSSHAIR VI HERO
安定性を重視したゲーマー向けエントリーモデル
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:テックウインド
(販売代理店) info@tekwind.co.jp
実勢価格:3万5000〜3万8000円程度(※2017年4月17日現在)
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ROG MAXIMUS IX FORMULA
ゲーマー向けのハイエンドモデル
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:テックウインド
(販売代理店) info@tekwind.co.jp
実勢価格:4万6500〜4万8500円程度(※2017年4月17日現在)

 ちなみに,最近AMDは,「AGESA」(アゲサ,AMD's Generic Encapsulated Software Architecture)と呼ばれる,CPUやAPUの起動時に読み込まれるマザーボード用ファームウェアをVersion 1.0.0.4へ更新している。それを含むBIOSではDRAMの遅延が低減したりしているとのことで,これも性能面における最適化の1つと紹介することができるだろう。
 しかし,テスト開始時点でバージョン1.0.0.4版AGESAコードを含むCROSSHAIR VI HERO用BIOSは提供されていないため,BIOS周りはあくまでも「現時点での評価」となることをお断りしておきたい。冒頭で述べたとおり,今回のテーマは「いまオーバークロックを試みたらどうなるか」だ。

 話を戻そう。CPUクーラーは,Ryzen 7 1800Xのレビュー時に用いたNoctua製のサイドフロー型空冷モデル「NH-U12S SE-AM4」をRyzen 5 1600Xでも使うことにした。i5-7600Kと組み合わせたクーラーはIntel純正の「TS15A」である。

 Ryzen 5 1600Xと組み合わせるメモリモジュールはレビュー時と同じ(Golden Emperor Int’l Ltd.)製の「EVO X GEX416GB3200C16DC」を使用し,これにDDR4-2933でアクセスする設定とした。Ryzen 7 1800Xは,同CPUのレビュー記事で用いたCorsair製「CMK16GX4M2B3000C15」を,DDR4-2667で動作させ使用している。
 組み合わせるGPUが「GeForce GTX 1080」となる点,そしてグラフィックスドライバに「GeForce 381.65 Driver」を用いている点は,レビュー記事から変わっていない。そのほかテスト環境はのとおりだ。

画像集 No.005のサムネイル画像 / 6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか

 テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション19.0に準拠。ただしオーバークロック状態で常用したときの挙動を見る目的から,GPU負荷を下げたテストだけではなく,現実的なGPU負荷環境でのテストも行うことにした。具体的には,ゲームアプリケーションにおける解像度を2560×1440ドットで固定のうえ,より負荷の高いプリセットと低いプリセットの両方でテストを行うことになる。
 テストにあたって,通常モードのRyzen 5 1600XとRyzen 7 1800Xの「Precision Boost」および「XFR」,i5-7600Kの「Enhanced Intel SpeedStep Technology」および「Intel Turbo Boost Technology」といったブーストおよび省電力機能は,すべて有効化。さらに電源プランは「高パフォーマンス」で固定している。

画像集 No.006のサムネイル画像 / 6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか
 というわけでRyzen 5 1600Xのオーバークロックだが,今回はPrecision BoostとXFRといった自動クロックアップ機能をBIOS(=UEFI)から無効化のうえ,筆者にとって使い慣れたオーバークロックツールである「AI Suite III」(Version 1.01.72)を用い,CPU全コアの動作倍率を1ずつ,コア電圧を0.05Vずつ非同期で上げていくことにした。AMD純正のオーバークロックユーティリティソフト「Ryzen Master Utility」を使わなかったのに他意はなく,純粋に慣れだけの問題だ。

 さて,オーバークロックのテストにあたっては,ベンチマークレギュレーション19.0で取りあげるすべてのテストが問題なく終了することができることをもって「安定動作」と判断することにしたが,結論から言うと,筆者の手元にある個体では,CPUコア電圧を定格比で+0.2Vした状態で6コアすべてが42倍設定で安定動作した。つまり全コア4.2GHz動作ということだ。Ryzen 5 1600Xは定格クロックが3.6GHzなので,「6コア全部が揃うクロック」としては約17%の引き上げを行えたことになる。
 ちなみに,これ以上は倍率を上げても電圧を上げても負荷をかけるとシステムが強制終了した。入手した個体では4.2GHzのすぐ上に常用での限界があるという理解でいいのではなかろうか。

AI Suite IIIでオーバークロックを試みた結果。6コアすべて4.2GHzというのが,入手した個体における安定動作の限界だった
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 以上を踏まえ,今回は6コアすべて4.2GHzで動作するRyzen 5 1600Xを「主役」として,この状態でどの程度の性能が得られるかをチェックすることになる。
 以下,グラフ中に限り,Ryzen 5は「R5」,Ryzen 7は「R7」,そして6コアすべて4.2GHzで動作するRyzen 5 1600Xは「R5 1600X@4.2GHz」と表記するので,この点はご注意を。


ゲーム性能ではRyzen 7 1800Xとほぼ肩を並べるレベルに


 順にテスト結果を見ていきたい。グラフ1は「3DMark」(Version 2.3.3693)のDirectX 11テストである「Fire Strike」,その総合スコアをまとめたものとなる。
 4.2GHz動作するRyzen 5 1600Xは,GPU性能の影響が大きくなる「Fire Strike Extreme」だと,さすがにスコアが丸まっているが,それでもi5-7600Kに対して約8%高いスコアを示している。よりCPU性能がスコアを左右するようになる“無印”では,通常モードのRyzen 5 1600X,そして対Ryzen 7 1800Xで約5%高いスコアだ。

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 Fire Strikeから,CPUベンチマークである「Physics test」のスコアを抽出したグラフ2だと,4.2GHz動作のRyzen 5 1600Xは,通常モードのRyzen 5 1600Xに対して約12%高いスコアを示した。定格クロックと比べて約17%,最大クロックの4.0GHz比では5%高いクロック設定ということを踏まえるに,ほぼ妥当な数字が出ていると述べていいのではなかろうか。
 クロックの引き上げにより,8コア16スレッド動作のRyzen 7 1800Xとほぼ肩を並べるスコアになっている点にも注目したい。

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 続いてやはり3DMarkから,DirectX 12ベースのテストとなる「Time Spy」の総合スコアをまとめたものがグラフ3,そこから「CPU test」の結果を抜き出したものがグラフ4だ。
 総合スコアだと4.2GHz動作のRyzen 5 1600XはRyzen 7 1800Xにあと一歩届かず,CPU testでは完全に置いて行かれる。よりマルチスレッド処理に最適化されたDirectX 12環境だと,コア数の違いは絶対的な違いになっているということなのだろう。同じ理由で,i5-7600Kに対して約59%高いスコアを示しているのもなかなか感慨深い。

画像集 No.010のサムネイル画像 / 6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか
画像集 No.011のサムネイル画像 / 6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか

 実際のゲームにおいてはどうだろうか。
 グラフ5で「Far Cry Primal」の結果を見てみると,GPU性能への依存度が高まる「最高」プリセットで,スコアはほぼ横並び。一方の「ノーマル」プリセットだと,4.2GHz動作するRyzen 5 1600XはRyzen 5 1600Xからスコアを約3%伸ばし,i5-7600Kとのスコア差を詰めている。

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 次にグラフ6は「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)の結果だが,描画負荷の大きい「High」プリセットでも多少ながらスコア差が生じているのが興味深い。とくに4.2GHz動作のRyzen 5 1600XがRyzen 7 1800Xよりも約4%高いスコアを示しているのは目を引くが,これはCPUコアの動作クロック(とメモリクロック)が生んだ違いと見ていいはずだ。
 「Low」プリセットだと,Ryzen 7 1800Xおよびi5-7600Kの両製品とRyzen 5 1600Xの間にある性能ギャップを,4.2GHz動作のRyzen 5 1600Xが完全に埋めている。

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 Vulkan版「DOOM」のスコアをまとめたものがグラフ7だ。「ウルトラ」プリセットだとスコアは横並び。「中」プリセットだと4.2Hz動作のRyzen 5 1600Xが,対i5-7600Kで約2%高い数字を示しつつトップに立った。

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 グラフ8は,先のレビューでRyzen 5 1600Xのスコアが振るわなかった「Fallout 4」だが,4.2GHz動作のRyzen 5 1600Xは通常モードのRyzen 5 1600Xに対して4〜5%程度高いスコアを示し,競合製品とのギャップを若干詰めている。

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 「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果がグラフ9となる。GPU性能が支配的となる「最高品質」だと,テスト対象の4製品で素顔は変わらず。よりGPU負荷の低い「標準品質(デスクトップPC)」で,4.2GHz動作のRyzen 5 1600Xは,通常モードのRyzen 5 1600X,そしてRyzen 7 1800Xに対して若干高いスコアを示した。

※グラフ画像をクリックすると平均フレームレートベースのグラフを表示します
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 「Forza Horizon 3」の結果がグラフ10だ。4.2GHz動作のRyzen 5 1600XはRyzen 7 1800Xに並びかけており,コア数を動作クロックで補っていることが分かる。i5-7600Kに対してはまだギャップが残った。

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消費電力は大幅に増加。オーバークロックの代償は小さくない


 今回はコア電圧を0.2V“盛って”全コア4.2GHzを実現しているため,消費電力が気になるところだ。
 ここでは,Ryzen 7 1800Xのレビュー時に導入した新しい消費電力測定法を用いて,オーバークロックによる消費電力増大量を確認しておきたい。

 具体的には,三和電気計器製のクランプ式電流センサー「CL33DC」でEPS12Vに用意されている12Vのライン4本における電力を測定する。スコアの取得にはデジタルマルチメーター「PC20」およびデジタルマルチメーター用データーロガー「TsDMMViewer」を利用する格好だ。詳細はRyzen 7 1800Xのレビュー記事をチェックしてほしい。

 テストにあたってはゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。また,アイドル時に限り,Windows 10の電源プランを「バランス」に戻している。「Ryzen Balanced」ではなく,OS標準のほうだ。

 その結果はグラフ11のとおり。アイドル時は4.2GHz動作のRyzen 5 1600Xが若干高いものの,気にするようなレベルではないだろう。
 一方のアプリケーション実行時だと,4.2GHz動作のRyzen 5 1600Xは,昇圧してのオーバークロックを行った代償を払うことになった。具体的には,通常モードのRyzen 5 1600Xに対して17〜49W程度も消費電力が増してしまっている。これはRyzen 7 1800Xをも圧倒する数字だ。

画像集 No.018のサムネイル画像 / 6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」のオーバークロックテスト。全コア4.2GHz動作にゲーマーは何を期待できるか

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 最後に,NH-U12S SE-AM4でオーバークロック状態のRyzen 5 1600Xを冷却しきれているのか確認しておきたい。
 ここでは,アイドル時に加え,「3DMarkのFire StrikeにおいてPhysics testを30分間連続実行した時点」を「高負荷時」として,2条件におけるCPUの温度をAI Suite IIIから取得することにした。テスト時の室温は約24℃。システムはケースに組み込まない,いわゆるバラック状態で,テスト用となる机の上に置いている。

 その結果はグラフ12のとおり。4.2GHz動作のRyzen 5 1600Xは,アイドル時こそNH-U12S SE-AM4が静音指向となるため温度が高くなるものの,高負荷時には70℃に留まっている。冷却能力が動作クロック上限を規定しているわけではないという理解でいいだろう。

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常用前提のOC耐性は決して高くないものの,最適化を待つ間の対策としては大いにアリ


 もちろん個体差はあるだろうが,空冷かつ常用を前提とした場合,Ryzen 5 1600Xのオーバークロック耐性は,際立って高いとは言えそうにない。
 ただし,その効果は決して小さくなく,通常モードのRyzen 5 1600Xで競合製品と大きく引き離されるケースできっちりとスコア差を詰めている点も評価できるところだ。AMD,そしてゲームデベロッパ側の最適化を待つ間,ひとまず常用オーバークロックでしのぐというのは,考え方によってはアリではなかろうか。
 消費電力の増大だけはやむを得ないが,これを許容できるなら,最適化が進んだ後もオーバークロック状態を維持すれば,さらに高い性能も期待できるはずだ。

 最終的には「8コアか,3万円台前半か」という選択になるとは思うが,ゲーム用途を前提にRyzenを選ぶとき,6コアのRyzen 5でオーバークロックというのは,1つの選択肢となり得るだろう。

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AMD公式Webサイト

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