レビュー
「買える値段」の8コアCPUはゲーマーに何をもたらすのか?
Ryzen 7 1800X
今回4Gamerでは,発表時点における最上位モデルとなる8コア16スレッド対応CPU「Ryzen 7 1800X」の評価キットを入手し,短い時間ながらテストすることができたので,入手した限りのベンチマークスコアをもって,その実力を確認してみたいと思う。
マルチスレッドで16スレッドに対応。動作クロックは最大4GHz超級に
Ryzenが採用する「Zen」マイクロアーキテクチャの解説は西川善司氏が,発表時点におけるラインナップや対応チップセットのまとめは米田 聡氏がそれぞれ行っているので,細かな情報はそちらをチェックしてもらえればと思うが,本稿でもざっくりとは紹介しておこう。
パッケージはPGA(Pin Grid Array)型で,ぱっと見の外観はFM2あるいはAM3系のプロセッサとよく似た印象だ。ただし,ピンの数は1331ピンと,AM3系の938ピン比で約41%増え,AM3世代のマザーボードとは互換性がなくなっているため,利用するにはSocket AM4搭載のマザーボードが必須となる。
テスト環境は後述するが,今回試した限り,特別な操作なしに,Ryzen 7 1800の動作クロックが自動で4.1GHzへ入ることを確認できている。
メモリコントローラはイマドキのCPUらしくDDR4対応。デュアルチャネルアクセス仕様で,条件付きながらDDR4-2667に対応しており,条件を満たすPC4-21300メモリモジュールを揃えれば,最大のメモリ性能を期待可能だ。このあたりの「条件」についてはラインナップまとめ記事を参考にしてほしい。
表1は,そんなRyzen 7 1800X(※表中は「R7 1800X」)の主なスペックを,AMDが対抗製品として位置づける8コア16スレッド対応モデル「Core i7-6900K」(以下,i7-6900K),そしてデスクトップPC向けCPUとして4Gamer読者の中でもユーザー数が多いと思われる4コア8スレッド対応モデル「Core i7-7700K」(以下,i7-7700K)および「Core i7-6700K」(以下,i7-6700K),そしてAM3世代の最上位モデルとなる4モジュール8スレッド対応モデル「FX-9590」と比較したものだ。
仰々しい木箱に入った評価キット。入手したマザーボードはASUS製ゲーマー向けモデル
では,続いてRyzen 7 1800Xの評価キットを見ていこう。今回,評価キットは「AMD RYZEN」という焼き印入りの,仰々しい木箱に入った状態で,解禁日の3日前に届いた。グラフィックスカードの評価機で,こういった手の込んだパッケージングを採用するものはこれまでもよくあったが,筆者の記憶する限り,CPUの評価キットでこういう遊び心があったのは初めてである。
木箱から取り出した機材一式(+レビュワーサイトの案内ペーパー) |
いわゆるOCメモリモジュールである,Corsair製のCMK16GX4M2B3000C15 |
木箱で届いたCROSSHAIR VI HEROは,製品ボックスから開けた状態でNH-U12S SE-AM4を取り付けるためのマウンタが付いていたので,「CPUクーラーも入れたかったが,木箱に入らなかった」というのがオチなのではなかろうか。
ちなみにこのNH-U12S SE-AM4だが,見る限り,Noctua製従来製品「NH-U12S」のAM4マウント付属版といったところで,125(W)×71(D)×158(H)mmというサイズや,標準で120mm角ファンを1基搭載する点も含め,仕様は従来モデルと変わっていなかった。
筆者の記憶が確かなら,CROSSHAIRの名を冠するマザーボードというのは2012年の「Crosshair V Formula-Z」以来だが,そんなCROSSHAIR VI HEROの製品概要は以下のとおりとなる。
拡張スロットの物理構成はPCI Express(以下,PCIe) x16
競合製品や従来製品との直接比較を実施
ゲームテストに先立って基礎検証も
今回,比較対象としては,表1でも取り上げたi7-6900Kと,i7-7700K,i7-6700K,FX-9590を用意した。AMDがライバルと位置づける,同じ8コア16スレッド対応CPUとの比較,そして前世代最上位モデルとの比較は必須として,さらに,今日(こんにち)においてユーザー数の多い4コア8スレッド対応CPUも2製品加えた格好だ。
今回用意したCPUのうち,i7-6900Kは,パソコンショップ アークの協力により,テストすることができている。
組み合わせるGPUは,それ自体の性能がボトルネックとならないよう,「GeForce GTX 1080」とした。グラフィックスドライバは,テスト開始時点の最新Hotfix版となる「GeForce Hot Fix driver version 378.77」を導入した。
そのほかテスト環境は表2のとおりで,今回は別途,日本サムスンの協力により,テスト速度高速化のためSerial ATA 6Gbps接続型SSD「SSD 850 EVO」の容量500GBモデルを用意した。テストアプリケーションはSSD 850 EVOにすべて突っ込んでいるので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション19.0に準拠。ただし,CPUのテストとなるため,「3DMark」(Version 2.2.3509)以外のタイトルでは,描画負荷が低いほうのプリセットを利用する。また,解像度も同じ理由で2560×1440ドット,1920×1080ドット,1600×900ドットの3つを選択した。
また,それとは別に,CPUの特性を調べるべく,システム情報表示ツール兼ベンチマークソフトである「Sandra 2016 SP1」(Build 2220)と,定番のCPUベンチマークである「CINEBENCH R15」(Build RC184115)も実行することにした。Sandra 2016 SP1のテストはゲームテストの前に,CINEBENCH R15は後に結果を掲載する。
なお,以下グラフ中に限り,Ryzen 7 1800Xは「R7 1800X」と表記する。
相対的には整数演算が速いRyzen 7 1800X
まずは基礎検証を通じて,Ryzen 7 1800Xの特性を見ていくことにしよう。
ここでは,CPUの定格動作とは別に,「各CPUでブーストや省電力機能を無効化し,UEFIから全コアおよびL3キャッシュ,(リングバスクロック設定のある個体では)リングバスのクロックをi7-6900Kの定格である3.2GHzに揃えた状態」でのテスト結果も並べ,同一クロック条件における挙動の違いも見てみたいと考えている。
ただ試してみると,マザーボードのUEFIが原因なのかどうか,FX-9590だけは倍率変更を行えなかった。そのため,定格動作時のスコアのみを比較に用いるので,この点はお断りしておきたい。
というわけでグラフ1,2は,CPUの演算性能を見る「Processor Arithmetic」のスコアだが,総合スコアを示す「Aggregate Native Performance」でRyzen 7 1800Xはi7-6900Kに対して約12%高いスコアを示した。3.2GHzに動作クロックを揃えるとそのギャップは約6%に縮まるものの,少なくともRyzen 7 1800Xの“素性”が良さそうなことは,これで想像できるのではなかろうか。
CPUコア数効果で,動作クロックを揃えたときにRyzen 7 1800Xが競合の4コア8スレッドCPUに対して2倍近いスコアを叩き出している点や,定格動作時のスコアでFX-9590の約2.5倍というスコアになっている点も注目しておきたい。
「Dhrystone Integer Native AVX2」「Dhrystone Long Native AVX2」といった整数演算系のテストだと,Ryzen 7 1800Xは完全に頭1つ抜け出している一方で,「Whetstone Single-Float Native AVX」と「Whetstone Double-Float Native AVX」の浮動小数点演算テストだと,i7-6900Kに若干届いていない。あくまでも相対評価だが,Ryzen 7 1800Xは浮動小数点演算より整数演算を得意としている可能性がある。
マルチメディア性能を見る「Processor Multi-Media」の結果がグラフ3〜6だ。ここでは純粋に見やすさを確保する目的で,スコアの桁数に応じてグラフを2種4枚に分けている。
総合スコアに当たる「Aggregate Multi-Media Native Performance」だと,Ryzen 7 1800Xはi7-6900K比で約74%のスコアに留まり,i7-7700Kに肉薄される。3.2GHzで動作クロックを揃えると,コア数効果もあってi7-7700Kを引き離すものの,それでもi7-6900Kとの違いは歴然だ。
個別に見ていくと,グラフ5,6にスコアをまとめた「Multi-Media Quad-int Native x1 ALU」と「Multi-Media Quad-float Native x2 FMA」を除き,Ryzen 7 1800Xはi7-6900Kに大きなスコア差を付けられている。このあたりはIntelのAVX2が有利に働いている印象である。
暗号および復号化性能を見る「Processor Cryptography」の結果がグラフ7,8となる。「Encryption/Decryption Bandwidth AES256-ECB AES」はCPUに統合されるハードウェア暗号化/複合化アクセラレータを,AVX2命令を使う「Hashing Bandwidth SHA2-256 AVX2」はCPUコアを使うことになるテストだ。
Broadwell-Eのアクセラレータは(Sandy Bridge-Eほどではないものの)強力なので,前者のテストだとRyzen 7 1800Xはi7-6900Kに歯が立たない。しかし,ほとんど整数演算となる後者だと,コア数と動作クロックなど複合的な要因により,Ryzen 7 1800Xはi7-6900Kにほぼダブルスコアで圧勝。結果として総合スコア「Cryptographic Bandwidth」でも優位に立っている。
経済関係の方程式を計算する「Processor Financial」の結果も,見やすさ重視で2種4枚のグラフ9〜12に分けているが,総合スコアにあたる「Aggregate Option Pricing Performance」で,Ryzen 7 1800Xはi7-6900Kに約15%の差を付けた。動作クロックを3.2GHz揃えにした条件でも約10%高いスコアだ。
個別スコアで目を引くのは,モンテカルロ法を使う価格予測計算で,とくに並列化処理の効果が高い「Monte Carlo Euro Option Pricing」で,Ryzen 7 1800Xがi7-6900Kに対して約37%高いスコアを示しているところだろうか。Ryzen 7 1800Xの持つ「マルチスレッド性能の強さ」が垣間見える。
グラフ13,14は,科学技術関係の演算性能を見る「Processor Scientific」の結果だ。総合スコアにあたる「Aggregate Scientific Performance」で,Ryzen 7 1800Xはi7-6900Kの約71%というスコアに留まり,i7-7700Kといい勝負になってしまった。
多体問題を計算するテストで,並列処理の効果が高い「N-Body Simulation (NBDY) FMA」だと,i7-6900Kに対して定格動作で約11%高いスコアを示していたりするのだが,高速フーリエ変換を行う「Fast Fourier Transform(FFT) FMA」で約54%のスコアしか示せておらず,これが足を引っ張ったのが分かる。FMA(Fused Multiply-Add,融合積和演算)のうち,ここだけ大幅にスコアを落としているのが謎だが,Sandra 2016 SP1のドキュメントにも,その理由を探るヒントになるような情報はなかったので,なんとも言えないところだ。
CPUによる画像処理の性能を見る「Processor Image Processing」も,見やすさ重視で3種6枚のグラフ15〜20にまとめたが,まず,総合スコアである「Aggregate Image Processing Rate」で,Ryzen 7 1800Xのスコアはi7-6900Kの約80%というところになった。AVX2命令を駆使するテストが多く,そこで軒並み置いていかれるのだから,これもやむなしだろう。
ただ,競合の4コアCPUと比べた場合は,マルチスレッド処理の威力により,優勢に立ち回っている。総合スコアでは対i7-7700Kで約117%,対i7-6700Kで133%だ。
Ryzen 7 1800Xは,並列処理を中心にi7-6900Kを超える場面も多く見られ,CPUとしての素性はなかなかのものだと言える。ただ,マルチメディア系を中心に,AVX2命令を活用するようなテストではi7-6900Kに置いていかれることもあり,i7-6900Kとは勝ったり負けたりという結果になったとまとめられるだろう。
メモリアクセス遅延の大きさは最適化待ちか?
続いてもSandra 2016 SP1から,CPUコア性能以外を見るテストの結果を見ていきたい。
グラフ21,22は,CPUコア間のデータ転送帯域幅を見る「Multi-Core Efficiency」の結果である。グラフ画像をクリックすると,実スコアのまとまった表3,4を表示するようにしてあるので,適宜,別タブで開くなどして,参考にしてもらえればと思う。
スコアを見てみると,i7-6900KがL1サイズに収まるデータサイズ「4x 4kB Blocks Bandwidth」で性能のピークを迎えるのに対して,Ryzen 7 1800XはL2キャッシュに収まる「4x 64kB Blocks Bandwidth」で帯域幅が最大となる。Ryzen 7 1800Xとi7-6900Kでキャッシュに対する仕組みが異なっていることがよく分かる結果だ。
メインメモリの帯域幅を見る「Memory Bandwidth」のテスト結果がグラフ23,24だが,ここは当然ながら,4chメモリアクセスを行うi7-6900Kの独擅場。もっともRyzen 7 1800Xは,高いメモリクロックを活かし,総合スコアでi7-7700Kに対して約11%,i7-6700Kに対して約24%,FX-9590に対して約79%高いスコアを示している。
キャッシュおよびメモリのレイテンシを見る「Cache and Memory Latency」のテスト結果がグラフ25,26で,ここでもグラフ画像をクリックすると実スコアの表5,6を表示するようにしてある。
ここで気になるのは,L2キャッシュを超える「8MB Range」以降で,Ryzen 7 1800Xの遅延状況が際立って悪化していることだ。FX-9590より遅いというのは異常であり,正直,「キャッシュアクセスやメモリアクセス周りの最適化が十分でない」可能性が極めて高いのではないかと危惧しているが,いずれにせよ,現時点でのスコアはご覧のとおりとなる。
キャッシュの帯域幅を見るCache Bandwidthの結果がグラフ27,28である。ここでもグラフ画像をクリックすると表7,表8で実スコアを確認してもらえるようにしてある。
さて,スコアを見てみると,Ryzen 7 1800XはL1キャッシュを超える「512kB Data Set」からL3キャッシュに収まる「16MB Data Set」の範囲でi7-6900Kのスコアを大きく上回った。少なくとも現状,Ryzen 7 1800Xのキャッシュシステムは,競合と比べて帯域幅に優れる一方,遅延では劣ると判断するのが妥当だろう。
Sandra 2016 SP1のテスト最後のグラフ29,30は,マルチスレッドのクリティカルセクションにおけるメモリ競合時の性能を見る「Memory Transactional Throughput」の結果だ。
Memory Transactional Throughputでは,Intelのメモリのトランザクション機能である「Transactional Synchronization Extensions」(TSX)を活用するため,それを持たないRyzen 7 1800Xはどうしても不利となる。Ryzen 7 1800XとFX-9590のスコアが伸びないのはそのためだ。
以上,CPUコア以外を見てきたが,Ryzen 7 1800XではL2とL3のキャッシュ帯域幅に優位性がある一方,遅延はかなり大きいという結果になっている。とくにゲーム用途ではメモリ周りの遅延が性能に影響しやすいため,ここはRyzen 7 1800Xにおける大きな懸念材料として挙げられそうだ。
では,ここまで確認してきたような特性を持つRyzen 7 1800Xのゲーム性能などれほどなのか。次段で迫っていきたい。
L3とメインメモリの遅さが致命的? ゲームではあまり振るわないRyzen 7
さあ,いよいよゲーム性能検証である。
グラフ31は,3DMarkの「Fire Strike」における総合スコアをまとめたものとなる。Ryzen 7 1800Xは,より負荷が高く,それでいてCPU性能も相応に影響する「Fire Strike Extreme」で,i7-6900Kの約99%,i7-7700Kの約103%というスコアを示した。よりCPU性能が“効く”「Fire Strike」でも,FX-9590とはレベルの異なる数字を示し,トップ争いに絡んでいる。
Fire Strikeを構成するテストのうち,ソフトウェアベースの物理シミュレーションを行う,事実上のCPUベンチマークテストである「Physics test」の結果を抜き出したものがグラフ32だ。
ここでは並列処理性能が問われるため,8コア16スレッド対応のRyzen 7 1800Xとi7-6900Kが仲良く抜け出す格好となった。スコアはほぼ互角と言っていいだろう。
続いてやはり3DMarkから,DirectX 12ベースのテストとなる「Time Spy」の総合スコアをまとめたものがグラフ32,そこから「CPU test」の結果を抜き出したものがグラフ33となる。
端的に述べて,スコア傾向はFire StrikeのPhysics tetと同じ。Ryzen 7 1800Xのスコアはi7-6900Kにあと一歩で,4コアCPUに対しては歴然とした違いを見せつけている。
では,3DMarkほどにはマルチスレッド処理への最適化が進んでいない,実際のゲームタイトルだとどうだろうか。
グラフ35は,「Far Cry Primal」の結果をまとめたものだ。ここでは最もGPU負荷が高く,CPUがスコアに与える影響の小さい2560
ただし,描画負荷が低く,「マルチスレッドへの最適化がそれほど進んでいないCPUベンチマーク」的な色彩が濃くなる1920
レギュレーション19世代において最も描画負荷が低いテストとなる,「Low」プリセットの「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)だと,Ryzen 7 1800Xの「4コアCPUからの置いていかれ度合い」はより顕著になる(グラフ36)。わずかながらもi7-6900Kを上回れている点が慰めといったところか。
グラフ37は,Vulkan版「DOOM」における「中」プリセットのスコアをまとめたものだ。
DOOMはゲームの仕様上,フレームレートが200fpsで頭打ちとなってしまう。また,頭打ちとならない2560
グラフ38の「Fallout 4」は,CPUのシングルスレッド性能とメモリ性能がスコアを左右するタイトルだ。それゆえに,DDR4-2667で接続するRyzen 7 1800Xには期待が持てそうなのだが,結果はi7-7700Kにまったく歯が立たず。i7-6900Kと比べても86〜87%程度というスコアに終わった。ここもメモリ周りの弱点が露呈したとみるべきだろう。
「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果がグラフ39で,ここでも力関係はFallout 4とよく似たものとなった。ファイナルファンタジーXIVの開発にNVIDIAが協力していることはよく知られているが,Intelも協力しているので,ひょっとするとIntel製CPUへの最適化が入っている可能性はあるだろう。ただ,Fallout 4と似た傾向なので,やはりメモリ周りが原因かな,という印象も持っている。
なお,グラフ画像をクリックすると平均フレームレートベースのグラフも表示するようにしてあるので,興味のある人はそちらもチェックしてみてほしい。
グラフ40の「Forza Horizon 3」でもRyzen 7 1800Xの結果は芳しくない。Ryzen 7 1800Xのスコアはi7-7700Kの70〜74%に留まり,「振り向けばFX-9590」である。これは厳しい。
最後は景気づけ,CINEBENCH R15だ。ここでは,Ryzen 7 1800Xとi7-6900Kのみ16スレッドと8スレッド,1スレッドの3パターン,残る製品では8スレッドと1スレッドでのみ実行しているが,まず,16スレッドではRyzen 7 1800Xがi7-6900Kに約9%差で完勝。8スレッド処理だと,スレッド振り分け効率の違いからか,わずかにi7-6900Kを下回るが,シングルスレッド性能では再び並ぶという格好になっている。
とりあえず,「8コア16スレッドを使い切る,純然たるマルチスレッド性能で,Ryzen 7 1800Xはi7-6900Kより速く,シングルスレッド性能も同等以上」とは言えそうだ。
クランプメーターを使った電力測定だと,Ryzen 7 1800Xの消費電力はi7-6900Kから少し低い程度
AMDはRyzenで,電力性能も従来製品比で大幅に向上したとしている。それを確かめるべく今回は,春に導入予定のベンチマークレギュレーション20世代を先取りし,クランプメーターを用いたEPS12Vの電流測定を,Ryzen 7 1800Xとその比較対象に対して行いたいと思う。
4Gamerでは長らく,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を測定し,各アプリケーションベンチマーク実行時の最大値をスコアとして採用してきた。システム全体の消費電力は,テスト対象のCPUやグラフィックスカードを搭載するPCがどれだけ電力を消費するか,その相対的な違いを提示できるという意味で,価値があるデータだと言える。
しかし,言うまでもないが,テスト対象となるCPUやグラフィックスカードそのものの消費電力を,そこから知ることはできない。そこで4Gamerでは両製品の“生”消費電力に近いスコアを調べるべく,いろいろテストを重ねていたのだが,先行して「CPUに電力を供給しているEPS12Vの電流値を計測し,その結果をスコアとして記録する」方法に目処が立った。そこで,記念すべきRyzen登場のタイミングで先行導入してみようということになった次第である。
CL33DCが出力する電圧値の測定には同じ三和電気計器製のデジタルマルチメーター「PC20」を用いる。PC20は,CL33DCに正式に対応しているデジタルマルチメーターなので,信頼性の高い測定値が得られる――おおまかな計算だと,仮に6Aの電流が測定されたときで,誤差は±0.32A程度――はずだ。
測定には,PC20に対応するデジタルマルチメーター用データーロガー「TsDMMViewer」を用いる。得られるテスト結果は電流値で,そのままだと直感的に分かりにくいと思われるため,測定した電流値に12を掛けてワット換算した値を,当該ベンチマークタイトルにおける「EPS12Vの最大消費電力」とする。同様に,無操作時にもディスプレイ出力がオフにならないよう設定した状態から30分間アイドル状態で放置したときのスコアを「EPS12Vのアイドル時における消費電力」として計測したい。レギュレーション20を正式採用するときには若干の変更が入るかもしれないが,ひとまず今回はこのルールを採用した。
さて,テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。また,アイドル時においては,Windows 10の電源プランを「バランス」に戻してテストを行った。
その結果はグラフ42のとおり。
アイドル時はi7-6900KとFX-9590が飛び抜けているが,それ以外は10W以下でほぼ揃った形となった。
そして,各アプリケーション実行時は,まずFX-9590の強烈さが目を引くわけだが,それをさておくと,Ryzen 7 1800Xのスコアはi7-6900Kと比べ,おおむね若干低い水準となっているのが分かる。
「おおむね」と断ったのは,3Dベンチマークテスト時にスコアの低かったFallout 4とForza Horizon 3でRyzen 7 1800Xのスコアが極端に低いためだ。「キャッシュおよびメモリ周りの最適化不足で,CPUパワーを十全に生かし切れていない局面が生じている可能性」が,このテスト結果から見てとれよう。
最後にCPUの温度も確認しておきたい。ただし,今回は,
- Ryzen 7 1800X:NH-U12S SE-AM4
- i7-6900K:Intel製「BXTS13A」
- i7-7700K&i7-6700K:Core i7-6000番台のCPUを購入したときに付属していたリテールクーラー
- FX-9590:AMD製「Wraith Cooler」(※無印)
なお,テストにあたっては,アイドル時に加え,3DMarkのFire StrikeにおいてPhysics testを30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,CPUの温度を取得している。テスト時の室温は約24℃。システムはケースに組み込まない,いわゆるバラック状態で,テスト用となる机の上に置いている。
温度の取得に用いたアプリケーションは基本的に「HWmonitor」(Version 1.30)だが,Ryzen 7 1800XだけHWmonitorから温度を取得できなかったため,AMD純正オーバークロックツール「Ryzen Master Utility」を利用している。
結果はグラフ43のとおりで,Ryzen 7 1800Xの温度は,CROSSHAIR VI HERO側の標準ファン設定が静音指向なためか,全体的にやや高め。とはいえ高負荷時でも70℃を超えていないので,定評あるクーラーを組み合わせる限り,Ryzen 7 1800Xの冷却に苦労することはなさそうだと言ってもいいだろう。
「買える値段」の8コアであることに意味のあるRyzen 7 1800X。史上初の「ゲーム配信者向けCPU」!?
以上のテスト結果をまとめるに,Ryzen 7 1800Xのマルチスレッド性能は,謳い文句どおりと断言してしまっていいだろう。端的に述べて,Ryzen 7は本物だ。
しかし同時に,実力なのか最適化不足なのか,まだその部分の結論は出せないものの,L3キャッシュとメインメモリ周りの大きな遅延は,帯域幅よりもアクセス速度こそが重要になるゲーム用途へ,とても暗い影を落としている。ただでさえ,6コア以上のCPUは,ゲーム用途において不利な結果になりがちだった(関連記事1,関連記事2)。そこにキャッシュ&メモリアクセス遅延ときてしまうと,純粋なゲーム用途では厳しい。
そしてこれは言い換えると,ゲーム用途で8コア16スレッドを使いこなせるようなユーザーで,かつ,競合のCPUは高すぎると感じていた人にとって,Ryzen 7はついに登場した「買える値段」の8コアCPUということになるはずだ。
ではゲーム用途で8コアを活かせるのは何だろうと考えると,ゲーム関連で動画エンコードを多用するケースが思い浮かぶ。ただ撮(録)って配信するだけなら,NVIDIAの「Share」かAMDの「Radeon ReLive」を使えばよく,別にCPU性能もとくに不要だが,一度ローカルにプレイムービーを保存し,そこから加工やアフレコを行って,再エンコードして配信というスタイルの人ならどうだろう?
Ryzen 7は,ゲーム配信者用CPUとして一定のニーズを掴む可能性があると,筆者は考えている。
西川善司の3DGE:「Ryzen」は何が新しくなったのか。そのマイクロアーキテクチャに迫る
いよいよ発売。Ryzen 7と対応チップセットのスペックを総まとめ
パソコンショップ アークでRyzen 7を購入する
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