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[インタビュー]サービス開始11年目の「Ingress」。本作のキーマンにIngressの現在や今後の展望などを聞いた
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印刷2023/10/05 16:30

インタビュー

[インタビュー]サービス開始11年目の「Ingress」。本作のキーマンにIngressの現在や今後の展望などを聞いた

 Nianticが2012年からサービスを続けている,仮想現実ゲーム「Ingress Prime(イングレス プライム)」iOS / Android。以下,Ingress)。プレイヤーが二つの勢力に分かれ,現実世界を往来し,その位置情報を使って陣地取り合戦を繰り広げる内容で,同社が手がける位置情報ゲームの礎となったタイトルだ。

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「Ingress Prime」公式サイト

「Ingress Prime」ダウンロードページ

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 サービス開始から11年目を迎えた現在も大小のイベントが頻繁に開催されており,2023年9月16日には,兵庫県の神戸市を舞台とした世界規模のイベント「Ingress Anomaly Ctrl Kobe(イングレス アノマリー コントロール コウベ)」が開催され,約3000人ものエージェント(プレイヤーの総称)が集まり,交流やバトルを楽しんだ。

「Ingress Anomaly Ctrl Kobe」の開始場所となったポートアイランド市民広場。このときはすでにイベントは始まっていて,エージェントの多くは三宮などの中心街に移動していた
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 このイベントの開催にあたり,本作に携わるNianticのプロデューサー ブライアン・ローズ氏と同社副社長 川島優志氏が神戸を訪れ,イベントの様子を見守った。
 4Gamerではこの機会に,11年目のIngressを取り巻く環境やゲームシステムの進化,近年の国内外のプレイヤーの動向,そして今後の展望をについて聞いてみた。

川島優志氏(左)とブライアン・ローズ氏(右)
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プレイヤーが歩いてその場所を訪れ

コミュニケーションをして楽しむ方向性は変わらない


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。Ingressがサービスを開始してから昨年10周年を迎えましたが,本作をまだ遊んだことがないという人や,ゲームからしばらく離れてしまっているエージェントに向けて,現在の本作がどんなゲームなのかをあらためて教えてください。

ブライアン・ローズ氏(以下,ブライアン氏):
 Ingressは今年の12月で11歳を迎えます。エージェントが緑の「エンライテンド(Enlightened)」と青の「レジスタンス(Resistance)」のどちらかのチームに所属する「エージェント」になって,世界中を歩き回って戦いを繰り広げるゲーム内容は,11年前にサービスを開始した頃と変わっていません。
 マップ上の「ポータル」,これはランドマークや歴史的価値のある場所に存在するポイントで,ここからはゲームを進めるのに重要なエネルギー「エキゾチックマター(XM)」が湧いています。エージェントはXMを集めながらこのポータルを確保して,そこから別のポータルに「リンク」を張って,三角形の「コントロールフィールド」を作ることで,自陣を広げていきます。
 両チームのエージェントの皆さんは歩いてポータルのある場所に向かい,いろんな場所を探索しながらゲームを進めるという内容を,現在も楽しんでいただいています。
 また,毎月世界のどこかで「ライブイベント」と呼ばれる,エージェントが実際に出会うことで進行するイベントが行われており,今回は神戸を舞台に約3000人のエージェントが現地に集まり,戦いを繰り広げています。

市民広場にはイベントの参加方法や遊び方などをレクチャーする各陣営の窓口が設置された
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川島優志氏(以下,川島氏):
 我々Nianticが目指すものは,従来のスクリーン上で遊ぶゲームとは違って,エージェント本人が実際に外に出て,通勤通学途中の風景のすばらしさや面白さに気付けること。そして,一緒に遊んでいるエージェントと出会い,世界のすばらしさを感じられることになります。
 先日「モンスターハンターNow」iOS / Android)がリリースされましたが,「Pokémon GO」iOS / Android)や「Pikmin Bloom」iOS / Android)など,弊社が手がけるタイトルのすべての始まりとなったのが,このIngressです。遊べば遊ぶほど歩く距離が増えて健康になっていく。さらに人と人とのつながりを持つことで,ライブイベントもどんどん大きくなる。Nianticが目指すものが純粋な形で表現されたタイトルなんですね。
 10年前にブライアンと京都で行った最初のイベントは,参加人数が26人というごく小規模な内容でしたが,翌年同じ京都で開催したイベントには約6000人のエージェントが集まったことを今でも覚えています。

4Gamer:
 当時,エージェントの輪が瞬く間に広がっていく印象を受けました。
 ところで,この10年で何か大きな変化などはありましたか?

ブライアン氏:
 ゲーム内で起きた大きな出来事というと,これまでの二つの勢力に対し,新たに「マキナ(MACHINA)」という勢力が加わったことでしょうか。これはエージェントの皆さんが所属するのではなく,しばらくエージェントが触れていないポータルに自然発生するようになったんです。マキナのポータルを破壊して取り戻すことも,エージェントの任務の一つとなりました。
 また新しい機能として「ドローンネット」が追加されました。Ingressは歩いてプレイをするのが基本なのですが,これを使うと家からでも一部のポータルにアクセスできます。
  そしてもう一つ,新アイテムの「キネティックカプセル」は,歩くことでパワーをチャージしてアイテムを作り出すことができ,さらに必要のないアイテムを入れて歩くことで,レアアイテムの精製もできます。

川島氏:
 ゲーム内容や機能のことではないのですが,先頃のパンデミックは,人を外に出すことを大事にしている弊社にとって非常に難しい時期でしたね。当然,イベントの開催は困難でしたし,ドローンネットなどはその時期に備わった機能でした。
 それでもエージェントの皆さんが団結して困難を乗り越え,今こうして神戸に3000人もの方が集まってくれたことは本当にうれしいことだと実感しています。

4Gamer:
 本作はエージェントがゲームに愛着を持っており,ゲームを盛り上げる力が,ほかのタイトル以上に強い印象もあります。

ブライアン氏:
 はい,大きなチームに分かれて遊ぶゲームですので,同じチームに所属するエージェント同士が協力して楽しめるような仕組みを考えてきました。
 例えばエージェントが中立のポータルを確保するために,手持ちの「レゾネーター」というアイテムを8個配置する必要があるんですが,開発当初は高レベルのエージェントが最高の「レベル8」のレゾネーターを8個配置して,1人で最高レベルのポータルできてしまっていました。しかしその後のユーザーテストを経て,1人では最高レベルのポータルにすることはできなくなり,最大8人で協力しなければならないように設定しました。
 このように開発や運営の初期から,エージェント同士が協力したり,コミュニケーションを取ったりしてゲームを楽しむという内容になるよう常に意識しています。

4Gamer:
 エージェント同士のコミュニケーションが活発化すると,また新たな楽しみも生まれそうです。

ブライアン氏:
 実際,エージェントの皆さんがいろいろな楽しみ方を提案し,それを我々にも共有してくれています。例えば,各チームで三角形のコントロールフィールドを作るときに,その三角形を意図的につなげて「フィールドアート」という巨大な地上絵を描くことは,各陣営のエージェントの定番のプレイスタイルになりました。

「フィールドアート」の一例(The Dove of Peace /March 9, 2022/
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川島氏:
 イベントのときは日本全体を囲んでしまうような巨大なコントロールフィールドを作るなんてこともありますね。リンクを張るにはリンク先のポータルから手に入る「ポータルキー」が必要で,これを手に入れるには,自分が現地に行くか,現地に行った人からもらうしかないんです。
 キーはオンラインで渡すことはできず,直接会ってフィールドに置かれたものを取るしかないので,現地に住んでいたり旅行に行ったりする友達に頼んだり,中にはCAさんに頼んだりして手に入れるという方もいらっしゃいました。

ブライアン氏:
 日本からホノルルまでリンクを張って,大きなコントロールフィールドができていたのはビックリしましたね(笑)。そういう不思議なプレイスタイルが成立したのも,本作ならではの出来事でした。

川島氏:
 それともう一つ,Ingressのエージェントによって世界のあらゆるところにポータルが申請されて,Nianticのデータベースが確立されたことも非常に大きな出来事でした。街の中で人々が感動したり面白いと思ったりしたものを見つけて,それを申請することもエージェントの楽しみの一つでしたからね。その場所を訪れることで「こんなものがあったのか」と見聞を広められるのもいいところですね。

4Gamer:
 Ingressで申請されたポータルは,後のNianticさんのタイトルにも活用されていますよね。

川島氏:
 そうなんです。今はPokémon GOでも申請できるようになりましたが,とくに初期の頃から遊んでいたエージェントは,自身がこのゲームの礎を作ってきたんだという気持ちは強いと思います。Ingressのエージェントが抱くポータル一つひとつへの愛着みたいなものは,とても大きいものですね。


地方活性化のために,エージェントがイベントを開催

現地の自治体の多くが協力的な傾向に


4Gamer:
 Ingressのイベントは,Nianticさんが主催するだけでなく,エージェント自らが開催できる仕組みもあるそうですね。

川島氏:
 エージェントが自分達の住んでいるところのすばらしさをアピールするために,自治体と協力して開く「ミッションデイ」というイベントがあります。
 最近,Pokémon GOにも「ルート」という機能が実装されましたが,その元祖ともいえる内容です。具体的には,ポータルをつなぎ合わせてスタンプラリーのように進めることでメダルが手に入る「ミッション」という機能を使って,自治体と協力して魅力的なミッションを作って一緒にメダルを集めようというものです。
 ミッションをミッションデーにするためには,Nianticへの申請が必要で,それが承認されれば,公式のメダルが付与されるようになります。エージェントによる手作りのイベントですが,そこに数千人が集まったりすることもあります。

4Gamer:
 そのような仕組みがある中で,日本人のエージェント特有の傾向などはありますか?

ブライアン氏:
 弊社のサンフランシスコ本社の近くで開かれたイベントの勝敗が決定したときに,ヨーロッパから来たエージェントが自分の陣営が勝ったことで,相手陣営に「お前達は負けたんだ」と言い放つ出来事があったんです。自分達が勝ったというよりは,相手が負けたことがうれしいという雰囲気だったんですね。
 ところが日本のエージェントにはそういう雰囲気がなく,どちらかというと互いを尊重して讃えつつ,自分達がどんな行動で勝ったのか,あるいは負けたのかを分析する傾向があるようです。暖かくもすごく冷静にゲームを楽しんでいるコミュニティという印象がありますね。

川島氏:
 日本のコミュニティの独自の傾向ですと,「RedFaction(レッドファクション)」があります。これはエンライテンドとレジスタンスでどちらがたくさん献血をしたか競争するというエージェントの皆さんが企画したイベントで,後に日本赤十字社と正式にパートナーシップを結んで,現在も続けられています。
 このようにゲームを活用して,楽しく遊びながら世界に貢献できるような取り組みにアクティブなのも,日本のエージェントの特徴という印象があります。我々もできる限りそれを支えたいと思っていて,ゲームの中に正式にメダルを用意して実績になるような仕組みを検討中です。

4Gamer:
 仮想現実ゲームならではのカルチャーですね。

川島氏:
 興味深いのは,Ingressってスマホの画面の中で完結するものではなく,ゲームを通した現実世界との関わりの中で,自分の人生も変わっていくことがある点です。いろんな地域や国へと出かけて見聞が広がったり,ゲームを通じて出会った人同士が結婚したりと,遊ぶことで自分も変わるし,世界の見え方も変わる。さらにRedFactionのようにゲームを遊ぶことで救われる人がいるという事実は,私達にも想定外のことでした。
 ゲームを通した自分のアクションによって,世界が少しずつ変わっていく感覚はすごく独特なものだと思います。

4Gamer:
 確かに独特なものがありますね。
 ところで,今回のイベントを神戸で開催したのには,何か理由があるのでしょうか。

川島氏:
 神戸は美しく歴史がある街で,そこにあるポータルもとても魅力的なのでIngressのイベントの舞台として理想的でした。関西でやるのであれば「いつか神戸で」と候補に挙がりながらもなかなか実現しなかった経緯があるので,今回こうして開催できたのは本当にうれしいことですね。

ブライアン氏:
 前回は長野県の上田市で開催したんですが,イベント会場の選定については,皆さんにいろんな場所を知っていただきたいので,日本の中でいろいろな場所を候補に挙げています。
 エージェントの皆さんからの推薦を参考にしたり,僕達自身が魅力を感じる地域を選んだりすることも多いです。また,災害からの復興を目指している地域を選定することもあります。例えば東北の石巻や仙台,沖縄の首里城などもそうでした。

4Gamer:
 イベントを開催する地域の自治体の皆さんは協力的なんでしょうか。

川島氏:
 そうですね。開催地域の自治体と協力関係のもとにイベントを開催することは多いです。台南で地震があったときに,現地のエージェントから「来てほしい」という提案があってイベントを企画したのですが,そのときは台南の観光協会とも密接に連携し,それが後のPokémon GOでのイベント開催などにもつながりました。
  イベントに参加するために初めてパスポートを作って海外に行ったり,開催国に海外のプレイヤーが来てくれたので次は自分が海外に行って,互いに住んでいるところの魅力を知ったりと,本人が実際にその場所に訪れるというのは非常に大きな意味があります。弊社は常にそのきっかけを作りたいと考えていますし,この仕事に誇りを持っています。


既存エージェントのみならず

新規や復帰者にとっても遊びやすい環境を作り続ける


4Gamer:
 もし今からIngressを始めたいとか,長い間ブランクがあった人が復帰したいとなったときに,どう楽しむのがいいでしょうか。

ブライアン氏:
 11年という長い歴史の中で,国内外にしっかりとしたコミュニティができていますので,まずはそこに飛び込んでいただきたいですね。それが手っ取り早く楽しむ手段だと思います。

川島氏:
 いきなりコミュニケーションするのは難しいと思うかもしれませんが,ゲーム内チャットなどもありますので,助けを求めれば既存のエージェントが喜んで助けてくれると思います。また,現在ですと毎月第一土曜日に「First Saturday」という,本作を始めたばかりの人を支えるイベントなども開催しているので,活用していただきたいですね。
 ブライアンとも新しいエージェントが入ってきやすいような仕組みを常に模索し,改善することに力を入れています。サービス開始から11年を迎えますが,ここからさらに良くしてくつもりです。

4Gamer:
 やはり基本はコミュニケーションをしながら楽しむもの,という部分はこれからも変わらないということですね。

川島氏:
 はい。例えば台湾などは,若いエージェントや女性のエージェントが多いんですが,理由を調べてみると,お互いに教え合う文化があるお国柄が大きかったようです。新しいエージェントに対して既存のエージェントがいろいろと教えて,教えてもらった側も素直にそれを聞いて参考にする風土があったんです。それをきっかけにお互いのつながりができて,ゲームを長く続けることができる。これは弊社が目指すゲームの理想型で,サービスが長く続いている理由でもあります。
 その一方で,AIなどを活用することで,人とあまり話さなくてもゲームが進められるような仕組みも,これから導入していく構想もあります。全員が全員,人とつながることを得意としているわけではないですからね。

4Gamer:
 ゲームを始めるときに,エンライテンドとレジスタンスのどちらに所属するかという大きな選択肢がありますが,どのような基準で勢力を選べば良いのでしょうか。

ブライアン氏:
 勢力の選び方は二つあると私は考えています。一つは「Ingress Intel Map」という,現在の戦況や,ポータル,コントロールフィールドなどをリアルタイムで表示するワールドマップがありまして,そこでご自身が住んでいる地域を確認し,周囲の情勢などを参考に選ぶ手段です。
 もう一つは,ゲームを始めたときの段階で,すぐに所属勢力を決めないという選択です。レベル4になったときにあらためて勢力を選べるので,ある程度遊んでから決めてみるのもいいでしょう。

4Gamer:
 最後に,Nianticさんの仮想現実ゲームの始祖となるIngressがこれからどうなっていくのか,展望をお聞かせください。

ブライアン氏:
 Ingressというゲームが最も大事にしている「エージェントがポータルへ実際に赴く」ということ,そして「エージェント同士がコミュニケーションを楽しむ」ということは,これからも変わらないと思っています。ゲームを遊ぶために外へ出て,歩いて身体を動かし,そこで誰かと出会うという遊びは,常に我々が追求していくところでしょう。

川島氏:
 Ingressはビジュアルや既存のIPに頼らない,拡張現実ゲームの楽しさを切り開いたタイトルだと自負しています。自分の近くにあるポータルからXMというエネルギーが湧いていて,そこからリンクを張ってコントロールフィールドを作るという行動が,現実世界でも「本当にありそう」というリアリティを持って感じられる感覚は,ほかのゲームにはないですからね。
 スマートフォンが発達して,人々が高性能コンピュータを手軽に持ち歩けるようになり,GPSの発達で位置情報を正確に掴めるようになるなど,テクノロジーをうまく活用したのがIngressで,そこからさらなる未来へと技術が進歩していくときも,常にその最先端に居続けられるよう,ゲームをどう進化させていくか。弊社CEOのジョン・ハンケも交え,チーム内のテーマとしてこれからも議論していきます。
 Ingressが持つ魅力を常に皆さんのもとに届けられるよう,私達も発信していきますし,エージェントやメディアの皆さんにも,まだIngressを体験したことのない人にその魅力を伝えていただければうれしいです。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

当日の神戸三宮商店街とゲーム内の様子。リアルタイムでバトルが繰り広げられた
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