インタビュー
ジョン・ハンケ氏の考えるARの可能性とTVアニメ「イングレス」の展開について,キーパーソンに話を聞いた
TVアニメ「Ingress」はグローバルな作品に
―――まずは,アニメ化に至った経緯を教えてください。
Ingressは,YouTubeや各種SNSなど,さまざまなメディアを活用することで,現実世界とゲームの接点を作り,ゲームの外でも盛り上がるなアクションを取ってきました。そして,日本の誇る“アニメ”という,魔法のように世界を変えてくれる力を持ったメディアで何か新しいことができるんじゃないかと考えたのがきっかけです。
そして,TVアニメ「Ingress」のプロデューサーである石井さんとは,ジョン・ハンケと押井 守さんが対談したGoogle Mapの5周年記念イベントに,モデレーターとして参加していただいたことがきっかけで知り合いました。そのときからのご縁でいろいろな話をし,今回のアニメ化につながりました。
―――放送はどれくらいの期間を予定していますか?
石井朋彦氏(以下,石井氏):
まずは1クール(3か月)を予定しています。“まずは”ということで,映画化までいけたら嬉しいですね!(笑)
―――放送地域は決まっていますか?
石井氏:
10月に新設されるフジテレビの深夜アニメ枠「+Ultra」で放送予定ですが,こちらは全世界の人が見られるような形を考えているので,今後の正式発表をお待ちいただければと思います。
―――アニメ化の話はいつ頃の決まったのでしょうか?
石井氏:
いつだろう……。僕がサンフランシスコに行って,スタバで川島さんと話をしたぐらいなので,2年ぐらい前ですかね?
川島氏:
ちょうど2年ぐらい前ですね。Ingressのアニメ化を考えていたときに,ちょうど石井さんがアメリカにいらっしゃると聞いて,そこからトントン拍子に話が進んでいきました。
―――監督はどのように決まったのでしょうか?
アニメ化にあたって,川島さんと話していたいくつかのポイントとマッチしていたのが,櫻木優平監督だったんです。
一つ目のポイントは,単なるアニメじゃなくて,ゲームと現実をシンクロさせたものであること。まだ多くは明かせませんが,放送が始まるまでの間,そしてアニメ放送中にいろいろなことが起こる予定です。
そしてもうひとつは“イマのものを作る”ということです。時代にマッチしたものにするには,若い監督のほうがいいと思いますし,彼が得意とする世界観とIngressの相性が良かったことも後押しになりましたね。
今日ご覧いただいたアニメのキャラクターは,一見,作画っぽく見えるんですが,実は全部フル3DCGで作っているんですね。フル3DCGで描くことによって,今回のイベントのようにARを使ってアニメのキャラを現実世界にもってこられる,櫻木監督はそうした技術を持っているんです。
ここ最近は,岩井俊二監督の「花とアリス殺人事件」や,宮崎駿監督の「毛虫のボロ」など,無茶な仕事をお願いすることが多かったので,今回はタイトルを言った瞬間に「あ,想像よりずっと嬉しいです」と言われたのは印象的でしたね(笑)。
川島氏:
日本における2Dアニメの歴史を考えたとき,ジョンも含めて,手書きの味わいを感じられる2Dアニメのほうがいいんじゃないか,という話も出たのですが,櫻木監督の作品やサンプルを見せてもらったときにすごく心が動かされて,この方だったら任せても大丈夫だと思いました。
また,3DCGというテクノロジーを最大限に活用することで,今回の発表のような今までになかった“現実世界との接点”を作っていけると感じています。アニメ好きな須賀も納得してますし。
石井氏:
須賀さんはハードル高いんですよ……(笑)。
どうしても僕はオタク視点になってしまうので(笑)。面白いと思えるアニメにしたいという想いが強く,毎週金曜日に行われていたシナリオ会議にも参加させてもらい,いろいろと意見を出させていただきました。
この会議には,アメリカにいるNianticのクリエイターも参加しており,僕と川島でIngressの話を同時通訳していたんですが,これがとてつもなく大変で,端的に言えば地獄のような時間でした(笑)。その分,非常にいいものが仕上がったので,「苦労した甲斐があったな」と思えますね。
今回の作品は,普通のセルアニメでやることもできたと思うんですが,あえて3DCGで作り,Niantic,クラフターさん,フジテレビさんの組み合わせでしかできないような,新しいエンターテイメントを生み出せたことが嬉しいですね。個人的には,これからのアニメにも影響を与えられるような,そんな作品になってくれたら良いなと思います。
川島氏:
Nianticのシナリオスタッフは,ハリウッド映画に携わっている者もいるのですが,グローバルに通用するような作品にするという目標の中で,日本との考え方の違いからさまざまな意見をぶつけ合い,議論を交わしてきました。
ここでも,海外クリエイターの共同作品を制作したことのあるクラフターさんが活躍し,監督もそれに理解を示しつつ,かつさらにその上をいくような映像をどんどん作ってきてくれています。
―――最初にIngressのアニメ化が決まったとき,正直少し不安だったんですが,「ソウタイセカイ」を手がけた櫻木氏が監督であると聞いて安心しました。ソウタイセカイのテーマである“現実世界の裏に潜む見えざるもうひとつの世界”と,Ingressの世界観が似ていますし。ちなみに,ソウタイセカイでは激しいバトルシーンが話題になりましたが,TVアニメ「Ingress」では,どのようにしてエージェントが戦うのでしょうか?
もちろん,スマホをいじるだけではなく,Ingressのルールに乗っ取ったアクションがたくさんあり,ビジュアル的にも楽しめるよう,いろんなアイデアを盛り込んでいます。
―――Nianticのストーリーに対する要望って相当厳しいレベルだと思うのですが,どこに重点を置いたのでしょうか?
櫻木氏:
ジョンさんが描くゲームの世界観を大事にすることに重点を置いています。ただ,ゲームとアニメでは表現の仕方が異なるので,アニメで表現しやすく,Ingressのプレイヤーに受け入れてもらえる手法を積極的に取り入れています。
―――監督が悩ましいと感じた部分はありますか?
櫻木氏:
固有名詞などの言葉が多かったことですね。バックストーリーで描かれている歴史を掘り下げるだけでもすごく複雑で,アニメの中でそれを語るのは非常に難しい。ただ,アニメから入る人もいると思うので,しっかりとつじつまを合わせながらも,どこまで入り込みやすくするのか,というバランスの調整が一番大変ですね。
―――つまり,アニメはIngressを知らなくても楽しめると。
須賀氏:
そこはもっとも大事にしたポイントで,アニメを見た人がIngressを始めたくなるようなストーリーが描かれます。いろいろと衝突しながらも協議を続け,みんなが妥協せずにとてもうまいところに落ち着いたので,自信がありますね。
―――今回のアニメは,既存よりも新規向けということでしょうか?
川島氏:
両方とも大事です。Ingressの既存プレイヤーの期待を裏切らないよう,そしてモチベーションが上がるような作品にしたいですし,グローバル展開を見据えたフジテレビのアニメ枠という大きな力を使い,より多くの人にIngressのポテンシャルを知ってもらいたいと思っています。
そうした点は,クラフターさんがうまくバランスを保ちつつ,すごく良い形の物にしてくれています。映像のクオリティは映画といっても過言ではないですし,実際にフジテレビでたくさんアニメに携わった方も驚くくらいの仕上がりです。
アニメは,映像や音,シナリオなどが組み合わさった総合的な芸術作品だと思うので,Nianticとしてはジョンを含めてストーリー部分をサポートしていますし,とても良い形のコラボレーションになったと思います。
―――少し話が飛びますが,本日行われたステージイベントで,主人公の陣営を選ぶのにとても苦労したと石井さんからお話があった点について,もう少し詳しく聞かせてください。
須賀氏:
アニメの性質上,どうしても主人公が必要にはなりますが,Ingressでは世界中の人々が主人公であるため,世界中のエージェントが活躍していることをしっかり描いてほしいと,Niantic側からはリクエストしました。そして今回の作品は,それが見事にシナリオに組み込まれていると思います。
櫻木氏:
Ingressは,実際にプレイしているエージェント達の勝負の結果がストーリーに反映されるなど,かなり珍しいタイプのコンテンツなので,その特性は活かした形で面白くしたいと考えています。主人公の陣営については今後の発表に期待していてください。
―――アニメの制作にあたってロケハンも入念に行ったそうですね。
石井氏:
実は,須賀さんに連れられて,こっそり日比谷公園のシャードバトルに参加させてもらったんですよ。そこでのエージェントのみなさんの熱量を肌で感じ,我々が作るアニメの先にいるのはこういう方々なんだなと,あらためて気が引き締まりました。
川島氏:
あのときは,一部エージェントにも協力してもらってアニメのスタッフの方々とともに,巨大な三角形を作ることに挑戦し,ちゃんと成功しましたよね。こうしたイベントへの参加は,Ingressのエージェントの気持ちが分かってもらえるいい機会だったかと思います。
「ブロックリンクを消してください!」とか,消した瞬間に「今通してください!」みたいな感じでやっていて,できた瞬間に「わー!」と歓声があがったんですが,喜んだ瞬間にはもう切られてましたね(笑)。
石井氏:
イベントへの参加がきっかけで撮影監督が(最高レベルの)レベル16になっちゃいましたしね(笑)。
両陣営の戦いは,現実世界で起こっていることとほぼリンクしていて,Ingressがこの世界にあったらどんな風に世界へ影響を及ぼしているのか,という視点でシナリオを作っているので,ロケハンはとてもためになりましたね。きっと誰が見ても面白い作品になっていると思いますよ。
―――気の早い話ですが,今回のアニメは何を達成すると成功なのでしょうか?
石井氏:
今の日本のアニメは特定の方程式の中で楽しまれるのが主流だと思うんです。一方,世界に目を向けると,テーマやキャラクター,ストーリーが,圧倒的に重視されているんですよ。
今回,シナリオ,キャラクター,映像,すべてにこだわったのは,グローバルで戦える作品,世界中のだれが見ても面白い物を作るためです。そして,世界中の人が毎週毎週楽しみで仕方ない,アニメを見終わった後にスマホを片手に表に出たくなる,放送中なにか町がざわざわする,こうしたことが実現できれば成功といえるでしょうね。
櫻木氏:
日本のアニメは,まだまだ“深夜アニメ”,ひいては“サブカル”のイメージが強く,そこからなかなか抜け出せていないと感じているので,今回の作品で世界を相手に戦えるエンターテインメントとして,ひとつ上のフィールドにいきたいと思っています。
―――具体的には,どういったことを考えているのでしょうか?
櫻木氏:
演出に関しては,端的に言うと“ちゃんとする”ということですね。日本のアニメは“こうすればこう思うよね”という,独自文化に対する理解があるんですが,海外の人にはなかなか伝わらないんです。
例えば,コマを飛ばして突然バンっと何かが現れたとします。日本人が見たら“そういう物”として受け入れるのですが,海外の人からすると“コマが飛んだ”と感じるんですよ。こうしたところを抑えつつも,日本の文化の良いところを残して,うまいバランスを保てていると思います。
石井氏:
ストーリーに関しては,今この世界で起きていることを主軸に,主人公達が2018年の現実世界に生きていたらいったいどういうことを考えているのかなどをシミュレーションして,現実に起きていることへ当てはめながらストーリーを作っています。
須賀氏:
ちょっと話がそれてしまいますが,僕が試写を見て一番感動したのは,櫻木さんの描く世界がとても美しかったことです。我々としても,世界の美しさを伝えることで,出かける意欲につなげたいと思っているので,それがしっかりとアニメの中で描かれているのには感動しましたね。これはきっと,アニメを見る方も“普通じゃない”と感じるところだと思います。
川島氏:
ジョンも,湿度だったり空気感だったり,季節感がすごく伝わってくると言っていました。そうしたものを平面で届けるのは簡単なことじゃないと思いますし,クラフターさんの技術力の高さを感じましたね。
コントロールフィールドやエキゾチックマターなどの表現も,IngressやIngress Primeをリスペクトしたうえでダイナミックに描かれていますし,アニメで見たことが現実のスマホの中でも感じられる,ひいては実際に現実で起こっているような感覚を味わえる,そんな作品になるよう努力しています。
なお,TVアニメ「Ingress」の公式アカウントが開設されているのですが,こちらで主人公達が現実でどのような動きをしているのか,どんどん情報発信をしていきます。そのときすでに,ゲームとアニメ,そして現実とのリンクは始まっているのです。Niantic,フジテレビ,クラフターが仕掛ける大きなチャレンジにご期待ください。
スタッフ |
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原作:NIANTIC |
監督:櫻木優平 |
脚本:月島総記 / 月島トラ |
音楽:カワイヒデヒロ |
キャラクター原案:本田 雄 |
副監督:赤井俊文 |
CGディレクター:古川 厚 |
美術監督:加藤 浩(ととにゃん) / 坂上裕文 |
美術監督補佐:新井帆海 |
モデリングディレクター:宮岡将志 |
アニメーションディレクター:小林 丸 |
撮影監督:野村達哉 |
制作:CRAFTAR |
TVアニメ「イングレス」公式サイト
- 関連タイトル:
Ingress Prime
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(C)2012-2018 Niantic, Inc.
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