インタビュー
プロゲーマー1年目のリアル。国内屈指の「アビゲイル」使い,ストーム久保選手が語るプロにとって大切なもの
プロゲーマーの定義自体が明確になっていないが,そもそもプロゲーマーにはどうやってなるのか,そして,プロゲーマーとして活動を続けていくために,何が必要になるのか。
今回は,2018年初頭にプロとしての活動を開始したストーム久保選手に,シンガポールで10月13日と14日に開催されたSouth East Asia Major 2018の期間中に話を聞いてみた。果たしてプロ1年生の実態とは。
4Gamer:
よろしくお願いします。まずはストーム久保という名前の由来を教えてください。ほかのプロゲーマーとは雰囲気の違う名前で気になっているんですよ。
ストーム久保選手:
よろしくお願いします。プレイヤーネームは,本名の久保 嵐からきています。嵐を英語にしてひっくり返しました。あと,プロレスが好きなので,そのあたりも意識しています。
4Gamer:
なるほど。そういうことだったんですね。プレイヤーネームというよりは,リングネームと表現したくなるような,昭和のプロレスラー感のある名前だなと思っていました(笑)。
ストーム久保選手:
狙い通りですね。実は海外の人にも覚えやすいと言ってもらえて好評です。
4Gamer:
呼びやすいですしね。
個人的な意見ですが,プロゲーマーの名前に呼びやすさは重要だと思っています。昔はゲーマー同士のやりとりがテキストチャットをベースにしていることが多かったので,呼びやすさはそれほど意識されていなかったと思いますが,eスポーツが興行として行われるようになり,実況や応援などでも名前を呼ばれる機会が増えていますし。発音するのが難しい名前があったときは困ります(笑)。
ストーム久保選手:
僕のプレイヤーネームには久保という部分もあるので,街中で呼ばれても恥ずかしくないです(笑)。そういうところも含めて,この名前は気に入っています。
4Gamer:
では,久保 嵐さんがストーム久保になった経緯といいますか,プロゲーマーになったきっかけを教えてください。
ストーム久保選手:
プロになる前,ゲームセンターでアルバイトをしていた時期があって,それをやめて就職活動を数か月やっていたんですが,まったくうまくいかず……。何もする気がなくなって,3か月くらい引きこもっていました。
そんなタイミングで「ストリートファイターV」にアビゲイルという自分好みの新キャラが追加され,「人生を懸けてゲームに集中しよう」と思って活動を本格的に開始し,結果としてプロゲーマーになることができました。
4Gamer:
あんなごっついおっさんキャラが人生を変えるとは(笑)。
ストーム久保選手:
ええ,アビゲイルが追加されていなかったらどうなっていたことか。プロゲーマーとして活動できるようになり,そのことを家族にきちんと報告できたのが嬉しいです。
4Gamer:
家族に「オレ,プロゲーマーになるよ」と報告したときは何と言われました?
ストーム久保選手:
すごい顔をしていましたね(笑)。
プロになる前からストーム久保というプレイヤーネームで大会に参加していたんですが,そのことは家族に言っていませんでした。だから大会に参加するために2日間くらい出かけるときなどは,「友達のところへ行ってくる」なんて言ってごまかしていたんです。ですが,去年の頭くらいに,そういう活動をやっていることがバレました(笑)。
4Gamer:
まあ,同じ家で暮らしていれば気がつきますよね。
ストーム久保選手:
部屋に「ストーム久保」って書いてある盾とかがあって,それを見た家族がネットを検索していろいろと発見したようで。結果として,「そこまで本気なら,しっかりやってみなよ」と言ってもらえたので良かったです。
その後は親のスネをかじりながら大会に出て,AtlasBearというチームの設立メンバーに誘ってもらい,プロゲーマーになりました。
4Gamer:
格闘ゲームは個人競技になると思いますが,チームに所属するメリットはどんなところにあるのでしょう。
ストーム久保選手:
メリットをあえて聞かれると答えるのが難しいですね,なんでしょう(笑)。今のチームメンバーだと使用キャラクターも偏っていて,スパーリングにもあまり意味がないですし……。情報交換ができることや,チーム対抗戦に出られるということぐらいかもしれません。
4Gamer:
FPSやMOBAなどはチームの連携が重要ですが,個人競技だとそうなりますかね。ところで,大会に参加するときなど,チームは何をサポートしてくれるのでしょうか。
ストーム久保選手:
大会に参加するときの渡航費と宿泊費を出してもらっていて,滞在費も少しいただいています。ただ,給料は出ないので,アルバイトやゲーム関連の仕事をして生活費をまかなっています。
4Gamer:
海外の大会に参加しやすくなったことは大きいですね。
ストーム久保選手:
はい。日本人プレイヤーは海外大会に参加しないと目立てないので,そこは助かっています。
4Gamer:
それこそ,チームに所属する前はどうやって海外の大会に参加していたんですか。
ストーム久保選手:
自腹+クラウドファンディングで寄付を募って参加していました。その形で3回ほど海外大会に行ったんですが,そのときはなんとか目立ってどこかのスポンサーの目に留まらなければと必死でしたよ。
4Gamer:
結果が実ってAtlasBearの設立メンバーに選ばれたわけですね。
ストーム久保選手:
もう感謝しかありません。
4Gamer:
チームに所属する前と後で,気持ちの面で変化はありましたか。
ストーム久保選手:
チームオーナーの期待に応えなければという思いが強すぎたのか,最初の半年間は緊張でまともにプレイができなかったんです。それまでは勝てていた相手との対戦でも,何もできずに負けてしまうなんてことがザラでした。
4Gamer:
とにかく場数を踏んで慣れるしかないという感じですか。
ストーム久保選手:
慣れるというよりは,受け入れるという感覚のほうが近いかもしれません。”緊張しない”というのも無理なので,緊張した状態での自分に何ができるのかを把握して,勝負に挑むようにしています。
4Gamer:
まあ,本当に緊張しているときは,自分が緊張していることを客観視できないんですけどね。
ストーム久保選手:
確かに(笑)。自分が緊張していることが分かるぐらいには成長したのかもしれません。
4Gamer:
大会でギャラリーが多くて緊張につながるということはありますか。
ストーム久保選手:
ギャラリーは気にならないですね。それよりも大きい大会の配信台でプレイしているときは緊張します。多いと3台くらいのカメラがものすごく近くまで寄ってきますし。
4Gamer:
3台も来たら,さすがに意識してしまいますよね。
ストーム久保選手:
最初の頃は,文字通り手が震えてましたよ(笑)。
4Gamer:
それこそカメラが寄ってくるような状況だと,「魅せるプレイをしてやろう」といったことを考えてしまいそうです。
ストーム久保選手:
配信台うんぬんとは別に,難しいコンボを決めて勝ちたいっていうのはちょっとありますね。ただ,それで負けてしまっては元も子もないので,最近は控えるようにしています。
4Gamer:
プロとして難しい判断を求められますね。見ている側は,無責任に格好がいい勝ち方を求めがちではありますが。
ストーム久保選手:
魅せるプレイというわけではないですが,僕が使っているアビゲイルはその性質上,ハイリスクハイリターンな攻撃を仕掛けないといけない場面が多くなります。そういうときにリスクの少ない攻撃に切り替えてしまい,結果的に負けるということはけっこうあります。
4Gamer:
それはチームに所属して結果を求められるようになったことも影響していますか。
ストーム久保選手:
そうですね。プロになってからは,ここぞという場面で「負けるわけにはいかない」という思いが強く出るようになって,ローリスクローリターンな攻撃を仕掛けてしまうことが多くなっています。このままではよくないと思ってはいるのですが……。
4Gamer:
まさに今後の課題ですね。
ストーム久保選手:
だと思います。ゲームだけでなく,自信がなくなるときが結構多いんです。人としゃべっているときも,自分の意見を通したいと思っていても言い出せなかったり……。
4Gamer:
なるほど。今後プロとしてやっていくには,私生活でもガンガンと前に出る必要があると考えますか。
ストーム久保選手:
少なくともゲームの中ではもっと強気にならないといけないと思っているので,そのためにもゲーム外でもっと我を出そうと意識しています。ただ,プロゲーマーとして一番大事にすべきは礼儀だということもあり,その辺りをはき違えないように気をつけています。
高校生の頃は「ゲームが強い=偉い」という考え方をしていて,対戦相手に対する態度もひどかったのですが,先輩達に礼儀の大切さを教わりました。
4Gamer:
そんな過去が。今話している限りは「ザ・真面目」という印象で,礼儀がなっていなかったというのが想像できませんね。
ストーム久保選手:
自分で言うのもなんですが,ひどかったですよ(笑)。
敬語もまともに使えず,初対面の人に「相手をしてやるよ」みたいな態度をとってしまったりと。それこそ,そのままの態度だったらチームにも所属できず,プロにもなれていなかったと思うので,きちんと教えてくれた先輩達には本当に感謝しています。
4Gamer:
プロゲーマーというと,ゲームさえうまければあとはどうでもいいみたいなイメージを持つ人もいそうですが,そうではないと。
ストーム久保選手:
格闘ゲームって,強くなるために,強い人と対戦することが絶対に必要になります。けれど,態度が悪ければ対戦相手は減り,結果的に弱くなってしまうでしょうね。どんなに強くてもいろいろな人に嫌われてしまったら,プロとしての活動を維持するのは厳しいと思います。
4Gamer:
だとすると,プロゲーマーに憧れている人に伝えたいことは「礼儀を大切にしろ」ですかね。
ストーム久保選手:
ええ,そして学校にちゃんと行って勉強してもらいたいです。
4Gamer:
ものすごく優等生みたいな発言が(笑)。
ストーム久保選手:
プロゲーマーって,たぶんつぶしがきかない職業なので,しっかりと勉強してまったく別の仕事にも就けるくらいの心構えでいたほうがいいと思います。プロゲーマーになるかどうかは,学校を卒業してから考えればいいことですし。
4Gamer:
現役のプロゲーマーが話すと説得力がありますね。
ストーム久保選手:
僕は高校ではクラスの輪の中には入れませんでしたが,通っていたゲームセンターで知り合った仲間達に受け入れてもらえて,そこにしっかり怒ってくれる人もいたからこそ,今があると思っています。ぼくは学校の外でコミュニティに入れましたが,それは希なケースだと思うんです。コミュニティにしっかりと属するという意味でも,学校には行ってほしいですね。
4Gamer:
いろいろな事情で学校へ行けなくなってしまった人もいるとは思いますが,少なくともめちゃくちゃゲームがうまくてプロゲーマーになれるんじゃないかと思っていても,学校にはちゃんと行けと。
ストーム久保選手:
そうです。10代でもプロゲーマーになれるようになりましたが,そこは浮かれずに。
駆け出しのプロゲーマーの僕が言っても響かないかもしれませんが,プロゲーマーとしてしっかり活動する基盤を作るためにも,ちゃんと学校に行って勉強するのは大切ですよ。
4Gamer:
「学校へ行け,勉強しろ」というのは,ほとんどの大人が子供達に対して言うことだと思いますが,現役プロゲーマーの発言だと重みが違いますね。とはいえ,そこまで学校にこだわるのは意外でした。
ストーム久保選手:
自分が学校にちゃんと行けていなかったから,その後にどんな苦労をするのかは分かっています。学歴があるというだけで選択肢が増えますからね。
4Gamer:
これからプロゲーマーを目指す人達に,自分と同じ苦労はさせたくないと。
ストーム久保選手:
その通りです。
4Gamer:
では最後に,プロゲーマーとしての目標を教えてください。
ストーム久保選手:
今,僕が海外遠征できるのも,いろいろな人達にサポートしてもらっているからです。まだプロとして活動を開始したばかりですが,将来的には後輩達にもそういったチャンスを与えられるようになりたいと思います。自分にチャンスがあったからには,ほかの人にもチャンスはあるべきです。チャンスを作れるような存在を目指したいです!
4Gamer:
プロ1年目からまだ見ぬ後輩のことを考えるなんて,やっぱり真面目だ(笑)。ありがとうございました。
ストーム久保選手はプロゲーマーのチームに所属し,大会に参加しやすくなったとはいえ,生活の基盤はアルバイトだ。業務は大会のスケジュールにあわせてシフトを組めるなど,プロゲーマーとしての活動を支援してもらう形になっているが,プロゲーマーとして金銭面で支援を受けることになったことでプレッシャーを感じ,思うような結果を出せない時期があったという。
そんなストーム久保選手だが,結果だけを追い求めているというわけではない。もちろん勝ちにはこだわっているが,勝敗以上に「礼儀が大切」と語り,チーム,ファン,そして対戦相手を敬う気持ちが感じられた。そして,プロ1年目でありながら,後輩達を気づかっている。
筆者は今回のインタビューを実施するにあたり,ストーム久保選手と事前に何度か連絡を取ったが,そのときの応対が丁寧だったため,本人の「礼儀がなっていなかった」という発言には正直驚かされた。
「eスポーツ」や「プロゲーマー」といった言葉だけが独り歩きして,そこにさまざまな企業が関心を寄せ,群がっているだけ。まだ今はそれが「eスポーツ」の実状であり,なかには「eスポーツで稼ごう」と思っているだけの人たちもいる。マーケットを広げることはいいのだが,実直に礼儀正しく質問に答えるストーム久保選手を見ていて,企業も団体も関わる人々も,「eスポーツ」を語るならせめて,彼のような立場のプレイヤーたちには,ちゃんと礼儀で応えてほしいと思えた。
明るい未来とまではいかなかったのだが,きちんと前に進んでいるプロゲーマーの選手像が垣間見えた,その意味では少し安心できたインタビューだった。
「AtlasBear」公式サイト
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