レビュー
649ドルで登場した「一般ユーザー向けフラグシップ」は,GTX TITAN Xキラーか?
GeForce GTX 980 Ti
(GeForce GTX 980 Tiリファレンスカード)
GTX 980 Tiはその名のとおり,「GeForce GTX 980」(以下,GTX 980)の上に置かれるGPUで,一般ゲーマー向けとなるGeForce GTX 900シリーズのフラグシップにして,「GeForce GTX TITAN X」(以下,GTX TITAN X)の下位モデルとなる。
GTX 980で採用されるGPUコアが「GM204」のフルスペックであることからして,その上位モデルであるGTX 980 TiのGPUコアが「GM200」の一部削減版であることは容易に想像できるという読者も少なくないだろうが,では,その実力はどれほどか。入手したGTX 980 Tiリファレンスカードのテストを通して明らかにしてみたい。
GTX TITAN X比でSMMが2基少なく,メモリ容量が半減した「だけ」のGTX 980 Ti
ちなみに,GTX 980の2048基と比べた場合の規模感は約138%なので,GPUコアだけでなく,総CUDA Core数という点でも,GTX 980よりGTX TITAN Xに近いということになるだろう。
もう1つの違いはグラフィックスメモリ容量で,GTX 980 Tiでは,GTX TITAN Xの12GBから半減となる6GBに変更されているのがポイントだ。
一方,上のブロック図から想像できるとおり,ROP数が96基,メモリインタフェースが384bitというメモリ周りの仕様は,GTX TITAN Xと完全に同じ。念のため,CUDAの開発キットに付属する,CUDAデバイスの能力を調べるためのツール「DeviceQueryDrv.exe」を実行してみたが,L2キャッシュ容量にも違いはなかった。
NVIDIAコントロールパネルから「システム情報」を開いたところ |
Afterburnerから最大ブーストクロックを追った結果 |
ただし,MSI製のオーバークロックツール「Afterbuner」(Version 4.1.1)を用い,後述するテスト環境で確認したところ,GTX TITAN Xの最大ブーストクロックが1177MHzなのに対し,GTX 980 Tiでは1202MHzまで達することを確認できた。NVIDIAによると,GTX TITAN XとGTX 980 Tiでリファレンスクーラーの仕様は変わらないとのことなので,SMMが減った分だけTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の余裕が増し,それがクロックの向上につながったのではないかと考えられよう。
というわけで表1は,GTX 980 Tiの主なスペックを,今回はGTX TITAN XおよびGTX 980,デュアルGPUカード「GeForce GTX TITAN Z」(以下,GTX TITAN Z),GeForce GTX 700世代の一般ゲーマー向け最上位モデル「GeForce GTX 780 Ti」(以下,GTX 780 Ti)とともにまとめたものである。
ここまで紹介したとおり,GTX 980 TiのスペックはGTX TITAN Xと非常によく似ている。GTX 980 Tiは,GTX TITAN XからSMMを2基削減し,グラフィックスメモリ容量を半分にしただけのモデルとさえ言えるかもしれない。
GTX TITAN Xと同じ基板に,GTX 980のクーラーを搭載? カード背面の補強板は省略
カード長は実測で約268mm(※突起部除く)で,これは,GTX TITAN XやGTX 980リファレンスカードとほぼ同じ。GPUクーラーが2スロット占有タイプなのも変わらず,銀色をしたその外観は,GTX 980リファレンスカードと瓜二つだ。GPUクーラー上の「GTX 980 Ti」という刻印がなければ見間違うレベルである。
GPUクーラー自体は,色を除くとGTX TITAN Xに搭載されていたものから変わっていないとのことなので,GTX 980のそれとも大差はないはずだ。
先のGTX TITAN Xレビュー時に筆者の入手したカードだけが運悪く鳴く個体だったということなのだろう。
グラフィックスドライバは352.90を利用
EVOLVEとFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを実施
今回のテストにあたっては,表1でその名の挙がったGPUを用意した。GTX TITAN XおよびGTX 980だけでなく,前世代のフラグシップ製品とも比較し,GTX 980 Tiの立ち位置をより明確にしようというわけである。
用いたグラフィックスドライバは,NVIDIAから全世界のレビュワーに配布された「GeForce 352.90 Driver」。そのほか,テスト環境は表2のとおりとなる。
それもあって,3840×2160ドットがテスト解像度として用意されていない「BioShock Infinite」を省略。今回はその代わりに4対1の非対称対戦アクションである「EVOLVE」を追加した。EVOLVEでどのようにテストするかはGeForce GTX TITAN Xのレビュー記事を参照してほしいが,簡単にいうとチュートリアルを「GOLIATH」でプレイし,プレイ開始後1分間のフレームレートを「Fraps」(Version 3.5.99)で取得するというものだ。グラフィックス設定では,「標準設定」の代わりにプリセット「Middle」を,「高負荷設定」の代わりに同「Very High」を選択する。
また,レギュレーション16では「ファイナルファンタジーXIV」のテストとして,DirectX 9対応の「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」を指定してあるのだが,これも,4月27日に公開された「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)に変更した。
FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの利用にあたっては,グラフィックスAPIにDirectX 11を選択のうえ,「標準設定」の代わりに「標準品質(デスクトップPC)」(以下,標準品質)を,「高負荷設定」の代わりに「最高品質」をそれぞれ利用。テストは1回だけ実行し,そのとき得られたスコアをそのまま採用する。詳細は5月9日に掲載した検証記事を参照してほしい。
なお,テストにあたって,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。これは,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除するためだ。
スコアはGTX TITAN Xに肉迫する場面も
GTX 980比では約3割増しの性能か
テスト結果を見ていきたい。
グラフ1は,「3DMark」(Version 1.5.893)の総合スコアをまとめたものだ。GTX 980 Tiのスコアは,GTX TITAN Xの97%といったところ。対GTX 980で25〜28%程度高いスコアを示してGTX TITAN Zに並んでいる点や,GTX 780 Tiに対して「Fire Strike Ultra」で約59%高い数字を叩き出している点も見逃せない。
続いて「Battlefield 4」(以下,BF4)の結果がグラフ2,3だ。BF4では,「デュアルGPU構成ながら,メモリ周りに大きな足枷がかかっている」という特殊な仕様のGTX TITAN Zがスコアを大きく乱高下させているため,シングルGPU構成の安定感が相対的に印象深い。
GTX 980 Tiのスコアは,GTX TITAN Xにあと一歩というところ。GTX 980に対しては25〜32%程度,GTX 780 Tiに対しては43〜57%程度高いスコアを示している。
グラフ4,5は「Crysis」の結果となる。ここではデュアルGPUソリューションであるGTX TITAN Zがトップに立ったが,GTX 980 Tiは,GTX TITAN Xのすぐ後ろといったところで,かなりいい立ち位置にいる。対GTX 980でのスコアは126〜131%となっており,3DMark,そしてBF4の結果をほぼそのまま踏襲した。
ここまでのテスト結果とは若干異なる傾向が出たのがグラフ6,7のEVOLVEだ。EVOLVEでは,Mediumの解像度2560
これは端的に述べて異常というほかないが,理由はよく分からない。グラフィックスドライバがGM200-310コアに対して最適化されていないということかもしれない。
グラフ8,9は「Dragon Age: Inquisition」(以下, Inquisition)の結果だが,ここではGTX 980 Tiのスコアが再び安定し,対GTX TITAN Xで95〜98%のスコアを示している。GTX 980にはギャップを若干詰められているが,それでもスコア差は26〜28%程度だ。
FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチだと,標準品質の2560
グラフ12,13の「GRID Autosport」でも,標準設定の2560
消費電力もGTX TITAN Xとほぼ同程度
GTX 780 Tiよりは確実に低い
GTX 980 TiのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は250W。GTX TITAN Xとまったく同じで,GTX 980比では85Wも高いが,実際の消費電力はどの程度だろうか。ログの取得が可能な「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を測定,比較してみたい。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
結果はグラフ14のとおり。まず,アイドル時だが,これはデュアルGPUカードであるGTX TITAN Z以外横並びという理解でいいだろう。
一方のアプリケーション実行時だと,GTX 980 TiはGTX TITAN Xより2〜9W,GTX 780 Tiより10〜23W低く,GTX 980よりは65〜74W高い。「消費電力は,SMMの分だけわずかにGTX TITAN Xより低いもののほぼ同等,GTX 780 Tiよりは若干ながら確実に低いが,GTX 980の優秀性には歯が立たない」という理解が正解であるように思われる。
本稿の序盤でも述べたとおり,GTX 980 TiとGTX TITAN X,GTX 980の三者においてGPUクーラーはおそらく同じもので,GTX 980 TiとGTX TITAN Xでは温度センサーの位置も同じ可能性が高い。ただ,ファン回転数の制御方法は異なる可能性があるため,横並びの比較に,やはり意味はない。その点はくれぐれも注意してもらいたいが,グラフ15は,最近のGeForce上位モデルと同様に,高負荷時のGPU温度が80℃強になるよう制御されているとはいえるだろう。
なお,気になるGPUクーラーの動作音も,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,GTX TITAN XやGTX 980とあまり変わらないように思えた。ウルトラハイエンド向けとしてはかなり静かだ。
GTX TITAN Xより350ドル安い649ドルで登場
50ドル値下げされるGTX 980も要チェックか
NVIDIAの担当者は,GTX 980 Tiを説明する話のなかで,「GTX TITAN Xはスーパーカーで,一部の熱狂的なユーザー向けの製品」と述べていたが,たしかにGTX 980 Tiは,ほとんどのゲーマーにとって,GTX TITAN Xを選ぶ必要性を薄れさせる性能を持った“一般ユーザー向けのフラグシップ”といえそうだ。
また,GTX 980 Tiの発売に合わせて,NVIDIAがGTX 980の価格改定を行っており,リファレンスデザイン採用モデルの北米市場における税別想定売価レベルが従来の549ドルから499ドルに引き下げられた点も見逃せない。別記事でお伝えしているとおり,GTX 980 TiとGTX 980でサポートされるDirect3Dの機能レベルは同じなので,日本市場の店頭価格にもこの50ドルがきっちり反映されるなら,こちらも再度,要注目の存在になってきそうだ。
NVIDIAのGeForce製品情報ページ
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