インタビュー
「ペルソナ5」橋野 桂氏インタビュー。“心を盗む怪盗”をテーマにした本作と,20周年を迎える「ペルソナ」シリーズに込められた思いを聞いた
そして9月15日に発売を控えた,ナンバリングタイトルとしては8年振りとなるシリーズ最新作「ペルソナ5」(PS4 / PS3)は,これまでの学園ジュブナイルに,悪者を主人公とした物語の様式である「ピカレスクロマン」の魅力を加えた“ピカレスクジュブナイル”という,新たなペルソナの世界観を築く作品だという。
今回4Gamerは,ペルソナ5のクリエイティブプロデューサー/ディレクター橋野 桂氏に話を聞く機会を得た。「ペルソナ3」と「ペルソナ4」という2つのナンバリングタイトルのシナリオ原案とゲームデザインを手掛け,それぞれに新要素を追加した「ペルソナ3ポータブル」や「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」など,多くの派生作品を生み出した橋野氏に,最新作であるペルソナ5のコンセプトや魅力,そして20周年を迎えるペルソナシリーズに込められた思いを,とても優しく穏やかな語り口で語ってもらった。
「ペルソナ5」公式サイト
期待されているところが分かっているからこそ
こじんまりとした作品にはしたくない
4Gamer:
本日はお時間をいただきありがとうございます。実は橋野さんは,4Gamerのインタビューに登場していただくのが初めてなんですよ。
初めまして……なんですね。意外ですが,たしかにそうかもしれません。よろしくお願いします。
4Gamer:
こちらこそよろしくお願いします。それでは自己紹介とあわせて,あらためてこれまでのペルソナシリーズとの関わりと,ペルソナ5制作の経緯についてお話いただけますでしょうか。
橋野氏:
はい。まずペルソナシリーズというのは,アトラスの「女神転生」シリーズが持っているゲームの面白さやコアな部分の良さを,ライトなお客様向けに分かりやすく,誰もが触れられるようにしようというコンセプトで立ち上がった企画です。
そうして“メガテン”チームから分派したチームが「女神異聞録ペルソナ」を開発したのが始まりですね。
4Gamer:
橋野さんはいつから関わることになったんでしょうか。
橋野氏:
ペルソナ3からですね。アトラスに入って初めて制作に関わったタイトルが,奇しくもペルソナと同じ“学園モノ”である「真・女神転生if...」(SFC)だったんですが(笑),1作めからペルソナチームにいたわけじゃなく,僕自身は「デビルサマナー」シリーズのプランニングや,「真・女神転生III-NOCTURNE」(PS2)のディレクションなどを担当していました。
それらの制作が終わったころに「次は何をすればいいだろう」と考えていたときですが,ペルソナシリーズが「ペルソナ2 罰」が発売されてから,しばらく止まっているという状況だったんですね。
4Gamer:
そこからなぜペルソナシリーズを任されることになったんでしょう。
橋野氏:
真・女神転生IIIの制作チームで,いろいろ新しいことを試していたというのがあって任されたんだと思います。当時アトラスは,なかなかユーザー層を広げられずに苦戦していた時期だったので,先ほどお話したコンセプトについてあらためて考えながら,これまでの作品を意識的に解体して,ペルソナ3のシナリオづくりや,ゲームデザインを始めました。
……あれからもう10年以上経ちましたね。
4Gamer:
以降ペルソナチームの中心となって,ペルソナ4や数々の派生作品を制作し,アトラスを代表するシリーズの1つになるまで育て上げられたんですね。
8年振りのナンバリングタイトルとなるペルソナ5ですが,この企画はいつごろ立ち上がったんでしょうか?
橋野氏:
しっかり考えだしてから5年以上は経っているかなと思います。当時,ペルソナシリーズとしてはPlayStation 3で発売する初めての作品になるということで,「いきなりやると大変な目に遭いそうだぞ」と,試行錯誤をしましたね。
4Gamer:
どのあたりで苦労されたんですか?
橋野氏:
副島(※)のキャラクターをリアルの頭身でどう動かすかだったり,どのようにイベントシーンを作っていくのかなど,いろいろ試しました。
※副島成記氏:アトラス所属のキャラクターデザイナー。「ペルソナ3」や「ペルソナ4」のキャラクターデザイン / アートディレクションなどを担当
4Gamer:
なるほど。キャサリンの制作意図には,そういった面もあったんですね。
橋野氏:
それで実際にPS3向けのタイトルを作ってみたんですが,予想どおり大変で,チームを半分に分けて,片方は常にリリースしなければならない作品を制作しながら,片方のメンバーで悩みながらペルソナ5の制作をコツコツと進めていったんです。
……会社の事情もあって,開発状況も不安定というか,思うように見通しが立たないような時期が重なったりもありましたね。
4Gamer:
ああ……。
橋野氏:
もう20年ぐらいゲーム制作に携わっていますが,自分達が作った作品が世に出せないかもしれないという状況を初めて迎えたんです。もちろん不安もあったんですが,ファンの皆さんが大きな期待の声を上げ続けてくださったこともあり,辛かった時期もなんとか集中を続けることが出来ました。
4Gamer:
応援してくれる人達の声が支えになったと。
橋野氏:
はい。それで制作を継続できるとなったときは,「自分達はお客様の期待に支えられているんだ」ということをあらためて感じましたし,だからこそ,なんとしてもその期待に応えなければいけないと思いました。
4Gamer:
では,今年の5月5日に放映されたニコ生で,発売日を発表できたこと(関連記事)については,かなり感慨深かったんではないでしょうか。どのような心境でしたか?
橋野氏:
ようやくお届けできる日が伝えられてホッとしたという気持ちはありましたが,そもそも「夏発売」と言っていたのに……ということで,申しわけないという気持ちの方が強かったですね。
4Gamer:
時間が掛かってしまったことは,PlayStation 4版の開発もあったわけですし,仕方なかったですよね。7月20日には完成披露プレミア(関連記事)もありましたが,こちらの発表に対する反響や,作品を作り終えた手ごたえなどはいかがでしたか?
橋野氏:
Twitterの反応やニコ生の視聴者数といった話は広報から聞いていますが,それよりも「どれぐらいの方が実際に手に取ってくださるだろうか。ゲームプレイを楽しんでいただけるだろうか」という,発売されてからの不安の方が大きいですね。
4Gamer:
実際にプレイした人達の声が届かないかぎりは……ということでしょうか。
橋野氏:
これはペルソナ3やペルソナ4のときもそうだったんですが,作り終わったときの手応えというのも,「なんとか想定したゲームプレイに収まったかな」という感覚しかないんです。僕らがどう思うかよりも先に,プレイヤーの皆さんがどう思ってくれるかなので。
とくにペルソナ5の場合は,大きな期待の声をいただけていたので「どうやったら期待されている範囲以上の意外性や,面白さを感じてもらえるだろう?」というところに集中し続けていましたね。
4Gamer:
期待されている面というのは,具体的にはどのようなところだと考えて制作されたんでしょうか。
橋野氏:
例えばゲームの中身の濃さ,仕掛けやボリュームといった部分では,小さくまとまったような,こじんまりとした作品には出来ないな……という思いがあります。
アトラス作品は,ゲーム自体のやり込み要素はもちろん,世界観やストーリー,キャラクター,そしてCG技術やグラフィックスといった意味だけではない“ビジュアル”といったところを,十二分なボリュームでお届けしてきたからこそ,満足いただいてきたと思うんですね。
4Gamer:
見ためはもちろん,ゲームデザインといったところも,ということですね。
橋野氏:
お客様が何を期待してくれている,信じてくれているというのは感じているので,そこは絶対に裏切れないと思っているんですね。まずは皆さんが期待しているだけの内容を用意したい。その土台があって,作り手ならではのお客様の予想を超えていくような仕掛けや楽しさを詰め込んでいくデザインを目指しました。
それでいて煩雑には決してならないように,ですね。その実現のため,本当に長い時間が掛かってしまったのですが……想定していた内容にはなったかな,という手応えはありますね。
4Gamer:
なるほど。その手応えがあったところが,果たして実際にプレイした人達がどう感じるのか,ということなんですね。
橋野氏:
はい。今は現段階での評判を気にするというよりも,「今回は受け入れてくれるだろうか?」ということを考えながら,発売日を待っているという状態ですね。
“腐ったオトナを改心させる”
心を盗む怪盗団が生まれた理由
4Gamer:
それではペルソナ5のコンセプトについてお聞きしたいと思います。学園ジュブナイルにピカレスクロマンの魅力を加えた“ピカレスクジュブナイル”を新機軸として打ち出したということですが,まず“心を盗む怪盗”というテーマはいつ生まれたんでしょうか。
橋野氏:
立ち上げ時点では怪盗という発想はまだなかったんです。これまでの作品が,学校とその周りという話だったので,バックパッカー的な,自分探しの旅みたいなものをテーマにいろんなところを飛び回る……みたいなものを考えていたんですね。
4Gamer:
バックパッカーですか? 怪盗モノというのも意表を突かれましたが,そちらも意外ですね。
橋野氏:
当時はペルソナ4 ザ・ゴールデンと並行しながら,さまざまなアイデアのテストをしていたんですが,いろいろと考えていたさなかに,東日本大震災が起きたんですね。あの震災がきっかけで,日本全体が外へ気持ちを向けるというより,個人個人が自分の足元を見つめなおすというムードに,一気に変わったように感じました。
4Gamer:
たしかに,自分探しの旅に出よう! というより,腰を据えて周りを見ようという空気になっていたと思います。
橋野氏:
はい。ペルソナは現代劇のジュブナイルですから,社会というか,人の気持ちの向きが変わったと感じたことで,企画への考え方も変えざるを得ませんでした。そこから実際に世界を飛び回るものではなく,人の心の中にある冒険心と,「今のままではいけない。違うことをしよう」といったような,内なる革命のようなものをつなげてテーマにしたらどうか,という新しい考えが浮かびあがったんですね。
4Gamer:
それがどのようにピカレスクロマン,怪盗モノへとつながっていくのでしょう?
橋野氏:
怪盗といえば,テレビアニメの「ルパン三世」などがとくに有名なので分かりやすいかなと思うんですが,彼らがお宝を求めて自由気ままに振る舞う姿って,眺めていてなんだか爽快ですよね? 自由な者への憧れ,みたいなところがあると思うんですが,ペルソナと融合させようとするなら,面白いジャンルだなという話が,スタッフとの会話で出てきたんです。
4Gamer:
怪盗モノで行こうというのは,どうして決断されたんですか?
橋野氏:
怪盗モノというのは,古典的でちょっとベタ,言葉は悪いですが古臭いイメージもあるんですが,現代でも廃れずに楽しまれているジャンルなんですね。でも,調べてみると,意外にも作品が多いというわけではないんですよね。
4Gamer:
小説や映画,漫画,アニメと,それぞれに有名な作品はありますが,たしかに言われてみると,広く認知されているジャンルの割には……という感じがします。
橋野氏:
あまり深くは知らないけど,なんとなく親しみがあるというか。そういったところでも,面白いジャンルだと思いましたね。そこで,他人前提である怪盗の物語が自分の物語になるように,学園モノと組み合わせた形で構築できたら,今までのゲームになかったような独特の世界観が生み出せるんじゃないかと。
4Gamer:
実際に動き出してみて,学園モノに怪盗の要素をはめ込んでいく作業というのはいかがでしたか?
橋野氏:
人の心を盗めるような能力を持った高校生がいたなら,彼はどんな仲間を集めて怪盗団を結成し,そしてどんな話をするんだろう? どんな奴をやっつけたくなるだろう? と考えながら結びつけていったんですが,序盤の展開自体は作りやすくはありました。
怪盗と言えばカーアクションなども想像出来ますが,「免許がまだ取れないから,自動車を運転させられない!」というのはありましたが(笑)。
4Gamer:
高校生ですからね(笑)。実際に自動車を運転して……というのとは違うのでしょうが,完成披露プレミアで“モルガナカー”という新要素の発表がありましたね。バスに変身するモルガナがちょっとシュールで可愛くて,こちらの詳細も気になるところです。
学園モノと怪盗という話に戻りますが,序盤の展開が作りやすかったということですが,「実際に作業してみたら,まさか学園モノと怪盗がこんなにもしっくりきてしまうとは」,という感じだったんでしょうか?
橋野氏:
シナリオ展開自体には,これという引っ掛かりはなく進みだしました。ただ,ペルソナという作品は,主人公にはほとんど台詞を喋らせず,感情移入を第一にプレイしてもらうという作りなので,能動的に世直しを始める高校生達を描く際の演出にはかなり気を遣いました。
4Gamer:
誰かの話を追うのではなく,プレイヤー自身が主人公になるわけですからね。小説や映画の怪盗モノとはまた違う見せ方になりますよね。
橋野氏:
怪盗が他人なのか自分なのかで,大きく話も変わるわけです。この苦労から生まれたさまざまなプロットや演出によって,表面上は分かりやすいベタなジャンルに見えて,内実は独特の世界観になっているという面白さが生まれたかと思います。
4Gamer:
学園モノと怪盗の結びつきに加えて,ペルソナシリーズのコンセプトにもある,分かりやすさとコアな部分とのバランスもうまくいっているということでしょうか。
橋野氏:
うまくいっているかは,出来上がりを手に取っていただいたお客様がどう感じるかなので,なんとも言えないんですけどね。でも,今の時代に怪盗ですよ? 言葉が悪いですが,割と恥ずかしいというか,照れくさいものがちょっとはあると思うんです。そのあたりを,B級映画のようなノリで面白がってもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
PVでも「クソみたいなオトナや社会ってヤツを改心させる」みたいなセリフがありましたよね? なかなか恥ずかしいセリフですが,あれは狙ってやっているんだろうなとは思いました。セリフを言っているのは高校生ですから,主人公と同じ世代の若いプレイヤーなら共感するところがあるだろうし,大人のプレイヤーなら,青臭いなあと思いながらも「でも,昔は自分もああだったなあ」みたいな思いが浮かぶのではないかなと。
橋野氏:
なんといっても,まだまだ未熟な高校生がかざす正義ですからね(笑)。ただ,大人の方の感覚や,今の社会への価値観なども含めて,身近で気になってしまうようなテーマを扱ったストーリーになっているので,主人公側の立場でノリノリで正義を実行して楽しめるところもあれば,敵側に共感するところもあるかもしれません。プレイする人によって,さまざまな感じ方が出来るような仕掛けを作っていますので,お楽しみに。
若き怪盗団が立ち向かう,大きな“心の事件”
4Gamer:
そんな主人公達は,社会の歪みから生まれるどのような“悪”と,戦うことになるんでしょう。今までに公開された情報やPVを見ると,“精神暴走”というキーワードが出てきていますが。
橋野氏:
まず“人の心”というものですが,周囲の影響でコロコロと変わっていったり,歪んでしまうという不安定なものですよね。常に安定している,確固たるものではないと思うんです。
もし人の心というものを,掌の上で転がすように変えることができたとしたら……これはストーリーにおける大事な部分なので,はっきりとお伝えできないところなんですが,ここのアイデアこそが,ペルソナ5の舞台設定のコアになっています。
4Gamer:
とても気になるところですが,これはゲームをプレイしてからのお楽しみということですね。そんな人の心に,主人公達は「イセカイナビ」というツールを使って潜り込むんですよね? ゲームシステムの話にもなりますが,これもキーとなる要素のようですね。
橋野氏:
主人公達のスマホの中に,いつの間にか現れていたという謎のアプリですね。おっしゃるとおりペルソナ5という作品において重要なギアです。
4Gamer:
どのように彼らは,このアプリを使用するんでしょうか。
橋野氏:
そこでイセカイナビに,その城の場所をとインプットすると……。
4Gamer:
次の十字路を右に,みたいな感じで,その名のとおり目的地までナビしてくれるんですか?
橋野氏:
皆さんも初めての場所へ行くときは,スマホのナビを使いながら目的地に向かったりしますよね? 最初は,「重要なギアがスマホアプリというのは,平凡すぎるかなあ」とも思ったんですが,奇抜なギアを用意するよりも,スマホにナビされるという方が,プレイヤーの皆さんも受け入れやすいと思ったんですね。
4Gamer:
ふと思ったんですが,スマホって,現代人の心がグラグラしてしまうような現象を引き起こしているツールですよね。例えばネットで悪口を書かれているのを見つけたとか,SNSで既読スルーされたとか……人の心という話だと,かなり影響を与えているものだと思います。
橋野氏:
スマホをギアに選んだのは,まさにそういった意味が含まれているんです。人はスマホを使役しているのか,それとも使役されているのか,紙一重のところがあるなと思ったんですね。怪盗達がまとっている仮面も,“ペルソナ=仮面”の意味で使っていますし,今作ではそういう設定の単純化を狙ってもいます。
4Gamer:
5月5日に公開されたPV(ペルソナ5 PV#04)にあった「怪盗Ch」というものが気になりました。その名前からして匿名掲示板のようなものなのでしょうが,あれはペルソナ5の世界にどのような影響を与えるんでしょう。
橋野氏:
怪盗が何か事件を起こしたときに,世間がそれをどういう風に扱っているのか,主人公達をどういう風に盛り上げるのかという“世論”を表現したくて入れたシステムです。
4Gamer:
怪盗団に対するコメントや,何かのパーセンテージらしきものが表示されていましたね。
あれは支持率みたいなものですね。世間の評判って,昔だったら近所や職場,学校といったような,身の回りの人達の評判だったと思うんです。それが今は,ネットの声こそが世間の声,みたいに扱われることもありますよね。
4Gamer:
たしかに,そうなってきていますね。
橋野氏:
ですから,今のような時代なら,例えば何かの事件があって,主人公が助けた人に感謝されているシーンをゲーム内に入れるよりも,ネット上でその事件がどう扱われて,どんな評判になっているかを見せた方が,自然な表現になるのではないかなと思ったんです。
4Gamer:
自分の評判を気にしながら掲示板をチェックするって,妙にリアルなものを感じますね……。
橋野氏:
現実にこういう掲示板があったら,どのような反応があったら自然かなという,リアリティや臨場感を出すために取り入れました。もちろん怪盗chだけではなく,町の人と交流することでも,自分達の評判を確認できたりもするんですけどね。
4Gamer:
町の人達との交流というと,ペルソナ3やペルソナ4の“コミュ”のペルソナ5版のようなシステム「コープ」の情報が公開されていますよね。コミュと言えばシリーズの中でも人気のシステムなので,気になっている人も多いと思います。
橋野氏:
4Gamer:
いいですね,打算的に人に近づくというのは。怪盗団らしいというか。
橋野氏:
彼らが近づく対象として,今回は“大人”がたくさん出てきます。主人公達は皆それぞれの理由で居場所のなさを感じているんですが,そんな“はみ出し者”の高校生達が,自分達の居場所を作る意味もあって怪盗団を結成し,真剣に悪に立ち向かうんです。
大人のはみ出し者……世の中で萎縮しちゃって諦めていたような大人達が,そんな彼らを見て心に火がついちゃうという。
4Gamer:
大人達が昔の自分であったり,こうありたかった自分を主人公達に投影して……みたいなところでしょうか。いいですね,熱いです。
とあるきっかけで知り合った人と交流することで,人間として成長するところを描いた,これまでのコミュのシステムとは変わってますね。
橋野氏:
もちろん人として成長することで心の力が強くなり,さらに強いペルソナが生み出せるようになるという,システムの根本は変わりません。それに加えて今回は,例えば武器商人と仲良くなれば,武器をより強いものに改造してくれる。新聞記者とつながれば,いろんな情報を流して世論を動かしてくれる……という具合に,怪盗活動の協力者を広げていくという面があるのが特徴ですね。
4Gamer:
学校では普通の学生として暮らし,放課後は怪盗として自分の組織のために活動する……みたいな感じでワクワクしますね。
橋野氏:
プレイヤーの皆さんにもそう思ってもらえるといいですね。ゲーム進行は「日常パート」と「ダンジョンパート」の2つという,前作からのシステムを踏襲していますが,高校生活と怪盗活動という“二重生活”を体験できるという部分は意識して作りました。
前日の夜に取った行動がどんな評判となって広がっているのかを,翌日の日中に確認できたり,放課後に普通に遊んでいるように見せながら,怪盗活動のためのトレーニングをしたりという風に,これまでの作品よりも,2つのパートが密接にリンクした作りになっているかなと思います。
怪盗団が旅をするように挑むのは,
人の心が作り上げる異世界「パレス」
4Gamer:
次に彼らの怪盗活動の舞台となる,ダンジョンについてお聞きしたいと思います。これまで城や,ピラミッドといったさまざまなダンジョンが公開されていまが,どのようにこれらのダンジョンを作り上げていったのでしょうか?
橋野氏:
人というのは,同じ場所でもそこを牢獄と感じたりとか,そこが楽園だと感じたりとか,物質的には同じはずなのに,人それぞれで見方が変わりますよね?
4Gamer:
学校や職場なんかがいい例ですね。
橋野氏:
先ほどの「学校が城に見える」というのも一例ですが,そういった,現代の東京に生きる人間が歪んで見ている風景が,ペルソナ流の異世界の描き方とリンクさせることができたら,一風変わった面白いものになるんじゃないかと思ったんです。
4Gamer:
心象風景のようなものが,異世界として実在しているというイメージですか?
橋野氏:
そうですね。そこで怪盗モノといえばどんな舞台が想像できるだろうかと,チーム内で書き出してもらったんです。王道なところだと長距離列車や豪華客船,古代遺跡なんかが出てきたんですが,そのなかから人の歪んだ心が見せる場所としてふさわしいと感じたものをダンジョンとして登場させました。
4Gamer:
人の心が思い浮かべた風景と,怪盗モノに出てくるような場所をつなげたんですね。
橋野氏:
はい。そのあたりはうまくリンクさせることができました。ルパン一味がお宝探しの冒険をしていたような,自分ではただ眺めているだけで無関係と思っていた場所を,凄く身近でヒリヒリするところとして作ることができたかなと思います。
こういう解釈はアトラスらしい個性になると思いますし,これまでのゲームにないかなと思ったんです。今作の魅力の一つになっていると思います。
4Gamer:
ダンジョンは,映画「インディ・ジョーンズ」の1シーンのような,大岩に追いかけられるシーンや,敵に見つからないよう物陰に隠れながら移動するシーンなど,これまでの作品にないようなアクション要素がPVで紹介されていますね。
橋野氏:
たしかにPVだといろいろ動き回っているように見えますが,ワンボタンで操作できる程度で,反射神経を求められるものではないので,アクションが苦手という人も問題なく楽しめるような作りになっています。
4Gamer:
完成披露プレミアのときに試遊版をプレイしましたが,○ボタン1つでテンポよくアクションが行えるので爽快でした。あと,看板に飛び移ったり物陰に隠れたりする仕草も,斜に構えているというか,クールで怪盗らしい印象でしたよ。
橋野氏:
4Gamer:
ペルソナをゲットする方法が交渉システムなのは驚きました。メガテンシリーズの悪魔会話や,初代ペルソナやペルソナ2 罪・罰の悪魔交渉など,昔からのアトラスゲームファンにはたまらない要素だと思うんですが,なぜ交渉システムを復活させたんでしょう。
橋野氏:
なぜ採用したかというと……悪党って映画とかだと銃を突き付けて交渉しません? 金を出せ,服従しろ,みたいな(笑)。
4Gamer:
その例だと交渉というか,脅迫とも言えそうですが(笑)。こちらも試遊版でプレイしましたが,敵全員をダウンさせて“ホールドダウン状態”にすることで交渉に入れるんですよね。このあたりも悪漢ヒーローのイメージに合致したと。
橋野氏:
交渉システムの詳細はまだお伝えできませんが,パレスは個人の思いが表出した世界というだけではなく,根っこに“集合的無意識”というものがあるんですね。なので,多くの人達が心の中で見て見ぬふりをしている,自我の原型のようなものが,シャドウとしていろんな姿で現れるというイメージなんです。そのシャドウに「正体を見せろ」と銃を突きつけて交渉し,そして向き合うことができると,ペルソナが姿を現して力になってくれるという構図ですね。
4Gamer:
とても興味深いです。しかし,銃といい交渉システムといい,懐かしいものが復活していますよね。
橋野氏:
呪殺スキルの「エイハ」なんかも復活させたりしてるんです。20周年だしと(笑)。会話交渉のシステムもそうですが,今はペルソナというタイトルが完全に独立していますが,気持ちの根っこには,やはりメガテンがあるというか。
4Gamer:
なるほど。やはりペルソナシリーズのルーツでもあるわけですからね。
橋野氏:
自分で老舗と言ってしまうのはおかしいかもしれませんが,歴史があるのにそれを軽んじたり忘れたりしちゃうと,単なる新作ゲームになっちゃう気もするんですよね。
4Gamer:
はい。
橋野氏:
例えばバトルシステムは,これまで培ってきたノウハウがあるので,新しいことは取り入れながらも,大事なところは守りながら詰めていくという方が,プレイヤーの皆さんも喜んでもらえるのではないかと思っています。もちろん,ペルソナ5がアトラスのゲームの初プレイであったとしても,です。
自分の中の“何か”を変える力を与える作品に
ペルソナシリーズに込められた思い
4Gamer:
残念ながらそろそろお時間となってしまいましたので,20周年を迎えるペルソナシリーズへの思いというのをあらためて聞かせていただけますか。
橋野氏:
そうですね……ずいぶん長くやらせてもらってきた作品なんで,やはり特別な思いが沸いてきますね。
最初に関わったペルソナ3のことを思い出すと,同じ時期に世界樹の迷宮シリーズが生まれたこともあり,アトラスの作るゲームの面白さが一段と広い層に広がったという時期だったんですね。あのときに得た感覚やノウハウは,これからも大事にしていきたいなと思います。
4Gamer:
1作ごとではなく,何かシリーズ通して込めてきた思いのようなものはありますか?
橋野氏:
皆さんがなんとなく感じている不満だとかイライラだとかを消化して,明日への希望にしてもらう……とまで言ったら大げさかもしれませんが,ゲームをプレイしたあとに「ああ楽しかった,でもまたいつもと同じ現実が待っている」ではなく,「これからはこうして生きてみようかな」と,何か心に残るものがある,自分の中で何かを変えてみようと思ってもらえたり,勇気づけられたりするような作品を意識して作っています。
それがシリーズに共通して,変わらず込められている思いですね。
4Gamer:
では,最新作のペルソナ5には,どのような思いをこめているのでしょうか。
橋野氏:
今の時代は,「自分がうまくやれさえすれば,いまより明日をよくできる」と考えようとしても,そんな確信が持ちづらい,うまい形に進んでいかないんじゃないかという漠然とした不安を,すべての世代が関係なく抱えてしまっていると思うんです。
4Gamer:
先行き不透明感で,何か行動したいと思っても,なかなかその一歩を踏み出すのが難しく感じてしまいますね。
橋野氏:
そんな時代にしっかり合わせる形で,ジュブナイルという成長物語での“自立”というものを描かなければいけないと思ったんですね。
世界というものは簡単に歪んでしまうものだけど,だからこそ個々の心の中にある思い一つで世界が変えられるんだと。変に何かに流されたり,思想的なものを押しつけられたりしないで,自分が幸せになるために,どのように世界を見据えて,どのように向き合えばいいかを自分の頭で考える。そのきっかけになる作品になるといいですね。
4Gamer:
ペルソナはこれからも続いていくシリーズだと思うんですが,今後はどのように広げていきたいと考えていますか?
橋野氏:
まずはなにより,ペルソナ5を皆さんの手元に届けたいので,いま今後の展望をお話するのは難しいですが,どんなものを作るにしろ,皆さんの雑談や議論のネタとして盛り上がってもらえるような,個性的な作品を作っていきたいですね。
4Gamer:
それでは最後に読者に向けてメッセージをお願いします。まずはこれまでのシリーズ作品をプレイしてきたファンの皆さんにお願いします。
橋野氏:
長らくお待たせしてしまい,本当に申し訳なかったのですが,ようやく完成しました。過剰な期待は怖いので(笑),いつもどおりに楽しんでもらえればと思います。控えめに言っても,かなり遊んでもらえる内容に仕上がっていると思います。
あと,ストーリーはまったく新しいものですが,世界設定はこれまでの作品と地続きなので,思わず“ニヤリ”とするような要素をささやかながら用意しています。ぜひ,そちらも楽しみにしてください。
4Gamer:
続いて,まだペルソナシリーズに触れたことがないという人達に向けて,一言お願いします。
橋野氏:
この現代社会を生きる人ならどんな人にでも,心に残る要素があるようにと思って作り上げたゲームです。どこか相性が良いところがあれば気に入っていただける,新しいゲームとの“出会い”になると思いますので,アトラス作品だとか,ペルソナシリーズだとかはまったく関係なく,PVや写真を見て「なんかいいな」と思えるところが少しでもあったら,試しに手に取ってみてください。
4Gamer:
たくさん貴重なお話をいただきました。若き怪盗団達が活躍を始める9月15日を,楽しみに待ちたいと思います。本日はありがとうございました。
橋野氏:
ありがとうございました。
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