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NHK「ゲームゲノム」第7回「ライフ イズ ストレンジ」視聴レポート。選択の積み重ねで変化する物語を,ゲスト陣が人生観と共に語る
番組の進行は,前回よりMCに就任した三浦大知さんが担当。ゲストにタレントの最上もがさんと品川 祐さんの2人を迎え,開発陣は地元フランスからインタビュー映像で出演している。今回の話のカギとなるのは,この2作品のゲームシステムを象徴する“選択の重み”についてだ。ゲーム内の選択によって大きく変化していく両作の物語について,出演者達が自身の人生観と重ねたトークを繰り広げた。
なお本作はストーリーベースのアドベンチャーゲームであり,番組では物語の重要なシーンについても,いくつか紹介されている。本稿においても,同様にそうした要素には触れざるを得ないので,未プレイ,または現在プレイ中の人は,ある程度のネタバレ的要素が含まれるので注意してほしい。
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「ライフ イズ ストレンジ」
「ライフ イズ ストレンジ」は,フランスのデベロッパであるDon't Nodが開発を手がけ,2015年にスクウェア・エニックスから発売されたアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは,常にインスタントカメラを持ち歩くカルチャー好きの女の子・マックスとなり,故郷の町で久しぶりに再会した幼なじみのクロエと共に,失踪したクロエの親友・レイチェルを追って,事件の真相に迫っていくことになる。
その最大の特徴は,物語の要所で迫られる“選択”によって,物語が大きく変化することだ。番組ではマックス達が事件に関与していると思われる人物と対峙するシーンを例に,「(銃を)撃つ」「撃たない」の選択が,その後の展開に大きな変化をもたらすことが紹介された。選択は目の前の問題の解決のみならず,プレイヤーが予測できない先の未来にまで影響するのだ。
プレイヤーの選択が紡ぐ物語
番組では,本作の最初のキーワードとして,「プレイヤーの選択が紡ぐ物語」というテーマが提示された。選択肢は物語のいたるところに登場し,些細な選択であっても,後にそれが物語に大きな変化を及ぼしていくこともある。かつ本作には即ゲームオーバーになるような選択はないので,プレイヤーはその選択がどういう意味を持つのか分からぬまま,物語はそのまま進行していく。
「品川ヒロシ」名義で映画監督としても活動している品川さんは,映画は一つのオチに向かって伏線を張っていくものだが,本作はプレイヤーがどんな選択をしてもそれが伏線となり,かつその伏線がきっちり回収される点について,「映画だったらとんでもないお金がかかる(笑)」と本作ならではの展開を高く評価していた。
時間を巻き戻す力
「ライフ イズ ストレンジ」には,さらに選択の重みが増す仕掛けが施されている。それが序盤で起きる事件をきっかけにマックスが獲得する「時間を巻き戻す」能力だ。ゲーム中では,画面に渦巻きのマークが表示されたときにボタンを押すと,時間を巻き戻して直近の選択を選び直すことができるようになっている。
番組では,マックスの友人であるケイトが警備員に詰め寄られるシーンを例に,この紹介が行われた。ケイトが警備員と話しているシーンで「写真を撮る」選択をすると,事件を追うための証拠の一つを手に入れられるが,ケイトからは「なぜ助けてくれなかったのか」と責められてしまう。一方,「仲裁する」選択を行えば,証拠は手には入らないがケイトには感謝される。いずれにしても,時間を巻き戻すことでその時点でのプレイヤーにとって“より良い”と思える選択が行えるわけだ。
しかし巻き戻しの能力も万能ではない。番組ではここで,第2のキーワード「選び直した果てに待つもの」が提示された。同級生達から陰湿ないじめを受けていたケイトはその後,学校の屋上から飛び降りるという事件を起こしてしまう。マックスはケイトを止めるため説得を試みるのだが,プレイヤーはそこで初めて,これまでの選択がどういう重みを持っていたかを知ることになる。
先の警備員とのシーンのみならず,ケイトにまつわる選択はここまでの多くの場面に散りばめられており,それがマックスに対するケイトの信頼に通じる。それを怠っていたとすれば,今この局面で行う巻き戻しだけでは結果を変えることはできない。マックスの力は限定的なもので,過去のすべての選択を選び直すことは不可能なのだ。
「まさかそんなシーンになるとは思わずに選択をしていた」という品川さん。「私は(ケイトを)救いました」という最上さんに対し,悲しい声で「俺は救えなかったな……」と突っ伏してしまった。
白状するが,初回プレイ時は筆者も品川さんと同じくケイトを救うことはできなかった。どんな選択をすれば彼女を助けられたのかと後悔もした。それも自分の選択の結果であり,受け入れるのもまた意味のあることなのだと今は考えている。人生は一時の選択で決まるものでなく,小さな選択の連鎖によって紡がれると,本作は説いているのだから。
品川さんはその選択を自分の人生にも当てはめ,若いときにの自分に対し「もっと態度をよくしろよ」「仕事は選ぶなよ」と忠告できれば,品川庄司がメインMCのゴールデン番組を持てたかもしれないと話し,場を和ませていた。だが一方で,「もし巻き戻しで人生をやり直せていたら,こんなにゲームは遊んでいないし,ここにも座っていない気がする」とも。
そして最上さんは,「昨年までは(人生を)やり直したいと思ったことは何度もあった」が,昨年娘が生まれ一番大事な存在ができたことで,「巻き戻せなくていい」と思えるようになったそうだ。三浦さんは「だからこそこのゲームは凄い。(実際の人生では)できない体験ができ,それを話題にして話せる。気づきもある」と,本作のコンセプトに賞賛を送っていた。
クリエイターが語る“巻き戻し能力”の狙い
番組では,続いて本作の開発者であるクリエイティブ・ディレクターのミシェル・コッホ氏と,脚本家のジャン=リュック・カノ氏が登場し,本作における巻き戻し能力の意図を語った。
コッホ氏は子供の頃,遊んでいるゲームを頻繁にセーブし,選択に満足いかなかったときはロードして前の状態からやり直すという遊び方をしていたといい,これを仕組みとしてゲームに組み込めば面白いのではないか,と考えたそうだ。
さらにカノ氏は,本作は「少女が大人へと成長していく物語」であり,選択のたびに時間を巻き戻すのは,マックスがまだ子供だからと語る。ゲームを進めてエピソードが終わったとき,プレイヤーに「結果は受け入れるしかない」ことを感じてほしいとのことだった。
これを受けて最上さんは,辛いことがあると「(こんなこと)なければいいのに」と思うが,「辛いことを経験しないと今の強い自分はいない」と感じているという。過去に失敗はあれど,それを受け入れることで成長できたと,自身の体験を話していた。
ライフ イズ ストレンジ2
「ライフ イズ ストレンジ」から3年後の2018年に発売された「ライフ イズ ストレンジ2」では,“選択の重み”という前作から引き続いてのテーマはそのままに,前作とは異なるギミックによって,まったく新たな物語が展開される。
「ライフ イズ ストレンジ2」の物語の中心に据えられたのは,主人公である兄ショーンとその弟・ダニエルによる,「兄弟」という特別な関係だ。アメリカに住むメキシコ系移民の兄弟である二人は,とある事件から日常が一転し,警察から追われる存在となってしまう。父の故郷であるメキシコを目指した逃避行において,プレイヤーは兄であるショーンを操作しながら,弟と共に長い旅を体験することになる。
カギとなるのは,やはり弟であるダニエルの存在だ。ダニエルはプレイヤーが操作するショーンの行動を常に見ており,その選択によって性格やモラルを変えていく。これが番組における第3のキーワード「選択の影響は身近な存在に」である。
弟との接し方をさらに難しくしているのが,ダニエルが持つ能力の存在だ。物語冒頭の事件をきっかけに力に目覚めた彼は,念動力で巨大な倒木を動かしたり,襲ってきた暴漢をなぎ倒したりできてしまう。その力は身を守る武器にもなる一方で,人前でうかつに振るってしまうとトラブルを招くものでもある。
何が正解が分からない中で,プレイヤーは選択を通して力の使い方を彼に教えていかなければならない。そして,それはダニエルの成長に大きく影響を与え,物語の行く末すらも左右することになる。
「ダニエルがとにかくわがままで,彼に対するいらだちがストーリーを面白くしている」と語る品川さん。最上さんも「接し方一つで子供は変わる」と母としての言葉を述べながら,「どんな選択でどんな子になるのかが凄く気になるし,親(の役割を果たす兄)のプレッシャーが半端なさそう(笑)」と苦笑いしていた。
実際のところ,ダニエルはプレイヤーたるショーンにストレスを与える振る舞いや態度を取ることが少なくない。しかし親代わりとなるショーン自身もまた,ダニエルとさほど年齢が離れていない少年でしかないのだ。
脚本家のカノ氏によれば,「2」におけるこの関係は,開発中に氏自身が父親となり,娘が自分のすることを真似ることにアイデアを得たという。娘に「悪い言葉を言っちゃダメ」と教える一方で,自分は運転中に悪い言葉を使っていたりすることに気付き,その矛盾がショーンとダニエルの物語につながったのだそうだ。
それまでの選択によって迎える「2」のクライマックスでは,国境目前で警察に包囲された2人に,「自首する」か「(強引に)国境を越える」かの選択が迫られる。これまでショーンがダニエルにどう接してきたか。それによって結末はまったく異なるものとなるだろう。例え,どちらの選択肢を選んだとしても。
品川さんが迎えた結末では,その後が描かれるエンディングにおいて「ダニエルが金髪でタトゥーを入れた姿になっていた」とのこと。しかしそのシーンにセリフやナレーションは一切なく,前後にそれらしい映像や新聞記事が表示されるのみ。それらをどう解釈するかはプレイヤーに委ねられている。三浦さんは「考える余地があるのが深い」とコメントを付け加えていた。
開発陣としては同作の結末に「良い/悪い」の評価を設けておらず,ただ「どこか納得できるエンディング」にしたかったとのこと。自分の選択が招いた結果を,もしプレイヤーが「悪い」と感じる結末に至ったとしても,そこから先の人生にはまた別の可能性がある。人間としてどう生き,他者とどう接していくかは個々の判断に委ねられているのだ。
これを受けて最上さんは,「選択が正解か不正解かは,生きていかないと分からない。もし不正解を選んだとしても,後々それが正解となる場合もあって,それは自分次第だと思う」と語っていた。
一方,品川さんは「すごく安易だけど,やり直しが利かないよね」と笑いながら話し,続けてやり直しが利かないからこそ,その緊張感が人生を面白くしている。もし巻き戻しができたなら,きっと緊張感のない人生になるだろうと話していた。
最後に三浦さんは,「人生の選択が良かったか悪かったか分からない状況を,未来の自分で正解にしていく。そんなパワーをもらえる作品」と評し,番組を締めくくった。
今回の出演者や開発陣が語ってきたように,「ライフ イズ ストレンジ」は人生における選択の重み,その緊張感にフォーカスを置いたタイトルと言える。しかしそもそもで言うなら,選択肢によって物語が分岐していくタイプのアドベンチャーゲームは,すべてがそうであるはずだ。「かまいたちの夜」であれ「Detroit: Become Human」(PS4 / PC)であれ,“選択の重み”を軸にした物語であるのに変わりはない。むしろこのテーマは,このジャンルに込められた必然と言ってもいい。
本作にそうしたほかのタイトルと異なる点あるとすれば,そこに明確な“正解ルート”を置かず,かつ開発者の二人が言うように,ある程度“納得できる”ものに落とし込んだことにあるのではないか。アプローチ自体は決して珍しいものではないが,これをやりきったタイトルは意外に少ないように思う。筆者としては,今回の番組でそんなことを考えさせられた。
もちろん本作の魅力はそれだけでない。番組ではあまり触れられなかったが,超能力をギミックとしたパズル的な面白さや,海外での配信時にはドラマのように期間を分けてエピソードを配信した手法,海外作品ではやや珍しいジュブナイルな雰囲気も,国内外で多くのファンを獲得したポイントに違いない。番組の尺の都合もあり,そのあたりに触れられなかったのは残念だが,それは仕方のないことなのかもしれない。
今回の番組で本作の魅力に触れた人は,ぜひそうした点も含め,本作を手に取って体験してみて欲しい。番組のラストで選択肢を前に熟考していた出演者3人のように,きっと一筋縄ではいかない物語を体験できるだろう。
2022年10月5日 放送開始(全10回)
毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で同時配信・1週間見逃し配信あり
※ NHK オンデマンド配信あり
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- ライター:稲元徹也
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