連載
【Jerry Chu】スマホを使い始めたスネーク
Jerry Chu / 香港出身,現在は日本の大学院で勉強中
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
スマホを使い始めたスネーク
近年,急速に普及したスマートフォンは,音声通話やメッセージの送受信だけでなく,インターネットやSNS,ゲームといったさまざまな機能を備えている。そのせいか,我々は時間と注意力の大半をスマホに奪われがちだ。他人と顔を突き合わせて話す機会が減ったり,スマホを使いすぎて不調に陥ったりと,スマホ依存による問題がメディアで取り上げられることも多い。
KONAMIの「METAL GEAR」シリーズにおいて,単身で敵地に潜入する主人公のスネークが無線を使って仲間に救援を求めたり,アドバイスをもらったりする場面を覚えている人は多いだろう。本部にいる司令官も無線でスネークをコールして情報を伝える。その内容は任務や敵の詳細,武器の性能,地雷の避け方,サバイバル術,果ては国際情勢や政治,ポップカルチャー,中国の諺(ことわざ)に至るまで,実に多彩なトピックとなっていた。
METAL GEARシリーズの最新作「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」(PC / PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360 以下,MGSV:TPP)になると,スネークは無線の代わりに「iDROID」というデバイスを使い始めた。これは通信やマップ,スキャン,オーディオ再生など,現代のスマホにあるべき機能を備えている情報端末だ。
スマホの登場は,人々の連絡の取り方を大きく変えた。曰く,電話とは招かれざる客であり,電話をかける側は先方の都合を知る由もなく,かけられる側が着信音を煩わしく思うこともあるだろう。ゆえに,スマホが普及した現代では,電話よりもLINEやメール,Twitterを好んで使っている人が多い。メッセージならすぐに返事をしなくてもいいし,通話より気楽だ。
スマホの使用者が通話しなくなるように,MGSV:TPPのスネークは,よくiDROIDを使ってマップを見たり,カセットを聞いたりするが,以前のように仲間と通話することが少ない。補給や攻撃などの支援を求めても,返ってくる答えは一言だけ。
こうした変化は,プレイヤーにとって歓迎すべきものと言えよう。無線での会話が長すぎるのは,シリーズの難点として槍玉に挙がることも多かった。長いときだと5〜6分,その間,遺伝子だの核兵器だのネットワーク監視だのといった講釈を延々聞かされ,うんざりした経験があるのは筆者だけだろうか。
MGSV:TPPでは,ゲームをプレイしながらカセットを聞けるので,それまでの流れを中断されることも,延々と講釈を聞かされることもなく,従来よりもずっと気持ちよく遊べる。
とはいえ,無線での会話がなくなったことを口惜しいとも感じる。確かに冗長ではあったが,METAL GEARシリーズの「個性」だったからだ。
「METAL GEAR SOLID」では,ナオミが無線を通じて疲弊したスネークを励まし,コントローラの振動機能によりプレイヤーの腕をマッサージしてくれた。「METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY」の終盤,今まで無線で話してきた相手が人工知能だったと判明し,多くのプレイヤーが驚いた。「METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER」ではスネークが獲物を狩ると,その味を無線で聞く。
このような印象的なシーンは,「対話」でこそ生まれたものだ。MGSV:TPPのスネークは無口になり,面白い対話が生まれなくなってしまった。昔のスネークとはまるで別人のようだ。
iDROIDは着信でプレイヤーを邪魔しないが,代わりにプレイヤーに「仕事」をもたらした。MGSV:TPPにおいてプレイヤーは,iDROIDを使って基地を運営することになるが,そのシステムは「放置系シミュレーションゲーム」との共通点が多いと感じる。スネークがiDROIDを操作している様子は,まるでスマホに依存しているかのように見える。
METAL GEARシリーズに一貫しているテーマといえば,「反核・反戦」だ。それに加えて,「科学技術に対する懐疑と批判」もシリーズに通底するテーマだと感じる。
METAL GEAR SOLIDでは「遺伝子工学がいかに人間を束縛するか」を描き,その続編METAL GEAR SOLID 2は「情報社会の脆さ」を説いた。METAL GEAR SOLID 3は「国に翻弄された兵士の哀れな運命」を浮き彫りにし,「METAL GEAR SOLID 4」では「民間軍事会社による戦争経済」を扱っていた。
MGSV:TPPは,決して「スマホ批判」を主張したいわけではないだろうが,スマホがなかった日々が何だか懐かしくなる。
※「熱血時報 Passion Times」に寄稿された記事を原著者によって翻訳・加筆・修正したものです。
■■Jerry Chu■■ 香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。 |
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