レビュー
“龍”と“狂犬”の目覚め――すべての物語はここから始まった
龍が如く0 誓いの場所
そんな華やかなりし時代で,桐生一馬と真島吾朗が裏切りと陰謀に翻弄されながらも,己の信念を貫こうとする物語を描いた本作のレビューをお届けする。
なお,本稿で掲載している注意書きのないスクリーンショットはPS4版のものだ。
「龍が如く0 誓いの場所」公式サイト
時は1998年,バブル真っ盛りの歓楽街から始まった
冒頭に述べたとおり,「龍が如く0」は1988年の東京と大阪が舞台になっている。第1作「龍が如く」の舞台は2005年だったので,そこから17年前にさかのぼるというわけだ。
「バブル」と呼ばれた空前の好景気に沸き,日本中が最も輝いていた(浮かれていた?)時代を,本作では札ビラが飛び交う,やや誇張した演出で描いている。
主人公の桐生一馬と真島吾朗が活躍する二大歓楽街,東京・神室町と大阪・蒼天堀は,当時の資料をもとに世相やカルチャーが反映されており,その“箱庭”の中を存分に歩き回れるのがとても魅力的だ。
筆者のように当時を知っている世代のプレイヤーはもちろん,よく知らない世代であっても,リアルかつコミカルに作り込まれた街並みは新鮮に感じられることだろう。
バブル時代を思い出させてくれる神室町の街角。隅々まで観察したくなる街の作り込みはさすがだ |
真島編の舞台となる蒼天堀。華やかなネオンが輝く中心部から少し外れると,昭和の街並みが広がっている |
シリーズのファンにはすっかりおなじみとなった神室町の印象も,これまでとはずいぶん異なっている。
「マハラジャ」なる名前も懐かしいディスコや,「スペースハリアー」「アウトラン」といった大型筐体が導入されたゲーセンが建ち並び,行き来する人々の連絡手段はケータイではなくポケベルだ。男性は高級ブランドのスーツ,女性はボディコンルックに身を包み,路上ではあちこちから景気のいい話が聞こえてくる。
また,街中で拾えるコレクションアイテムはセクシー女優のテレホンカードというから,思わず懐かしさのあまり唸ってしまった。
ディスコやカラオケも,当時の雰囲気でミニゲームを楽しめる。「レーザーカラオケ」って知ってる? |
1988年はセガの大型筐体ゲームが出始めた時期でもある。ゲーセンにあるアーケードゲームは,「セガ3D復刻プロジェクト」を手がけるエムツーが移植を担当している |
歓楽街を魅惑的に見せる作り込みには,「龍が如く」シリーズを10年近く支えてきた開発陣のノウハウが凝縮されており,筆者はまるで観光客のように隅々まで眺めたいという衝動を抑えられなかった。その結果,さまざなサブストーリーに遭遇したのだが,おそらく開発陣の狙いどおりだったのだろう。
セクシー女優はテレホンカードだけでなく,個室ビデオ店にも登場。本人が演じるキャラクターと出会うと,ムフフなイメージビデオが視聴可能に |
アラフォー以上の世代には懐かしいかもしれない,いかがわしさしかない自動販売機。「ドリームマシン」では,ランダムで貴重なアイテムが購入できる |
神室町の「カラの一坪」を巡る抗争が幕を開ける
「龍が如く0」のストーリーは,バブル景気がもたらした地価の高騰や地上げがテーマになっている。金と権力を求めて暗躍する男達の思惑が生々しく描かれており,説得力は十分だ。
神室町の一角にある一坪の土地。通称「カラの一坪」と呼ばれるその場所で起きた殺人事件を発端に,若き日の桐生一馬は,極道や大手不動産会社がうごめく欲望の渦へと巻き込まれていく。
一方,蒼天堀では,過去の事件で組織の命令に逆らった真島吾朗が,凄まじい監禁生活の末にキャバレーの支配人として飼い殺しにされていた。
そんな2人の主人公が東京と大阪の歓楽街を舞台に,互いの目的を果たすために奮闘していくのだ。
神室町で借金を取り立てる桐生。これがのちに大事件へと発展することなど,まだ彼は知る由もない |
1988年という時代設定に合わせ,桐生一馬は20歳,真島吾朗は24歳となっている。
桐生はこの頃から,シリーズ作品で見せるような風格を漂わせているが,極道としてはまだ下っ端だ。のちに「嶋野の狂犬」と呼ばれるようになる真島のほうは,クレイジーな部分がなりを潜めているようで,キャバレー経営に辣腕をふるう元極道として描かれている。
両者ともにシリーズを通じてプレイしている人には,意外な描かれ方として受け止められるはずだ。
「夜の帝王」とあだ名され,キャバレー経営者として辣腕をふるう真島。だが,この商売に就いたのには理由があった |
主人公の2人を取り巻くキャラクターも魅力的で,そのなかでも堂島組若頭補佐の3人は強烈なインパクトを放っている。ドラマや映画で極道役を演じることも多い俳優の小沢仁志さん,竹内 力さん,中野英雄さんが演じる幹部達は,それぞれに個性的な“凄み”を漂わせているのだ。
堂島組若頭補佐三人衆(久瀬大作,阿波野大樹,渋澤啓司)。桐生と錦山の育ての親であり,現在は刑務所に収監されている風間新太郎のポストを虎視眈々と狙う |
また,シリーズのファンには,桐生の幼なじみであり,同じく極道の世界に足を踏み入れた錦山 彰の存在も気になるところ。第1作では桐生と壮絶な抗争をくり広げた彼も,「龍が如く0」では若干20歳である。彼もまた,桐生とともに「カラの一坪」の土地を巡る争いに巻き込まれていくのだが,これまでは知られていなかったエピソードの数々に目頭を熱くすることだろう。
物語の冒頭から登場する錦山。不器用で愛想のない桐生とは対照的に,器用さと柔軟さを持ち合わせた男だ |
桐生に接触を図る立華不動産社長の立華 鉄と,その幹部である尾田 純。バブル景気の恩恵を浴びて,暴力団に対抗できるほどの権力を握る |
近江連合直参佐川組組長の佐川 司。飄々とした風体に凶暴性を隠した男で,極道に戻りたいという真島にある条件を提示するが…… |
真島が整体院で出会う盲目の女性。物語の鍵を握る重要人物として,一般人でありながら極道の抗争に巻き込まれてしまう |
サブストーリーは街を歩いているときに発生する。硬派なメインストーリーとは一味違う,コミカルなものや人情味溢れるものが多い |
特定の場所に通い詰めることで,そこにいるキャラクターと交流するサブストーリーも |
3種類のバトルスタイルで荒々しく過激に戦える
「龍が如く0」のバトルは,主人公2人がそれぞれ3種類のバトルスタイルで戦えるようになっている。ゲーム開始時から身につけている「ベーススタイル」に加え,ストーリーを進めることで「スピードスタイル」と「パワースタイル」をマスターするという流れで,攻撃方法はもちろん,その構えも立ち回りもまったく異なるため,相手のタイプに応じてバトルスタイルを切り替えることが重要だ。
街を歩いているときに,いきなりバトルに突入することも。売られたケンカは買うしかない! |
新しいバトルスタイルは,突然の“ひらめき”によって習得できる |
とはいえ,もっぱら筆者は桐生,真島ともに,フットワークで敵を翻弄したり,ラッシュで畳みかけたりするスピードスタイルを軸にしている。バトルの難易度は選択可能なので,必ずしもバトルスタイルを切り替えなくても楽しめるのは嬉しいところだ。
ド派手なフィニッシュ技「ヒートアクション」も健在。相手をブチのめすと,経験値ではなく金が手に入る |
バトルスタイルは方向キーで瞬時に切り替え可能。桐生の「壊し屋(パワースタイル)」や,真島の「ダンサー(スピードスタイル」)は見た目も楽しいバトルスタイルだ |
手に入れた金を投資することで,バトルスタイルごとに強化を図れる。最終段階まで強化するためには,膨大な金が必要なので,効率的に稼ぐ方法を見つけたい |
街を徘徊している強敵「カツアゲ君」は,バトルに負けると有り金をすべて取られてしまう。勝てる自信がないうちは,逃げたほうが賢明だろう |
神室町を舞台にしたマネーゲーム
「神室町マネーアイランド」が楽しい!
「龍が如く0」では,バトルスタイルの強化をはじめとするあらゆる行動に金が欠かせない。
通常のアイテムを購入したり,街で遊んだりする程度であれば,金に困ることはあまりないものの,不動産や特別なアイテムを手に入れるには,数千万円あるいは億単位(!)の金が必要。そこで,一攫千金を狙えるミニゲームが用意されており,筆者が最も楽しかったのが「神室町マネーアイランド」である。
「神室町マネーアイランド」は中盤までストーリーを進めていくとプレイ可能に。まずは,手に入れた不動産に投資をして,店舗のランクを上げよう |
「神室町マネーアイランド」は,その名のとおり,神室町を舞台にした不動産経営シミュレーションで,5つのエリアに点在する物件を買収し,投資と人材配置を行うというもの。それぞれの物件の収益を上げつつ,獲得した資金でさらなる物件を買収するというサイクルで進行していく。
うまく軌道に乗れば定期収入が見込めるだけでなく,「神室町ファイブビリオネア」と呼ばれる5人の億万長者とのマネーバトルに挑むことも可能だ。
エリアごとに「マネージャー」と「ガードマン」を配置して運営を開始する |
一定の時間が経過すると利益を回収できる。ストーリーを進めつつ,その合間に楽しめるというわけだ |
もちろんミニゲームなので,ストーリーを進めながら,その合間に楽しめるのだが,ときおり発生するトラブルや億万長者との対決は,本編とは違った緊張感があり,良質なスパイスになっている。また,クリアしたサブストーリーのキャラクターを「神室町マネーアイランド」の人材としてスカウトできたりと,ゲームを遊び込むほどに楽しくなる要素もある。
クリアしたサブストーリーに登場したキャラクターを雇えることも。これは意外に嬉しいポイントでした |
ライバルとのマネーバトルが発生! 勝敗を左右するのはマネージャーの手腕だが,負けると物件を取られてしまう。プレイヤーが投資をして,巻き返しを狙おう |
そのほかにも,さまざまなミニゲームが用意されており,そのすべてを個別に紹介していくとキリがない。今回は割愛させていただくが,本当にミニゲームは多すぎるほどあるので,ぜひ自身でプレイして確かめてほしい。
真島編のミニゲーム「武具探索」。エージェントを派遣すれば,新しい武具やレシピ,財宝などが手に入る |
PlayStation Vitaの基本無料アプリで
いつでもどこでも「龍が如く0」をプレイ
2月26日に配信された「龍が如く0 基本無料アプリ for PlayStation Vita」にも触れておこう。
これは,「龍が如く0」とゲームデータを共有できるPlayStation Vita向けのコンパニオンアプリで,さまざまなミニゲームをプレイすれば,本編で使用可能な金やアイテムを獲得できるというものだ。
しかし,たとえ本編をプレイしていなかったとしても,無料で遊べるミニゲーム集としては十分すぎる内容になっている。さらに追加コンテンツ「龍が如く0 PlayStation Vita専用アプリ ゲームパック」(税別500円)には,本編では遊べない貴重なミニゲームが収録されているのだ。
とくに,このアプリのために作られたという「SF 特攻空母ベルーガ(16ビット版)」は,「龍が如く0」の舞台である1988年に発売されたメガドライブを意識した移植作である。もともとはPCゲームなので,初のコンシューマ機版であり,筆者のようなレトロゲーム好きにはたまらない。
また,アプリで稼いだ金を本編に持ち出せるだけでなく,逆に本編のゲームデータを読み込むことで,アプリ単体では習得できないバトルスタイルを「闘技場」で使えるようになるなど,いっそう楽しさが増す仕組みになっている。「龍が如く0」をプレイするなら,ぜひダウンロードすることをオススメしたい。
「龍が如く0 基本無料アプリ for PlayStation Vita」紹介ページ
やめどきが見つからない骨太なシナリオと
とことんまで楽しませる開発陣の心意気は相変わらず
シリーズ誕生から10年めにして,物語の舞台が第1作以前にさかのぼるという形になった最新作「龍が如く0」。なかなかやめどきが見つからない骨太なシナリオをはじめ,ミニゲームやサブストーリーにいたるまでとことんまで楽しませようとする開発陣の心意気は,第1作からまったく変わっていなかった。
語彙が乏しくて申しわけないが,とにかく楽しすぎて,筆者が締め切りを忘れて遊んでしまったのも,当然のことなのだ(反省しています)。
これまでに描かれていない登場人物のルーツを知ることで,さらにシリーズの魅力が増すのは間違いないだろう。もし本作で初めて「龍が如く」シリーズに触れる人は,ここからナンバリングの順にプレイしてみてはいかがだろうか。
「龍が如く0 誓いの場所」公式サイト
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