連載
【Jerry Chu】何のためにゲームを批評するのか
Jerry Chu / 香港出身,現在は日本の大学院で勉強中
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
何のためにゲームを批評するのか
今回,このコラム連載はお陰さまで10回目を迎える。未熟な筆者にお付き合いくださっている読者の皆さんには感謝の気持ちしかない。
筆者のコラムはいわゆる「ゲーム評論」に分類されるもので,日本のゲームメディアでは決して主流ではないと思う。ゲームを購入する際の判断材料となるレビューやプレイレポートではなく,ゲームの1点だけに注目して,あれこれ分析したり評論したりする。読者がゲームをより楽しめるようにストーリーを掘り下げたこともあれば,ゲームの欠点を指摘したこともある。
良いゲームを賞賛するのは無難だ。しかし,ゲームを批判するのは相当な心労がある。筆者自身,ゲームが好きなので,ゲームを叩くことはあまり気乗りがしないのだ。好きなゲームが批判されることで,嫌気が差す読者だっているだろう。この連載でもこれまでに「Assassin's Creed: Syndicate」のカメラワークを杜撰と指摘したり,「XCOM2」に「rewind」機能がないことに不満を漏らしたりした。
ゲームへの不満を記事に書くのは,「このゲームは駄作だ。プレイする価値がない」と主張したいからではなく,「良いゲームなのに玉に疵だ」と口惜しく感じるからである。「ココをもうちょっとだけ工夫すれば,もっと面白くなる」と,ゲーム開発者に向けて(非常におこがましいが)助言する行為に近いと思っている。
無論,ゲーム開発者が耳を傾けてくれる保証はなく,「文句を言うなら自分でゲームを作ってみたらどうだ」という反論もあるだろう。それはごもっともだが,記事を書くのは送り先が分からないまま手紙を出すようなもので,このコラムを誰が読んでくれるかは分からない。それでも,自分の声がゲーム開発者に届いてほしい。ゲーム評論者なら皆,密かにそう願っているのではないだろうか。
さて,ここからが本題だ。今回は「Uncharted 4: A Thief's End」(邦題 アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝)を取り上げてみたい。
Unchartedは,トレジャーハンターであるネイトが世界の秘境を探索していくアクションアドベンチャーゲームの大ヒットシリーズである。自分がアクション映画の主人公になったかのような感覚,ほどよいパズル要素が人気を博し,いまやPlayStationプラットフォームの看板シリーズとなっている。
最新作「Uncharted 4」では,秘宝を横取りせんとする傭兵部隊がネイトに襲いかかる。激しい銃撃戦を繰り広げ,死地をくぐり抜けるのも魅力の1つだ。RPGではないので敵を倒してもレベルアップはしないが,倒し方によっていろいろなトロフィーを獲得できる。
たとえば,20人の敵をヘッドショットで倒すと「Head of the Class!」,銃を構えることなく敵50人を倒すと「Run-and-Gunner」が得られる。そして,倒した敵の数が1000人に達すると「Ludonarrative Dissonance」という隠しトロフィーを獲得した。おやおや,これは面白い。
「Ludonarrative Dissonance」とは,「ゲームと物語の不調和」を意味している。ゲームデザイナーのClint Hocking氏が「BioShock」を批評する際に使った造語だ。
ご存じのとおり,「BioShock」は利己主義をテーマとしたFPSである。プレイヤーは「リトルシスター」と呼ばれる少女を捕まえるたびに,殺して多大な報酬を得るか,救済して少ない報酬を得るかという選択を迫られる。
だが,プレイヤーの目的はリトルシスターを「搾取」している圧制者を倒すことだ。つまり,ゲームプレイではプレイヤーに利己主義者を演じるか,利他主義者を演じるかを選ばせているのに,ストーリーは利他主義を押し付けている。
こうした不釣り合いを,Clint Hocking氏は「Ludonarrative Dissonance」と名付けて批判したのだ。
以降,「Ludonarrative Dissonance」という概念は,ゲーム評論者の間でたびたび議論されている。「BioShock」以外のゲームを批判する際に使われることもある。
このコラムの第1回でも触れているが,「Grand Theft Auto IV」の主人公は「平穏な生活を求めてアメリカに移住してきた」のに,プレイヤーが操作しているのは罪なき人を銃で撃ったり,車で轢いたりするような殺人鬼だ。ストーリーとゲームプレイの内容に乖離が目立つということで,「Grand Theft Auto IV」はしばしば「Ludonarrative Dissonance」と指摘される。
Unchartedシリーズも,「Ludonarrative Dissonance」の一例として挙げられることが多い。主人公のネイトは仲間思いで明るい楽天家というのがストーリー上の設定だが,いざゲームプレイになると数百人という敵を撃ち殺しても,眉一つ動かさないような冷酷な殺人者と化す。カットシーンのネイトと,ゲームプレイのネイトはまるで別人のようで,齟齬が生じている。
つまり,「Uncharted 4」に「Ludonarrative Dissonance」という隠しトロフィーがあるのは,開発者がシリーズに対する指摘を意識しているからと考えられるのだ。
「Uncharted 4: A Thief's End」以前のシリーズ作品は,戦闘とパズルの連続だったが,最新作では静的なシーンが印象的だ。
トレジャーハンターを引退したネイトが,サルベージ会社の社員として海底に潜る。ネイトと妻エレナが一緒にゲームをする。探検と戦闘が皆無で,のんびりとしたチャプターが登場するのだ。熱心なシリーズファンは戸惑ったかもしれないが,ゲームプレイを通じてネイトに人間味を持たせたいという狙いの現れではないだろうか。
戦闘シーンにも変化があった。敵に対して真正面から戦闘を挑むだけでなく,ステルスで切り抜けることが可能な場面が増えている。密かに潜入して敵を1人ずつノックアウトしてもいいし,敵を1人も倒すことなく逃げ切れるシーンもある。
かつての「敵に有無を言わせず,皆殺しにする」ネイトではない,「戦闘を厭わないが,できれば穏便に済ませたい」という人間味のあるネイトをゲームプレイでも表現したと言える。
ネイトの平穏な日常生活をプレイヤーに体験させる。ステルスという選択肢をプレイヤーに与える。そして,自嘲を込めた「Ludonarrative Dissonance」のトロフィー。これらはすべて,Unchartedシリーズへの批判に開発者が耳を傾けた証拠に違いない。
近年,ゲーム評論者の間で多く取り上げられるトピックに「フェミニズム」がある。フェミニズムとは,性差別に反対し,女性の権利を主張する思想である。
たとえば,フェミニストのAnita Sarkeesian氏は「Feminist Frequency」と題した映像シリーズをYouTubeにアップしている。彼女の主張は「『スーパーマリオプラザーズ』や『ゼルダの伝説』をはじめとする多くのゲームは,“とらわれた姫を男性の主人公が助ける”という構図に基づいている。これは,男尊女卑のステレオタイプを拡散させる要因である」というものだ。
フェミニズムは非常にデリケートな話題だ。ゲーム業界でも激しい議論がたびたび交わされているが,その影響は「Uncharted 4」にも及んでいる。
本作のディレクターであるNeil Druckmann氏は,Rolling Stoneのインタビューで「Feminist Frequency」の影響を受けたことを明かしている。そこで,女性キャラクターを増やすことに注力したというのだ。
ネイトは妻エレナに窮地を救われ,彼女と行動をともにする。黒人女性のナディーンは,格闘術に長けた傭兵隊長としてネイトに幾度も痛手を負わせる。「Uncharted 4」では男勝りな女性キャラクターが何人も活躍しており,フェミニストによる指摘への配慮がうかがえる。
Unchartedシリーズは,ゲーム評論者の指摘を真摯に受け止めてきた。ゲームそのものを作らなくとも,ゲーム評論者は変化をもたらすことができる。評論が創作の糧となり,より優れた作品を導けることを,「Uncharted 4」は証明している。ゲーマーでありコラムニストでもある筆者にとって,これほど嬉しいことはない。
■■Jerry Chu■■ 香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。 |
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アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝
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