インタビュー
「零 〜濡鴉ノ巫女〜」を生み出した任天堂&コーエーテクモゲームスに,Wii Uによって実現した斬新な恐怖体験について聞いた
Wii Uだけでしか味わえない「お茶の間ホラー」が実現
4Gamer:
プラットフォームがWiiからWii Uになったことで,開発の変化は何かありましたか?
Wii Uで作るうえで一番大きかったのは,やはりWii U GamePadの存在でしょうね。プレイヤーが射影機を手に持って探索していくという臨場感も大幅に向上しましたし,操作も直感的になりました。Wii U GamePadを構えた瞬間に幽霊が見えるという怖さも,やはりこのGamePadの方が驚きが大きいですね。
菊地氏:
逆に柴田が苦労していたのは,画面がHDになったことで“見えすぎてしまう”という部分でした。看取り映像を作るときも,綺麗すぎないようにわざとVHSビデオにダビングをして劣化させてアナログ感を出すとか,要所でいろいろと手間暇かけていましたからね。
柴田氏:
以前も,通常の画面でわざと画面を少しぼかすという手法をとっていたんですが,今回はあえてそのままにして,クリアな映像でプレイできるようにしています。その一方で,挿入されるムービーなどはアナログ感を出しているので,全体を見るとこれまでのシリーズとは違い,ゲームを通して一貫したテイストではなくなっています。
その分,いろんなシチュエーションを楽しんだりとか,キャラクターを鮮明に見たりとか,いろんなホラーのテイストが含まれていたりとか……内容が盛りだくさんな点を楽しんでもらえると嬉しいですね。もちろん,いろんな内容が詰まった上で,零っぽさは出ていると思います。
4Gamer:
ファンの方が安心できる零らしさもありながら,新たに零をプレイする人が入りやすい内容のようにも思えます。
大澤氏:
怖さのツボをたくさん用意したことで,幅広い方々に楽しんでもらえるのではないでしょうか。
大谷氏:
対象プレイヤーの幅を広げた分,怖さや遊びのバランス取りには苦労しました。
例えばホラーらしさを出すために画面を暗くするんですが,暗すぎると遊びにくくなるので,適度な明るさに調整する必要があります。また今回は屋外ということもあってキャラクターの移動速度をもっと上げたいけど,速すぎると怖さが薄れてしまいます。そういった部分をベストバランスまで持っていくためには,細かな調整を積み重ねるしかありません。
4Gamer:
それらが少しずれるだけで,ゲームとしての手触りが大きく変わってしまいますよね。
大谷氏:
ええ。それらの中でもとくに私達がこだわったのは,バトルにおける射影機の使い方なんです。これは零の新作を作るにおいての命題でもあったんですが。
これまではゲーム中の射影機の使い方が,どうしても近距離でのフェイタルフレーム狙い一辺倒になりがちだったので,それを一度崩せないかと考えたんです。皆さんがデジカメで写真を撮るときだって,近くを撮りたい人もいれば遠くを撮りたい人もいるわけじゃないですか。
4Gamer:
確かに。
大澤氏:
近距離で狙うフェイタルフレームに対して,中距離や遠距離で遊ばせるためにはどうしたからいいかという考えたのが,少し離れたところから霊を一定時間捉える「シャッターチャンス」なんです。
怖かったり,体力が少なかったりするときは,遠目でチクチク攻撃したいという人も必ずいるわけで,シャッターチャンスとフェイタルフレームの両方を用意したことで,遊び方の好みや状況に応じて幅のある駆け引きができるようになったことが,個人的には大きいかなと思っています。
4Gamer:
体感アクションというところだけでなく,戦い方のバリエーションができたのはいいですね。
大谷氏:
戦い方が増えたことで,敵の動きや攻撃方法もさらに変化をつけられましたしね。その分,作るのに時間がかかってしまいましたが……(笑)。
まあでも,遊んでいて気持ち良くないとゲームは続けてもらえませんからね。
4Gamer:
ニンテンドー3DSの「心霊カメラ 〜憑いてる手帳〜」(「零 〜紫の日記〜」を収録)でも,カメラとジャイロセンサーを使った遊びができましたが,あれともまた違って,メイン画面とWii U GamePadの画面に映っている情報量が違うことで新鮮な遊びになっているような気がします。
実際に肉眼で景色を見つつ,手元のデジカメの液晶ディスプレイを通しても見ているかのような,そんな気分になれますよね。
大澤氏:
先ほど柴田さんが実演しているのを見ていただいてお気付きかもしれませんが,プレイヤーが遊んでいる様子を,ギャラリーとして眺めている人も楽しめるようなところも,Wii Uならではです。
ホラーゲームで“楽しい”というのはミスマッチに聞こえるかもしれませんが,遊園地のお化け屋敷も怖がりながら楽しむところじゃないですか。怖かったりビックリしたことを共有する雰囲気をこのゲームでも作れればいいなと思ったんです。
Wii U GamePadの画面に集中しているプレイヤーの横で,ギャラリーは画面を見ながら「志村,うしろ〜!」みたいな感覚で(笑),リビングが一体となって楽しめるという。このような,Wii Uでしか体験できない新しいホラーゲームの楽しみ方は,柴田さんとともに目指してきたところです。
菊地氏:
言うならば「お茶の間ホラー」ですね。1人でも楽しいけど,みんなで遊んでも盛り上がれるというような。レーティングがDなので,17歳以上推奨ですけど。
4Gamer:
その呼び方はすごく分かりやすいですね。
そういう発想は,長く作り続けてきたからこそ出てきたものではないでしょうか。
そうかもしれませんね。ホラーゲームって昔からジャンル的にシリーズとして長く続かないんですよ。一時的に盛り上がることはありますけど。なので,コンスタントに出てるタイトルは本当に少ないんです。その中で零に関しては,ファンの方々にずっと支えられていますね。本作に関しては並行したメディアミックス展開なども含めて,さらにいろんな人に触ってもらえる機会があればいいなと思っています。
やっぱり“怖いもの見たさ”って,誰の中にもあると思うんです。大澤さんのお話に出た,「心霊スポットに行くほどではないけど,ちょっとだけドキドキしてみたい」という非日常を,このお茶の間ホラーで味わっていただきたいですね。
柴田氏:
射影機を構えるなりきり感もありますし,ストーリーも分かりやすく,イージーでプレイしていただいてもエンディングは同じという,初めて遊ぶ方へのハードルも低めに設定しているのでご安心ください。
大澤氏:
ミッション制の導入もそこなんですよね。これは我々から提案したことなんですが,ゲームに割く時間が限られている昨今のプレイヤーにとって,止めどきが分からないゲームはとてもハードルが高いんですよ。
ミッション制にしたことでゲームの止めどきが明快になりましたし,さらにゲームを再開するときもそれまでのあらすじを簡単に説明してくれるので,ゲーム展開を忘れることなく続けられるんです。いつ止めたらいいのかが気になってゲームに集中できないというのは,問題ですからね。
4Gamer:
心当たりが非常にたくさんあるだけに,その配慮は嬉しいですね(笑)。
柴田氏:
そういうプレイヤー目線に立った配慮というのは,任天堂さんと組んだことで気付かされたところでしたね。我々が普段見落としがちな部分に,任天堂さんが一歩踏み込んで“待った”をかけてくれますから,すごく助けていただいています。
菊地氏:
それでいて,零が追求する怖さに対してはみなさんブレーキを踏まないので,一部のプレイヤーさんが心配されているように,任天堂さんが関わったからといって,零シリーズの表現がマイルドになってしまうようなことはありませんでした。大澤さんも大谷さんも,ことホラー表現に関しては抑えるどころか,反対にアクセルを踏むことしか考えていないような方ですし(笑)。
大谷氏:
零の怖さはお客さんが魅力と感じるところですから,我々としてもそこで躊躇はしたくないですよね。
大澤氏:
ゲームの面白さの質は作り手同士の相乗効果によって上がっていくものですから,本編の演出からユーザーインタフェースにいたるまで,どこかが歯止めになっていてはダメなんです。逆に思い切り踏み込むことでより面白くなるならば,あえて止める必要もないですからね。
お互いに得意とするところがそれぞれありますから,我々も勉強させてもらいつつ,こちらからアドバイスできることはしっかり伝えて,いいものを作っていくことができました。
僕がコーエーテクモさんのこだわりで驚かされたのは,やっぱり“胸揺れ”ですね。風の噂では“胸揺れ担当”の方がいらっしゃるとも聞いたんですが……(笑)。
4Gamer:
零でもその恩恵はあるんですか?(笑)
菊地氏:
はい,揺れてますね(笑)。
大澤氏:
時々変なところで揺れていたりして,こちらから修正依頼を出したこともありました。結果的に,自然に揺れているものになったと思います(笑)。
4Gamer:
いやぁ,思わず胸をなで下ろしました。
ところで,両社の文化の違いなどから,衝突したりすることはなかったんですか?
菊地氏:
企画をある程度固めるまでは,ちょっとした意見の対立は日常茶飯事でしたね。大澤さんがミッション制にしたいと言ってきたときも,柴田は章をさらに分割することはしたくないとかたくなでしたし……。
大澤氏:
えっ,あれ揉めていたんですか!?
菊地氏:
チームをあげて大もめでした(笑)。でもそれってお互いがゲームを良くしようと思えばこその衝突ですから,意見が出ないよりはずっといいんです。
こういう衝突がないとエネルギーも生まれませんし,商品として磨かれていきませんからね。
4Gamer:
なるほど。そうしたお話を伺ってきて,これまで以上に期待が持てそうな予感がしてきました。
菊地氏:
期待していただいていいと思います。Wii U GamePadを使って遊ぶ最高のゲームである「Wii U GamePad Of The Year」を狙っていますから(笑)。
4Gamer:
えっ,そんな賞があるんですか?
菊地氏:
ありません(笑)。機会があったらぜひ4Gamerさんで開催してください。
4Gamer:
わ,分かりました。相談してみます(笑)。
本日はありがとうございました。
菊地氏の最後のコメントどおり,この零 〜濡鴉ノ巫女〜がこれまでのどのWii UタイトルよりもWii U GamePadにマッチしたゲーム性を備えていることが,実機によるデモプレイを見ていてよく分かった。
ホラーゲームというジャンルは,プレイする人を多少なりとも選ぶものではあるが,そこに抵抗のないWii Uユーザーはぜひ手に入れてプレイしてみてほしい。「Wii Uがこう使われると面白い」ということを実感できるはずだ。
また,コーエーテクモゲームスと任天堂のホラーのスペシャリスト達が最新技術で生み出した恐怖体験という付加価値も,ホラーゲーム好きには注目すべき要素となるはず。1人でじっくりプレイするのもいいが,ここは一つ,ホラー好きな仲間同士で集まって,開発陣が例える「志村,後ろ〜!」的な,恐怖を共有する体験をぜひ試してみてほしい。
「零 〜濡鴉ノ巫女〜」公式サイト
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零 〜濡鴉ノ巫女〜
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