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印刷2016/03/22 20:02

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[GDC 2016]カジュアルなモバイルゲームにおける効率的な物語の伝え方とは。「キャンディークラッシュ」のKingが語ったその秘訣

 モバイルゲームに限らず,カジュアルゲームにおける「ストーリー」は,プレイヤーに無視されがちだ。4Gamer読者の間でも,3マッチパズルゲームに付属しているストーリーを熱心に読むという人は少数派なのではないだろうか。
 であればこそ,こういったカジュアルゲームにおけるストーリー制作と演出の方法には,それ特有のノウハウが必要になってくる。言ってしまえば「スキップされて当たり前」ということを前提に物語を構築しなくてはならないわけで,そのためにはどんな点に注意を払うべきなのかというレクチャーがGDC 2016で行われた。登壇したのは「キャンディークラッシュ」iOS / Android)などで知られるKingのSenior Narrative Designer,Stephanie Prue氏(以下,Prue氏)だ。

KingのSenior Narrative Designer,Stephanie Prue氏
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物語を「スキップする人」は全体の50%


キャンディークラッシュ
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 Prue氏はまず,来場者に対して「カジュアルなモバイルゲームのストーリーシーンをスキップしたことがある人はいますか?」との問いを投げかけた。これは当然ながら(?)ほぼ全員が挙手する結果に。Prue氏は「実は自分もそうです(笑)」と告白し,カジュアルなモバイルゲームにおけるストーリーシーンが,スキップされがちな運命にあることを説明した。

 とはいえ,カジュアルモバイルゲームのプレイヤーとして,GDCの来場者が適切かどうかは分からない。そこで,Kingは,自社のゲームタイトルで統計をとってみたそうだ。それによれば,「スキップする人」は全体の50%であることが分かった。つまり,残りの半分はストーリーをちゃんと最後まで読んでいる。つまり,シナリオライターはこの残りの半分を対象に,彼らが楽しめる物語を作っていくことが重要である。

 一方で,モバイルゲームという環境は,物語の作り手にとってほかにない特徴を備えている。まず,1回のプレイ時間は非常に短いこと。その代わりに,1日に何度もプレイされるものであること。またスマートフォンの画面は小さく,可能な表現は限られる。加えてゲームプレイの性質から言って,プレイヤーが物語を読むために使う時間も多くはないはずだ。それゆえに,ストーリーライターは物語を伝えるにあたって可能な限り短い言葉と演出を用いねばならない。
 ライターにとってより悩ましいのは,モバイルゲームの多くがオンラインゲームであることだ。オンラインゲームにはエンディングが存在しないので,サービスが続く限り,物語を続けてなくてはならない。こうした「終わりのない物語を構築する」こと自体,一般的な物語創作ではまずあり得ないことで,その特殊性がライター達を悩ませる。
 カジュアルモバイルゲームのストーリーは,こうした「イレギュラー尽くし」の環境のなかで,物語を展開されていくことになる。

講演は,広いGDC会場のオープンスペースで行われた
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テキストのみに頼らない物語づくり


 さて,ではこのストーリーを「読む派」の50%にアピールする物語を作るには,どうしたらいいのだろうか? Prue氏はその制作過程を5段階に分割して紹介した。

 最初のステップは,(1)ゲームを理解することだ。
 ゲームの核となるルールは何で,プレイヤーの目的は何なのか。ストーリーは,これを伝えるものでなくてはならない。Prue氏は普段,この「ゲームを理解すること」に最も時間を使うという。

 次のステップは,(2)世界の構築である。
 つまり,物語に登場するキャラクターを設定し,その関係性を決めていくわけだ。ここで重要なのは,最終的な表現として映像表現を活用するということ。「このキャラクターはこういう人です」と文字で説明するのではなく,ひと目で分かるビジュアルで表現するのである。

 続いては,(3)プレイヤーの立場と目的をどうやって伝えるかを考える必要がある。
 大事なのは,とにかくシンプルに伝えるということ。プレイヤーの立場と目的は,「ストーリーをスキップする」側の50%にとっても重要な情報であり,カジュアルなモバイルゲームにおいて「分かりやすさ」はかなり大切な要素といえる。
 この段階においては,映画のポスターがとても良い参考になるとPrue氏は語った。要は,1枚の絵でどのような作品であるかを伝えるのである。絵で直感的に伝えられれば,「スキップ派」にもそれを理解してもらえるだろう。

 4番めは,(4)物語をいかに語るかを考えることだ。表現手段としては,なるべくインタラクティブで,ダイナミックなものが望ましい。
 このステップで重要なのは,共に開発を行うチームが持っているスキルセットである。アニメーション技術者やサウンド技術者,あるいはアーティストなど,物語を語るために必要な表現力は,開発チームのメンバーが持っているスキルに依存する。チームとして何ができるかを知っておけば,特定の表現に頼り切りになる危険も避けられる。
 いずれにしても,「何を語るか」は吟味する必要がある。キャラクターの設定,相関関係,背景設定など語るべきことは多いが,それらのすべてを語ることはとうてい不可能だからだ。

 最後に,(5)物語経験を拡張していく方法を考える。
 ゲームを「プレイする」という状態は,ゲーム本体に集中している時間と,その準備をする時間――いわゆるダウンタイムに大別される。RPGで言えば,探索や戦闘が前者で,アイテムの整理や吟味をするのが後者というわけだ。このダウンタイムを利用して,物語体験をふくらませる情報を提供するのである。

 またボイスやアニメーションによる表現も,物語経験を拡張するのに有効な手段だ。こうした要素は,ゲーム内部に自然な演出として採用でき,かつキャラクターの個性を表現できる。
 加えて物語を「読む派」の50%をサポートするために,過去に遡って物語を確認する機能も欠かせない。ゲームには往々にして多くのステージがあり,「最後に物語を見たのは数週間前」という状況も,決して珍しいことではない。どんなに物語に興味があっても,「1話前に何が起こったか」を忘れてしまうには,数週間は十分すぎる時間である。

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無視できない「物語」の力


 ゲームにおける物語,そしてキャラクターは,その世界の中でのプレイヤーが「何者であるのか」を示すものであるのと同時に,「世界を覗く窓」でもある。「例えカジュアルなモバイルゲームであったとしても,プレイヤーはそのゲーム世界の一部でありたいという願望を抱く」とPrue氏が語ったように,物語の力は決して無視できないものなのだ。
 そしてコアなゲーマーは忘れがちかもしれないが,カジュアルなモバイルゲームであっても,ストーリーを楽しむプレイヤーは決して少なくない。Prue氏が示した統計によれば,例えばダウンロードベースで5億人のプレイヤーがいる「キャンディークラッシュソーダ」iOS / Android)であれば,少なく見積もっても2億人の読者がいることになる。

 普段ストーリーをスキップしてしまうという人も,そうした開発者側の意図を汲み取る観点からゲームのストーリーを読んでみると,新しい発見があるのではないだろうか。

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