インタビュー
「ロードス島戦記オンライン」は原作の幕間を埋める作品になる。原作者水野氏と運営プロデューサー加藤氏へのロングインタビューを掲載
ロードス島戦記は,元を辿れば1986年に「コンプティーク」誌上でのテーブルトークRPG(以下,TRPG)のリプレイとしてスタートした雑誌連載企画だった。その後,リプレイの内容を元にしたファンタジー小説シリーズとしてシリーズ化されて,大きな人気を博することになる。そして,まだライトノベルという言葉もなかった時代に,PCゲームやコンシューマゲーム,アニメへと,今で言う大規模なメディアミックスも展開され,数多くの関連作品が生み出され,多くのフォロワーを生み出すこととなった。
その影響は,同作に登場するエルフのヒロイン・ディードリットのビジュアルによって,その後の日本におけるエルフ像――華奢な金髪で,耳が“とても長い”――が固まってしまったほどである。
そんなロードス島戦記がMMORPGになるということで,ファンは色めき立っていたわけだが,2014年4月末に行われたニコニコ超会議3で公開された概要やゲーム画面(関連記事)は,いわゆる見下ろし型の2DMMORPGとなっており,当然,ネット上では賛否両論さまざまな意見が噴出することになった。
なかでも気になるのは,なぜ3D視点ではなく2D視点を選択したのか,というところだろう。また本作は,原作小説の1巻にあたる「灰色の魔女」をベースにストーリーが進行していくことが,作品の発表時に明らかとなっているが,プレイヤーはこのストーリーにどこまで関わり,どのような立ち位置で進んでいくのだろうか。そして,それは果たしてファンを納得させる「ロードス島戦記」になっているのかなど,気になるポイントは山のようにある。
そこで今回,4Gamerでは原作者の水野 良氏のお膝元である神戸にて,同氏と本作の日本運営プロデューサーの加藤 仁氏に,インタビューを試みた。また本作のみならず,今の水野氏の近況や著作への取り組みについても話を聞いているので,氏のファンという人にもぜひご一読いただきたい。
呪われた島「ロードス」に生きる冒険者達
4Gamer:
最初に,お二方が「ロードス島戦記オンライン」へどういう形で関わっているのかを聞かせてください。まず加藤さんは,本作にはプロデューサーとして関わられているとのことですが。
はい。昔から「ロードス島戦記」の大ファンで,社内で企画が上がったときに一番に立候補しました(笑)。ロードス島戦記オンラインは,ゲームオンとL&K Logic Koreaが共同開発を行っているタイトルですが,私は日本側のメインプロデューサーとして,原作の設定などの監修を行っています。
4Gamer:
なるほど。水野先生とやりとりをしながら,原作の雰囲気を守る立場なわけですね。
水野氏:
監修……というか僕もチェックはしているんですけど,なにせ加藤さんは,僕よりロードスに詳しいくらいなんで。まる投げしても大丈夫なんじゃないかって,思っているくらいです(笑)。
加藤氏:
いやいや,そこはしっかり監修してますって言っていただかないと!(苦笑)
まあ,でもどちらかと言えば,水野先生には「設定上はこうなので,こういう要素を入れてもいいですか?」という感じの相談をすることが多いかもしれません。「この年代ならこのキャラがこの場所にいてもおかしくないはずですが,シナリオに絡ませていいですか?」といった感じで。
4Gamer:
おお,それは頼もしい。では,主にシナリオ部分の監修は,加藤さんが行っているわけですか。
加藤氏:
シナリオもそうですし,キャラクターの成長や強化といったシステム関連を見ることもあります。原作の設定を活かしながら,どうすればゲームとして面白くなるのか。それを考えるのが自分の役目なんです。もちろん,水野先生とも相談しつつですけど。
4Gamer:
分かりました。では肝心のゲーム内容について,詳しくお聞かせください。本作では今のところ,3つのクラスが公開されているわけですが,いずれもクラスというよりはキャラクター,TRPGで言うところのプレロールドキャラクター(※1)のような扱いになっていますね。例えば「エスカイア」は人間のナイト,「マジックユーザー」はハーフエルフのソーサラーというように。なぜこの形になったのでしょうか。
加藤氏:
これは開発元と僕のアイデアによるものなのですが,ぶっちゃけてしまうと,クラスをたくさん用意する必要があったからなんです。MMORPGでは,いわゆる転職というイベントがありますから……。
4Gamer:
あっ,なるほど。つまりプレロールドキャラクター……といって良いのかどうか分かりませんが,種族と技能を組み合わせた形で,今後もクラスがどんどん追加されていくわけですか。
加藤氏:
そうです。現在公開されている3クラスは,いわゆる一次職だと考えていただけると,MMORPG経験者の方には分かりやすいのではないかと。
クラス名は,最初は「戦士」とか「魔法使い」とか,全部日本語だったんだけどね。でも,あとあとクラスが増えてくると,「魔戦士」とか「妖剣士」とか,よく分かんなくなってきちゃいそうで。だから英語のほうがいいんじゃないかって,僕の方から提案したんです。
加藤氏:
英語も英語で,苦労はありますけど(笑)。名称のバリエーションを考える都合で,英語になったのは確かです。
4Gamer:
TRPG版……ここでは仮に「ソード・ワールドRPG」準拠で考えるとして,種族と技能のほかにも,キャラクターにはさまざまな要素がありますよね。例えば“生まれ”とか一般技能とか,プリーストだったら信奉する神など。本作では,そのどこまでがクラスに含まれるのでしょうか。
加藤氏:
システムがソード・ワールドに準拠しているわけではないので一概には言えませんが,技能や性別,種族まで含めてクラスという扱いになります。またクラス毎にバックストーリーも用意しているので,生まれなどに関しても含まれていると考えていいでしょう。例えば「オラクル」なら,アラニア出身のマイリー神官ということになっていますし。
4Gamer:
ああ,確かに。
加藤氏:
実のところ,種族や技能を自由に選べるという案も初期にはありました。しかしロードス島戦記という原作があることを考えると,プレイヤーキャラクターにも背景があったほうが,物語に絡めやすい。自由にキャラクターが作れるというのは,確かに一つのメリットですが,一方で物語に深みを出すのが難しくなるという欠点がありましたから。
4Gamer:
そうかもしれませんが,ライデンやモス公国出身のキャラクターを作りたいというファンも多いのでは?
加藤氏:
お気持ちは分かります。ロードス島戦記オンラインでは,原作1巻である「灰色の魔女」の時代のみを扱うことになりますが,いずれは「炎の魔神」や「火竜山の魔竜」のエピソードも登場させたいと思っています。そうなれば,例えばライデン出身のチャ・ザ神官が出てきてもおかしくないでしょう。もちろん,現時点ではただのアイデアですけど。
4Gamer:
ああ,それは夢が広がりますね。ところで,ニコニコ超会議3で公開されたスライドでは,クラスを選択する画面にグラスランナー(※2)らしきキャラクターが映っていたように思うのですが……。
加藤氏:
よく気づきましたね(笑)。彼女については続報をお待ちいただくということで。
4Gamer:
うう,残念ですが分かりました。では初めてプレイする人にオススメのクラスというと,どれになるでしょうか。
加藤氏:
クセがなくて使いやすいのは,やっぱり「エスカイア」ですね。
水野氏:
彼は魔法は使わないんだっけ?
加藤氏:
スキルはありますが,基本的には物理攻撃オンリーの,いわゆるタンク職になります。攻撃力もあるので,序盤は殴るだけでもなんとかなりますし,集団戦では敵のヘイトを取ってパーティの盾となり,その隙にマジックユーザーに攻撃してもらうという王道な展開も可能なキャラクターです。
4Gamer:
ということは,本作は結構ヘイト管理とロール(役割)を重視するタイプのゲームなのですか? タンクとかヒーラーとか,アタッカーとか。
加藤氏:
基本はハック&スラッシュタイプなので,そこまで重視するということもないのですが。皆でパーティを組んでワイワイとチャットをしながら,自分の役割を楽しんでもらえればと思っています。
水野氏:
戦闘しながらチャットなんてできるの?
加藤氏:
スキルが自動発動する「リアクション」システムがあるので,テキストチャットは結構やりやすいと思います。
4Gamer:
「リアクション」というのは,どういうシステムなのですか?
加藤氏:
使用するリアクションスキルを予めセットしておくことで,特定条件でそれが自動発動するようになるんです。例えば「エスカイア」だったら,攻撃がヒットしたあとに,自動的に追撃を行ったりとか。相手が攻撃をよけたときに発動するスキルもあって,それは相手を出血状態にできるんです。さらに出血状態の相手に発動できるアクションスキルを組み合わせたりとか,けっこう面白い連係も狙えます。
4Gamer:
ああ,それは面白そうですね。ちなみに水野先生がご自分でプレイするなら,どのクラスが良さそうですか。
水野氏:
(クラスの設定資料を見ながら)う〜ん,やっぱり「エスカイア」かなあ。カノンの第三王子を探すというのも面白そうだし。
加藤氏:
カノンの王子が出てくるのは,ずっと後ですけどね(笑)。
水野氏:
それにしてもさ,このマジックユーザーの設定,ハーフエルフで賢者の学院出身のソーサラーって,かなりキワドイよね。
4Gamer:
キワドイというのは,えーとつまり,いわゆるマンチキン的(※3)な意味ですか。
加藤氏:
いやまあ,まったくあり得ない設定ではないんですけど。ダイス目にも寄りますが,エルフやハーフエルフのソーサラーは,かなり使いやすいですからね(笑)。
水野氏:
エルフだと死にやすいけど,ハーフエルフはかなり使い勝手がいいんだよ。
加藤氏:
TRPG側の事情はさておくとして,このキャラがハーフエルフなのは,彼の背景設定によるところが大きかったりします。ひねくれた性格というのがまず最初にあって,それならハーフエルフにしようかなって。しかもこの子,チェンジリング(※4)です。さらに心の寄り所だった賢者の学院も,黒の導師に滅ぼされ,どんどん闇に堕ちていくという。
水野氏:
ハーフエルフというだけでも不幸なのに,そのうえ取り替え子(=チェンジリング)なんだ。そりゃあ,ひねくれていないとおかしいわな。
4Gamer:
……なんというか,スイフリー(※5)のプレイヤーからこれらの発言が聞けるというのは,ある意味ファン冥利に尽きますね(笑)。
※1:プレロールドキャラクター……TRPGにおいて,ゲームマスターがあらかじめ用意するプレイヤーキャラクター
※2:グラスランナー……アレクラスト大陸に住む妖精族で,基本的にロードス島にはいない。ロードス島戦記ではマールというグラスランナーが登場している
※3:マンチキン的……TRPGにおいて,“困ったちゃん”なプレイヤーを表すスラング。ここではとくにシステム的な穴を突いて,強力なプレイヤーを作ることを意味している
※4:チェンジリング……ハーフエルフは多くの場合,人間とエルフの間に生まれるが,ごく稀に人間同士,あるいはエルフ同士の夫婦から生まれることもある。隔世遺伝によるものだが,そういった生まれの子供はチェンジリング(取り替え子)と呼ばれ,人間とエルフ,どちらの社会においても忌み嫌われることとなる
※5:スイフリー……「ソード・ワールドRPG」リプレイ第3部,「バブリーズ」シリーズに登場する精霊使いのプレイヤーキャラクター。エルフでありながら,人間社会の処世術を熟知しているかのような立ち振る舞いをする。その行動から,実はダークエルフなのではと仲間内から囁かれる場面も。なぜ,こんなにひねたエルフになったのか。それはプレイヤーである水野氏だけが知るところだ。また,ゲームバランスを一変させるほどの戦術を生み出し,公式ルールを改訂させる一因になったことでも知られている
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