レビュー
「KINGDOM HEARTS -HD 2.5 ReMIX-」をレビュー。12年の歴史を体験しつつ,最新作「III」への期待を高める“前夜祭”を楽しんでほしい
昨年3月に発売された「KINGDOM HEARTS -HD 1.5 ReMIX-」(以下,HD 1.5 ReMIX)に続くもので,この2タイトルをプレイすれば,「KINGDOM HEARTS」(以下,KH)シリーズをほぼ網羅できることになる。
今回,このHD 2.5 ReMIXを発売前にプレイする機会を得たので,そのレビューをお届けしよう。
12年間で主要7作品がリリースされたKHシリーズ
まずは,本作に収録されている作品がシリーズの中でどのような位置づけになっているのかを軽く紹介しよう。今から12年前の2002年にPlayStation 2用ソフトとして発売された初代KHでスタートした本シリーズは,ディズニーと野村哲也氏をはじめとするスクウェア・エニックスの開発陣の共演による世界観のもと,主人公ソラをはじめとする「キーブレードの勇者」達の物語を描くものとなっている。
リメイクなどを除くと現在までに7作品がリリースされ,それぞれのストーリーは密接に絡み合っているが,ゲームの発売順とストーリーの時系列は必ずしも一致していない。それを分かりやすくするために,シリーズタイトルをストーリーの時系列順に並べてみた。
タイトル(ストーリー時系列順) | 機種 | 発売日 |
---|---|---|
KINGDOM HEARTS Birth by Sleep (KINGDOM HEARTS Birth by Sleep FINAL MIX) |
PSP | 2010年1月9日 (2011年1月20日) |
KINGDOM HEARTS (KINGDOM HEARTS FINAL MIX) |
PS2 | 2002年3月28日 (2002年12月26日) |
KINGDOM HEARTS 358/2 Days | DS | 2009年5月30日 |
KINGDOM HEARTS Chain of Memories (KINGDOM HEARTS Re:Chain of Memories ※) |
GBA (PS2) |
2004年11月11日 (2007年3月29日) |
KINGDOM HEARTS II (KINGDOM HEARTS II FINAL MIX+) |
PS2 | 2005年12月22日 (2007年3月29日) |
KINGDOM HEARTS coded (KINGDOM HEARTS Re:coded) |
携帯電話 (DS) |
2009年6月3日 (2010年10月7日) |
KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance] | 3DS | 2012年3月29日 |
HD 2.5 ReMIXに収録されている3作品のうち,プレイアブルなKH IIとBbSは,ともに本編発売後に新要素が加えられてリリースされた「FINAL MIX」版がベースとなっている。さらに,FINAL MIXでは英語だった音声がすべて日本語となっているのも注目すべき点だ。
ちなみにHD 1.5 ReMIXには「KINGDOM HEARTS FINAL MIX」「KINGDOM HEARTS Re:Chain of Memories」「KINGDOM HEARTS 358/2 Days」の3作品が収録されており,HD ReMIXの2タイトルをプレイすれば物語の流れをほぼ把握できる。まだ本シリーズを遊んでいない人や,現在開発が進められている次回作「KINGDOM HEARTS III」(PlayStation 4 / Xbox One。以下,KH III)の前に,シリーズをもう一度遊び直してみたいという人にはもってこいのタイトルといえるだろう。
KHシリーズの1つの完成型となったKH II
それではHD 2.5 ReMIXの収録3作品それぞれについて語っていこう。まずKH IIだが,これはもともとシリーズ3作めのタイトルで,発売からはすでに9年が経過しているが,HD 2.5 ReMIXではグラフィックスがHD化されていることもあって,見た目の古くささは感じない。
また,当然ながら画面の縦横比率もPS2版の4:3から16:9に変更されているので,当時プレイした人からすると視野が大きく広がって見えるだろう。
本作では「KINGDOM HEARTS -HD 1.5 ReMIX-」に収録されていた3作品「KINGDOM HEARTS」「KINGDOM HEARTS 358/2 Days」「KINGDOM HEARTS Chain of Memories」に続くストーリーが描かれるが,プレイヤーキャラクターの1人である,ロクサスの印象が強烈だ。ゲーム序盤では,本シリーズの主役とも言えるソラではなく,ソラとよく似た外見の彼を操作することになるが,本作で初めてKHに触れ,ロクサスに最初のプレイヤーキャラクターとしての愛着を覚えた人にとって,彼の正体が分かったときの衝撃はかなりのものになるのではないだろうか。
なお,ロクサスはHD 1.5 ReMIXにHD動画として収録された「KINGDOM HEARTS 358/2 Days」には主人公として登場しており,同作では彼が所属する「XIII機関」にまつわるエピソードが語られている。
次にゲームシステムだが,ひと言で表現するなら,かなりアクションゲーム寄りのアクションRPG,といったところだろうか。移動中に敵とエンカウントするとシームレスに戦闘が始まり,3Dのジャンプアクションが展開。方向キーで使える各種コマンドや[△]ボタンで繰り出すリアクションコマンド,そしてソラが一定時間フォームチェンジしてパワーアップする「ドライヴ」など,操作は比較的簡単ながら,なかなか奥深いバトルが楽しめる。ドナルドダックやグーフィーを始めとするパーティメンバーとの連携要素ももちろん入っており,彼らの行動はカスタマイズによって細かく設定が可能。単純な動きの指示だけでなく,アビリティやアイテムの使用頻度などもバトルの状況に応じて設定できるようになっている。バトルの基本的な形はすでに完成しているといった印象だ。
アクション要素が強いと聞いて尻込みする人もいるかもしれないが,ストーリーをじっくり楽しみたい人向けに,簡単にゲームを進められる「ビギナーモード」も用意されているし,より戦略性の高いアクションをしっかりと楽しみたいなら,上級者向けの「プラウドモード」や「クリティカルモード」もある。ゲームスタート後に難度を変えることはできないのだが,イベントシーンのほとんどはスキップできるので,ゲームをある程度進めて,難しすぎる,易しすぎると感じたら,難度を変えてやり直すのもいいだろう。
グラフィックスの大幅な進化が見どころのBbS
本作はそんな彼を含む3人の主人公それぞれのエピソードを体験することで,一つの物語が完成するという内容だ。プレイヤーが任意にキャラクターを切り替えて進めていくのではなく,キャラクターごとに独立したシナリオが用意されているため,ゲーム全体のボリュームもかなりのものとなっている。
ただ,ゲーム世界での時間では一番最初に位置する作品なので,序盤にほかのシリーズ作品とつながる演出がなく,予備知識なしでもゲームに入り込みやすい作品でもある。もとが携帯ゲーム機のタイトルということもあってか,テンポよく進めていけるのも嬉しいポイントだ。
携帯ゲーム機からの移植という点では,HD化によるグラフィックスの進化も見どころだ。以前掲載したCo.ディレクターの安江 泰氏へのインタビューによると,モデリングやテクスチャには大幅に手が入れられているとのことで,実際見栄えはかなりいい。このグラフィックスを大画面で楽しめるというのは,PSP版をプレイした人にとっても魅力的だろう。
バトル面では,入手したコマンドを自由に組み替えて戦う「デッキコマンド」と,ゲーム中に出会ったキャラクターのコマンドを使える「ディメンションリンク」による戦略性の高さが特徴的だ。自分にベストなコマンドの組み合わせを極めるもよし,頻繁に組み替えながら毎回違ったプレイフィールの戦闘を楽しむもよしと,プレイの幅は広い。また,キャラクターそれぞれでプレイフィールも異なる(テラはパワー,ヴェントスはスピード,アクアは魔法が持ち味)ので,飽きずにプレイできるだろう。
ゲームシステムがより進化していることもあってか,チュートリアル的な要素も充実していて,新要素が使えるようになったときにはそのガイドが表示されるなど,説明書を読み直さなくともその場である程度理解できるようになっている。
ただし,本作ではKH IIのように仲間とパーティを組んでプレイするシーンが少なく,ほとんどを自分の腕だけで進んでいかなければならない。もちろんゲームバランスは本作独自のものに調整されているので,難しくて先に進めないという事態にはならないだろうが,1対複数で戦うときは,いっそう周囲に気を配る必要が出てくるだろう。
じっくりと見て楽しむRe:coded
ゲームではなく,HD映像作品として収録されているRe:codedは,KH II直後の物語を描いているので,KH IIのプレイ後に楽しむのが理想だろう。ジミニー・クリケット(「ピノキオ」に登場するコオロギのキャラクター)がつけていたソラ達の旅の記録「ジミニーメモ」に起きた異変を,そのメモのデータをもとに生み出されたデータ・ソラ(ソラと同じ人格は持っているが,あくまで別の存在)が調査に行くというストーリーが展開していく。
映像はRe:codedのイベントシーンに,新たに作られたシーンを追加した約3時間のもの。細かく分けられたチャプターを個別に見ることができ,さらに登場キャラクターのバックグラウンドをまとめた「キャラクター辞典」も用意されているので,内容を把握するのに不便はないだろう。
こちらもBbSと同様に,携帯ゲーム機向けのグラフィックスから大幅に進化した美しい映像で物語を楽しめるのだが,ゲーマーである筆者は,鑑賞後にやはりゲームとしてプレイしたくなってしまった。ニンテンドーDS版Re:codedはまだ市場でも手に入りやすいソフトなので,どうしてもゲームをプレイしてみたいと思った人は,そちらを探してみるのもいいだろう。
改めてディズニーの世界との見事な融合を再確認。「KH III」の“前夜祭”として楽しんでほしい
今回HD 2.5 ReMIXをプレイして,小さな頃から慣れ親しんだディズニーのキャラクターが,ソラ達やFFシリーズのキャラクターを自然に迎える様子に,なんとも言えない感動を覚えてしまった。自分ではそれほどディズニー好きとは思っていない筆者でこれなのだから,ディズニー好きならその感動は相当なものになるのだろう。
ディズニーの親しみのある世界に,新たな世界をうまく融合させ,誰もが入っていきやすく,かつ深い物語を生み出しているのが,このシリーズの大きな特徴だと改めて実感できた。
HD 2.5 ReMIXに収録されている作品,とくにKH IIにおいては,「トロン」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」など,実写のディズニー映画の作品もうまくKHの世界観に溶け込んでいるところが見どころだ。「眠れる森の美女」のマレフィセント(KH II,BbSともに登場)が出てきたときは,彼女が主役の実写映画が現在公開中という,まるで意図したかのようなタイムリーさにニヤリとしてしまうと同時に,映画で彼女を演じているアンジェリーナ・ジョリーを重ねてしまった。このように,ゲームと映画,実写とアニメといった枠を超えて世界がどんどん広がっていくところも,本シリーズの面白さかもしれない。
冒頭でも紹介したように,本シリーズの物語は各タイトルのエピソードが密接に絡み合って構成されているのだが,ボリュームの大きさやプラットフォームの制約などで,すべての作品をプレイしたという人は少ないはず。その意味で資料的な価値の高いソフトなのは間違いないが,それ以上に,12年間ディズニーとともに歩んできたKHシリーズの歴史を称えながら,「今度はどんな世界が待っているのだろう」とKH IIIへの期待を高めるという“前夜祭”のノリで楽しんでほしいタイトルだ。
「KINGDOM HEARTS」シリーズ公式サイト
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