インタビュー
スマホ時代におけるトレーディングカードゲームビジネスの行方とは――ブシロードの木谷氏に聞いてみた
オンライン化による海外市場の発掘
4Gamer:
しかし,お話を聞いていて改めて思いましたが,最近はスマートフォンの影響は無視できないですよね。アナログなTCGビジネスというものを,完全にデジタルに切り替えることはないにせよ,もっとスマホとかと連動させていこうみたいな構想はないんですか?
木谷氏:
構想としてはありますし,当然考えなければいけない部分だと思っています。それにコンテンツをグローバルに広げていく時には,オンラインって非常に有効ですしね。
ただ,やっぱりベースはアナログのカードの部分であって,海外の展開にしても,ショップの販売網にもきちんとアプローチしています。例えばヴァンガードなんかは,すでに世界40カ国に出荷されているんですよ。
4Gamer:
先ほどカードショップのお話をされていましたけども,日本では1000店舗くらいとして,世界には何店舗ぐらいのカードショップがあるものなんですか?
まず,”カードショップの定義”からお話しますと,私は,テーブルがあってファイト(対戦)ができるお店をカードゲームショップと定義しているんです。で,その定義でいくと,日本ではだいたい1000店舗ぐらいあるという話で。アメリカ市場ですと,ボードゲームとか,それ以外のものも一緒に売ってるお店が多いんですけど,まぁ2000店舗くらいの規模感。中国を除くアジア地域は全部で500店舗ぐらいでしょうか。ちなみに中国は300店舗くらいだと言われてるんですよ。
4Gamer:
なるほど。TCGの文化層の伸びしろという意味では,アジアはまだまだ余地があるということですか。でも,海外におけるいわゆる“子ども向けTCG市場”って,どのくらいの規模感のものなんですか?
木谷氏:
海外の“子ども向けTCG市場”は,まだそれほどちゃんとは立ち上がっていないですね。ポケモンや遊戯王で一時的な盛り上がりはありましたが,日本ほど根付いてもいない状況ですし。
4Gamer:
では逆に,ブシロードがその“子ども向けTCG市場”を海外で切り拓いていく――というのが,海外展開の主軸になるんでしょうか。
木谷氏:
「バディファイト」とかでは,そういう部分も狙いたいですね。ただ,それはそれで,なかなか難度が高いですが。
いや,子ども向けのカードゲームって,ホントどこの国でも難しいんですよ。むしろ,日本が一番やりやすいんでしょうけども,日本は日本で,競争がとても激しいので大変です(笑)
4Gamer:
日本だと,例えば「コロコロコミック」で展開してアニメ化して――みたいな成功の方程式があるように思うんですけど,海外だと,そういう方程式的なものはあまり確立されていないんですか?
木谷氏:
ないですね。それにその日本での方程式も,今は大分難しくなってきたとは思います。
妖怪ウォッチという“台風”
4Gamer:
これも少し話が脱線してしまいますが,最近の「妖怪ウォッチ」のブームって,木谷さん的にはどう分析されてるんですか?
木谷氏:
「妖怪ウォッチ」は,そうですね……。
実は,去年の年末12月にレベルファイブ社長の日野さんと会食してお話したんですけど,お話をしていて「この人は凄いな」と思いました。やっぱり,あの人の作品には“張るべき”なんでしょうね。だって2回に1回は絶対当たるんだから。
でもまぁ,もし「妖怪ウォッチ」のヒットが分かっていたなら,弊社の「バディファイト」の時期をずらしたでしょうね。ぶつかっちゃいけない相手だったと思います。もう3か月くらい後に「妖怪ウォッチ」をやってほしかったですよね(苦笑)
4Gamer:
ここまでの大ヒットになるとは……って感じですよね。
木谷氏:
正直な話,「妖怪ウォッチ」がなかったら,「バディファイト」はもっと成功していたと思います。今は,“妖怪ウォッチという台風”が吹き荒れてるって感じですからね。今は,必至にしがみついて現状を維持するだけでも精一杯ですよ。だから「この風,弱まって!」みたいな気持ちです(笑)
4Gamer:
(笑)
木谷氏:
でも,ここで踏ん張れば,自分たちしか残らないかもしれないみたいな気持ちもちょっとあって。この“台風”が弱まった頃がむしろチャンスだと思います。
デジタルの対極としての“ライブ”がこれから価値を増していく
4Gamer:
さて。そろそろお時間も差し迫ってきましたが,ブシロードの今後の抱負といいますか,「こういう風にしていきたい」というのはありますか?
木谷氏:
そうですね。今は,非常に難しい時代だと思います。そんななかで,当社は「カードゲームで世界一を目指す」と言ってずっとやってきましたが,これからはカードゲームビジネスをコアにしつつも,デジタル&オンラインであるとか,あとはライブにも非常に力を入れていく予定です。
4Gamer:
え,ライブですか?
木谷氏:
はい。ライブの部分も含めて,エンターテイメントとしてそれらをくくってグローバルに展開するということが,今はとても大事な時代になっている思うんです。だから,カードゲームで世界一の企業を目指していますけども,その周りにいろいろなビジネスがくっついているということについては,ご了承いただきたいなと。時代の変化に合わせているということですね。
4Gamer:
昨今,いろいろなものがデジタル化していく一方で,逆にアナログな“ユーザー体験”に重きがおかれる風潮もあると思います。例えば,「ニコニコ動画」における「ニコニコ超会議」などは分かりやすい例だと思いますが,それに近い意味だと考えていいのでしょうか?
木谷氏:
そうですね。その点でいうと,今年の「大ヴァンガ祭」は入場者数が前年15%増しになって,2日間で1万7500人もの方に来場して頂いたんですよ。入場料をとっている――普通のゲーム大会では入場料は取らない――にもかかわらず,たくさんの人が来てくれたんです。
これがどういうことかというと,「ヴァンガード」っていう作品が大好きで,好きな人同士で同じ空間を共有したり,「ヴァンガード」の世界/文化に浸りたいって人がたくさんいるってことだと思うんです。
ステージを観たり対戦をしたり,あるいはグルメコーナーで食事したり。そういう部分を全部含めて,「ヴァンガード」っていう世界観を味わいたがってる。
4Gamer:
ふむふむ。
木谷氏:
まあ,本とかのパッケージ的なものって,やっぱり“中途半端なアナログ”なんですよね。
4Gamer:
どういう意味ですか?
木谷氏:
要は,アナログの紙の上に書かれている絵やテキストって,結局はデータでしかないというか。それ自体はデジタル化できるものなわけじゃないですか。アナログな物理メディアにデータが書かれているものでしかない――“デジタルとアナログの中間物”なんですよ。
4Gamer:
なるほど。
これから先,そういうものはどんどんデジタル化されていきます。本もそうだし,音楽もそうですよね。カードゲームでさえ,電子化の流れには逆らえないでしょう。
でも,一方で“ライブ”というのは,絶対にデジタル化できないコンテンツなんですね。“デジタルとアナログの中間物”がみんなデジタル化されていく流れの中で,その対極的なものとして“ライブ”ってものが,どんどん価値を増していくのではと思っているんです。
4Gamer:
TCGの場合だと,いわゆる大会などがライブコンテンツとして重要だということですか?
木谷氏:
そうですね,大会であったり,講習会であったり。そういうものを含めてライブコンテンツだと認識しています。なので,もっとライブの質を上げるというのも,TCGのひとつの売り方ですよね。
4Gamer:
各店舗のイベントも含めて,ですか。
木谷氏:
まあ,店舗のイベントはミニライブみたいなものですよね。20〜30人の小規模なライブなのだと思います。
4Gamer:
なるほど。昨今のデジタル化の流れに対して,アナログな部分をむしろ強みにという,ブシロードの立ち位置は変わらないわけですね。
木谷氏:
その通りです。
4Gamer:
それでは,最後に。月並みで申し訳ないんですけど読者――この記事を読むのは業界人が多いかもしれませんが――に向けて,一言お願いします。
木谷氏:
そうですね。まず劇場版のヴァンガードは,“カードゲームを実写とアニメの両方で映画化”するという,おそらくは初となる試みをしている作品です。それがどんな形で仕上がっているのか,どういう意味があるものになっているのか。ぜひ皆さんに確認してみてほしいと思います。
4Gamer:
ちなみに映画自体は,どんな内容になっているんですか?
木谷氏:
もともとヴァンガードでは“友情”が大きなテーマなんですけど,今回の映画でも,そこがかなりクローズアップされている感じですね。今って,SNSとかでとりあえず“繋がってはいる”んだけど,本当に人として深く付き合えているのだろうか?とか,いろいろ不安に感じる人も多いと思うんです。
4Gamer:
そうかもしれません。
木谷氏:
そんななかで,“友情”とか“仲間”って実はすごい大事なキーワードだと思うんですよ。だから,リアルなカードゲームでいっしょに遊ぶ,同じ空間を共有するライブ感も,“仲間”であることを実感する,より重要な部分になっているんじゃないかなと。この映画を通して,そういう“友情”とか“仲間”って部分を感じとってもらえるととても嬉しいですね。
4Gamer:
分かりました。映画の成功,ひいてはブシロードの今後の発展を期待しております。本日はありがとうございました。
コンテンツ業界の風雲児たる木谷氏に対し,スマホ時代におけるコンテンツビジネスについて,多岐にわたる質問を投げかけてみた今回のインタビュー。さまざまなものが次々とデジタル化/オンライン化されていく現代にあって,そんな時代だからこそ,あえてアナログな“ライブ”を重視していきたいとする着眼点は,とても木谷氏らしい,非常に示唆に富んだものであるように思う。
インタビューでも例に挙がった「ニコニコ超会議」や今夏の開催が記憶に新しい「コミックマーケット」など,“ライブなイベント”というものが盛り上がりを見せているのは確かだ。これからのコンテンツビジネスにおいては“デジタル”と“ライブ”のそれぞれで如何に展開し,連動していくか。そこがさらに重要となっていくのだろう。
また,年々その影響が増しているスマートフォンに対しても,木谷氏の見解が聞けたのは収穫であった。スマートフォンとテレビの連動そのものは既に各社も手がけているが,そこから一歩進んだ氏の見解には,これからのスマートフォンビジネスにおけるプロモーションの未来を予見させる鱗片があったようにも思える。TCGのみならず,コンテンツ業界の雄として今後も急成長し続けるブシロードと木谷氏の行方に,今後も目が離せない。
「劇場版カードファイト!! ヴァンガード」公式サイト
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