レビュー
ゲームもけっこういける小型で高性能なスマートフォン
ソフトバンク AQUOS R Compact
今回は,シャープからソフトバンクモデルの製品直前版を試用する機会を得た。最終の製品版ではないことを断りつつ,テストを行って,その実力を検証してみたい。
3辺狭額ベゼル+フリーフォームディスプレイ
小さめボディでも画面は大きく
特徴である液晶パネルは,シャープ独自技術である「IGZOフリーフォームディスプレイ」により実現したものだ。画面上端中央に切り欠き部を設けて,そこにインカメラを配置しているだけでなく,画面上端の左右も,筐体の丸みに合わせて角が丸められている。
2017年のハイエンドスマートフォンでは,「Galaxy S8+」や「iPhone X」のように,アスペクト比9:16のディスプレイパネルから脱却して,より縦長のパネルを採用する製品が増えてきた。見た目での差異化や,携帯性を損なわずに大画面化を実現する手段として,スマートフォンメーカー各社がディスプレイパネルの縦長化に注目しているからだ。
そこにシャープは,同社が以前から開発していた,「IGZOフリーフォームディスプレイ」を使った端末を投入することで,変化球を投げてきたといったところか。
AQUOS R Compactの外観では,かつてのシャープ製端末で多用されながら,ここ最近は途絶えていた「三辺狭額縁」仕様が復活しているのも見どころである。上端と左右端のベゼルが極端に薄く,指紋認証センサーを備えたディスプレイ下側にだけ,謙虚なベゼルがあるというものだ。
上端の切り欠きと合わせて見た目にインパクトのあるデザインを実現しており,本製品における1番の特徴と言える。iPhone Xも,ディスプレイ上端部中央に切り欠きがあるのだが,それとはまた違った雰囲気である。
ちなみに,シャープではこの狭額縁デザインを,「EDGEST fit」(エッジスト フィット)と称している。
特殊な液晶パネルとなると,OSやアプリの表示がどうなるのか気になるところ。通常は,Androidのステータスパネルがフリーフォームディスプレイ部に表示され,アプリはその部分を除いたアスペクト比9:16部分に表示されるようになっていた。つまり,アスペクト比9:16を想定したアプリは,問題なく表示できるわけだ。むしろ,ステータスパネル部分に画面を取られることがないので,フルHD解像度分の表示領域をアプリがフルに使用できる。
コンパクトなサイズのわりに,多少だが画面が広く感じられるのは,AQUOS R Compactのポイントと言えよう
なお,ゲームのようにアプリを全画面で表示する場合,フリーフォームディスプレイ部分のステータスパネルも非表示となる。
120Hz駆動の「なめらか倍速表示」にも対応
ただし,今のところ120Hzで表示できるゲームはほとんどなし
プリインストールのマップアプリやWebブラウザは,120fps表示に対応しているのだが,ゲーマーにとって重要なのは,ゲームが対応しているのかである。そして残念なことに,可変フレームレートに対応するAndroidゲームは,現時点ではほとんどない。
国内で入手できるゲームタイトルを使い,フレームレートを確認できるアプリ「GameBench」で確認してみたところ,「リネージュ2 レボリューション」(以下,リネレボ)や「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(以下,デレステ),「シノアリス」などは,60fps表示止まりだった。国内の人気ゲームタイトルで120fps表示が可能なものは見当たらず,試した中では唯一,「Riptide GP2」だけが120fpsでの表示が可能という状況だ。
なお,ゲームではないが,イラスト制作向けの補助アプリである「Magic Poser」が,可変フレームレートに対応していたのは意外だった。また,Android標準の「マップ」でも60fpsを超える場面がある。
なめらか倍速表示で120Hz表示が可能なゲームはほぼない。また,可変フレームレート非対応のゲームで,なめらか倍速表示をオンにすると,たとえばリズムゲームにおいて,ノーツの移動速度にムラが生じることもある。現状では,Webブラウザのスクロールを快適にしたいといった場合に,オンにしておく程度でよさそうだ。
GameBenchは,セットアップがちょっと面倒なため,製品発表イベントでのテストには使えないのだが,端末上でフレームレートをオーバーレイ表示できるほか,USB経由でつないだPCからも参照できるという便利なアプリだ。無料版では機能制限があるものの,端末の性能をちょっと調べるのに適しているので,気になる人はお試しあれ。
さて,現状ではゲームにおいて役立つとは言い難いなめらか倍速表示だが,将来は変わるかもしれない。というのも,2017年11月に,Razerが120Hz表示対応のIGZO液晶パネルを採用するスマートフォン「Razer Phone」を発表したときに,可変フレームレート対応(と思われる)ゲームアプリが複数発表となったからだ。
国内でも名の通ったメーカーが,Razer Phone対応に名を連ねており,今回のテストでは60fps止まりだったリネレボも,対応タイトルに上げられている。Razer Phoneの登場によって,AQUOS R Compactでの高フレームレート表示が可能なゲームは,増えてくることを期待したい。
Snapdragon 660の性能を引き出せている
ミドルクラス向けとしては優秀
ベンチマークテストでの性能計測に入る前に,簡単にスペックも紹介しておきたい。
AQUOS R Compactの搭載SoC(System-on-a-Chip)は,Qualcomm製の「Snapdragon 660 Mobile Platform」(以下,Snapdragon 660)で,ミドルクラス市場向けSoCとしては,最新かつ高スペックのものとなっている。
メインメモリには,こちらも高速なLPDDR4Xメモリを採用しており,容量は3GB。内蔵ストレージ容量は32GBで,最大容量256GBのmicroSDXCカードにも対応するといったところだ。
ではベンチマークテストに入ろう。
テストに用いたのは,3Dグラフィックスベンチマークアプリ「3DMark」の「Sling Shot Extreme Unlimited」プリセット,総合ベンチマークアプリ「PCMark for Android」の「Storage test」,CPUの動作クロックを見る「CPU-Z」,連打応答性を調べる「ぺしぺしIkina」という定番の4点セットである。
一方,ゲームのテストは,デレステと「World of Tanks Blitz」(以下,WoT Blitz),Android版「艦隊これくしょん -艦これ-」(以下,艦これ),「アズールレーン」,「ディスティニーチャイルド」をプレイしている。気になっていた「妖怪惑星クラリス」がAQUOS R Compactのテスト中にサービスインしたのだが,サーバーにつながらなかったので断念している。
Sling Shot Extreme Unlimitedから見ていくと,スコアは「1327」。同じSoCを搭載する「ZenFone 4」が「1362」だったので,Snapdragon 660搭載端末のスコアとしては可もなく不可もなくといったところ。
なお,3DMarkはグラフィックスベンチマークアプリなので,可変フレームレートにも対応しているが,Sling Shot Extreme Unlimitedは負荷が高いテストであるため,なめらか倍速表示の設定を変更しても60fpsを超えることはなく,スコアは誤差範囲に留まっている。オンにする必要はなさそうだ。
一方,Storage testのほうは,なめらか倍速表示オンのときは「3431」で,オフのときは「3185」といった具合に,なめらか倍速表示の設定によるスコアの変動を確認できた。スコアの細目を見ると,SQLite readとSQLite updateに分かりやすい差が生じている。正直に言って原因は不明だ。ただ,体感速度に変化は感じないため,ストレージ性能を上げるために,なめらか倍速表示をオンにする必要はなさそうだと思う。
AQUOS Rがそうであるように,最近のハイエンドスマートフォンでは,ストレージ用として,「UFS」(Universal Flash Storage)と呼ばれる高速なフラッシュメモリを採用しているものが増えている。それに比べると,従来型のeMMCフラッシュメモリを採用するAQUOS R Compactは,アプリの読み込みやインストール時などで,ハイエンド端末に差を付けられそうだ。
CPU-ZでAQUOS R Compactにおける動作クロックの推移を見ると,基本的に低い動作クロックをキープする傾向が目立った。もちろん,何かしらの操作を実行すると,動作クロックは上昇したが,高クロックで動作する時間はごく短い。
なお。なめらか倍速表示の設定にかかわらず,連打に対する反応は同じ傾向であった。
ゲームの動作も快適だが,タイトルによってはもたつく場面も
それではゲームのテストへと進もう。
まずデレステだが,他のSnapdragon 660搭載端末と同様に,最高設定である「3Dリッチ」ではフレームレートのバラツキがあり,また処理負荷によると思われる取得漏れも生じる。快適なプレイは「3D標準」が適当か。ただ,3D標準でも,常時フレームレートが60fpsに貼り付くほどでないので,プレイ時は割り切って「2D軽量」にして,3DリッチはMVモードのみとしたほうがいいかもしれない。
3D標準以下の設定では,入力取得はとても良好だ。一方で,なめらか倍速表示は効果がないばかりか,オンにするとノーツの移動にムラが生じることがあった。リズムゲーム全般では重要な要素なので,問題あるかどうかを実機で確認してから,オンにするかどうかを決めることをお勧めする。
続いてWoT Blitzであるが,グラフィックスを最高設定にしてプレイしてみたところ,ゲーム内のフレームレート表示は,なめらか倍速表示の設定に関わらず,最高62fpsと表示していた。戦闘中は59〜62fpsと良好で,設定を下げても62fps以上にはならなかったので,可変フレームレート対応というわけではない。
次に艦これだが,全体的に動作がもっさりしており,遠征回しであれば耐える程度だろう。先に掲載したGameBenchのPC用計測アプリで撮ったスクリーンショットは,艦これを計測したときのものだが,フレームレートは低く,安定もしていなかった。艦これの特殊性が出てしまった感じか。
アズールレーンは,比較的軽めの印象を受けるタイトルだが,似たようなスペックの端末であっても,差が出ることがあるタイトルだ。
AQUOS R Compactの場合,戦闘シーンに問題はないのだが,メイン画面からのほかの画面へ遷移するときの切り替えに一瞬もたつくことが多く,長時間プレイをしていると辛く感じてくるかもしれない。ただ,これは秘書艦のLive2D表示をオフにすることで回避できた。Live2D対応の秘書艦は少ないので,その意味では大きな問題ではないだろう。
ちなみに,アズールレーンのアップデート内容を見ると,「端末の動作に対応した」という文言が出てくることが多いので,端末での動作検証と最適化は,まめに行っているようである。AQUOS R Compactも発売以降には動作が改善する可能性はあるだろう。
最後に,Live2Dを駆使してキャラクターがよく動くわりに,端末の性能をそれほど要求しない感のあるディスティニーチャイルドのほうは,AQUOS R Compactでも動作に問題ナシだった。タイトル画面のダビ連打確認や,戦闘中などでも,露骨なもたつきが生じることはない。
どちらかといえば,細かい文字が多いタイトルなので,4.9インチサイズの画面では読みにくいと感じる人がいそうである。
ベンチマークテストやゲームプレイ中の放熱状況についても触れておこう。
AQUOS R Compactは,高負荷状態になると背面全体から放熱する傾向にあり,長時間のプレイでも,特定の場所が変に熱をもつことはない。放熱設計は良好なようだ。
またバッテリー残量に応じての挙動も確認してみたが,残量が20%以下になると,ホーム画面からの操作でももたつきが生じやすくなる。数値化のしようはないのだが,バッテリー残量100%時と比べると体感的に遅い。一方,ゲームプレイ時には,あまり変化を感じなかったので,高負荷時は全力で動くことを優先するような制御で動いていると思われる。
性能面では合格ライン。フリーフォームディスプレイ部の余白を許せるかが問題か
フリーフォームディスプレイ部に何も表示しない場合,アプリの背景色でべた塗りされるので,ゲームタイトルによっては,グレー一色で塗りつぶされるため,黒色と比べて気になりやすいこともある。これはスクリーンショットも同様なので,ゲーム画面のスクリーンショットをコレクションしているような人は,端末を選ぶときに検討すべき点となるだろう。
倍速なめらか表示については,たびたび触れているとおり,今のところ恩恵を得られるゲームが少ない。2018年以降になれば,徐々に増えていくだろうが,現状ではゲーム以外のアプリ向けの機能と割り切り,普段使いの範囲でなめらかな表示が心地いいかどうか,といった基準でチェックするといい。
ゲームプレイでもソツなく動作するうえ,最近はグラフィック設定を調整可能なゲームタイトルが増えているため,AQUOS R Compactに合わせて調整することで快適に遊べるゲームは多いはずだ。なにより,5インチ以下で高性能という端末はすっかり姿を消してしまったので,「ゲーム用途でも,なるべく小さい端末がいい」と考えているのであれば,AQUOS R Compactは,選択肢に入れる価値はあるだろう。
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