レビュー
ASUSとGIGABYTEのオリジナルデザイン版R9 290Xカードを試す
ASUS R9290X-DC2OC-4GD5
GIGABYTE GV-R929XOC-4GD
その中から4Gamerでは,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)から「R9290X-DC2OC-4GD5」,そしてGIGA-BYTE TECHNOLOGY(以下,GIGABYTE)からは「GV-R929XOC-4GD」の貸し出しを受けられたので,これら2枚のポテンシャルを探ってみたい。
R9290X-DC2OC-4GD5 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) info@tekwind.co.jp 実勢価格:8万〜8万3000円程度(※2014年3月7日現在) |
GV-R929XOC-4GD メーカー:GIGA-BYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:CFD販売 050 実勢価格:6万8000〜7万5000円程度(※2014年3月7日現在) |
DirectCU IIとWINDFORCE 3X 450W
ASUS&GIGABYTE自慢の大型GPUクーラーを採用
なお,あらかじめお断りしておくと,GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為である。今回はカード紹介のために取り外すが,読者が本稿の記載内容を自分で試してみる場合は,あくまでも自己責任で行ってほしい。
■R9290X-DC2OC-4GD5
ただ,カード長こそリファレンスカードと変わらない一方で,基板,そしてGPUクーラーは“横方向”にも拡大しているため,リファレンスカードと比べると,カードは明らかに大きい。マザーボードに差した状態で,垂直方向へ実測約28mmも長くなるため,組み込むPCケースがスリムなタイプであるとか,側板に吸気用のファンが取り付けられているとかいった場合は,事前に確認が必要だろう。
カード背面には,「ASUS」「DirectCU II」ロゴ入りの放熱板兼補強板が取り付けられている。それもあって,手に持つと,かなりずっしりしていた |
補助電源コネクタは8ピン+6ピン。ここはリファレンス通りの仕様となっている。ツメがカード背面側を向いており,ケーブルの抜き差しがしやすい |
DirectCU IIというのはGPUクーラーのシリーズ名であり,実際には搭載されるカードによって仕様が異なるのだが,取り外すと,R9290X-DC2OC-4GD5におけるDirectCU IIクーラーの全容は比較的容易に把握できるようになる。具体的に述べると,「銅(製ヒートパイプ)がGPUに直接触れる」というDirectCUの語源どおり,10mm径が1本に8mm径2本,6mm径2本と計5本のヒートパイプがGPUからの熱をヒートスプレッダ部へと運ぶ構造だ。運ばれた熱は,100mm角相当のファン2基によって冷却される仕組みになっている。
GPUクーラーを取り外したところ。ヒートパイプの仕組みがよく分かる |
取り外したGPUクーラーを別の角度から見たカット |
CoolTech Fan。外周と内周で異なる構造になっているのが特徴である |
基板から放熱板兼補強板や電源部用ヒートシンクなどを取り払ったところ |
ASUSによれば,DirectCU IIクーラーの採用により,R9290X-DC2OC-4GD5では,リファレンスカードと比べてGPU温度が20%低く,動作音が3倍静かになっているとのことだ。
一方の基板は,GPUをぐるりと取り囲むように配置された16枚のメモリチップが目を引く。搭載されるメモリチップはMicron Technology(旧エルピーダメモリ)のGDDR5「W2032BBBG-6A-F」で,6Gbps品となるので,メモリクロックからすると,メモリチップ的にはまだ若干のマージンがあることになる。
電源部はASUS独自のデジタルVRMコントローラ「DIGI+ VRM」を用いた6+2フェーズ構成。さらに,ASUS独自の電源品質規格「Super Alloy Power」準拠となっており,リファレンスデザインと比べて電源部のノイズは30%低減され,耐久性は2.5倍に達しているという。
基板全景。写真右手の6+2フェーズとは別に,写真左手には2フェーズあるのも見えるが,これが何のために用意されているのかは正直なところ分からない |
メモリチップは「Elpida」のロゴ入り。エルピーダメモリは2014年2月28日にマイクロンメモリ ジャパンとなったので,いまではMicron Technologyということになる |
DIGI+ VRMとメイン電源部 |
カード背面はこんな感じになっている |
■GV-R929XOC-4GD
カード長は実測約281mm(※突起部除く)。基板長は同269mmで,R9290X-DC2OC-4GD5と同じだが,搭載されるGIGABYTE独自のGPUクーラー「WINDFORCE 3X 450W」が,カードの後方へはみ出す格好になっている。
ちなみにWINDFORCE 3X 450WはGIGABYTEの「GeForce GTX 780 Ti」搭載製品「GV-N78TGHZ-3GD」に搭載されていたものと,ほぼ同じもの。GV-N78TGHZ-3GDは「GHz Edition」と謳われ,GPUクーラーの側面にその文字がプリントされていたが,GV-R929XOC-4GDではそれがない,という程度の違いである。なので,WINDFORCE 3X 450Wの詳細は,GV-N78TGHZ-3GDのレビュー記事をチェックしてもらえればと思う。
ファンを固定するフレーム部が,おそらく強度を確保するために本体の横方向へ膨らみ,結果としてクーラーが基板に対して18mmほどはみ出ている点は押さえておきたいところだ。
16枚のメモリチップで計4GBのグラフィックスメモリ容量を確保する点は,R9290X-DC2OC-4GD5と同じ。搭載されるメモリチップがMicron Technology製のW2032BBBG-6A-Fである点も変わりない。そのため,メモリチップのスペック的には,R9290X-DC2OC-4GD5以上にオーバークロックマージンがあることになる。
2製品をR9 290Xリファレンスカード
およびGTX TITANと比較
テストのセットアップに入ろう。
まず,R9290X-DC2OC-4GD5とGV-R929XOC-4GDだが,実のところ両製品はいずれも,R9 290Xのリファレンスカードと同じく,静音性重視のVBIOSと,性能重視のVBIOSを搭載し,カード上のスライドスイッチで切り替えられるようになっている。R9 290Xでは「Quiet」「Uber」というモード表記だったのが,今回の主役2製品では「Silent」「Performance」へと表現が変わっているが,意味するところに違いはない。QuietとSilentが静音性重視,UberとPerformanceが性能重視の設定だ。
ではVBIOSをどうするかという話だが,結論から先に述べると,前段で紹介したオリジナルクーラーの搭載により,Performanceモードを選択しても動作音はハイエンドクラスのグラフィックスカードとして非常に静かな状態に留まっていたため,今回は両製品ともPerformanceモードでテストを行いたいと思う。
2製品の比較対象には,R9 290Xのリファレンスカードと,競合のGPUから「GeForce GTX TITAN」(以下,GTX TITAN)を用意した。主役の2製品がPerformanceモードでのテストとなるので,R9 290XリファレンスカードもUberモードでテストを実行する。
そのほかテスト環境は表のとおり。3月7日時点ではすでにより新しいグラフィックスドライバがリリース済みだが,今回はテスト開始タイミングの都合により,Radeon側では「Catalyst 14.1 Beta1.6」,GeForce側では「GeForce 334.67 Driver Beta」を利用するので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション15.0準拠。ただし,「Battlefield 4」(以下,BF4)ではAMD独自のグラフィックスAPI「Mantle」に対応したバージョンを実行できることから,BF4で行うRadeonのテストに限ってはレギュレーション準拠となるDirectX 11版だけではなく,Mantle版でもテストを行うことにした。
なお,Mantle版BF4ではフレームレート測定ツール「Fraps」が利用できないため,Mantle版に限っては,BF4側に用意されたコマンド機能「PerfOverlay.FrameFileLogEnable」を使って1分間の平均フレームレートを算出している。その詳しい手順は,2月4日掲載のMantle版BF4テストレポートを参照してほしい。
なお,ゲームアプリケーションのテストにおける解像度は,R9 290Xがハイエンド市場向けということから,1920×1080ドットと2560×1600ドットの2パターンを選択。CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によって効果に違いが生じる可能性を排除すべく,UEFI(BIOS)から無効化している。
クロックアップ効果はメモリクロックと連動!?
全体的にはそれほど大きくない
以下,グラフ内に限り,R9290X-DC2OC-4GD5を「ASUS R9 290X」,GV-R929XOC-4GDを「GBT R9 290X」と表記することをお断りしつつ,グラフ1に結果を示した「3DMark」(Version 1.2.250)から順に見ていきたい。
ここでR9 290Xリファレンスカードからのスコア上昇率は,R9290X-DC2OC-4GD5が2〜3%程度,GV-R929XOC-4GDが約1%。クロックの向上率からすると,3DMarkにおけるスコア向上率は肩すかし感がなくもないが,ただ,GTX TITANとのスコア差は確実に広がっている。
続いてグラフ2,3はBF4のテスト結果だ。前述のとおり,BF4ではDirectX 11版とMantle版の両方でテストを行っているため,どちらで実行したかはカード名の後ろに[ ]書きで記載し,区別している。
というわけでスコアを見てみると,DirectX 11版における対リファレンスカードのスコア向上率はR9290X-DC2OC-4GD5が約3%,GV-R929XOC-4GDで0〜2%程度で,端的に述べて3DMarkとほぼ同じ。一方のMantle版もやはり順に約3%,約1%と,傾向自体は大きく変わらなかった。もっとも,Mantle版で実行したR9290X-DC2OC-4GD5とGTX TITANのスコア差は11〜20%程度に開いており,Mantleの効果は十分に確認できる。
レギュレーション15世代で最も描画負荷の高い「Crysis 3」では,GPUコアクロックを引き上げた効果が出やすいようだ(グラフ4,5)。ここでも対R9 290Xリファレンスカードとのスコア差に注目してみると,R9290X-DC2OC-4GD5は8〜9%程度,GV-R929XOC-4GDで3〜8%程度高いスコアを示している。R9290X-DC2OC-4GD5が安定的に高いスコアを示す一方,GV-R929XOC-4GDが高解像度でスコアを落とす傾向にあるのは,グラフィックスメモリクロックが引き上げられていないためと見てまず間違いない。
グラフ6,7は「BioShock Infinite」のテスト結果だが,ここでのスコア傾向は3DMarkやBF4を踏襲したものになっていると述べていいだろう。端的に言い換えるとクロックアップの効果は小さく,GTX TITANとのスコア差も縮め切れていない。
Bethesda Softworks公式の高解像度テクスチャパッチを導入済みとはいえ,2014年春の時点におけるハイエンドGPUからすると負荷が低すぎる「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)では,ほとんどのテスト項目でCPUボトルネックによるスコアの頭打ちが発生してしまった(グラフ8,9)。
2560×1600ドットの「Ultra設定」でもR9290X-DC2OC-4GD5のスコアは頭打ち気味なのだが,GV-R929XOC-4GDとのスコアが開き気味であることから,クロックアップにあたってはGPUコアだけでなくメモリのクロックも引き上げたほうが効果的である傾向が見えるとはいえそうだ。
「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」(以下,新生FFXIVベンチ キャラ編)の総合スコアをまとめたグラフ10,11だと,対R9 290Xのスコア向上率はR9290X-DC2OC-4GD5が1〜4%程度,GV-R929XOC-4GDが0〜1%程度。ここでのスコアも3DMarkやBF4を踏襲していると述べてよさそうだ。
もっとも,スクウェア・エニックスは,スコア7000以上に対して,最も高いベンチマーク指標「非常に快適」を与えている。その意味では,今回テストに用いたカードならどれを選んでも大差ないと述べるほうが適切だろうが。
一方,グラフ12,13にスコアをまとめた「GRID 2」は,1920×1080ドット解像度でCPUボトルネックによる頭打ちが見られる一方,2560×1600ドット解像度だと,R9 290X搭載の3製品は,動作クロックに応じたスコア傾向になっている印象だ。
消費電力の増大率は大きくない
GPUクーラーの冷却能力は文句なし
多少なりとも動作クロックが引き上げられている以上,消費電力面はどうしても不安になるが,実際はどうだろうか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみたいと思う。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ14で,アイドル時,ゲームアプリケーション実行時とも,R9290X-DC2OC-4GD5とGV-R929XOC-4GD,R9 290Xリファレンスカードとの間に消費電力の大きな違いはない。あえていえば,Crysis 3におけるR9290X-DC2OC-4GD5が少し高めだが,それでもリファレンスカードとのスコア差は11Wだ。おそらく,基板デザインの最適化によって,クロックアップ分の消費電力は吸収されているのだと思われる。
続いてグラフ15は,アイドル時に加え,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」とし,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.7.6)から各GPUの温度を追った結果となる。
もちろん,カードによりGPUクーラーが異なるため,GTX TITANとの比較に大した意味はない。ここでは,R9290X-DC2OC-4GD5とGV-R929XOC-4GDがそれぞれR9 290Xリファレンスカードとどう違うかをざっくり見比べる程度になるが,R9 290Xリファレンスカードにおいて高負荷時のGPU温度が90℃を超えてくるのに対し,オリジナルデザインの2枚がいずれも70℃台に収まっている点は評価していいだろう。定評のあるDirectCU II,そしてWINDFORCE 3X 450Wは面目躍如といったところだ。
なお,本稿の序盤で「静か」だとした動作音だが,筆者の主観であることを断ったうえでもう少し踏み込んで述べておくと,動作クロックが低いためどうか,WINDFORCE 3X 450Wのほうが,DirectCU IIよりも動作音は低い印象を受けた。どちらもPerformanceモードで動作するGPUを冷却しているにしては十分に静かなので,「あえていえば」というレベルだが,念のため書いておこうと思う。
オリジナルクーラー搭載モデルを待っていた人には有力な選択肢。自己責任でのOCもアリ?
「どちらを選ぶべきか」という話は難しいが,正直なところ,クロックアップの効果は大差ない。R9290X-DC2OC-4GD5のほうがGPUコアクロックとメモリクロックのバランスは取れているが,どちらもチップレベルで6Gbpsに対応したGDDR5メモリを搭載しているので,リファレンスカードを大きく超えた性能を望むのであれば,自己責任でオーバークロックをどうぞ,といったところか。
搭載部品の豪勢さではR9290X-DC2OC-4GD5が明らかに優位なので,“遊べる”のはこちらだが,実勢価格はR9290X-DC2OC-4GD5が8万〜8万3000円程度なのに対してGV-R929XOC-4GDは6万8000〜7万5000円程度(※いずれも2014年3月7日現在)となっており,GV-R929XOC-4GDのほうが手を出しやすい。
いずれにせよ,消費税が5%なのは今月いっぱいだ。いまのうちにR9 290Xカードの購入を済ませておきたいという場合に,両製品は間違いなく有力な候補となるはずである。
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