インタビュー
プレイヤーの想像力を刺激するゲームデザイン――ゲーム作家・今井秋芳氏の制作思想に迫る「魔都紅色幽撃隊」ロングインタビュー
今井氏がゲーム業界へ入った経緯
4Gamer:
しかし,ふと思ったんですけど,そもそも今井さんって,ゲーム業界にはどういう経緯で入った人なんですか?
今井氏:
私はもともとデザインの仕事をやりたくて,絵を描いて食べていきたいと思っていたんです。ただ,いわゆるイラストレーターなどではなく,出版向けのデザインだとか,そういうのをやろうと思っていました。けど当時,私はすごくゲームにハマっていて。とくに「ドラゴンクエスト2」が大好きで,自分もこんな仕事をしてみたいって思いたって,その流れでゲーム業界も受けてみたんですよ。そうしたらゲーム会社に採っていただけたので,デザイナーとして入社することになったんです。
4Gamer:
最初に入った会社はどこだったんですか?
最初に入った会社はアトラスですね。まだアトラスがパブリッシャではなくて,開発会社だった頃です。確かちょうど,ナムコから発売された「女神転生II」を作っていた頃だったかな。ただ僕自身は,PCエンジンのタイトルを作るチームだったので,「ダンジョンエクスプローラー」とか「マニアックプロレス」だとか,あのへんのゲームの開発に携わっていました。実は,初めてシナリオを書いた作品は「マニアックプロレス」だったりします。
4Gamer:
じゃあ,いわゆるドッター(ドット絵師)だったんですか?
今井氏:
そうです。日がな一日,ずっとドットを打つ生活でした(笑)。しばらくして,僕はアトラスを辞め,エニックスやセガ,SCE(当時はEPICソニー)などでデザイナーとして仕事をして,独立して自分の会社(シャウトデザインワークス)を立ち上げるんですけどね。だから,ドッターとしての経歴って意味で言うと,メインでやったエニックスの「アクトレイザー」やセガの「ベアナックル2」あたりが代表作になるかもしれません。
4Gamer:
「アクトレイザー」ですか! 懐かしいですねぇ。ちなみに独立した後のお仕事はどんなものだったんですか?
今井氏:
基本的には,それまでに居た会社や付き合いのあるところから,ゲームの一部のデザインを外注として受けたりだとか,そういうものが多かったですね。
4Gamer:
そこから「東京魔人學園剣風帖」を作るに至った経緯というのは?
今井氏:
僕は,24歳ぐらいで起業してからデザインの仕事を中心に請け負っていたんですけど,自分自身でもオリジナルをやりたいなって気持ちがありました。当時,会社では大きなプロジェクトが一つ動いていたんですけど,スタッフが少し余ったんですね。で,だったらもう一つラインを立ち上げようって話になって,メインのスタッフじゃないメンバーで,新人とかサブスタッフを中心に,予算も安く抑えて作ってみよう!――と始まったのが「東京魔人學園剣風帖」でした。あくまでサブのプロジェクトだし,こっちは好きに作ってみようみたいな雰囲気で。
4Gamer:
でも,それが初の監督作品になるんですよね?
今井氏:
そうですね。というのも,今お話したように,メインのスタッフは全員ほかのプロジェクトをやっていましたから,新規プロジェクトの方には中核になれる人間なんかいないわけです。結果として,ゲームのデザインも,お話も,ぜんぶ僕がやるしかなかった。企画をパブリッシャさんに通すための資料作りも,ほとんど自分でやった記憶があります。それこそ,シナリオを書くのだって,剣風帖が初めての経験で。
4Gamer:
今井さんって,学生の頃に小説を書いていただとか,そういうバックボーンはあるんですか?
今井氏:
いや,ないです。だから,僕自身がディレクターだとか,ましてシナリオを書くなんていうのは思ってもいなかったんですよ。実際,僕はデザインが大好きで,絵だけ描いて生きていければいいと思っていた人間ですからね。なんか,僕の事を「シナリオ系の人」だと思っている人も多いみたいなんですが,僕のバックボーンはあくまでデザイナーなんです。まぁ,出版系のデザインをやりたい!って流れで,絵本を作ってみたいなとは思っていたので,そういったものを少しだけ考えたことはあったんですが。
4Gamer:
それはちょっと意外です。かくいう私も,今井さんは「シナリオ系の人」だと思っていましたし。
今井氏:
当然,僕はシナリオライターじゃないから,シナリオを書くのも「剣風帖が最初で最後かな」と思っていたんですが……。その後も,いろいろと書くことになってしまったんですよ。
ゲームを作れるっていうのは幸せなこと
4Gamer:
あの,こういうことを聞くのも失礼かもしれないんですけど,予約とかは好調なんですか?
※本インタビューは発売前(3月20日)に行われている
金沢氏:
そこは言っていいのかな(横にいる広報さんをちらりと見ながら)。まぁ,追加発注とかも結構来ているみたいなので,悪くはないと思いますよ。
4Gamer:
ふうむ。いや,僕が言うのもおこがましいんですけど,やっぱりこういう手間暇かけて作られたゲームがきちんと売れてくれないと,ゲーム業界ってこの先ますます厳しくなってしまうんじゃないかって危機意識があって。まぁ,僕らゲームメディアももっと頑張らないといけないんですけどね。
金沢氏:
いやいや,4Gamerさんにはいつもお世話になっていますよ!
今井氏:
そうですよねぇ。作り手側からすると,幽撃隊がそれなりに売れてくれると,この先「いろいろやり易くなるな」とは思うんですけどね。まぁ,今こうして僕がゲームを作れているのだって,プレイヤーさんに支えてもらってる感というのかな。4Gamerさんもそうですけれど,メディアの皆さんもとても好意的で,応援して頂いているんだなって実感がありますけどね。
4Gamer:
逆に,こういう作品が商業的に駄目だって話になってしまうと,次に作ろうとする人(会社)自体がいなくなってしまうんですよね。良いモノが途切れてしまう。だから,幽撃隊にはぜひ頑張ってほしいんです。
ありがとうございます。まぁでも,その話でいうなら,やっぱり本作って最近はあまり見ないタイプのゲームだとは思うんですよ。端的にいうと,作家性を全面に押し出して,バカ正直にそこで勝負しているって話なんですけど。
4Gamer:
ああ,そうですね。
金沢氏:
最近は,そういう作家性を色濃く出ているゲームって本当に少なくなってしまったじゃないですか。シリーズ作品にしても,もう最初に携わっていた人が作ってなかったりして。そうなると,製品としての質は上がっているのかもしれないけれど,シリーズを重ねるごとに作家性(オリジナリティ)はどんどん薄れているんじゃないかって気がするんです。
4Gamer:
そうかもしれません。
金沢氏:
だから,最初の大元となるクリエイターさんと組んで「魔都紅色幽撃隊」みたいな作品を作れた,こういう作品に関われたっていうのは,僕は(プロデューサーとして)とても幸せなことだなって思うんです。今井さんも,よく「こんなゲームが作れて,俺は幸せだなぁ」って言ってますけども。
今井氏:
いや,どんなものにせよ,ゲームを作れる機会が与えられるっていうのは,私は幸せなことだと思うんですよね。だから,作っている時はとても楽しいですよ。
金沢氏:
今井さんは開発中,めちゃくちゃテンション高いですよね。それこそマスターアップ直前の,僕も含めてスタッフ全員が相当ツライって時期でも,今井さんだけはやたら元気にしてましたし。
今井氏:
いや,だって,作ってるものがどんどん形になっていって,手を入れればすぐに良くなる(それが見える)って時期じゃないですか。「こうした方がやっぱり面白いよな!」とか言いながらカチカチ作ってる時は一番楽しいですよ。
金沢氏:
あの,一応言っておきますけど,開発の終盤ってめっちゃくちゃツライんですよ? でも,真夜中とかも今井さんだけが一人元気で(苦笑)
今井氏:
私は,ゲームを作っててツライと思ったことはないんです(笑)
金沢氏:
でも,喧嘩とかはよくしますけどね。
今井氏:
まぁ,喧嘩して口もきかない時期とかはありましたよね。何度も何度も。
4Gamer:
ふうむ。しかし,お話を聞けば聞くほど,本作は,今井さんだけでも成り立たない作品だったのかもって思うんです。やっぱり金沢さんというか,トイボックスさんのこだわりみたいな部分が組み合わさって,はじめて作り得たという印象があります。
今井氏:
それは本当にあると思いますよ。私ひとりだけだったら,この作品が世に出なかったのは間違いないです。実際,「魔都紅色幽撃隊」の企画って,いろいろな会社にプレゼンしていながら,なかなかプロジェクトとしてはGoが出なかった作品ですし。
4Gamer:
でも,それは具体的にどういった部分で引っかかってしまう(企画が止まってしまう)んですか?
今井氏:
大変そうだからですね。
4Gamer:
大変そう?
今井氏:
はい。さっきも言いましたけど,どこも「企画は面白い」って言ってくれるんですよ。だけど,いざこの企画のプロデューサーをやれる人間が社内にいるかという話になると,やっぱりなかなかいない。新しいシステム、新しい試み満載のこんな面倒くさそうなプロジェクトをやろうって人間はいないものなんですよ。
金沢氏:
まぁ,僕も初めてこの企画を見たときは,「これは大変そうだな」とは思いましたよ(苦笑)。
今井氏:
だから,その意味で言うと,この企画ってモノ作りに対する覚悟がないと,なかなか成立しない部分ってあったと思います。
金沢氏:
ゲーム業界もサラリーマンが増えてきて,同じやるんだったら大変じゃない仕事をやりたい,成功しやすいプロジェクトをやりたいって人が多くなっちゃっていますからねぇ。
今井氏:
まぁでも,それが当たり前だと思うんですよ。その意味でも,今回,金沢さんと一緒にやれたっていうのは,本当に幸運だったと思っています。
僕らはちゃんとした物を作らないといけない
4Gamer:
これは言い方がとても難しいんですけれど,僕はやっぱり,昔ながらのゲーム開発者/ゲーム開発の良さって少なからずあると思ってるんです。そして本作からは,そういう“匂い”や“熱量”みたいなものが感じられるんですよね。どこがどうというのは,なかなか説明しづらいんですけども。
今井氏:
その意味でいえば,私がシンパシーを感じているクリエイターさんというか,同じ業界で「この会社いいな」と思う開発会社さんってヴァニラウェアさんなんですよ。ヴァニラウェアさんって,ゲーム開発者のプライドというか,「ゲームクリエイターってこうだよね」みたいなものをまさに体現されているじゃないですか。
4Gamer:
ヴァニラウェアの神谷さんは,僕も「ドラゴンズクラウン」(PS3 / PS Vita)のインタビューで初めてお会いしたんですが,なんというか,「まだ,こんな人がいるのか!」と驚きました。
今井氏:
本当の「職人」ですよね。だから,同じクリエイターとして好感が持てるんです。幽撃隊で僕が取り組んでいたGHOSTという新しい手法ですが,ヴァニラウェアさんも同じような手法を「ドラゴンズクラウン」でやられていて,似たような事を考えている人が業界にいるんだなと思ったものです。ちなみに僕は「ドラゴンズクラウン」を自分で買ってプレイしたんですが,ヴァニラウェアさんのスタッフさんも幽撃隊には期待して頂いているようで。そういった意味でもクリエイターとしてシンパシーを感じます。
金沢氏:
僕もマーベラス時代に,「朧村正」(Wii / PS Vita)でヴァニラウェアさんとはやり取りがありましたが,あそこは面白さが出るまで“粘る”んですよ。
今井氏:
まぁでも,一方で「パブリッシャさんからすると扱いづらいだろうな」って印象はありますけどね。……私も人のことは言えませんけど(苦笑)
4Gamer:
暴れん坊,みたいな?
今井氏:
はい。ただ,それでも彼らは「ほかが真似できないもの」に仕上げてくるじゃないですか。作品の空気感も含めて,あそこにしか作れない味を常に出してくる。僕は,ほかが真似できないものを作れる人こそが“本当のクリエイター”だと思っているんです。その意味でも,ヴァニラウェアさんは尊敬できるクリエイター(開発会社)だなって思うんですよね。
4Gamer:
今日いろいろなお話聞いてみて,「魔都紅色幽撃隊」も同じ匂いといいますか,共通するものを多く感じますよ。良くも悪くも(笑)
今井氏:
あはは。ありがとうございます(笑)
4Gamer:
では,そろそろお時間も迫ってきましたので,最後に読者に向けてコメントをお願いできますか。
そうですね。僕は,今井秋芳という人は“エッセンスの元になっているクリエイター”だと思っています。「東京魔人學園伝奇」って作品が世に出てきたとき,学園ジュヴナイル伝奇っていうのは,ジャンルそのものが独創的だったと思うし,その後で出来た作品にも,いろいろな影響を与えた作品だとも思っています。
僕としては,そういうエッセンスの元になっているクリエイターの作品にはより多くの人が触れてほしいと思っていて,だからこそ,この作品のプロデュースを引き受けました。とくに「魔都紅色幽撃隊」は,今井さんを知らない人にとっても遊びやすい内容になっていると思うので,ぜひ多くのプレイヤーさんに手にとって頂けたらと思います。作品全編に溢れる今井節みたいなものを味わってほしいですね。
今井氏:
私は,ゲームというのは,プレイヤーさんに未知の体験とか経験を与えるものだと思っています。もちろんそれは,単にシナリオ上でってことではなくて。システムや演出など,出来ることのすべてを駆使して,お客さんに新しいものを見せられればって,そういう思いでゲームを作ってきました。だから,本作を通じて,そうした新しいって感覚を少しでもプレイヤーさんに感じて頂けたら,作り手としてはこれ以上の喜びはないですね。
4Gamer:
それはゲーム業界に入った当初からの考えなんですか?
今井氏:
いや,ゲーム業界に入った当初は,そんな高い志みたいなものはなんにもなくて(苦笑)。さっきもお話しましたけれど,それこそ「デザインで食っていけたらいいな」くらいのことしか考えていませんでした。
4Gamer:
まぁ,若い頃はそんな感じですよねぇ。
今井氏:
だけど「東京魔人學園剣風帖」後に,プレイヤーさんからたくさん手紙を頂いたんですよ。そして,その中で「登校拒否でずっと学校に行ってないけど,魔人学園をやって,学校にいってみようって気持ちになれた」とか,そういうことがたくさん書いてあったんです。
4Gamer:
へえ。
今井氏:
それからですね。「ああ,僕らはちゃんとした物を作らないといけないんだ」と思ったのは。ゲームにはそういう力があるんだと気が付かされたんです。だったら僕らクリエイターも,そういった部分(影響力)をちゃんと考えて,責任を持ってものを作らないといけないって。そういう意識になりました。だから,幽撃隊もそういう思いで作っているし,僕が今後作るゲームも,そこは変わらないのかなと思います。
4Gamer:
そういうゲームを作り続けるためにも,本作が売れてくれるといいんですけどね。
金沢氏:
ほんとにねぇ。
今井氏:
まぁ,僕にできることはすべてやりましたから。後はもう,寝て待つしかないですね。
4Gamer:
分かりました。我々も本作の成功を祈っております。今日はありがとうございました。
今井氏&金沢氏:
ありがとうございました。
――3月20日収録
競争が激しいゲーム市場にあって,今井氏は,「作家性」で勝負ができる数少ないクリエイターの一人である。今回のインタビューでは,そんな今井氏の作家性のルーツとでも言える部分が垣間見えたと思うのだが,いかがだっただろうか。
また,一つの作品を作りあげるためには,クリエイター本人の情熱だけではなく,金沢氏のような支援者も欠かせないこと。こだわりをもってモノ作りをするうえでは何が必要で,何が大切なのか。そういった,普段見えない部分も含めていろいろと納得ができたインタビューだった。
もちろん,すべてのゲームに「作家性」が求められるわけではない。ジャンルによってはそもそも「作家性」が必要ないものもあるし,より広くビジネスをしていく上で,むしろ作家性が,足枷にすらなり得るケースもある。
しかし,10年,20年という月日が経ったとき,なお強く記憶に残っているものには,極めて作家性が強い作品が多いのも,また確かなのではないだろうか。今井氏の作品はまさにそうした類のゲームだろうし,だからこそ,今なお多くのファンに支持されているに違いない。
最新作である「魔都紅色幽撃隊」も,そんな今井氏の魅力が詰まった作品だ。作品としての質も非常に高く,自信をもってオススメできるゲームなので,今井ファンだけではなく,ぜひいろいろな人に遊んでみてほしいと思う。
今井秋芳★朧月夜に吼える龍
「魔都紅色幽撃隊」公式サイト
「トイボックス」公式サイト
キーワード
(C) ARC SYSTEM WORKS/TOYBOX Inc.
(C) ARC SYSTEM WORKS/TOYBOX Inc.
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