インタビュー
プレイヤーの想像力を刺激するゲームデザイン――ゲーム作家・今井秋芳氏の制作思想に迫る「魔都紅色幽撃隊」ロングインタビュー
本作は,《霊》が巻き起こす数々の事件を仲間達と共に解決していくという,「學園ジュヴナイル伝奇」の流れを汲むタイトル。プレイヤーは,新宿の高校に転校してきた生徒として,さまざまな事件に乗り出していく。
全13話構成となるアニメ作品のようなストーリー展開に,特徴的な「五感入力」システム,さらに“ゴーストとの戦い”を表現した独創的なバトルシステムなど,良い意味でエッジが利いている本作は,長い間,新作を待ち望んだ今井ファンを唸らせる内容に仕上がっている。
プレイした感想を率直に言うと,本作はかなり「作り込まれた作品」だと言える。とくにゲームシステムや世界観,ビジュアル,音楽,インタフェースは,すべてが絶妙にマッチしており,作品全体の“統一感”という意味では,近年稀に見る水準の高さだ。
シナリオも,全編にわたって今井節が散りばめられており,いわゆるオカルト/伝奇ものが好きな人にとっては,かなりぐっと来るものがある。作品の雰囲気がとにかく素晴らしいのだ。
そもそも,このご時世,ここまで“作家性”を全面に押し出したゲームタイトルも珍しい。ゲームビジネスやプロモーションという観点で見ても,本作はかなり“稀有な作品”なのではないか。
こんな作品を作り上げた今井氏とは,どんなクリエイターなのだろう?
4Gamerでは,さっそく本作のディレクターを務めた今井秋芳氏と,プロデューサーの金沢十三男氏のお二人にインタビューを申し込み,いろいろな話を聞いてみた。本作が作られた経緯や背景にあるもの,考え方,情熱,思い――本作がいったいどのようにして作られた作品なのかを根掘り葉掘り聞いて,ゲーム作家・今井秋芳氏の思想,そして人物像に迫ってみた本インタビュー。ぜひご一読を。
「魔都紅色幽撃隊」公式サイト
良い意味でユーザーに媚びない作品
4Gamer:
今日はよろしくお願いします。
今回,インタビューをするにあたって,「魔都紅色幽撃隊」(以下,幽撃隊)を事前に遊ばせて頂いたんですけども,お世辞とかではなく「これは良く出来てるな!」と思いまして。
今井氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
僕はゲーマーなので,システムのロジックや細かいところをつい見てしまうんですけれど,本作は,とくにバトルシステムが良く出来ていると思うんですよね。プレイムービーの紹介記事でも書かせて頂いたんですけど,小説や漫画などにある,あの“幽霊退治の雰囲気”をとてもうまく再現してるなと思って。
今井氏:
いや,そう言って頂けると,新しい作品に挑戦しようと取り組んだ事が報われた気がして,とても自信になりますね。嬉しいです(笑)
金沢氏:
完全に独自のシステムですからね。他ではまったく見ないような。
今井氏:
企画段階での説明からして,いろいろな意味で難しかったんですよ。
金沢氏:
そうですね。企画の時点ではとくに,今井さんの中にしかその面白さはないものですから。それを周りのスタッフに伝えるのにも結構時間がかかってしまって。
今井氏:
かかりましたねぇ。色々なボードゲームを買ってきては,その面白い要素や仕組みを説明したりして。
4Gamer:
今井さんってボードゲームは結構遊ばれるんですか?
今井氏:
私は,アバロンヒルやツクダホビーなど,アナログのボードゲームが結構好きで,よく遊んでいるんですよ。だから,幽撃隊のバトルシステムを説明するときには,似たようなルール――いわゆるプロット制(※)のゲームをいくつか買ってきて,みんなにプレイしてもらったりといったことをやっていました。まぁ,ボードゲームの方は複雑なものが多くて,それをそのままコンシューマゲーム市場のお客さんには遊ばせられない。だから,プロット制の面白さをうまく使いつつ,ゴーストとの戦いをどう表現するか,みたいなことを考えていましたね。
※ユニットの行動を事前に決めて,ターンを同時に処理するというルール
4Gamer:
なるほど。ボードゲームって,なんといいますか,“それっぽさ”を上手に表現している作品が多いじゃないですか。それも,ビジュアル的な部分だけじゃなくて,その事象(≒歴史上の戦いなど)そのものをうまいことルール(システム)で表現している。幽撃隊の戦闘システムも,実際に遊んでみると,とても“それっぽい(幽霊退治っぽい)”のが凄いなと。
今井氏:
ボードゲームの凄さって,やっぱりデジタルゲームがない頃の人間の知恵が込められてるからだと思うんですよね。ウォー・ボードゲームにしても,この戦いを表現するのにこういうルールでこんな見せ方にしようっていうのは,まさにアイデアとクリエイティビティが詰まっている部分だと思うんですよ。
4Gamer:
分かります。しかし,本作のバトルシステムがとても良く出来てるなと思う一方で,言い方が悪いですけど,ぱっと見がとても地味じゃないですか。あの画面からユーザーさんに面白そうと思わせるのがとても難しい。ビジネス的に見たら,これはかなりリスクのある選択だなとも思うんです。
今井氏:
そのとおりですね。
4Gamer:
なので,プロデューサーサイドがよくこれを許したなというか。そのあたりも不思議だったんですけど。
金沢氏:
そこはもう,僕の懐の深さといいますか。
一同:
(爆笑)
4Gamer:
金沢さんの方から「もっとビジュアル的に分かりやすくして!」みたいなオーダーはしなかったんですか?
うーん。確かに初めは「面倒くさいシステムだな」とかって思ったんですよ。でも,今井さんがずっと「絶対面白くなるから!」って説得してきて。今井さんはとにかく熱い方なので,その情熱も含めて「大丈夫だろう」って確信はあったんです。それに,この作品の伝えたいものが何かといったら,そこは「作家性」だとも考えていました。そして,その部分の答えは今井さんが持っているべき――ということで,いろいろと疑問や不安はあったんですけれど,最終的に“今井さんに預けた”というところもあります。面白さやコツが分かるまで少し時間がかかるかもしれませんが,新しいことをやっている限り,それは避けられないだろうと。
4Gamer:
これはとても言い方が難しいんですけれど,本作を遊んでいてとても強く感じたのは,よい意味で“媚びてない”ところなんですよね。
金沢氏:
媚びてない?
4Gamer:
あんまり商売商売してない感じと言うんですかね。あくまでもクリエイティビティ重視で,そこをもっとも尊重している雰囲気……とでも言えばいいんでしょうか。
今井氏:
ああ,いったいどういう流れでこんなゲームに仕上がっているんだって話ですよね(苦笑)
4Gamer:
はい。「この時代に,よくこんなゲームを作れたな」といいますか。やっぱり,ゲームを仕事として作る以上は,ある程度“売れ線を狙っていく作業”ってあると思うんです。それが駄目だって話では決してないんですけども,そのせいで「本当はこうしたいんだけど,でも今の時代はこれが無いと売れないよね」みたいな議論は少なからず起きるし,それがゲームにも現れちゃったりする。しかし,この作品からは,あんまりそういう“匂い”が感じられないんですね。本作では,その辺の議論ってどうされていたんですか?
金沢氏:
いやまぁ,別に今井さんや僕が売れ線を狙ってないというわけではないんですけどね。キャラクターデザインに倉花さんを起用させて頂いたのだって,今の時代に合わせてのことですし。ただ,確かに“媚びて”はいませんけれど,今井さんなんかは,「プレイヤーさんがどう思うか」みたいな部分はかなり考えながら作っていますよね。
今井氏:
基本的にはそうですね。僕は,自分がやりたいことというよりは,プレイヤーさんがどう受け取るのかなって部分を常に考えるようにはしています。
4Gamer:
「媚びること」と「プレイヤーのことを考える」ってことは別のことですよね。
金沢氏:
あんまり商売商売してないというのはおっしゃる通りだと思います。もちろん,ビジネスとして失敗していいってことではないんですが,“商売でゲームを作る”だけなら,別に独立しなくてもよかったので。
今井氏:
そのへんは,金沢さんというか,トイボックスって会社の特徴でもありますよね。
金沢氏:
そうかもしれませんね。10年後とかに振り返った時に,きちんとクリエイティブなものを残せているか,クリエイティブな足跡を残せているかって。トイボックスは,そういうところを目標にしている会社ですから。
いつか一緒に仕事ができればと思っていた
4Gamer:
しかし,幽撃隊って普通にパブリッシャさんに企画を売り込んで――みたいな立ち上がり方だったんですか?
今井氏:
基本的にはそうですね。ただ,それもしばらくはなかなかうまくいかなくて。企画自体は「いいね」って言ってもらえるんだけど,プロジェクトとして正式にGoが出るところまではこぎ着けられずにいたんです。そんなときに,金沢さんが声をかけてくださって。
そうですね。僕がトイボックスって会社を和田(※)と一緒に立ち上げて,しばらくは忙しくて,今井さんにも会えてなかったんですよ。だから,久しぶりに会おうよって,今井さんが良く通ってた飯田橋のカナルカフェで待ち合わせしたんです。その時は,とくに仕事の話をって感じじゃなくて,普通に雑談をしていて。その中で「僕もフリーみたいな状態だし,せっかくだから何か新しい企画を一緒にやらない?」ってお話をさせて頂いたんですね。その時にいろいろと見せてもらった企画の中に,魔都紅色幽撃隊の原案になるものがあったんです。
※和田康宏(わだやすひろ):トイボックス代表取締役社長。「牧場物語」シリーズの生みの親として知られるクリエイター。元マーベラス・エンターテイメント(現:マーベラスAQL)代表取締役
4Gamer:
そもそも,今井さんと金沢さんってどういうご縁なんですか?
金沢氏:
僕はもともと,パック・イン・ビデオ(※)という会社にいて。その頃に,僕のラインでなにか企画を立ち上げようと思っていたんですけど,誰かディレクションが出来る人や会社はないかって探していたときに紹介してもらったのが,今井さんだったんです。その時の企画は結局は形にならなかったんですけど,お互い意気投合して,仕事と関係なく一緒に飲みに行ったり,ゲームを遊んだりってことをよくしていたんです。
※かつて存在したゲームメーカー。元々は映像事業が主体だったが,1980年代後半にコンピュータゲーム市場に参入。2007年にマーベラス・エンターテイメント(現:マーベラスAQL)に買収された
今井氏:
「マジック:ザ・ギャザリング」や「Diablo」とかを一緒に遊んでいたんですよね(笑)
そうそう。「Diablo」が出た頃なんかは,ホントやりまくっていて。別に仕事でもないのに,今井さんの会社にもよく出入りしていたんですよ(苦笑)。そんな僕が遊んでる横で作られていたのが,「東京魔人學園剣風帖」だったんですよね。で,当時,僕は全然関係ないのに,やたら熱く魔人學園の話を聞かされていたんです。だから,この人は「とにかく熱い人だなぁ」という印象はずっと持っていて。いつか一緒に仕事ができればと思っていたんですね。
4Gamer:
なるほど。それで金沢さんが会社を立ち上げたタイミングで,ということですか。
金沢氏:
はい。で,どうせやるなら,今井さんの本筋であるジュヴナイル伝奇モノがいいなと思って。実際に話を聞いてみると,企画の内容もとても面白そうだったので,これでやってみようって話になりました。
4Gamer:
アークシステムワークスさんで発売される経緯はどういったものだったんですか?
これは偶然なんですけど,今井さんから企画を預からせて頂いて,パブリッシャさん向けのプレゼン資料を作っていたんです。で,その資料がちょうど作り終わるって頃に,本当にたまたまなんですけど,アークシステムワークスさんの木戸岡社長を共通の知り合いから紹介されたんです。
お会いして最初は,そんなに企画のことを強く押すつもりもなく,ただ世間話をしていたんですけど,あらかた話し終わった後に木戸岡社長から「企画があるって聞きましたが」と言われたので,軽くお見せしたところ,とても気に入って頂いて。その後は,開発スタートに向けてどんどん前向きに話がまとまっていったんですよ。
4Gamer:
ちなみに本作って,発売がアークシステムワークスさんで,開発がトイボックスさんという座組ですけれど,開発体制としては,いわゆる「今井チーム」みたいな体制で作られているものなんですか? 本作は,かなり細かいところまで行き届いた作りになっているので,これを外注みたいな体制で作るのは難しそうだなとも思ったのですが。
金沢氏:
ああ,そうですね。実は,最初は開発はどこかにお願いしようかと思っていろいろ進めていたんですが,途中で「これは今井さんの意図を理解できるチームで作らないと無理だな」と思い直して。プログラムやデザインの基本部分は,今井さんのチームに移管する形で制作しました。今井さんは,本当に細かいこだわりがある人なので,その場で指示が飛ぶような環境じゃないと作れないなと思ったんですよね。
今井氏:
金沢さんにはよく言われたんですよ。「今井さんの作品は,普通に流れで外注に出したら絶対作れないものだと思っている」と。
4Gamer:
それは端から見ていても分かる気がします(笑)。幽撃隊に関しては,今井さんはどこまで直接見る形だったんですか?
金沢氏:
基本的には全部だよね。
今井氏:
企画原案はもちろんそうですが,システム,シナリオ,イラストや音楽,声優のキャスティングとか……ほんとうに全部ですね(苦笑)
金沢氏:
全部やらないと気がすまない人なんですよ。
今井氏:
気が済まないというワケではないんですけどねぇ。作品としての統一感というか,オリジナリティを出すには,見なければならないなと思って。これは,「剣風帖の頃からずっとそうですね。
キーワード
(C) ARC SYSTEM WORKS/TOYBOX Inc.
(C) ARC SYSTEM WORKS/TOYBOX Inc.
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