インタビュー
無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
4Gamerが,最後に稲船敬二氏にオフィシャルな話を聞いたのは,2012年9月7日のこと。遡ることおよそ1年前,氏が小説「REM」を発表したときだ。その後も,comceptからのリリースや,たまにお会いしたときのたわいない雑談から大体の動向はつかめていたものの,1年以上にわたり,長丁場のインタビューという形で誌面に登場してもらう機会はなかった。
その間も氏は,「SOUL SACRIFICE DELTA(ソウル・サクリファイス デルタ)」や「YAIBA:NINJA GAIDEN Z」,そして2013年8月末のPAXでサプライズ発表したKickstarterプロジェクト「Mighty No.9」など,立て続けに大きな動きを見せている。
ドロップアウトして自らの会社を立ち上げるクリエイターは多いが,辞めてなお,矢継ぎ早に作品を発表する人は珍しい。スマートフォン関連の作品まで含めると,一体いくつの作品を発表しているのか。
それらの大きな動きで健在ぶりを強くアピールした氏に久しぶりに話を聞いてみようと思い,東京ゲームショウが終わった直後に時間をもらったのが,今回のインタビューの趣旨だ。
なぜKickstarterでのプロジェクトを立ち上げたのか,最近は何を考えて仕事をしているのか,ひとり立ちして3年,考え方はどう変わってきたのか。
いざ始まってみたら,いつものように話があっちへこっちへと長くなってしまい,いささか読みづらい記事になってしまった。昔のような「トゲトゲした鋭さ」はすっかり影を潜めた稲船氏だが,言ってることとやってることは変わっていない。昨今の氏の動向をチェックする意味でも,ぜひお読みいただきたい。
Mighty No.9(以下,Mighty)のプロジェクトスタートから東京ゲームショウ(TGS)での「SOUL SACRIFICE DELTA(ソウル・サクリファイス デルタ)」(以下,デルタ)の出展など,怒濤の時期がようやく過ぎましたね。
TGSでのデルタの出展おめでとうございます。直前は大変だったのでは?
稲船敬二氏(以下,稲船氏):
いやぁ,それほどでもなかったかな? いやもちろんスタッフは大変でしたし楽じゃなかったですが,なんか慣れたというか(笑)。
4Gamer:
ずいぶん忙しそうでしたが,TGS会場って見て回れたんでしょうか。
稲船氏:
いやいや。4Gamerさんみたいなところのお相手が4日間みっちり詰まってて,まったく見て回れませんでしたよ!
4Gamer:
それはすみません。まぁ私は雑談しただけですが(笑)。
稲船氏:
見て回れないどころか,近くのホテルやら国際会議場やらでずっとインタビューを受けてて,会場の中に入れたのは,確かようやく3日目の夕方だった気がします。
4Gamer:
それもどうなんでしょう……。
稲船氏:
Facebookなんかに上がってる写真を見て「へえ,中はこうなってるのか」とか「SCEブースはこんな感じなのね」とか言ってるという(笑)。
4Gamer:
隣のホテルの部屋にいながらTGS気分を。
稲船氏:
いやホントに(笑)。まぁでもありがたいことですけどね。みなさんに話を聞いてもらえるというのは。
4Gamer:
デルタの評判はどうでした?
稲船氏:
うーん,あれって凄く分かりやすく伝えようとすると,モンハンで言うところの「G」に近い作品ですよね。でも,「デルタ」は変更や追加のポイントがあまりに多いので,「ソルサク2」まで行かなくても「ソルサク1.9」とでも言えるような作品なんです。
だから皆さん“新作だ”ということは分かってくれてるようなんですが,“続編”なのかなんなのか,なかなか理解されてないんだな,ということが分かりました。
4Gamer:
アップグレード版……ですよね。
稲船氏:
そうとも言えます。でも,昔で言うところのディレクターズカット版みたいな「ちょっとだけ変わってます」みたいなものじゃないわけですよ。
ユーザーの声を聞いて調整して,よりクオリティを上げていくという「G」のやり方って,実はモンハン独自のものだったんですねえ。
4Gamer:
それに改めて気付かされた?
稲船氏:
「2」じゃないんだ,という説明は昔から大変でしたが,やっぱり自分でいろいろやるようになっても,同じことで大変な思いをしているという(笑)。これね,ホントに理解されてないこと多いんですよ。
4Gamer:
なにがしかのシンプルな言葉が必要なのでは。「続編だけど2じゃないんです」ってやっぱり割と伝わりづらい気はしますし。
稲船氏:
そうですねえ……。例えばソルサクって,体験版出しましたよね。あれって結構評判よかったんですよ。それで,そのときのフィードバックを受けていろいろと改善したのが,製品版として出したソルサクなんですね。
4Gamer:
つまりそういう関係だということですよね,デルタも。
稲船氏:
そう。言うならば――これは誤解を招きかねないので言い方は難しいんだけど――「ソルサク」本編に対して,「デルタ」が真の「ソルサク」と言えるわけです。
4Gamer:
それは,言葉だけが独り歩きすると非常に危険な気もします……。
稲船氏:
そうなんだよね(笑)。だからなかなか説明が難しくって。
いま言ったようなことは,もちろん日本のメディアさんはバッチリ大丈夫なんだけど,海外のメディアさんはモンハンを知らないことも多いので,ホントに説明が大変で。
4Gamer:
あぁ,確かに海外の方はそうかもしれませんね。
稲船氏:
ファミ通さんとか4Gamerさんとかなら,「いわゆる“G”です」だけで通じるんだけど(笑)。
4Gamer:
メディアならずとも,日本のユーザーさんもおそらくそれで十分でしょう。
稲船氏:
向こうには「Call of Duty G」とかないですもんね。
まぁでもおかげさまで完成度は相当上がってますよ。単に,モンスター増やします,魔法増やします,調整がんばります,とかそういう話だけじゃないですし。
4Gamer:
第三勢力の存在とか。
そう。あれが受け入れられないと,デルタそのものが成り立たない可能性すらある重要なものだけど,僕は受け入れられるであろうことに自信持ってますよ。
4Gamer:
ユーザーもきっとそれを好むはずだ,と?
稲船氏:
いやあ,そういう声大きかったしね。「対立」のどちらにも属したくないというか。
救済も生贄も,言うならば戦い方も武器も報酬も,突き詰めれば一緒なわけですけど,そこが大きく変わるわけです。“救済派”に属しながらガンガン生贄にしてもいいわけだし(笑)。
4Gamer:
遊び方がドラスティックに変わる可能性がありますね。
稲船氏:
もちろんベースは最初のソルサクなんだけど,イメージが相当違うものに仕上がると思いますよ。
Kickstarterという「門」を開けたということ――後進の人の参考になればいいんだけど
4Gamer:
まぁそんなこんなで,デルタがあって,Yaiba NINJA GAIDEN Z(以下,Yaiba)があって,Mighty No.9(以下,Mighty)があって,相変わらず慌ただしい感じですが,じゃあTGSでのインタビューなんかは3作それぞれで相当入ってた感じなんですね。
Mighty No.9 |
Yaiba NINJA GAIDEN Z |
稲船氏:
そうですね。3つの作品に対してアプローチいただけるので,結構幅広くインタビューを受けさせてもらった感じです。
4Gamer:
TGSともなれば世界中のメディアが集まるわけですが,どの作品が一番引きが強かったですか?
稲船氏:
“引き”という意味ではデルタとMightyかなぁ。半々くらい。
4Gamer:
まぁYaibaは,ここんとこコンスタントにいろんなところに出展してますし。
稲船氏:
そうそう。だからちょっと不利ですね。海外のゲームショウでも,皆さんにイヤというほどインタビューされたし(笑)。
4Gamer:
海外メディア的には「もう知ってるし」という感じかもしれませんしね。Mightyはやはり海外メディアメインですか?
稲船氏:
それなんだけど,日本の人の反応とは明らかに違いますね。そもそも,会って最初の言葉から違います。
4Gamer:
というと?
まずみんな,開口一番「Mighty No.9おめでとう! Kickstarterの成功おめでとう!」って言ってくれるんですよ。海外は,デベロッパ仲間もパブッリシャもみんなそれを言ってくれますね。
4Gamer:
という言い方からすると,日本はそうでもない……?
稲船氏:
いや,同じ開発者仲間は言ってくれますよ。「おめでとう」って。でもそれ以外は,無反応というか,知らない人も多い。
4Gamer:
Kickstarterって,少なくとも日本においては広く知れ渡ってるわけではないことを最近感じますね,確かに。あと存在は知っていても,Kickstarterでお金を集めるということの意味が,理解されていないのかな,とか。
稲船氏:
いやあ,その可能性は……あるのかな。聞いて回ったわけではないですが,可能性としてはありえるのかもしれませんね。
つい先日業界の人が「2億くらい集めたところでゲームなんか作れないのにねえ」と言ってたらしいんですが,つまりはそういう理解なのかなぁ,って。
4Gamer:
2億ぽっち大した金額じゃない,ってことですか?(笑)
稲船氏:
ええ,たぶん。まぁ確かに2億じゃ「Call of Duty」も「バイオハザード」も作れませんが,そういう話ではないじゃないですか,これって。
4Gamer:
にしても順調ですねえ,Kickstarter。もう2億をとっくに超えてます。
(編注:インタビューは,締め切り前の9月27日に行われた)
稲船氏:
過去最高のペースに近い感じで進んでると向こう(=Kickstarter)も言ってたので,いい感じで落ち着いてくれることに期待してます。
(編注:ご存じのように,最終的には4億円の出資金を集めるに至った。惜しくも過去最高の金額ではなかったが,コンシューマゲームソフト系では歴代1位の堂々たる記録だ)
4Gamer:
一番出資者が多いのは,やはりアメリカ?
稲船氏:
ですね。あとお金という意味では,やはり中東がすごいですよ。
4Gamer:
聞くからにすごそうです……。
稲船氏:
この前中東の出資希望者の人からメールが来て「全部のコースに出資したいんだが,それが出来るようにしてくれないか」って。しかも本気なんですよね。
4Gamer:
オイルマネーすごいなぁ。というか,稲船さんが中東で著名なことにも驚きますが。
稲船氏:
皆さんに喜んでもらえてホントに嬉しいです。まだ出来てもいない作品に対して身銭を切ってくれる人が4万人以上(編注:これもインタビュー当時の数字)もいるんですよ。これって本当にすごいことです。
4Gamer:
「売り上げ4万本」とはまた違った意味がありますね。
稲船氏:
でしょう? だって4万人って,甲子園球場一杯分くらいですよ。すごいことですよこれ。「たった4万かよ」って言う人もいるかもしれませんが,世界中に4万人もいてくれることは本当に素敵なことです。
4Gamer:
まぁ2億は堅いだろうと踏んでたんですが,思ってたより全然ペースが速いです。人への投資ということは,僕が想像していたよりはちゃんと浸透してるんですね。
稲船氏:
そうですね。あと,お金の面以外にもいろいろいいことがあるんですよ。ゲームが作れるということはもちろんですが,今回のKickstarterの発表のおかげで,いろんな人から声をかけられるようになったんですね。
4Gamer:
ゲーム業界以外,ということですか?
です。なにせMightyって僕らが権利を持つコンテンツですよね。その権利を使って何かやりませんか,というお誘いは多いですね。
4Gamer:
デベロッパであり続ける限りはお声のかからない内容ですね。
しかしKickstarterを実際に始める前は,自分ではどれくらい行くと思ってました?
稲船氏:
そういうのって「希望」と「ミニマム」がありますよね。
4Gamer:
できれば両方教えてください。
稲船氏:
希望はやはりゲームソフト系トップの額ですね。4.1億を超えたいし,もっと言うと5億くらいまでいきたい。
最低では,やはり2億はいきたかったですね。2億を超えたら初めて喜ぼう,って。
4Gamer:
じゃあ喜ぶためのミニマムラインは超えましたね。
稲船氏:
後半で結構伸びると聞いているので,4億は超えたいなぁ……。やはり,やるからにはいい結果で終わらせたいですし。
4Gamer:
Kickstarterの過去の実績をいろいろ調べてたんですが,実はゲームってそんなに勝率のいいジャンルじゃないんですよね。音楽とかアート系は比較的集まりやすいようなんですが,ゲーム系ジャンルだと,Successマークが付くのは大体3割くらい。
稲船氏:
それは,いいゲームを作れる人がまだたぶん本腰入れて参加してないからなんですよね。まだほんの一部だけに偏ってるというか。
4Gamer:
Kickstarterのゲーム系で名前を見かけるのって,「かつての偉人」も結構多いですしね。あれはあれでちょっとどうなんだろうなぁ,Kickstarterの趣旨に合致してるのかなぁ,と思う気持ちもちょっとあります。
稲船氏:
ね。だからきっとこれからですよ,Kickstarterが主戦場の一つになっていくのは。
今回やってみてホントによかったな,と思ったのは,Kickstarterという「門」を開けたことですよ。あとから来る人の参考になってくれればいいんだけど。
4Gamer:
そうですね,実行にはいろいろな問題や障害があるとはいえ,形として見せられたのは大きな一歩だと思います。
そう,そこ。あの門って,開けたはいいけど,非常に入りづらいわけですよ。そもそも入り方もよく分からないし,入る条件も結構厳しいですし。
4Gamer:
稲船さんなんかもそうですが,リチャード・ギャリオット,ピーター・モリニューくらいのクラスの人だから出来るんだよな,と言われてるままじゃ,ちょっともったいないですよね。
稲船氏:
そこをなんとかしたいなぁ,って思っててね,今。
4Gamer:
……またなんか考えてるような口ぶりですね。
稲船氏:
うん,インディーズ系でちょっと考えてる。でもまだ話す段階じゃないので,また今度(笑)。
4Gamer:
残念。ではいずれ近いうちに。
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