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「チェンクロ」伝承篇インタビュー。人気キャラを活躍させるための方向性や,開発陣の愛が度を超えたチェンスロの裏話も
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印刷2018/10/22 17:00

インタビュー

「チェンクロ」伝承篇インタビュー。人気キャラを活躍させるための方向性や,開発陣の愛が度を超えたチェンスロの裏話も

 セガゲームスのスマホRPG「チェインクロニクル3」iOS / Android / PC。以下,チェンクロ)で,2018年9月27日に提供が開始された,新ストーリーコンテンツ“伝承篇”について,総合ディレクターの松永 純氏に話を聞いてきた。

 彼の若き日の姿に,想像をいい意味で裏切られた「ヨシツグ伝」の内容はもちろん,チェンクロ部によって開発されているスロットの裏話も愛が深かった。

「チェインクロニクル3」総合ディレクターの松永 純氏
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過去を埋めたぶんだけ,深く広がっていく


4Gamer:
 今回は「伝承篇」のお話となります。先日のインタビューでもチラッと触れましたが,まずはあらためて「伝承篇ってなんなの?」から教えてもらえますか。

松永 純氏(以下,松永氏):
 はい,伝承篇はそのものズバリ“(本編の)過去の物語”です。あのキャラクターたちの過去には実はこんなドラマが! という展開がとにかく楽しめます。チェンクロでは年々キャラクター数が増加していますが,運営初期からの根強い人気を持っているキャラクターが本当に多いので,彼らをあらためて活躍させる場として,過去を中心に描いていく伝承篇を用意したんです。

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4Gamer:
 人気キャラなんて,多すぎて数えきれませんけどね。でも,第3部のレジェンドキャラクターも言ってしまえば,第3部で同じような活躍を見せられるのでは。

松永氏:
 いえ,意外とそうでもないんです。レジェンドキャラクターは作中での立ち位置が伝説の義勇軍,要は「先達」であるため,先輩としての活躍を見せたいんですよね。でもそれって,見せ方がわりと限られます。第1部と第2部の積み重ねを踏まえると,あまり格好悪い姿も見せられなかったりして。

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4Gamer:
 たしかに。第3部はキャラクターの成長した姿にワクワクしたので,代わり映えしなかったら「なんだかなぁ」となっていたかも。

松永氏:
 キャラクターの魅力って,レジェンド勢のように「成長してかっこよくなった!」ってのもあれば,逆に成長しきっていない「未熟だからこそ好き!」ってのもあるじゃないですか。だから,一面性を伝えるだけに留まらないやり方として,もっと自由に描きやすい場を用意しようと。それが第1部以前の過去のお話であり,伝承篇というわけです。

4Gamer:
 論理的ですね。「過去ってだけで面白い」くらいに考えていました。

松永氏:
 いや,ぜんぜん,そういう感覚で楽しんでもらえればと思っています。

4Gamer:
 と言いますと。

松永氏:
 伝承篇を用意したもうひとつの理由に,チェンクロの物語を5年間描いてきて,この世界の歴史というか,広がった物語について,正直なところ「まだ埋めたりない」と感じていて,それが埋まっていく楽しさを味わってほしいという想いがあります。だから「過去ってだけで面白い!」と受け取ってもらえたのなら,最高ですね。

4Gamer:
 設定や伏線,それらが紐づくのが過去だから,そこで回収しようと。

松永氏:
 ええ。それに物語を5年も続けてきたため「あれって,なんだっけ?」「ここって,どういうこと?」といった,読む側の負担も増えてきました。なので,あらためて物語や設定を振り返りつつ楽しめるものにしよう,という意図もあります。

4Gamer:
 タイミングがとてもよかったです。第3部で次々と謎が増えている中で「風呂敷を畳む物語」が出てきたので,読み味が新鮮でした。まぁ,新しい謎も増えましたけど。

松永氏:
 そうですね,いろいろ出してます(笑)。

4Gamer:
 意地の悪い質問としましては,風呂敷を畳んでいくさまが「終わりに向かっている」ようにも受け取れてしまいますが,いかがでしょう。

松永氏:
 おっ,そうですか? こちらとしては「5年経ってもこんなに新しい物語のワクワクがあるんですよ!」と出したつもりです。それに先ほど仰られたように,伝承篇の中にも“今”につながる新しい謎を散りばめているので,完璧な所作で風呂敷を畳んでいるわけではありません。

4Gamer:
 なるほど。伏線を消化するためだけの物語ではないんですね。

松永氏:
 それと実際に出してみたところ,「もうちょっとやってほしい」という,当初の予想以上の反響を多くいただけました。すごく嬉しかったです。

4Gamer:
 もうちょっと。よく分かります。「もっと長くても!」だと制作陣に対する暴力になってしまうかもしれませんが,それくらい興味関心を向けられる内容でした。

松永氏:
 九領と精霊島による過去の戦争を,今後もいくつかのお題で描いていく予定ですが,そういった声をより多くいただけるのなら「もっともっと埋めていいかも」と思えます。選出するテーマや時代を広げたり,ヨシツグ伝の前後をさらに広げたりとかもできてしまいますから。

4Gamer:
 私も逆説的に「過去はいくらでも描いてほしいし,描けそうなのでは」と思ってしまいました。それこそ“主人公との出会いの直前まで”をいくらでも膨らませそうですし,「ヨシツグ伝 その2」だって十分書けてしまいそうです。

松永氏:
 結局,埋めたら埋めたぶんだけ,そこ以外の物語がどんどん浮かび上がってくるんですよね。だから,描くべき過去に際限はないんです。

4Gamer:
 さっきの発言を翻して言うと,終わりに向かっているどころか,終わりが見えないほどの「新しい過去の物語」を生み出すことも可能そうです。これも世界観の厚みがしっかりと練られてきたからこそ,なんでしょうね。

松永氏:
 ありがとうございます。「もっとほかの過去も見てみたい!」との感想を多くいただけたら,それに応える展開をできればと思っています。そうして,チェンクロの物語は過去のほうへも広がっていきます。そのためにも当面は,現在を描く物語過去を描く物語,この2軸で世界観を深めていきたいと考えています。

4Gamer:
 メインストーリーと並べるとなると,伝承篇は大型のコンテンツとして構想されているのでしょうか。

松永氏:
 それくらい気合を入れてます! 正直なところ,最終的にどれくらいのコンテンツになるのか,ちゃんとは決めていません。今は発表済みのテーマをとにかくやりきり,魅力的な物語に仕上げることを目標としています。そのうえで,もうちょっと先まで続けるとか,本編のようにイベントと連動させるとか,評判次第で可能性を探っていけるといいですね。

4Gamer:
 なるほど。では,伝承篇の今後のスケジュール感を教えてください。

松永氏:
 現在提供中の「ヨシツグ伝」に次いで,今後は「ヴェルナー」「ユリアナ」「アシュリナ」「シルヴァ」「主人公(義勇軍の隊長)」にフォーカスした物語を提供する予定です。各篇の名称はそれぞれ「〜〜伝」で統一することにしました。

4Gamer:
 「〜〜伝」にしたのは,なにか意味があったり。

松永氏:
 パッと見で“誰が活躍するのか”を伝えたかったんです。「九領篇」「湖都篇」などは抽象的で,どのキャラクターが活躍するのかは分かりづらいのですが,「アシュリナ伝」や「ユリアナ伝」なら分かりやすいですから。ただ,ヴェルナーだけは長編のため「魔法兵団学生伝」となります。いずれにしても,活躍するキャラの顔がなるべく見えるものとしました。

4Gamer:
 シンプルかつ洗練されていますね。

松永氏:
 でも,ヨシツグ伝は本当は「ヨシツグ&シュザ&ラファーガ伝」にしたかったんですけどね。なげーなと(笑)。

4Gamer:
 それだとさすがに,なげーですね(笑)。あと,伝承篇はいつでも遊べる常設コンテンツになるのでしょうか。

松永氏:
 はい。イベントとしてもライブ感を持って楽しめるし,物語としてもいつでもずっと楽しめるしと,そういうものにしていきたいです。

4Gamer:
 ゲーム内では伝承篇に関連する,ユグドの歴史の「年表」も公開されていますが,プレイヤーはこれを見ながら遊ぶのが最善でしょうか。

松永氏:
 そう考えています。年表の気になる一文を取っかかりに,ワクワクしてもらえたら嬉しいです。そうやって,チェンクロ世界の歴史を「埋める」感覚を楽しんでください。

4Gamer:
 ゲーム内だと「年表を見るページ」に遷移しづらかったので,導線がもうちょっと分かりやすくなると嬉しかったりします。

松永氏:
 なるほど。見づらいというのはこちらも望むところではないので,今後の参考にさせていただきます。

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4Gamer:
 過去を描くうえでの注意点としても,これまでの出来事や設定を拾いつつ,物語としての整合性を整えていくのに,かなり気を配っているのではないでしょうか。

松永氏:
 ライター陣ともども全力を尽くしています。とはいえ正直,恐る恐るな部分もありますね。なにしろ,情報の量があまりにも多いので。

4Gamer:
 主役のキャラクタークエスト,メインストーリーの関連パートならまだしも,「ほかのキャラクターの物語で明かされた情報」「イベントストーリーに散りばめられていた情報」など,ほんのちょっとのかけらを集めきるのは至難の業になっていそうですね。

松永氏:
 そうですね。イベントストーリーまで含めることを前提とすると,本当に膨大になってしまって。たぶん,ノベル換算なら余裕で100冊を越えていますし。それでも,可能なかぎりは拾っていければと考えています。

4Gamer:
 ならば文章とは打って変わって,「若きヨシツグ」のように絵はいかがでしょう。イラストレーターに発注するとき,細かく注文したのか,感性にお任せしたのか。

松永氏:
 チェンクロに参加していただけているイラストレーターさんは,本作にちゃんと思い入れを持ってくださっている方々ですので,それほど細かいことは言わない方針でやっています。まあ,今回は「物語のコンセプトに関わってくる,過去と現在のキャラクターのギャップ」を最大限引き出すため,“表情”だけは細かく指定させてもらいましたが。

4Gamer:
 わりと,いつもどおりの制作風景ってことですかね。

松永氏:
 いやでも,最近はキャラクターイラストに細かい指定をすることが増えてきた気がします。伝承篇のように「年齢も時代も状況も違う」と想像してもらいやすいのですが,「5年後の姿や衣装」などは「変わり過ぎじゃない?」「あんま変わってなくない?」の塩梅が難しく,人によっては創作に悩むことも出てきてしまっているので。

4Gamer:
 ありえそうです。1000キャラクター以上も存在する今だと,無指定では「気づいたら被ってた」も生まれてしまいそうですしね。

松永氏:
 ほんと,それなんですよ。結果的に被ると「すみません,これ被ってるんで,直してください」と伝えなければならず,その一言で関係者全員が申し訳なくなってしまいます。そういった事故を回避するためにも,創作の範囲を狭めないようなラインは保ちつつ,細かな指定を増やしているのが現状です。ただ,これを踏まえても伝承篇のキャラクターについては,作家さんの想像力がとくに走ってくれているなと感じますね。

4Gamer:
 ちょっと厚かましい意見かもしれませんが,この5年間で「絵が上手くなったイラストレーターさん」は多いですよね。

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松永氏:
 そりゃもう,5年も経ってますからね。半分冗談でしょうけど,「昔のイラストを描き直したいんですけど」と言ってくる人もいらっしゃいます(笑)。

4Gamer:
 創作分野ではないものの,共感はできます。「前のインタビューの松永さんの発言は,ああしたほうがカッコよかったかも」みたいなのは。

松永氏:
 それと同じように,ライターさんの中にも「昔のシナリオを書き直していいですか?」と言ってくる人はいますね。文章は絵ほどパッと見て分かるものではありませんが,読み返してみると今と表現がまったく違っていたりするので。それが書いている本人であれば,とくに。

4Gamer:
 チェンクロも「第1部 リビルド版」があってもおかしくなさそうですし。

松永氏:
 いいですね,やってみたいです。伝承篇も“物語の隙間を最大限解釈する”ことが目的のひとつですから,ディティールを深めるための取り組みとして考えると,意外と近しいものではありますし。

4Gamer:
 余談ですが,松永さんの周囲のクリエイターは「過去作を振り返らない人」と「過去作を手直ししたくなる人」は分かれますか? チェンクロチームも含めて。

松永氏:
 どうだろ。うーん。パッと思いつくかぎりだと,過去を振り返らないという人は,あまりいないかもしれないです。

4Gamer:
 手直ししたいと思う気持ちは,後悔というより「今ならもっと良いものを作れる」なんですかね。

松永氏:
 チェンクロチームの場合,長く勤めているスタッフほど「当時よりも良いものを作れますよ!」と相談してくるケースが多いです。後悔や反省をしつつ,「作り直したい」「もっと良くしたい」の気持ちにつなげてくれています。作家さんだけじゃなく,イベントを設計してくれているスタッフや,バトルのパラメータを作っているスタッフも,モノ作りをする人たちなら,そういう気持ちがあって不思議ではありません。


予想を裏切りつつ,なるほどと思わせる


4Gamer:
 それではヨシツグ伝について詳しく迫っていきます。すでにプレイしている人は多いと思いますが,まずはどのような物語なのかを簡単に紹介してもらえますか。

松永氏:
 分かりました。ヨシツグ伝では第1部から約10年前を舞台に,若き日のヨシツグの視点をとおして,九領と精霊島で起きた戦争の一場面を描いています。作中には,当時の九領筆頭であるゲンリュウサイ,徐々に頭角を現していたシュザ,戦いに命を燃やす千河のラファーガなどが登場し,最終的にヨシツグが二領領主になるまでの半生を紡いでいます。

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4Gamer:
 本格的な戦争シーンを描いたものは珍しい気がします。今回は海戦や上陸戦など,さまざまな戦術が文中で表現されていました。

松永氏:
 程度の差はあれども,たしかに戦記的な深掘りをする物語はチェンクロでは珍しかったかもしれませんね。読んでいて熱い気持ちになれます。決戦シーンも熱く新鮮なドラマになったと思っていますので,未読の方々はぜひ。

4Gamer:
 そしてなんと言っても,ヨシツグの少年時代が意外でした。これまでもちょこちょこと示唆されてはいましたが,そうじゃない部分に関しては,いい裏切りと言いますか。

松永氏:
 現在の“ニヒルな中に情熱があるヨシツグ”といったように,今のまんま,なんらギャップがない過去の姿をお見せするのは,なるべく避けようと心がけていました。キャラクターの新しい一面を見てもらって,そのうえで無理やりではなく,これまで遊び続けてくれた人たちに「なるほど!」と思ってもらえるような姿を描くことを目指しています。

4Gamer:
 まったく想像していなかった,溌溂とした元気少年でした。それに応じるかのように,ヨシツグ伝に対する反響も「面白かった!」という意見をたくさん目にしています。

松永氏:
 そういった感想がもらえているのなら,嬉しいです。

4Gamer:
 今回のヨシツグは10代前半くらいの想定だったのでしょうか。

松永氏:
 そうです。物語をとおしての時間経過もありますが,第1話の時点ではそれくらいの少年時代を想定しています。

4Gamer:
 そこにシュザの姿も踏まえて質問したいのが,鬼って若々しく見えますが,人間と同じくらいの成長スピードなんですよね。

松永氏:
 詳しくは描かれていませんが,人間と同等くらいの寿命でありつつも「老い方」は少し異なるイメージでいます。

4Gamer:
 老い方ですか。

松永氏:
 伝承篇でシュザがこの見た目だと「第3部では何歳なんだ?」と疑問が挙がるかと思いますが,ヨシツグ伝でヴォルクリスが鬼を指して「懐かしき兄弟たる鬼妖精」と呼んでるように,彼らは元は妖精であった種族として,活動期が長いというか,老けにくいというか,いくつかの名残を残しているわけです。老人とも呼べるボクデンが強いのも,“戦える年齢が長い”からです。

4Gamer:
 穿ってみると「絵素材がままだから」と言いたくなりますが,それ以上に納得できました。シュザは今のような精悍さを保ったまま,50代,60代,70代になりそうって思えますし。そしてある時期を境に,一気にゲンリュウサイみたいに老けるんだろうなーと。

松永氏:
 物語で描くのかは分からないので,ご想像にお任せします(笑)。

4Gamer:
 あと,ヨシツグ伝は登場人物も豊富ですね。

松永氏:
 ヨシツグやシュザやラファーガ以外にも,脇のキャラクターが本当に魅力的に動いていますよね。これは担当ライターが思い入れを持って,キャラクターたちの姿を描いてくれたおかげです。プレイヤーの皆さんに事前に想像してもらえていたであろう,「あんなキャラやこんなキャラの絡み」が存分に楽しんでもらえるものになりました。

4Gamer:
 チドリはもちろん,アイリも意外な登場をしていて。

松永氏:
 チドリの登場は,ファンからの期待に応えられたものになっていると思います。一方,ヨシツグとアイリの絡みは「こう絡むのか!」と驚いてもらえるシーンの筆頭かもしれません。

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4Gamer:
 個人的には,古の大剣聖としてアグダラが畏怖されていたのが印象に残っています。単なるファンではありますが,1番好きなキャラクターなので。

松永氏:
 そういうちょっとした場面でワクワクしてもらえていたのなら,伝承篇をやった甲斐があります。アグダラの存在を示唆するシーンなどは,まさに“物語が歴史としてつながっているからワクワクできる”ところだと思うので。

4Gamer:
 鬼と森妖精の関係性も興味深かったですね。作中ではこれまでつぶさに表現されてきましたが,「これほどまでにお祭り感覚で生死を賭けるのか」と。死生観の違いみたいなものをたっぷりと見せつけられました。

松永氏:
 チェンクロらしい,異種族の思想みたいなものが,きちんと伝わっているといいですね。

4Gamer:
 ちなみに亜人種の誕生にはなにか共通点があったり,古代文明が関わっていたりするんですかね。

松永氏:
 そういう世界の成り立ちまでさかのぼる部分も,いつか詳しく描ければと思っています……が,タイミング次第ですね。

4Gamer:
 一番近そうなのは,ヘリオス篇でしょうか。

松永氏:
 たしかに,ヘリオス篇ではそのあたりのシーンも見せはじめていますね。どうなるのかは,お楽しみということで(笑)。

4Gamer:
 アマツ篇の9章でも,シュザがなにか裏があるように動いていました。

松永氏:
 伝承篇で九領側の大将であったゲンリュウサイと,メインストーリーで精霊島に戦いをしかけたシュザとの差ですとか,シュザとラファーガの対峙にも注目です! こういった点も含めて,今後もメインストーリーと伝承篇がそれぞれ関わりを持ちながら,両方楽しんでくれる方々にとっての醍醐味になるよう,物語全体を深めていきます。

4Gamer:
 シュザとラファーガのように,“物語上での強さ”はキャラクター数の増加に伴い,考えるのがだいぶ難しくなっていそうですが。ヘリオスより強い,アマツより弱いとか,アルカナカードとはまた違う強さの描写が。

松永氏:
 シナリオの内容を詰める際によく議論します。キャラクター数も関係ありますが,それ以上に「キャラクターたちは物語の進行に伴って成長していく」ので。けれど,それこそが熱い部分だったりもしますから。

4Gamer:
 第3部の主人公たちのように。

松永氏:
 そうですね。やはり,ヒロイックな物語というものは“成長していく”んですよ。ヨシツグ伝がこの名称で,ヨシツグを主人公にしているのも,彼が成長する物語であるからです。ここが従来の外伝的な物語にはなかった熱さを生んでいると思います。今後も“それを”存分に感じられるものを追加していきますので,ご期待いただければ!

4Gamer:
 仮にですが,ストーリー上の強さとゲーム上の強さを一致させると,デメリットは生まれるのでしょうか。

松永氏:
 やり方は考えられますが,基本的にデメリットが多いですよね。下手するとゲーム側の都合で物語を捻じ曲げることになるので。とはいえ,物語の中での存在感はできるだけゲームキャラクターとしても一致させようと,開発陣は努力してくれています。今回のレジェンド版ヨシツグもすごくいいキャラになっていますし,これからも縛りすぎない範疇で,より良いキャラづくりを続けていきたいです。

4Gamer:
 強さと言うと,ヨシツグ伝のクエストバトルはわりと高難度でしたよね。従来のストーリーコンテンツと比べて,踏破イベントくらいの難度はあった気がします。AUTO操作のレベリングパーティも気づいたら溶けてました。

松永氏:
 長く続けてくださっているプレイヤーにとって,手応えを感じてもらえるものにしました。伝承篇というテーマ自体,初見のプレイヤーさんを対象にしたものとは言えないので,それに応じた遊びの調整をしています。

4Gamer:
 最近はストーリーをAUTOで回していたため,久々に刺激的な戦闘ができて,個人的にはよかったです。AUTO機能は実装からそれなりに時間が経ちましたが,運営上もなんらかの変化が出てきたのではないですか。

松永氏:
 「今さら変えるのか?」といった声もありましたが,当然「便利になった」という声をいただいていますし,数値上の変化としましても,AUTO機能の実装に伴い「イベントの参加率」が上昇していますね。魔神や踏破における序盤のバトルはAUTOで流すなど,こちらが想定していた活用法がプラスに働いてくれている感触です。5年後だからこその遊び方の見直しができたと思っています。


愛から生まれたチェンスロ


4Gamer:
 ヨシツグ伝に続き,11月上旬に配信が予定されている,賢者の塔を舞台にした「魔法兵団学生伝」について,もうすこし詳しく教えてもらえるでしょうか。

松永氏:
 はい。先ほど話をしましたが,魔法兵団学生伝は全3部作となります。

4Gamer:
 おっ,ヴェルナーの物語だけで3部作ですか。

松永氏:
 いえ。タイトル名に個人名称を使っていない魔法兵団学生伝では,ヴェルナーを主役に据えつつも,クラウスやカティアといった,魔法兵団のメインどころ3人の青春時代を大々的に描いていきます。

4Gamer:
 これ以外のほかのキャラクターはすべて1部作なんですよね。

松永氏:
 その予定です。だから,とにかく読み応えがありますよ!

4Gamer:
 ヴェルナーは人気投票でも毎年上位に食い込んでいますが,やはりそれも意識してのことですか。

松永氏:
 そういった意識もなくはないのですが,それよりも「3部作で描けるほどの題材だったから」というのが大きいです。魔法学園学生伝は“ヴェルナーたちの青春時代”という過去を描きつつ,さらに“魔法兵団が誕生するまでの話”という世界の歴史を埋めるエピソードにもつながっていきます。どうです,面白そうじゃないですか!?

4Gamer:
 そこまで言われる魔法兵団の誕生秘話,気になりますねー。

松永氏:
 黒の軍勢の脅威をきっかけに設立されたとされる魔法兵団が,実際はどのような流れで,どのような人たちが関わって生まれたのか。どうしてヴェルナーたちは,そこに身を投じたのか。そもそも3人はいかにして出会い,どんな学生時代を送ったのか。もちろん,ユニなどのお馴染みの面々も登場します! そして,とてもじゃないですが,1章のボリュームでは収まりきりませんでした(笑)。

4Gamer:
 先日の生放送で公開されたラフイラストだと,ヴェルナーの顔や体に刻印が入っていませんでしたね。

松永氏:
 普通の不良少年,というイメージでイラストを描いていただきました。なにせ,このころはまだ普通の学生なので。物語では「ヴェルナーがいかにして刻印者となるのか?」というドラマも大きな見どころです。

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4Gamer:
 たしかに,普通の不良って雰囲気あります。

松永氏:
 あと,年表には第3部 アリーチェ篇の敵役である「アドヴェルサス」の名前も載っています。“刻印者”というキーワードは第3部にも密接につながっているので,ヨシツグ伝と同様,今の物語とのリンクも楽しめます。

4Gamer:
 アドヴェルサスが出るんですか。

松永氏:
 年表にこれ見よがしに書いていますので,期待していてください。

4Gamer:
 年表の記述なら「シルヴァが結婚」が驚きでした。いや,これ自体は意外でもないんですが,なんかこう「ああ,結婚してたんだ。うん」みたいな。なんでわざわざ書いてあるんだろう的な。

松永氏:
 「なんでシルヴァだけ,歴史の年表にプライベートなこと書いてるの?」って思いますよね(笑)。

4Gamer:
 でも,書いてあるからには仕掛けになっているんですよね。

松永氏:
 そのとおりです。こういった“気になるワード”はいくつも散りばめているので,ニヤニヤしたり,モヤモヤしたりしてもらえればと!

4Gamer:
 もう1度,目をとおしておきます。それではいろいろと話が済んだところで,今後の動向を教えてもらえますか。きっと,でっかいのが用意されているのかと。

松永氏:
 もちろんです! さらなる展開を用意しています。すでにPVでもシルエットを公開していますが,「リヴェラを中心としたストーリーコンテンツ」を提供していく予定です。

4Gamer:
 年内に?

松永氏:
 タイミングはまだ言えません。ただ,遠くない時期に口火を切るストーリーをお届けしたいと考えています。楽しみにしていてください。

4Gamer:
 そうします。それと,チェンスロと呼ぶのかは定かではありませんが,まさかの「パチスロ チェインクロニクル」が発表されました。仲間との絆がATを強くする,とのことで。

松永氏:
 はい。開発はグループ会社のサミーさんが行っていて,私も監修として参加させてもらいました。プレイの進行に応じて,アニメスタッフが新たに描き起こした第1部のメインストーリーをダイジェストで体験できたり,酒場で新たな仲間を増やしてパーティを強くしていったりと,チェンクロらしい遊びが盛り込まれています。


4Gamer:
 同じエンタメ業界とはいえ,畑違いの人たちにIPを託すのは不安じゃなかったんですか。

松永氏:
 いや,それが,皆さんめっちゃチェンクロが好きでして。サービス開始後からハマってくれていた方々が,社内のサークル活動として“チェンクロ部”を結成し,これまで遊び続けてくれていたんです。開発もその方々が担当してくれていて。

4Gamer:
 チェンクロ部ですか。看板名だけで半端ない。

松永氏:
 チームの方々と直接面識を持ったのは,サミーさんも出資していたアニメ「チェインクロニクル ヘクセイタスの閃」の制作現場でしたが,会うたびに「今回のイベントはここの難度がヤバイ」「探索の確率テーブルもうちょっとこうならないか」「今回のフェスキャラはこう使うのが正解か」とか,完全にプレイヤー目線で意見をくれて(笑)。

4Gamer:
 やりおる……。

松永氏:
 僕も元々,違うエンタメにチェンクロを託すことに不安があったのですが,彼らの原作愛に触れるうちに「むしろ,これならすごいものを作ってもらえそうだ!」と思えるようになりました。

4Gamer:
 チェンスロにもその愛が十分に活かされていると。

松永氏:
 活かされています。とくに「この愛,度を超えてんな」と思ったのが,プロデューサーさんからスロットの演出を説明されたときのことです。スロットでは,ゲームでもお馴染みの「ピリカがマナを持ってくるシーン」が演出として搭載されているんですが,これが面白くて。

4Gamer:
 すでに面白そうですね。

松永氏:
 ピリカがパーティにマナを届けようとすると,黒の軍勢が邪魔してきて,ピリカに向かってブンッって武器を振り下ろすんです。するとそこで「果たして! ピリカは黒の軍勢をかいくぐれるのか!?」みたいなスローモーション演出が入ります。うまくいけばマナを届けられて,主人公たちが敵を一網打尽に。うまくいかなければ阻まれて,パーティは敗北,みたいな。

4Gamer:
 イメージしやすい。

松永氏:
 これは面白いなと思って,「なんでこの演出にしようと思ったんですか?」と尋ねてみたら,「ずっと疑問だったんです。いつもピリカが何気なく持ってきてくれているマナは,バトルの最中なんだから,きっと本当は危険を冒しながら運んでいたはずだって。それを描きたかったんです!」と,ものすごく熱く語ってくれて。

4Gamer:
 想像の角度の斜め上っぷりからして,相当の手練れですね。

松永氏:
 私も「うん,なるほど」と素直に思ってしまいました。そこまで想像しなかったので(笑)。

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4Gamer:
 チェンクロ部には強者が揃っていそうです。スロットのほうはすでに,松永さんは体験されたんでしょうか。

松永氏:
 はい。私はスロットに明るくないので,詳細な仕様などは理解できていませんが,ゲームやアニメの素材がたっぷり使用されていて,機能や演出もユニークに仕上げられているのは分かり,ファンの方々にもちゃんと“チェンクロを好きな人が作ったもの”として伝わるスロットだと思いました。

4Gamer:
 それにしても,同業者や関係者が「自分の作っているゲームを遊んでいる」ってのは,嬉しいですよね。スマホゲームはただでさえ数も膨大なので,友人間ですらタイトルが一致しないことも多々あるのに。

松永氏:
 本当に嬉しいですね。つながりとしても貴重だと思いますし,今までにない刺激を与えてもらった気がします。

4Gamer:
 今までにないと言えば,松永さんが執筆されました新書「チェインクロニクルから学ぶスマートフォンRPGのつくり方」が,星海社より発売されました。

松永氏:
 はい,ありがとうございます。こちらは僕が畑違いに挑戦したというか,ゲーム開発志望や経験者の方々に向けて,なにかしら与えられるものがあればと思い,書かせてもらいました。

4Gamer:
 こちら,スマホゲームの現役の運営者が,スマホRPGの制作に関するアレコレを書いたものとなりますが,実際に書いてみての感想を聞かせてもらえますか。

松永氏:
 この本では“スマホRPGの制作事情を明け透けに”書きました。いわゆる技術本の外の,さらに突っ込んだ状況もです。スマホRPGだけでなく,運営を伴うゲームは単純な開発理論だけではどうしようもないことが多いです。完全なサービス業とも違っていて,遊び手はちゃんと「ゲーム」を求めるので,もちろんゲームデザインも必要です。そういう一言では割り切れないバランスっていうのは,実情を伴った話じゃないと参考にならないなと考えていたので,それらをまとまった形で書く機会をいただけて,本当によかったです。

4Gamer:
 先んじて読ませてもらいましたが,ファンにとっても興味深い内容になっていると思います。まぁ,うちも制作に一部協力をさせてもらった身なので,手前味噌なことはあまり言えませんが。

松永氏:
 なるべく,ネット上で目にできるような表層的な情報とは違い,現場での具体的な工夫や苦労を伝えることで,本当にモノ作りを目指している人たちになにかしらの刺激を与えられる,そんな本を目標にしました。なので「ここは正直,間に合わなかったんだよ」とかそういう話も入っています。そのため,ファンの方にとってはツッコミどころも多いかと……(笑)。

4Gamer:
 事実,作り終わったゲームの事情ではなく,続いているゲームの事情を内部から捉えている資料は多くはありませんので,開発的なノウハウとしてはもちろんですが,読み物としても面白いと思います。ちなみに同僚の方々も注目されていたようですが,なにか意見はもらえましたか。

松永氏:
 セガの同僚やチェンクロに携わった人たちからは,「あそこのエピソード懐かしいね!」「あのころを思い出したよ!」といった,同じ戦場にいたからこその意見ばかりをもらいました。そのため,あまり参考になってないです(笑)。

4Gamer:
 では,そろそろ時間もいい感じなので,最後にあらためて伝承篇を提供していく意気込みを一言いただけますか。

松永氏:
 はい。ヨシツグ伝を皮切りに,チェインクロニクルの過去をつなげていく伝承篇では,世界を深掘りしつつ,今まで以上にキャラクターを生き生きと描いていきます。5年経ったのにこんなにワクワクできるんだ! と思える物語が義勇軍の仲間たちによって紡がれていきますので,どうぞご期待ください!

4Gamer:
 最近は本編の締め方もニクいですからね。アリーチェ篇とかはそれこそ,週刊少年漫画のように「かめはめ波をうって,次週へ」みたいな構図になっていますし。

松永氏:
 そうですね。メインストーリーも中盤を迎えて,ここからさらに盛り上がっていきます。過去の物語と今の物語,どっちも楽しんで,チェインクロニクルの物語の広がりを存分に味わってください。

4Gamer:
 伝承篇ともども,楽しみにしています。

現場で強請ったサイン入り書籍(計2冊)は,毎週土曜掲載の「Weekly 4Gamer」でプレゼント予定。今週かもしれないし,来週かもしれない
画像集 No.010のサムネイル画像 / 「チェンクロ」伝承篇インタビュー。人気キャラを活躍させるための方向性や,開発陣の愛が度を超えたチェンスロの裏話も

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