レビュー
「ゲーム機でFPSをプレイする人向け」のヘッドセットは買いか
G.E.A.R. ゲーミングヘッドセット OWL GEAR
本製品は,HORIが「FPSゲーマー向け」として立ち上げた製品ブランド「G.E.A.R.」(ギア)の第1弾。その概要や設計思想は2013年9月28日掲載のインタビュー記事でお伝えしているが,実際の使用感はどうか。今回は実機検証結果をお伝えしていきたい。
外観はシンプルながら,交換式イヤーパッドとベースブーストでカスタマイズが可能
インラインリモコン付きのワイヤードヘッドセットとなるOWL GEAR。黒地に青というカラーリングになっている |
エンクロージャに寄ったところ。パンチングメタルはデザイン上のギミックであり,エンクロージャ自体は密閉型 |
エンクロージャを外から見ると,大部分がパンチングメタルで覆われているように見えるが,これはフェイクであり,エンクロージャは完全な密閉型となる。
その形状は横から見たとき円に近いのが,1つの特徴となる。一般的なオーバーヘッド型ヘッドフォンやヘッドセットだと,エンクロージャの形状は装着時に縦長となるケースが多いのだが,OWL GEARでは,前後方向に膨らんでいるのだ。その結果,耳の大きな人でも耳たぶはイヤーパッドに圧迫されにくくなることが期待できよう。少なくとも,筆者の耳のサイズは標準的だと思われるが,違和感なく装着でき,耳にイヤーパッドが当たる感じはなかった。
そのイヤーパッドは,標準で取り付けられている合皮(人工皮革)のものとは別に,メッシュ仕様の生地を採用したものも付属しており,簡単に交換が可能。エンクロージャ側に用意された溝にイヤーパッドの“引っかかり”を押し込んでいくと固定でき,引っ張れば外せるという,よくあるタイプなのだが,イヤーパッド側の“引っかかり”部分がステッチ状に縫われていて,伸びきってしまう心配をあまりせずに遠慮なく引っ張って固定できるのである。
インタビュー記事でも触れているとおり,イヤーパッドの選択によって音質傾向は変わるので,その点は後ほど細かくチェックしたい。
エンクロージャ中央とアームの接合部は,可動域が非常に小さく,目測で上下前後とも各10度くらいだった。
一方接合部の上端,銀色をした軸のところは大きく動くようになっており,内側にエンクロージャを折りたたんだり,エンクロージャを前方向へ90度回転させて“あじの開き”状態にすることもできる。
ヘッドバンドは,いま紹介した軸の“上”がスライダーになっており,ここを使って長さ調整が可能だ。目盛りの刻まれたスライダーはしっかりとした硬さがあり,同時に,慣れれば片手で調整できる程度には伸び縮みさせやすくなっている。
これら一連の可動部はすべてプラスチック製で,高級感はないものの,遊びが少なく,かっちり動作する印象は受けた。このあたりはさすが,コンシューマゲーム機の世界で鍛えられているHORIといったところで,見た目以上に耐久性は重視されているように思う。
もっとも,クッション素材自体はよいもので,頭頂部と接触した感じもソフトだ。装着していて不快に感じることはまずないはずである。
ブームの先端にあるマイクは,無指向性とされているのだが,どういうわけか,外側と内側にマイク孔が開いている。外側にもマイクがあるとすると,外部のノイズも拾ってしまうような気がするのだが,この点は後ほど検証したい。
ちなみにエンクロージャとの付け根部分を軸とした場合の回転域は,目視で確認した限り,装着時に上90度,下50度といったところだった。
インラインリモコンとケーブル。写真左がOWL GEAR本体側,右がゲーム機と接続する側で,太さはけっこう異なっている |
OWL GEARと付属品一覧。3.5mmミニピン×1→T字型RCA×2変換ケーブルや延長ケーブル,3.5mmミニピン延長ケーブル,Xbox 360用マイク出力ケーブルなどが標準で用意される |
ケーブル長は公称約3mで,OWL GEAR本体からインラインリモコンまでのケーブル長は実測約48cm。先端は2つに分かれ,実測25cmのケーブルの先に,ヘッドフォンへの入力用となる3.5mmミニピン端子×1と,給電およびPlayStation 3(以下,PS3)接続時のマイク入力用となるUSB標準A端子×1がそれぞれ用意されている。
PS3やXbox 360と接続するには,ゲーム機のアナログサウンド出力をインターセプトするためのT字型RCA端子×2が用意された全長1.9mの付属ケーブルをつなぐ必要があるので,十分な長さは確保されていると述べてよさそうだ。それでも足りない場合には,付属の3.5mmミニピン延長ケーブルによって,総ケーブル長をさらに1.9m長くできる。
なお,Xbox 360用のマイク出力ケーブルはインラインリモコンと接続する仕様で,そのケーブル長は1mあった。
ゲーム機との接続イメージ。慣れればどうということもないのだが,最初は複雑さに戸惑うかもしれない |
インラインリモコンに用意された2.5mmミニピン端子を使った,Xbox 360用ゲームコントローラとの接続イメージ |
用意された操作系は,マイクのオン/オフを切り替えるスライドスイッチ「MIC」と,ボイスチャット相手のスピーチ音量調整用ダイヤル「CHAT VOL」,ゲームサウンドの出力音量調整用ダイヤル「GAME VOL」,そして重低域を強調する機能のスライドスイッチ「BASS」の4つ。大きな青色LEDはマイクのインジケータで,マイクが有効な場合に点灯する仕様だ。
このうち説明が必要と思われるのはBASSスイッチだと思うが,OWL GEARでは基本的にフラットな音質傾向が志向されているものの,それだと物足りないユーザーがいる可能性を考慮し,BASSスイッチを用意したのだと,HORIはインタビュー記事において明らかにしている。インラインリモコンにはヘッドフォンアンプが内蔵されているとのことなので,ヘッドフォンアンプに搭載されている低音強調――おそらくイコライザによるブースト――機能の有効/無効切り替えという理解でいいのではなかろうか。
なお,この手のマルチプラットフォーム対応ヘッドセットの場合,PC対応は当たり前のように実現されているのが一般的だが,OWL GEARでPCでの利用は保証外となる。HORIいわく,「リモコンのスイッチ周りに不思議な挙動があり,その原因を追求するには追加で膨大な検証が必要になることから,PC対応は謳わなかった」とのことだ。
筆者が実際に試した限り,PC側でアナログのステレオ2ch出力とUSBをサポートしていれば,OWL GEARはとりあえず動いた。ただ同時に,インラインリモコンの「CHAT VOL」は,ゲーム機の仕様に合わせ,ゲームサウンドとは別のストリームでを扱うようになっている関係で,動作しなかったことも確認できている。もちろん,環境によってはほかの不具合が生じる可能性もあるだろう。PCで無理矢理使って使えないことはないが,使いたい場合はすべてが自己責任となるので,この点はくれぐれも注意してほしい。
合皮イヤーパッド+BASS無効設定では
「ほどほどの低音」がゲームプレイに貢献
実際のテストに入っていこう。
なお,テストに用いたPCシステムは表のとおり。Razer Surroundは,Razerの統合ツール「Synapse 2.0」によって最新版へアップデートされるため,バージョンは「テスト時点の最新版」ということになる。バーチャルサラウンドスピーカー以外の設定は初期状態のままにしてあることもここで述べておきたい。
一方,OWL GEARにとって本来のターゲットとなるゲーム機では,PS3用の「Call of Duty: Black Ops II」(以下,BO2)とXbox 360用の「Halo 4」を用い,マルチプレイしながら,(同じくOWL GEARを装着した)担当編集者とのボイスチャットを行うなどしつつ,評価していく。
ここで押さえておいてほしいのは,OWL GEARの場合,合皮とメッシュ,2種類のイヤーパッドがあり,さらにインラインリモコンのBASSスイッチもあるため,合計4とおりの音質傾向を持つに至っていること。当然,今回はこれら4とおりのテストを行うことになる。
かといって,安価な“Skype用ヘッドセット”によくある「重低音がなく,高音もなく,全体的にレンジ感が極端に狭い」というものではもちろんない。きちんと重低音も高音も存在しつつ,どちらかというと重低域よりももう少し上の低域がやや強めの印象だ。
合皮製イヤーパッドのままBASSを有効化すると,音質傾向はかなり変わる。重低音が強くなりすぎて,高音にまでかぶり,もわっとした,俗にいうブーミーな音に感じられてしまうのだ。低域成分の少ないコンテンツだとそうでもないのだが、クラブミュージックなど,重低音たっぷりのコンテンツだと,“Too Much”な印象になる。
これが,メッシュ製イヤーパッド+BASS無効になると,今度は別のヘッドセットかというくらいの激変がある。HORIの開発者も述べていたように,合皮は密閉度が高い一方,メッシュは低い。そして,読者も体験的に知っていると思うが,音漏れが生じるときは,一般に重低域から“抜けて”いく。結果,メッシュ+BASS有効時は,見事に重低域が抜けて聞こえるのだ。典型的な低弱高強のイメージといえる。
そしてメッシュ製イヤーパッド+BASS有効だと,今度は,ほどよく低域が外部に漏れるためか,非常にバランスのよい音になった。ゲーム機用のヘッドセットを音楽メインで使うかどうかはともかく,ゲームのBGMを楽しみたいのであれば,この組み合わせがベストだろう。
ならPCゲームだとどうか。結論から先に述べると,CoD4とBF3でもこの音質傾向は踏襲される。というか,ゲームプレイにおける選択肢は合皮+BASS無効かメッシュ+BASS有効しかないのではなかろうか。
ここではあえてメッシュ+BASS有効の話から始めるが,そもそもの話として,ヘッドフォンで単純に「いい音」だと感じさせるための最も手っ取り早い方法は,中域を減らし,低域と高域を上げるという,いわゆる「ドンシャリ」の周波数特性にすることだ。映像コンテンツを迫力あるサウンドで楽しみたいユーザーは,そういう味付けのあるほうを「いい音」だと感じるからで,これはつまり,メッシュ+BASS有効が,ゲームのサウンドを楽しみたい人向けの選択肢だということでもある。
一方,合皮+BASS無効は,フラットに近い――完全なフラットは実現が難しいので,「フラットだ」とは言わない――周波数特性になっており,過度な重低音と,4kHz以上の帯域が抑えられた結果,中低域から中域,中高域くらいの音がよく聞こえるようになっている。ドンシャリとは見事に正反対となるため,音は迫力不足に感じられる一方,「すべての周波数帯にわたって音の情報を正確に捉えたい」というニーズに向けては,こちらのほうがより適している。
そして,HORIがこの合皮+BASS無効をデフォルト設定としている理由もここにある。FPSにおいて,音は戦い抜くうえで重要な情報の1つであり,迫力云々ではなく,なによりも正確に音情報を収集できることこそが重要なのだ。よって,下手をすると感情を揺さぶりかねない重低音は,むしろ抑え気味でいい。FPSに特化したヘッドセットたるOWL GEARのデフォルト設定が合皮製イヤーパッド+BASS無効になっているのは,正しい判断だと述べていいだろう。
ちなみに,合皮+BASS無効でRazer Surroundを試してみた限り,サラウンド感も良好だった。どこで音が鳴っているのか非常に把握しやすい印象だ。OWL GEARではバーチャルサラウンドを重視していないとのことだったが,サラウンドでも聞き分けはしやすかった。。音の定位感はステレオ出力時と同様によい。
残る2つの選択肢だが,まず合皮+BASS有効の場合,BF3のように低音成分が非常に強い“爆裂低音タイトル”を前にしたとき,低域が完全に破綻する。密閉度の高い合皮製イヤーパッドでベースブーストをかけているのだから,ある意味で当然の結果だ。CoD4のようなトラディショナルなタイトルなら,重低音大好きなプレイヤーなら受け入れられるかもしれないが,多くの人はやり過ぎだと感じるだろう。
一方のメッシュ+BASS無効はスカスカ。「そのほうが定位が分かりやすい」という人はいるかもしれないが,あまりお勧めはできない。
もっともこれは,PCでのテストを終えた時点で想像できたことでもある。というのも,近年のゲーム機向けタイトルではPCタイトル以上に重低音成分を“突っ込む”傾向にあり,宇宙的な低音アンビエント(ambient,環境音)がたっぷり入っているHaloシリーズだけでなく,リアルな戦争ものであるBO2でも,低音成分が効果音やアンビエントにこれでもかというくらい含まれているのである。
そんな最新世代のFPSタイトルを,ドンシャリで重低音が強調されるヘッドセットでプレイした場合,迫力はある一方,中低域から中高域くらいの解像度が相対的に悪くなるため,音情報を拾いづらくなるのも自明というわけだ。
また,ドンシャリの音質傾向だと,何かがどっかんどっかん鳴るたびに,いちいちそれが気になるというか,それに圧倒されてしまうことになる。低周波はもともと,原始の頃からの本能として人間に恐怖や畏怖を与え,無意識に警戒を払わせる種類の周波数成分なのだから当然である。
その点,重低域が必要以上に強調されていない合皮+BASS無効設定では,中域の解像度が増し,一方で重低域も「聞こえるけど抑えられ気味」なのが幸いしている。なんというか,ゲームに集中しやすいのである。過度ではなくほどほどの重低域と,高い中域解像度,しっかり存在する高域によって,感情をあまり大きく左右されることなく,情報としての音を粛々と収集していくことが可能になるのだ。
とはいえ,つまらない音ではなく,悪い音でもない。長時間プレイするにあたってストレスのない音に仕上がっている。
PC接続時はもう1つの選択肢としたメッシュ+BASS有効だと,悪くはないのだが,もともとゲーム側に重低域成分が多いために,そちらが持ち上がってくる印象が避けられなかった。
ただ,このあたりは好みの部分もあると思われるので,「ゲーム機ではメッシュ+BASS有効は避けるべき」とまでは言えない。PC接続時と同様,音を楽しみたいなら選択肢となるだろう。あるいは,夏場のような暑い環境ではメッシュ+BASS有効を使い,それ以外は合皮+BASS無効で使うというアイデアもアリだと思う。
重要なのは,イヤーパッドを変えるだけでも,BASSの有効/無効を切り替えるだけでも,別のヘッドセットではないかと思えるほどに音が激変することだ。現実的な選択肢は上で挙げた2つのようにも思われるが,プレイし慣れたタイトルで4パターンを試してみれば,自分の好みやタイトルとの相性も見えてくるのではなかろうか。
PC上のテストでは今ひとつながら
ゲーム機では伝わりやすいマイク入力品質
筆者のヘッドセットレビューでは,マイクの検証を,周波数特性および位相特性の計測と,マイクに入力した音を録音しての試聴という2パターンで行っている。PCにおける測定方法の説明は長くこともあり,本稿の最後に別途まとめてあるので,興味のある人は合わせてチェックしてもらえればと思う。基本的には本文を読み進めるだけで理解できるよう配慮しているつもりだ。
さてそのマイクだが,無指向性のシングルマイクで,周波数特性は公称で100Hz〜10kHzという仕様である。高域が少々低めだと思うかもしれないが,ネットワークがよほど空いているときでもない限り,8kHzあたりが再生可能周波数帯域の上限なので,必要十分なスペックは確保されていると述べていいだろう。
テスト結果は下に示したが,すぐ気づくのは,思った以上に低周波の下限が低いこと。125Hz付近を頂点として,下は30Hzくらいまでのこんもりとした山がある。
一方,200Hz〜8kHz付近までが割と平坦で,その上では10dBほど落ち込んでいるが,ここでもその落ち込み方は急峻でない(※1.4kHz付近の大きな凹みはテストに用いているスピーカーのクロスオーバーポイントなので,気にしなくていい)。
実際にPC上で音を録音して聞いてみると,低域は,際だってノイジーとまではいかないが,「低周波寄りのノイズが,バックグラウンドに確かにいる」のが分かる。内側だけでなく外側にもマイク孔が開いているのが原因かもしれない。
また,全体として,お世辞にもクリアな音だとはいえない。乾いたような,高域があまり再生されていない――専門用語で言う「サンプリングレートが低い」――ときによく耳にする音質傾向であり,鼻づまりのように聞こえてしまう。
ゲーム機におけるネットワーク越しに聞こえるボイスチャットの音声は,どう聞いても,100Hz以下,もしくは8kHz以上は再生されていない。となると,OWL GEARのマイク特性上で余計な盛り上がりを見せている低域や,下がりきっていない高域は,そもそも実際のボイスチャット時には相手に伝わらないわけだ。200Hz〜8kHz付近の割とフラットなところだけが相手に伝わるために,チャット相手が聞きやすく感じるのかもしれない。
厳しいことをいえば,ノイズはもう少し減らせるのではないかとも思うが,ゲーム機でのボイスチャット中に気になることはなかったので,「ゲーム機で使う」うえでの減点対象にはしにくい。マイク品質以前に,どれだけPlayStation NetworkやXbox LIVEのVoIP
ゲーム機用のヘッドセットとして
その完成度は非常に高い
HORIがG.E.A.R.という製品ブランドを立ち上げ,そして,その第1弾として市場投入してきたOWL GEARをチェックしてみたが,一言でまとめるなら,その完成度は非常に高い。ゲーム機でFPSをプレイするにあたってヘッドセットの購入を検討している場合には,かなり有力な選択肢になるのではなかろうか。
「いらない音を切る」のではなく,なるべくフラットな音に近づけて,変な誇張を減らしたほうが,最終的には快適になる。このことを,少なくともモニターヘッドフォンを使っていたコアゲーマーは体験的に知っていたわけだが,OWL GEARの音質傾向は,確かにHORIの狙いどおり,そういったモニターヘッドフォン的になっている。あえていえば,その方向性は,AKGの密閉型モニターヘッドフォンに近い。
筆者のお勧めはやはりデフォルトの合皮製イヤーパッド+BASS無効だが,重要なのは,この組み合わせで仮に「迫力がない」「楽しくない」という結論に至った場合でも,イヤーパッドやBASS設定の変更によって,改善を図れること。決して安価ではないコストを投じて,好みの音でなかったりすると目も当てられないが,OWL GEARでその問題に対処されているのはいい。
また,マイクも,ゲーム機上で使う限りは,何を言っているのかが伝わりやすい,非常に実用的な仕様になっている。PC用途だと必ずしもそういう結果にならない点は注意が必要だが,そもそもPCはサポートされていないのだから,声高に指摘すべきではないだろう。
むしろ懸念点は,正式対応しているハードウェアがPlayStation 3とXbox 360“しかない”ことのほうだ。現行世代のゲーム機を前提に開発された製品なのでやむを得ないところだが,この点は,他社製品との比較検討を行うとき,マイナスポイントになると思われる。
ただ,それも「あえて弱点を探せば」という話だ。ゲーム機でFPSをプレイしたい。そのときに性能の高いヘッドセットを使いたいという場合に,OWL GEARは一度試してみる価値のある製品だといえる。
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HORIのG.E.A.R.ブランド公式Webページ
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)を,SBX 20の前方30cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をSBX 20のアレイマイクへ入力する流れになる。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
PAZを動作させるのは,Sony Creative Software製のサウンド編集用アプリケーションスイート「Sound Forge Pro 10」。スピーカーからの信号出力にあたっては,筆者が音楽制作においてメインで使用しているAvid製システム「Pro Tools|HD」の専用インタフェース「192 I/O」からCrane Songのモニターコントローラ「Avocet」へAES/EBUケーブルで接続し,そこからS3Aと接続する構成だ。
Avocetはジッタ低減と192kHzアップサンプリングが常時有効になっており,デジタル機器ながら,アナログライクでスイートなサウンドが得られるとして,プロオーディオの世界で評価されている,スタジオ品質のモニターコントローラーだ。
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのマイクテストでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「音声チャット&通話用マイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット&通話用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,マイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形例。こちらもリファレンスだ
マイクに入力した声はチャット/通話相手に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
- 関連タイトル:
G.E.A.R.
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