インタビュー
「Zico: The Official Game」について,“サッカーの神様”ジーコ氏に聞く。人生・技術が凝縮された初めての“私のゲーム”
本作は,サッカーのフリーキックを指先で楽しみながら,ジーコ氏の経験や記憶を追体験できるという作品。価格はiOS版が85円(税込),Android版が102円(税込)となっている。
関連記事
“ジーコ”の記憶を追体験。スマホ向けサッカーアプリ「Zico the official game」が登場
先日,本作の配信に合わせて,“サッカーの神様”ジーコ氏が来日したので,このアプリが生まれるいきさつなどを聞いてみた。
実は開発陣がライバルチームのサポーターだったという衝撃(?)の事実のほか,とあるゲームにハマった経験や,日本サッカー界への思いなど,アプリ以外のことについてもいくつか聞いてみたので,サッカーファンやジーコ氏の現在が気になる人は,ぜひ最後まで読み進めて欲しい。
また,ジーコ氏から,読者プレゼントとして鹿島アントラーズのサイン入りユニフォームを頂き,4Gamerが準備したサッカーボールにもサインして頂けたので,読者プレゼントとして提供したい。詳細は,毎週土曜日に掲載しているWeekly 4Gamerで発表するのでお楽しみに。
「Zico: The Official Game」公式サイト
「Zico: The Official Game」ダウンロードページ(App Store)
「Zico: The Official Game」ダウンロードページ(Google Play)
「Zico: The Official Game」にはジーコ氏の人生が詰め込まれている
4Gamer:
本日は,よろしくお願いします。
さっそくですが,「Zico the official game」を作ることになったきっかけを教えてください。
ジーコ氏:
私がこのゲームに関わるようになったのは,彼らの会社(アプリ配信元であるNDV)のプレゼンに呼ばれたことに始まります。ただ,その時点で彼らが抱いていた私へのイメージは,“フリーキックのスペシャリスト”ということだけでした。
4Gamer:
私も含めてほとんどのサッカーファンが,そういったイメージを持っていると思いますが……。
でしょうね。私はフリーキックだけでなく,ドリブル,シュート,ヘディングなど,あらゆる技術をトレーニングしてきたんですけど(笑)。
ただ,ブラジルで有名なプロサッカー選手ネイマールも「ジーコのようなフリーキックが蹴りたい」と言っているように,世の中には,私がフリーキックの練習ばかりしてきたと思っている人も少なくありません。
それならば,フリーキックのみではなく,もっと私のこと――それこそ,どんな人生を送ってきたのかといったことまでを含めて知ってもらえるような,それでいてフリーキックが上達するような,そんな作品を作りたいと思って,本作を監修することにしたんです。
4Gamer:
ジーコさんのあらゆる側面を遊びながら知ることのできる,そんな作品にしよう,と。
ジーコ氏:
そういうことです。
でも,元々彼ら(開発陣)は,私が長年所属したブラジルのプロサッカーチーム「フラメンゴ」ではなく,ライバルチーム「ボタフォゴFR」のサポーターなんですよ。実は,彼(開発陣の1人を指さし)のお父さんは,「ボタフォゴFR」の元会長さんなんです。
4Gamer:
ええっ! てっきり長年のジーコさんファンなのかと……。
ジーコ氏:
意外ですよね(笑)。私と幾度も対戦し,私について研究を重ねていたようで,それが今回の作品に一役買っているみたいです。
このゲームを遊べばフリーキックが上達するかも?
4Gamer:
ジーコさんは,すでにこのゲームをプレイされたと思うんですが,フリーキックの感覚は現実に近いものになっていますか?
ジーコ氏:
たくさんのデータを収集してから開発しているので,非常に現実に近い作りになっていると思います。似たようなジャンルのゲームもありますが,実際には起こりえないシチュエーションが多いんですね。
このゲームの場合は,どういったカーブをかけるべきか,どれくらいのスピードか,どのタイミングか,どれだけの強さで蹴ればいいのか,といったことを考慮し,実際に足で蹴っているように操作しないと,思った通りの軌道が描けないでしょう。つまり,現実のボールの蹴り方を想像できるなら,うまく遊べると思いますよ。
4Gamer:
現実のフリーキックが上手な人は,ゲームでもうまく操作することができそうですね。ちなみに,フリーキックの名手と呼ばれたジーコさんは,ボールを蹴るときにどんなことを意識していたんですか?
一番肝心なのは,軸足ですね。軸足の向きや力の入れ方を考えないと,うまくバランスが取れないので,軸足の使い方を一番大事にしていました。
世の中に,素晴らしい技術を持っている選手はたくさんいますが,軸足のことを意識していない選手は,正確なキックができていないと思います。
実際には(と言ってボールを手に取る),軸足を蹴りたい方向に向ける。浮き球を蹴るときはボールの下から,グラウンダー(※低くて速い)の球を蹴るときは少し叩きつけるようにして蹴る。さらに,インパクトの瞬間だけに力を入れることで,太ももの筋肉の力がそのまま伝わる。当たり前のことではありますが,こうした細かいことを一つ一つ意識して蹴ることがとても大事なんです。
また,同じ軌道のシュートばかりでは,ディフェンダーやGKに傾向がバレて,対策を立てられてしまうので,事前にさまざまなフリーキックが蹴られるように練習しておくことも大事ですね。練習からこうしたことを意識すれば,かなり上達するでしょう。
4Gamer:
Zico: The Official Gameでも,そういった感覚は学べるんでしょうか?
ジーコ氏:
そうですね。指で操作しているとはいえ,フリーキックの全体像が把握できるため,イメージトレーニングには最適です。実際にピッチに立ったときに,ゲームで経験したことを思い出すことで,フリーキックの精度を上げることができるでしょう。
フリーキックを経験したことがない人の場合,ボールをどういう風に操作すればいいのか想像がつかないかもしれませんが,私の場合は実際にボールを蹴った経験がありますから,何となく感覚が分かったということは,お伝えしておきましょう(笑)。
ジーコ氏がハマった唯一のゲームは,レトロゲーマーおなじみの卓球ゲーム「PONG」
4Gamer:
ところでジーコさんは,普段,ゲームで遊ぶことはあるんですか? 正直,まったく想像がつかないのですが……。
随分昔ですが,「PONG」(※)という卓球ゲームがありましたよね。それはかなりハマっていました。ゲームにハマったと言えるのは,それが唯一の経験だと思います。
ほかには,ハマったというほどではありませんが,ゲームセンターでレースゲームやガンシューティングゲームをやったことがありますね。ちなみに,手で操作しなければならないサッカーゲームは苦手でした(苦笑)。
※1972年にアメリカのビデオゲーム会社ATARIが,卓球を題材にして作ったアーケードゲーム
4Gamer:
PONGやレースゲーム,ガンシューティングゲームも,反射神経や動体視力が必要なゲームですね。やはりプロアスリートとして鍛えられた能力は,ゲームをするときにも役立ちましたか?
ジーコ氏:
もちろん,ゲーム内で反射神経や動体視力は役に立つと思いますし,その逆も言えると思います。プロスポーツ選手ではない一般の方がゲームをやるということは,ゲームを通じて,それらの能力を鍛えることでもあるんです。
「Zico: The Official Game」がブラジルNo.1ヒットゲームに?
4Gamer:
ちょっとこのゲームの話題とはそれてしまうんですが,ジーコさんはスマートフォンをお使いですか?
ジーコ氏:
iPhoneを2台使っています。これと……これ……(お孫さんの写真がプリントされたカバーを見せてくれた)。
4Gamer:
おお,ご家族のお写真ですね。
ジーコ氏:
5人の孫がいてね,もう私もおじいちゃんだよ。
4Gamer:
そんなに大勢のお孫さんがいらっしゃるようには見えませんね!
普段,ご家族とスマートフォンのゲームやアプリで遊ぶことはありますか。
ジーコ氏:
ゲームでは遊びませんが,コミュニケーション用のアプリはかなり使っています。私の子供達は,ゲームでもけっこう遊んでいるようです。
歳を取るとどうしても,こういった機械を使いこなせるようになるまで,時間がかかってしまうんですよね。息子達なんかは,最新機種が出ても,マニュアルを見ずに使いこなしているんですけど(笑)。
4Gamer:
たとえ若者でも,強い興味や必要にかられていないと,新しいデバイスやアプリはなかなか使いこなせません。
そうなんですか? 確かに最近のスマートフォンは,ほとんどパソコンですからね。すべてのことがこれ一つでできてしまいますし,非常に便利な時代になりました。自分のサイトを更新するときだって,その場で撮った写真を送信したり,編集したり,そういった利便性は本当に素晴らしいと思います。
今もみなさんとお話をしながら,片手では,先ほどの取材の情報を自分のサイトへ送っているところです(笑)。気を悪くされるようでしたら,やめますが……。
4Gamer:
いえいえ,どうぞお気になさらずに。
ちなみに,お子さん達はゲームで遊ばれているそうですが,ブラジルではやっている作品などはあるんですか?
ジーコ氏:
世界的にヒットしている作品を含めなければ,ブラジル独自でヒットしている作品というのは,思い当たらないですね。でも,Zico: The Official Game
が,ブラジルで1番のヒット作品になるんじゃないかと期待しています(笑)。
仁義を重んじるジーコ氏は,今何をしているのか。
4Gamer:
せっかくお会いできたので,ゲーム以外の話題についても聞かせてください。
ジーコさんは,日本代表監督を退任後,トルコ,ロシア,イラクとさまざまな環境で指導者として活躍されてきたと思うんですが,現在もどこかでサッカーを指導されているんですか?
ジーコ氏:
現在はブラジルを拠点にしていますが,監督や指導者としてはどこにも属していません。いくつかのオファーはいただくんですが,なかなか自分にとって魅力的な話がないんです。
4Gamer:
そうなんですか……。
もし,日本のサッカー界からオファーがあった場合はどうしますか。
ジーコ氏:
日本代表監督は,もう考えられないですね。
ただ,もし日本に戻ることがあるならば鹿島アントラーズで仕事がしたいです。同じく,ブラジルに残って仕事をするのならばフラメンゴですね。
4Gamer:
どちらもかつて所属していたチームですね。
やはり,それだけ思い入れが強いということでしょうか。
ジーコ氏:
私のサッカーキャリアは,フラメンゴ(ブラジル),鹿島アントラーズ(日本),ウディネーゼ(イタリア)だけです。
フラメンゴ,鹿島アントラーズでは長年チームに携わってきました。ウディネーゼは,期間としてそれほど長くはなかったんですが,ウディネーゼのサポーターは今でも温かく受け入れてくれています。とはいえ,フラメンゴや鹿島アントラーズのサポーターほどの熱はありません。
万が一,イタリアでインテルやミランといったウディネーゼのライバルチームで仕事をしても,きっと受け入れられると思うんです。
4gamer:
なるほど……。
ジーコ氏:
しかし,フラメンゴや鹿島アントラーズは違います。つまり,所属していたチーム以外で仕事をすることは許されないことだと思うんです。
日本代表監督時代も,日本を代表する監督でありながらも,まるで鹿島アントラーズを代表して監督をしているようにも捉えられてしまいました。それを崩すことはできません,自分の気持ちとしてもも許されないことなんです。それがブラジルのフラメンゴだと,そういった気持ちはもっと大きくなります。
4Gamer:
サポーターや球団サイドの気持ちとしても,ジーコさんご本人の気持ちとしても,長い間籍を置いたチームを裏切るようなことはできない,と。
ジーコ氏:
ええ。日本代表の監督を引き受けたのだって,当時の鹿島アントラーズの社長に「日本のためでもあるから引き受けてくれ」と説得されたのが大きかったですし。それに当時は,監督業をするつもりはまったくなかったんですよね。日本代表監督をきっかけに,いくつかのクラブで監督を務めることになりましたが。
4Gamer:
それほど,鹿島アントラーズというチームは,ジーコさんの中で今でも大きなものなんですね。
ところで,現役時代のエピソードや監督時代のエピソードも,このゲームの中で見ることができるんでしょうか。
ジーコ氏:
はい。サッカーを始めた頃のことから,選手として体験してきた主な出来事,思い出まで,このゲームの中にすべて含まれており,クイズ形式で知ることができます。
それと,このゲームにはブラジルの名所がたくさん出てきます。2014年にはブラジルでサッカーワールドカップが開催されますが,それに向けて観光スポットを予習するのにも役立つかもしれませんよ。
4Gamer:
ワールドカップを見に行こうと計画している人には,朗報ですね。
ジーコ氏:
そうしてもらえると嬉しいですね。
そうそう,タイトル画面を見てもらうと分かるように,私が着ているのは,先ほどから話に上がっていたフラメンゴのユニフォームではなく,ブラジル代表チームのユニフォームです。これは開発陣から,フラメンゴのジーコというよりは,ブラジルを代表するジーコとして出てほしいという要望があったからなんです。
でも,ゲームの中でユニフォームを購入できるので,フラメンゴ時代や鹿島アントラーズ時代のファンの人には,その時代のユニフォームを着せてゲームを楽しんでほしいですね。
このゲームを通じて,もっとサッカーに興味を持ってもらいたい
4Gamer:
あの……,日本のゲームファンがとても気にしていることがあるので,教えてください。
かつて,ジーコさんの名前を冠したサッカーゲームがあったと思うんですが,それと今回の作品との大きな違いはなんでしょうか。
ジーコ氏:
いえ,今回が初めてですよ?
4Gamer:
えっ? 過去にあったと思うのですが……。
ジーコ氏:
ああ。そういった作品はあくまでプロモーションなどに少し協力しているだけで,“私のゲーム”ではないんです。これは私にとって初めての,“私のゲーム”であり,私の人生,私の技術が凝縮されているものなんです。なので,根本的に大きな違いがありますね。
4Gamer:
なるほど,よく分かりました! このゲームでジーコさんの人生や技術を学ばせていただきたいと思います。
では最後に,4Gamerの読者に向けてメッセージをお願いします。
ジーコ氏:
4Gamerの読者の方は,皆さんゲームがお好きだと思いますから,Zico: The Official Gameでも楽しんでいただけることでしょう。そのうえで,もっとサッカーに興味を持ってもらえると嬉しいです。
というのも,現代のサッカーは,フリーキックで勝負が決まることもあるんです。私の経験が詰まった本作から,そうしたフリーキックの重要性を学んでもらいたいんです。ゲームが上達してくると,きっと現実のサッカーでフリーキックを見るときの印象も変わるでしょうし,それは私にとっても,現役の選手にとっても幸せなことなんです。
そしてもう一つ,ゲームを通じて私の人生を後世に伝えるということ,歴史に名を残していくということが,私にとってすごく大事なことなんです。私がどんな人生を歩んだ,どんな選手だったのか,このゲームをきっかけに興味を持ってもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
ジーコさんの現役時代を知らないサッカー少年達にも,きっとにヒントになるものがあるかもしれませんね。
ジーコ氏:
ええ,お役に立てると思います。実際に技術が上達するだけではなく,私に興味を持ってもらい,インターネットや雑誌などでサッカーを調べるきっかけになればいいと思います。
4Gamer:
このゲームをきっかけに,ジーコさん現役時代の動画を見て,サッカー選手を志す人がたくさん出てくるかもれません。
本日は,ありがとうございました。
「Zico: The Official Game」公式サイト
「Zico: The Official Game」ダウンロードページ(App Store)
「Zico: The Official Game」ダウンロードページ(Google Play)
- 関連タイトル:
Zico: The Official Game
- 関連タイトル:
Zico: The Official Game
- この記事のURL: