インタビュー
「グランツーリスモ6」が目指したもの,そして気になるPS4対応は。ポリフォニー・デジタル 山内一典氏合同インタビュー
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GT6に掲げたテーマと,シリーズの今後の展望
――今回の発表では,GT6のゲームエンジンに関するキーワードとして「拡張性」という言葉が出てきました。これについてもう少し説明をいただけますか。
山内一典氏(以下,山内氏):
1つめはマルチデバイスに対応していくということです。これはGT6の世界をタブレットなどで楽しめるようにすることや,サーバー側の機能拡充の意味合いを含んでいます。そして当然,PlayStation 4への対応……という意味でもあります。
しかしながら,まずはPlayStation 3版を楽しんでいただきたいです。Playstation 3版GT6では,毎月のようにDLCが提供され,大きな広がりを見せるはずです。PlayStation 4版は,PlayStation 3版が楽しみ尽くされた頃に,自然に提供できればいいな,と考えています。
GT6が最初からPlayStation 4版としてリリースされないことに疑問を感じる人は少なくないだろう。しかしグランツーリスモシリーズは,これまで据え置き機の世代ごとに,2作品が提供されてきた経緯がある。GT1/GT2が初代PlayStation,GT3/GT4がPlayStation 2,そしてGT5がPlayStaiton 3向け。各プラットフォーム向けに提供されたグランツーリスモは,最初のものが新提案/新機軸的なテーマを掲げて登場し,次のものが完成形/成熟版という意味合いを持っていた。その流れでいえば,今回のGT6はPlayStation 3版GTの完成形という位置づけとなるだろう。
また,PlayStation 4版がすぐに提供されない理由としては,マーケティング事情的な側面も大きいと思われる。大きな開発コストと時間コストを掛けて実践した今回のゲームエンジンの一新。これを回収する(元を取る)ためには,普及台数が多いPlaystation 3版から出したいと考えるのが自然だ。そしてPlayStation 4版をスムーズにローンチするための「拡張性」重視……というのもうなずける設計だ。
山内氏が,PlayStation 4版の提供時期について「PlayStation 3版が楽しみ尽くされた頃に」と述べていることから,PlayStation 4の発売直後にPlayStation 4版GT6が提供される可能性は低いと考えて良さそうだ。場合によっては,ナンバリングを変えて提供される可能性もあるだろう。
山内氏:
それにGT6では,「リファクタリング」というテーマも同時に掲げています。リファクタリングは,やり出すとキリがないんです。ただ「グランツーリスモ」シリーズは,作り方としていつも「急がば回れ」を心がけてきました。何かを成し遂げるなら,遠回りになったとしてもやるべきことを1つ1つやっていくしかないんです。
用語の解説が必要だろう。「リファクタリング」とは,ソフトウェア開発手法の1つで,一度完成していたプログラムコードを再設計して再構築することをいう。あるいは,拡張に拡張を重ね,継ぎはぎだらけになったプログラムコードをリファインするプロセスのことでもある。
今回のGT6から,ゲームエンジンが一新されることが明らかとなったグランツーリスモだが,さらなる進化に向けた機能拡張のため,継承されたコードに対しても大幅な手が入れられているようだ。
――グランツーリスモシリーズは,プレイヤーに対する分かりやすい「進化の形」として,世代ごとの「グラフィックスの向上」を常に重ねてきました。しかしここ最近では,こうした進化の幅は,小さくなっているようにも思えます。GT6では,この点をどのようにお考えですか。
それはグランツーリスモのようなレーシングゲーム以外でも,既に起きていることです。ハードウェアへの理解が成熟してくると,そこでできることは収束し,素人目には何が変わったのか分からなくなります。我々開発チームは新しいテクノロジーが大好きだし,それらを極めたいとは思っています。しかし,例えばGT6にPlayStation 3版とPlayStation 4版があったとして,一般の人にはもしかしたら「見た目」の違いは感じられないかもしれない。
――プレゼンテーションでは,「リアルとバーチャルの境界作用」というお話をされていましたね。
山内氏:
ええ。「見た目」の面で分かりやすい進化が得られないからこそ,僕等は「リアルとバーチャルの境界作用」に,GT6の大きな可能性があると思っているんです。
例えば,現行の日産GT-Rには「マルチファンクションメーター」という機能が搭載されています。これはグランツーリスモのゲーム開発チームがアイデアを出して,それが実際に市販されたスポーツカーに採用されたものです。グランツーリスモが,現実世界に影響を及ぼした事例としては,これが最初のものと言えるでしょう。
――GTアカデミーも,その一つということですね。
山内氏:
GTアカデミーは,「レーシングゲームのプレイヤーが,実際のレーシングドライバーに転身した」という,いわばサクセスストーリーの面が大きく取り沙汰されがちですが,実はレーシングドライバーそのものの定義すら揺るがしている,衝撃的な現象なんですよ。むしろ,リアルのレース業界の秩序を壊している……と言っていいかもしれない。
GT6のテーマの一つである「リアルとバーチャルの境界作用」とは,現実世界での運転経験と,ゲーム世界での運転経験が,クロスオーバーして互いに影響を及ぼし合うことをいう。その最初のステップとして,山内氏は「GTアカデミー」や「CAN-ECU」を挙げている。なお,それぞれの詳細については,先に掲載した記事を参照してほしい。
極上のレーシングゲーム体験を提供すると共に,現実世界での車の楽しみ方にまで影響を及ぼしていく。そしてそれがより大きくなっていくのなら,その違いはシリーズの進化の形として,そしてグランツーリスモというタイトルの価値として,より分かりやすいものとなるだろう。
――15年間にわたり,ハードウェアとソフトウェア技術が進化し,グランツーリスモも進化してきました。今後の進化のポイントはどこにあるとお考えですか。
山内氏:
GT6はPlayStation 3のハードウェア性能を絞りきった結果かと問われると,確かにその一面はあるのですが,むしろ「これまで分からなかったことが,分かるようになった」という部分が大きかったと思っています。関連メーカーとの協力で,エアロダイナミクス(空力学),サスペンション,タイヤの物理シミュレーションモデルなどに大きな進化がありました。
イベントレポートでも具体事例について述べたが,山内氏の言うように,GT6における技術面での進化は,シミュレーションモデルの更新によるものが非常に大きい。一口に「車両物理シミュレーション」とはいうが,非常に複雑な事象が,同時多発的に起こった結果として,自動車の挙動が生まれているのだ。CPUやGPUの計算能力が上がると,確かに同時に処理できる計算量が増え,計算精度は向上するが,そもそも想定してすらいない挙動については,プログラムコードが存在しないのだから,いくらCPU/GPUが進化しようとも結果に表れない。当たり前だ。
GT6では,これまでデータと結果の相関から編み出された,プロシージャル手法的な実装だった空力/ダンパー/タイヤの挙動に関して,より正確かつ,新しい概念のシミュレーションモデルが導入されていると思われる。
「大した差がないのでは?」と思うことなかれ。シミュレーションの一要素が進化しただけでも,レーシングゲームのプレイ体験は一気に進化する。例えばマイクロソフトの「Forza Motorsport 2」では,グランツーリスモを含め,当時どのレーシングゲームでも考慮されていなかったアライニングトルク現象(走行状態が,前輪を「ある方向」に整列させようとする力のこと)をシミュレートしたことで,ハンドリングのリアリティが劇的に向上した。
――では,グランツーリスモシリーズの中長期的展望について教えてください。
山内氏:
基本的には目の前に与えられた課題をきちんとこなしていく。改善できるところは改善していく。これだけです。最近気がついたのは「ハードワークは楽しい」と言うことです。この状態がいつまでも続いていけばいいな,と思っていますし,きっとそうしていくことで,自ずと道は開けていくと楽観視しています。
――15年前の山内さんが,今回のGT6を見たらどう感じるでしょうか。
山内氏:
きっと,笑顔で「夢が叶った。こんなゲームが遊びたかったんだ」と言うでしょうね(笑)。我々は15年間,常に目の前にあるものを「より良くしていこう」という意志を貫いてきました。幸運だったのは,15年間,ほぼ同じチームで作り続けられたことです。これはゲーム業界広しといえども,ほかに例がないと思います。
――実際のところ,GT6では現実世界をどこまで再現できるようになったのでしょうか。
山内氏:
我々が目指しているのは,いまや「現実世界との差を埋めていく」ことではないんですよ。リアルがバーチャルに,バーチャルがリアルに。お互いに影響を与えていく。そうしたものを目指すようになってきています。
ゲームの世界での現象が,現実世界を変容していくって,面白いと思いませんか。リアルが上位で,バーチャルがその間合いを詰めていくのでなく,相互作用によって,新しい面白いものが生まれていく。これこそが,これからのグランツーリスモがめざす「営み」になると考えています。
自動車は,一般的な文明国ならごく日常的な存在だ。一定以上の年齢になれば免許を取ることができるし,ドライバーではなくとも,車に乗ったことのない人は稀だろう。そんな身近な自動車の挙動を,バーチャルの中でリアルに再現しつづけていくことは,何を意味するのだろう。仮にグランツーリスモシリーズが,遠くない未来,現実とまったく見分けのつかないドライブ体験を実現したとして,レーシングゲームの進歩はそこで終わってしまうのだろうか。
山内氏の言う「リアルとバーチャルの境界作用」という概念は,そんな疑問にはっきりと異をとなえるものだ。リアルとバーチャルが混じり合うことで,レーシングゲームはまだまだ進化できる。同作の中長期展望について「楽観視している」と答えた氏の言葉からは,決して行き当たりばったりではない,確信が感じられた。
確かな手応えと共に,新たなステージを迎えるグランツーリスモシリーズ。待たれるGT6の登場と,そこからのさらなる飛躍に期待しよう。
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