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[Unite 2019]「ハイパーカジュアルゲーム」の基本や開発のヒント,そしてヒットさせるための取り組みなどが語られた芸者東京・田中泰生氏のセッションレポート
「Unite Tokyo 2019」公式サイト
セッションでは,中村氏が聞き手となる形で,田中氏による芸者東京の考えるハイパーカジュアルゲームの基本や開発のヒント,ヒットを生み出した開発体制などが語られた。
芸者東京 CEO 田中泰生氏 |
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン Unity Ads Japan Business Development Manager 中村優一氏 |
芸者東京は2008年10月に設立され,当初はARソフト「電脳フィギュア ARis」やソーシャルゲーム「おみせやさん」など国内向けタイトルを手がけていたが,2018年2月にリスタートして,グローバル向けの「ハイパーカジュアル」と呼ばれるジャンルのゲーム開発を手がけるようになった。同社の代表作である「snowball.io」「Traffic Run!」「Dinosaur Rampage」は,いずれもアメリカのスマートフォンアプリランキングで1位を獲得するという大ヒット作となっている。
田中氏によると,ハイパーカジュアルゲームを手がけるようになったきっかけは,国内向けのスマホゲームの開発費が高騰し,「これはもうダメだ」と感じたことにあるという。そんなとき,Voodooのハイパーカジュアルゲーム「Dune!」が1億ダウンロードされていることを知り,「このくらいのゲームなら自分達でも作れるのではないか」と安易な気持ちで始めたそうだ。
さっそくゲームを作ってテストをしたのだが,まったく結果が出なかったと田中氏は言う。一般的に,ハイパーカジュアルゲームで成功するには,次々にゲームをリリースして,その中から数本ヒットを出すことがセオリーだと言われているので,当初は週に1作はリリースするということを続けていた。
しかし田中氏らは,数をこなしているうちに「当てずっぽうに作っていてもダメで,質も大事」ということに気づいた。ただし,質にこだわりすぎて数が減ってはセオリーに反する。かくして田中氏は,「量も質も大事。そりゃそうだという結論に落ち着いた」と話した。
現在までに芸者東京がリリースしたハイパーカジュアルゲームは90タイトル以上で,最近は量と質のバランスを取り,毎月5タイトルをリリースしているという。
ハイパーカジュアルゲームをヒットさせる方策について田中氏は,「まだ3タイトルしか当てていないので,むしろ僕が教えてほしい」と前置きしつつ,「そもそもヒットするゲーム」の例を2つ挙げた。
1つは「簡単にプレイできて,続けていくうちに上達が感じられるゲーム」で,もう1つは「プチプチ」ことエアキャップを延々とつぶし続けるように,ずっと気持ちよさが続く「習慣性のあるゲーム」だ。
そのうえでハイパーカジュアルゲームをヒットさせるために芸者東京では,「伝わる」と「魅せる」を重視しているという。田中氏は「魅せるためにエフェクトを派手にしたりするが,伝わらなければどうしようもない」とし,「誰も見たことのない遊びを派手に飾っても,人はすごいと思うだけでやろうとはしない」「例えば皿回しのゲームなら,どう遊べばいいのかすぐに伝わる。そこで初めて,魅せることに意味が出る」という例を挙げた。
またハイパーカジュアルゲームは,獲得コスト(CPI)やユーザー継続率などのデータに基づく,データドリブンの開発が行われるが,田中氏によれば,そこには誤解があるそうだ。田中氏は「かつて悪く言われていた頃のソーシャルゲーム開発と同じと思っている人が多いけれど,そんなことはまったくない」とし,「老若男女,国籍などを問わず,万人にすぐ面白さが伝わるゲームを作れるのは,人間しかいない」と説明した。
そのため芸者東京では,スタッフが面白いと思ったアイデアをまずゲーム化し,テストでCPIや継続率などをチェックして,実際に面白さが伝わっているか,魅せることができているかを確認するという。田中氏はこれを「真のデータドリブン」と表現していた。
話題はハイパーカジュアルゲームをヒットさせるために,芸者東京が取り組んだことに移った。
1つめの取り組みは「動画映え」だ。例えば「Traffic Run!」は,初期のテストではあまりいい結果が出なかった。ところが数か月後,クルマの流れに合流する要素を導入したところ,動画映えするようになり,劇的に人気が高まったという。
2つめの取り組みは「子ども心をくすぐる」こと。「Dinosaur Rampage」は,プレイヤーが恐竜になって逃げ回る人間を食い散らかしたり,建物を壊したりしていくシンプルなゲームだが,恐竜のように,子ども達が好きな要素を取り入れると,多くの人が楽しめるゲームになりやすいとのこと。
さらに,「アフォーダンス」も意識している。例えばゲームにドアノブが出てきたら「右に回せばドアが開く」,ピコピコハンマーが出てきたら「柄の部分を握って何かを叩く」といったように,説明がなくとも何をすればいいのか分かる。こうしたアフォーダンスの理論を使って,するべきことがすぐに分かるようにしているわけだ。
続いて,芸者東京のゲーム開発に対するアプローチを問われた田中氏は,「超人構想」を紹介した。これは,スタッフ各自がプロデューサーであり,開発者であり,デザイナーであるという考え方で,田中氏は「昔はタイピストという仕事があったけれど,技術の進歩や機材の普及に伴って,今はなくなった」とし,「ゲーム開発もUnityのように使いやすい環境の登場や,AIの進化によって,特殊なスキルを持つ専門職でなくともできることが増えていく」と説明した。
そして,「10年20年後には,面白さを作り出すことに,よりフォーカスしなければならない時代が来る。そうなると,ただPCのディスプレイに向かっているだけではダメで,人間は何を面白いと感じるのかを見きわめられる対人間のコミュニケーションスキルも必要になる」と語った。
また,芸者東京では「コーチング制度」を採用しているとのこと。これは実際にゲームを開発するスタッフに,メインコーチ1名とサブコーチ数名を付けてサポートするという体制で,コーチは指導者ではなく,開発中のゲームをプレイして「面白さが伝わってこない」といった客観的な意見や感想を述べる存在だという。
そのため,コーチにゲーム開発の実績は必要なく,例えば「Dinosaur Rampage」のメインコーチは,まったく実績のない大学生のスタッフだったという。田中氏は「ゲームを作るのは難しいので,例え実績があっても連続してヒットを出している人はほとんどいない」とし,「実績のある人達が集団になって忌憚なく意見を出し合うことで,いいものを作り上げるカルチャーにしていきたい」と説明した。
さらに芸者東京では,1タイトルごとの事業計画は立てていないそうだ。田中氏によれば「1年間で何タイトルをヒットさせれば企業として存続できるか」ということだけを管理しているという。そのため同社では,ほかに例を見ないユニークなコンセプトのゲームにも,大胆にチャレンジできるという。
次に,芸者東京の社内カルチャーが紹介された。まず「チャレンジと失敗を奨励するカルチャー」について,田中氏は「皆,『Minecraft』を遊んでいるかのような感覚でゲーム開発に取り組んでいる。『Minecraft』で何かを作るときは,成功や失敗を気にしない。うまくいかなければ,やり直せばいい」「失敗したと思っても,何気ないアイデアで化けることもある」とした。
もちろん同社でも,ヒットを出したスタッフにはボーナスが提供されるが,それをあまり前面に打ち出していないという。ボーナスを前面に出すと競争が始まり,社内がギスギスする恐れがあるそうで,田中氏は「皆ですごいものを作ったというような,高いレベルで分かち合うカルチャーに仕向けている」「皆が意見や情報などを惜しみなく共有できるようにしていきたい」と話した。
また芸者東京では,ゲームを評価をする場合に必ずデータを使うようにしているという。これは開発者同士の主観的な判断による「こうしたほうが面白くなる」といった不毛な意見のぶつかり合いをなくすという意図があり,芸者東京は,「この内容であればCPIはそこそこかもしれないが,継続率はそこまで上がらないのでは」という会話が交わされるカルチャーを目指している。
さらに,日々勉強するというカルチャーもある。これは流行っているゲームや世の中のトレンド,他国の文化などを吸収して,社内で共有していくというもの。田中氏は,「僕らのビジネスは世の中のトレンドからは離れられない。トレンドの中からヒットが生まれることもある」と説明し,ほかにも歴史や文化,科学などに興味を持ち,広い意味で教養人になろうとする姿勢が必要だと述べた。
セッションの終盤では,芸者東京が今後目指すところが紹介された。田中氏は「今のゲームの中で,個人がゼロから世界にチャレンジできる一番のジャンルは,ハイパーカジュアルゲーム」とし,短期的な展望として「面白いゲームをゼロから作れるタレント集団にしていきたい」と語った。
中長期的には,電車の中で他人の携帯ゲーム機やスマートフォンの画面を3つ見たとき,1つは芸者東京のゲームが入っているようにしたいそうだ。
加えて,ワークショップやパブリッシングなどを通じて,社内外を問わず才能のある人々がグローバルに活動できるよう支援していきたいと語った。
最後に田中氏は,「多くの人に,ある程度の時間遊んでもらうことを考えなければならないハイパーカジュアルゲームの開発には,ゲーム開発の基本が詰まっています。ぜひ一緒に世界で遊ばれるゲームを作り,ゲーム業界における日本のプレゼンスを上げていきましょう」と聴講者に呼びかけて,セッションを締めくくった。
「Unite Tokyo 2019」公式サイト
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