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[GDC 2019]レイトレーシングなどの新機能が続々と実用域に。Unity基調講演レポート
Tencentとの提携をアピール〜Call of Duty Mobileも
イベントの冒頭に登場したRiccitiello氏は,Unityの現状を紹介した。Unityが幅広いゲームタイトルで利用されており,とくにモバイルプラットフォームではUnityが大きなシェアを獲得しているということをアピールしていた。それは承知している読者も多いだろう。
Riccitiello氏が紹介したトピックで注目したいのは,Unityと中国Tencentの提携が発表されたことだろう。
Tencentは中国最大のインターネット企業の一つで,傘下にゲーム企業Tencent GamesやShanda Gameなどを抱え,さらに「League of Legends」のRiot Gamesや「クラッシュ・オブ・クラン」のSupercellなどといった世界中の有力スタジオを子会社として擁しているほか,日本のゲーマーにもお馴染みのUbisoft EntertainmentやEpic Gamesにも大きな出資を行っている。
そんなTencentとUnityが提携することがRiccitiello氏から発表されたわけだが,具体的な対応としてはまず,UnityがTencent Cloudをサポートするそうだ。Tencent CloudはTencetが運用するクラウドサービスで,Riccitiello氏によるとTencent Clodの機能が今年後半にはUnityで利用できるようになるという。
これにより,「Unityを利用している開発者は強大なゲーム市場である中国に参入することができるようになる」とRiccitiello氏はアピールしていた。
これに関連して,基調講演の前半でActivisionの副社長Chris Plummer(クリス・プラマー)氏が登壇し,Tencetと共同で「Call of Duty Mobile」をUnityを使って開発中であることを明らかにしている。
Plummer氏によるとCall of Duty Mobileには「Call of Duty: Black Ops」と「Call of Duty 4: Modern Warfare」が含まれているとのこと。Unityを用いてTencent Gamesとともにモバイル向けに開発しているが,Call of Duty Mobileは「モバイルに最適なタイトルになっている」とのことである。
また,Call of Duty Mobileに使用されているレンダリングパイプラインは軽量高速なLWRP(ライトウェイトレンダーパイプライン)だが,シェーダは「すべて物理ベースで家庭用ゲーム機と同等の品質を実現できている」そうである。
Call of Duty Mobileは近日リリース予定だ.。興味のある人はCall of Duty公式サイトをチェックしてほしい。
Unity向けに物理エンジン「Unity Physics」と「Havok Physics」を提供
Unityを巡るホットな話題の一つが「Data-Oriented Technology Stack」(DOTS)ベースの新しいアーキテクチャだろう。重い機能を捨てたサブセット版のC#を用いて,専用コンパイラ「Burst Compiler」で徹底的な最適化を施し,さらに高度にマルチスレッド化されたデータ中心のアーキテクチャを採用しつつ新しいジョブシステムで並列度を上げ,全体的に高い性能と大規模なゲームシステムの構築を可能にしようというものだ。GDC 2018で発表され,現在はプレビュー版の段階となっている。
UnityはDOTSのアドバンテージをアピールする「MegaCity Demo」などを公開しているのだが,今回の基調講演でもUnityでCTOを務めるJoachim Ante(ヨアヒム・アンテ)氏が登壇し,MegaCity Demoを紹介しつつ,このデモが基調講演の当日にダウンロード可能なったことを報告していた。
さらにUnityと物理エンジンで知られるHavokとの提携を発表し,Unity向けに新しい物理エンジンを提供することを明らかにした。
Ante氏によると,過去数か月にわたってUnityはHavokと緊密に協力して作業を行っていたそうだ。その成果としてUnity向けの新しい物理エンジンは,データ指向の設計となっており,専用のデータプロトコルも開発されている。容易にプログラムが可能でネットワークとの親和性も高いものになっているという。
なお,Unity向けには2種類の物理エンジンが提供されるそうだ。2種類ともHavokとの共同開発によるもので,C#で記述されBurst Compilerを使った「Unity Physics」と,物理エンジンHavokベースの「Havok Phyiscs」である。前者はUnityに標準で搭載されるもので基調講演と同時にダウンロードをスタートするとのこと。一方,Havokから提供される「Havok Physics」は,Unity Physicsのプロトコルに合わせたHavokエンジンだ。こちらの提供は,今年の夏以降になるとのことだった。
リアルタイムレイトレーシング対応HDレンダーパイプラインの提供をアナウンス
ゲームグラフィックスで今話題と言えばリアルタイムレイトレーシング技術だろう。基調講演の最後に登壇したUnityグラフィックス部門の副社長を務めるNatalya Tatarchuk(ナタリア・タタルチュク)氏は,これまでUnityが先進的なグラフィックス技術を採用してきたことをアピールしたうえで,リアルタイムレイトレーシングへの対応をアナウンスした。
Tatarchuk氏が実例として紹介したのが,米NVIDIAと仏Light & Shadows,独BMWの3社が共同で開発しているという,自動車の内外装をリアルタイムで見ることができるツールである。
実はこのツール,NVIDIA主催のイベントGTC 2019の基調講演でも取り上げられていたもので,Tatarchuk氏によると,このツールではUnityによるレンダリングが行われているが「4K解像度かつ“インタラクティブなフレームレート”で描画ができている」のだそうだ。
Tatarchuk氏によると,リアルタイムレイトレーシングはUnityのHD対応HDレンダーパイプライン(HDRP)に実装されるそうだ。通常のラスタライズとレイトレーシングには「同じ素材を使うことができる」そうで,開発者は極めて簡単にレイトレーシングのレンダーパイプラインに自社タイトルを対応させることができるという。
そんな新しいHDRPは,フルプレビュー版が3月中に,またExperimental版(実験的なバージョン)が4月4日に公開されるとのことだ。
おりしも,NVIDIAがPascalアーキテクチャなど既存のGPUの一部でDirectX Raytracingの対応を始めることをアナウンスしたばかりだ。Unityを試しているアマチュアやプロもリアルタイムレイトレーシングを試しやすくなるだろう。ぜひともUnityの公式サイトをチェックして同社の実装を試してみてほしい。
なお,基調講演の模様はYouTubeで公開されているほか,日本のユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのスタッフによる「雑談放送」も視聴可能なので興味のある人は確認してみるといいだろう。
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