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[Unite 2015]モバイル機器での拡張現実をサポートするQualcommの「Vuforia」ソリューションの実力は
Qualcommというと,4Gamerでは携帯電話向けのSoC「Snapdragon」シリーズを作っている会社という認識の人が多いのではないだろうか。実際には,同社の本業ともいえるのは移動体通信に関する部分で,SoCはむしろそちらに付随した事業といえるかもしれない。さらに,それらとは違った分野の事業も展開している。今回紹介されたのは,同社のARソリューション「Vuforia」だ。
どのようなことができるものなのかについては,デモリールを見てもらうのが一番分かりやすいだろう。
見てのとおり,スマートフォンでマーカーレスのARが実現されている。Unity専用のソリューションというわけではないようだが,スマートフォンで3Dグラフィックスを扱うことが多くなることからか,開発環境としてはUnityが使われることが多いのだろう。
たしかUnity単体でもマーカー式のARアプリ作成に対応していたと思うのだが,手軽にマーカーレスARが作れるとあって,最近ではUnityでARを試してみたという事例のほとんどがVuforiaのものになっているようだ。Vuforiaのウォーターマークが付くなどの制限はあるが,無料版も公開されており,無料版Unityでも使えなくはないようなので興味がある人は調べて試してみるのもいいだろう。
リー氏は,Vuforiaの特徴を3点挙げた。
- 性能と信頼性
- 2次元のみでなく3次元の物体や環境そのものを認識可能
- スマートフォン,タブレットとグラス型デバイスをサポート
とくに立体物を認識してARを展開できるのはVuforiaの大きな特徴だ。物体をつかんでいるような状態でも認識が行われたり,かなり激しくカメラを動かしても追従するといった認識性能と安定性で定評があるという。
利用実績も多く,とくに多用しているところとしては,マクドナルド,ディズニー,“ドイツのプレミアムカーメーカー”といった超一流企業が挙げられていた。用途としては,Interactive Product,Shopping,Gaming,Enterprizeという4点が挙げられていたが,Interactive ProductというのはAR認識で3Dキャラクターが出てきて動くとか,ちょっとしたミニゲームができるといったもので非常に多くのものが作られている。Shoppingでは,部屋のスペースに洗濯機が入るかなどが確認できるといった事例が紹介された。Gamingでは,テーブルの上のオブジェクトをゲーム内のオブジェクト配置として認識することで,多彩なステージを自分で作れるような遊び方ができ,Enterpriseでは,産業用にいろいろな製品の修理の情報が確認できるといった応用がされているようだ。
立体物を扱えることが特徴ではあるが,なんでも大丈夫というわけではない。そこでVuforiaでうまく扱える物体の特徴が紹介された。
まず,動かないモノ。特徴点の位置関係が変わるといけないのでこれは当然だろうか。スライドでは適したものとしてアクションフィギュアも挙げられていたが,アクションをするとマズそうなので,関節のない単なるフィギュアのことであろう(動かさなければよいのかもしれないが)。
次に模様などの多いモノ。のっぺりと情報量の少ないものは苦手で,ディテールの多いオブジェクトのほうを得意としている。
次にテーブルの上に置けるくらいの大きさのモノ。認識の際に大きさの制限はとくにないということではあったが,基本的にテーブルの上に乗るくらいの大きさのものが想定されているとのこと。
こういった3次元のオブジェクト登録は,Vuforia Object Scannerというアプリで行われる。これはAndroidの一部機種用に作られたもので,Google Playなどで公開されているものではないようだが,SDKとともに提供されるようだ。模様の付いた切れ込みのある板を併用しているのは精度を上げるためだろう。
空間自体を認識することの活用をQualcommでは“Smart Terrain”と呼んでいたが,その例として「Reign of Amita」というゲームが紹介された。これはテーブルの上にあるものをゲーム内オブジェクトとして認識してステージを自動構築するゲームで,使用される物体はあらかじめ登録されているオブジェクトではなく,なんでもかまわない。
会場にあったQualcommブースではゲームのロゴを印刷した紙が使われていたのだが,これは平面を認識させるためだけのものであり,ほかのものでもかまわないとのこと。
実際にデモを見ても,置かれたものの大きさや形に応じたオブジェクトが生成され,ゲームの舞台となっていた。
このデモで使われていた端末は,一般的なAndroidタブレットだったが,単眼のカメラでも,カメラの揺れなどから奥行き情報を計算して3D空間を把握できるとのことだった。
開発中のデバイスとして2眼のカメラを取り付けたタブレットでのデモも見せてもらったのだが,そちらではさらに精度よくZ座標を取ることができ,カメラで写して回った情景が画面内に3Dオブジェクトとして展開されているところも確認できた。
Qualcommとしては,将来的にはこのような2眼(もしくはZ座標の取れる)カメラが普及し,その時代になればARはさらに広く展開されていくと見ているようだ。
すでに述べたように,Vuforiaはかなり多機能なソリューションなのだが,現状のものは,きたるべき時代に備えた練習用という位置付けのようだった。ゲーム以外でも,部屋の模様替えなどでの活用をはじめ,多くの分野で活用されるようになると見ているようだ。
そのほか,Vuforiaの認識パターンをクラウド上に持つソリューションなども紹介されていた。これは主にカタログ販売などを意識したものだそうだが,1件につき100万パターンものデータを登録できるそうだ。カタログで気になったものにスマートフォンを向けると,3Dオブジェクトで詳細を確認できるような時代もくるのかもしれない。
ちなみに,現状ではクラウドに登録できるには2Dパターンのみで,3Dオブジェクトには対応していないとのこと。100万パターンという途方もない数が利用できるわけだが,1万でも100万でもたいして変わらないくらいの高速認識がウリだそうだ。
最後に会場で行われた質疑応答から面白いものを挙げておこう。
「1/100のモデルで認識したものを1/144のモデルに適用できるか」という質問には,確認が必要なので明確な回答はできないとしつつも,大きさ自体ではなく,認識精度の問題として答えていたので,適用できる可能性はありそうな雰囲気だった。なんとなくいろんなグレードのあるプラモデルがARで動き出したり,ジオラマ撮影がバーチャルでできるようになったりすることもあるのだろうか。
セッション後,デモを見せてもらったときに確認したところ,2次元の認識については大きさは関係ないが,3次元のものについては大きさも測っているということではあった(大きさ情報が認識に使用されているかどうかは不明)。
「赤い車で認識したものを青い車に適用できるか」といった質問には,形状認識には色情報は使われておらず,模様などで判定しているので問題ないといった興味深い回答が行われていた。
ゲームで直接使えるかどうかはゲームデザイナーのアイデア次第というところだろうが,MicrosoftのHoloLensの発表以降,AR関連の動向はゲーム業界としても無視できなくなってきている。すでにあるスマートフォンやタブレットで手軽に扱えるアプリを作れるVuforiaは,さらに注目すべき技術かもしれない。将来的なハードウェア対応を含めて,さらなる展開に期待したいところだ。
Qualcomm Vuroria公式サイト(英語)
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