インタビュー
2019年はついに据え置き型ゲーム機市場攻略へ。ゼンハイザーに聞く「会社分割」,「GSP 550」ヘッドセット,そして将来
となると当然,テーマは会社分割後……と思いきや,むしろその話題はオマケ。2018年最後の新製品や,据え置き型ゲーム機に向けてのかなり具体的な戦略,そしてその先の方向性と,今回もサービス満点といった感じでいろいろな話を聞くことができた。
今回は,その内容を以下のとおりお届けしたい。
会社分割後も「Sennheiserのゲーマー向け製品」は変わらない
4Gamer:
お久しぶりです。直近の話題としては,2020年1月をもって「Sennheiser Communications」(ゼンハイザーコミュニケーションズ)におけるWilliam Demant Holding(以下,WDH)とSennheiser electronicの合弁が終了し,ゲーマー向け製品を扱う部門はWDHへ移管になるというものがあります(関連記事)。
MichalさんはWDHへ移ることになるのだと思いますが,本日はそのお話ということでいいのでしょうか。
Michal Tempczyk氏:
お望みならその話もできますが(笑)。
……そうですね,エンドユーザーの利便性という観点から,背景を少しお話ししたほうがいいかもしれません。
4Gamer:
ええ,ぜひ。
Michal Tempczyk氏:
簡単にまとめると,合弁解消は,次の区切りに向けたビジネス上の決定です。我々は2020年以降もSennheiserのブランドを扱える予定ですので,その点において「(情報の)アップデート」と呼べるようなものはありません。
4Gamer:
はい。
確かにドイツのSennheiser本社からデンマークのSennheiser Communicationsは切り離されます。しかし,現在のところ,店頭や販売代理店のレベルで何かが変わる予定はありません。エンドユーザーの方々はこれまでと同じ製品,同じ製品ボックス,同じブランド名を2020年以降も目にするわけです。なので,それ以上はお話しすることがないんですね。
4Gamer:
分割後もSennheiserと一緒にやっていくという点でブレはないと。
Michal Tempczyk氏:
少なくとも現時点では「そのとおりです」。Sennheiserのゲーム部門というビジネスを一緒にやっていくというのは変わりません。
バックグラウンドの量産部分などは大なり小なり変わるでしょうが,その程度です。私が「エンドユーザーから見たら何も変わらない」と言うのはそれが理由ですね。
分割前も分割後も,品質は変わりません。今ある製品と同じように研究開発がなされ,テストされることになります。
GSP 500のバーチャルサラウンドサウンド対応版となる新製品「GSP 550」。なぜ独自技術ではなくDolbyを採用したのか?
4Gamer:
そう言っていただけると安心する読者は多いと思います。
ただ,それがテーマでないとすると,今回の来日の目的は何でしょうか。
Michal Tempczyk氏:
今回は新製品をお持ちしました。「GSP 550」です。
「GSP 500」についてはレビューもしていただいているのでよくご存じだと思いますが,ヘッドセットそのものはGSP 500によく似ています。
ちょっとだけ現在のポートフォリオを振り返っておきますが,今年のはじめに私達は「GSP 600」を発表しました。そして,いままでの売れ行きには大変満足しています。
GSP 600は私達のフラグシップ製品であり,Sennheiser.comで最もチェックされている製品であり,4Gamerさんを含む世界中のレビュワーから極めて高い評価をいただきました。「GAME ZERO」の後継としてGSP 600が好調に推移していることを,たいへん嬉しく思っています。
4Gamer:
ただ,台湾の友人から聞きましたが,それこそ台湾など一部市場ではGAME ZEROや「GAME ONE」のほうが依然として人気だそうですね。
Michal Tempczyk氏:
おっしゃるとおりです。一部の方は,ゴリゴリにeスポーツへフォーカスしたGSP 600よりも,よりライフスタイルに合ったGAME ZEROのほうを好みますので,私達としてはGAME ZEROを引き続き取り扱っていきます。
4Gamer:
すいません。話の腰を折ってしまいました。
いえいえ。
さて,GSP 600の後でGSP 500を投入しましたが,今回のGSP 550は,GSPシリーズにおけるハイエンドモデルの1つと位置づける「プレミアム3Dヘッドセット」です。「PC 373D」(※正式な製品名は「PC 373D 7.1 Surround Sound gaming headset」)の後継製品ですね。
4Gamer:
ああ,PC 373Dの後継という位置づけでしたか。
Michal Tempczyk氏:
ええ。GSP 500と同じ作りのヘッドセット本体に,我々が「3D Dongle」(3Dドングル)と呼ぶUSBサウンドデバイスが付属します。
メーカー想定売価は,米ドルだとGSP 600と同じくらいですね。
4Gamer:
となると日本でもGSP 600と同じくらいの価格設定ですかね。
Michal Tempczyk氏:
おそらくそうなるでしょう(※編注:インタビューは11月22日の発売前に実施した。12月6日時点のGSP 550実勢価格は2万9500〜3万2400円程度で,同2万7500〜3万円程度のGSP 600と比べると若干高めだ)。
GSP 550のターゲットになると我々が予想しているグループは第一に(eスポーツプレイヤーではなく)コアゲーマーで,サラウンドサウンドを重要な機能として優先する人達です。次に,品質重視で,サラウンドサウンド機能を利用できる,優れたヘッドセットを装着して過ごしたいという人達になります。
4Gamer:
USBサウンドデバイスが付属するということは,基本的にPC用という理解でいいですか。
そうです。日本で売るかは何とも言えませんが,我々としてはUSB→アナログ変換アダプターを別売りで用意しますので,2chステレオでOKならそちらを使うこともできます。ただし,サラウンドを使えるのは3D Dongleを使ったときだけですね。
3D Dongle用のソフトウェアはSennheiser.comからダウンロードできますので,それをセットアップすればPCからすぐに(バーチャル)サラウンドサウンドを利用できるでしょう。
4Gamer:
採用している技術はどこのものですか?
Michal Tempczyk氏:
Dolby(※Dolby Laboratoriesのこと)です。3D Dongle用ソフトウェアからオンザフライ(on-the-fly,ここでは「利用している状態からいつでも」くらいの意)で有効/無効を切り換えられます。
4Gamer:
Sennheiser CommunicationsさんはGSXシリーズで独自のサラウンドソリューションを展開していますが,今回Dolbyを選んだのはなぜでしょうか。
Michal Tempczyk氏:
ご存じのとおり,GSXの開発には非常に長い時間がかかりました。具体的には,製品企画から最終製品の市場投入まで2年くらいかかっているんです。
何が言いたいのかというと,弊社独自の3Dアルゴリズムを採用する製品としてGSXが正式発表になった時点で,GSP 550の開発計画はスタートして久しかったんですよ。
4Gamer:
ああ,そういう……。
Michal Tempczyk氏:
なので,そのタイミングでGSP 550用3D Dongleの仕様を再設計というのは現実的でありませんでした。
あと,そもそものお話しとして,Dolbyは今でも弊社にとって非常によいパートナーです。それも大きな理由の1つですね。
4Gamer:
開発中,Dolby以外のバーチャルサラウンド技術は試しましたか。
Michal Tempczyk氏:
もちろん試しましたよ。DTSのほか,まだそれほど有名でないブランドのものも含めていくつかテストしました。
4Gamer:
その結果としてのDolby選択であると。
そうですね。「ゲーム」という特別な環境において(自社の技術を除けば)Dolbyが一番よい技術であると結論付けた次第です。
ご存じのように,HRTF(Head Related Transfer Function,頭部伝達関数)アルゴリズムは非常に主観的な“問題”であって,個人個人で感じ方は大きく異なります。その前提に立った弊社の幅広いテストを通じて,弊社のファーストプライオリティはSennheiserアルゴリズム,そしてGSXにあるわけですが,次善のものとしてはDolbyのバーチャル7.1chこそが最もよい結果を得られると判断したということですね。
4Gamer:
ちなみにそのDolbyのバーチャル7.1chですが,ソフトウェア処理ですか? それとも,3D Dongle内にDSPを搭載して,そちらで処理しているのでしょうか。
Michal Tempczyk氏:
DSPで処理しています。
4Gamer:
GSP 550については最後にあと1つだけ。
今回,本体カラーをGSP 500の「黒+赤」からGSP 550で「黒+緑」へ変更してきたのはどういう意図によるものでしょうか。
Michal Tempczyk氏:
弊社内には市場リサーチを行う部門がありまして,通常はその部門が「グローバルで最もポピュラーな色」を探しています。GSP 550はグローバル展開しますので,ゲームの世界で最もポピュラーな色の1つである緑を採用したということになりますね。
4Gamer:
カモフラージュ系の色ですよね。
そうですね。ですのでミリタリー系(ゲーム)に合うと思います。
ただ,別売りのカバープレートを購入すれば,異なるカラーリングにすることも可能ですよ。黒にも,GSP 500と同じカラーリングにすることもできます。
GSPシリーズで交換できるのはカバープレートだけですが,将来の製品では,もっとカスタマイズできるようにしようと考えていたりもします。
2019年以降のSennheiserは,PCゲーム市場と同じくらい据え置き型ゲーム機の市場へフォーカス
4Gamer:
せっかくの機会なので,「これから」の話も少し伺いたいのですが。
Michal Tempczyk氏:
ええどうぞ。
4Gamer:
最近ゲーマー向けヘッドセットをテストしていて思うのは,ゲーム機というプラットフォームがより重要になってきているということなんです。Logitech InternationalがASTROを買収し,RazerやSteelSeriesは最新世代の製品で明らかに据え置き型ゲーム機を意識した製品展開を行っていますよね。
以前お話を伺ったときは「PCユーザーのほうが高額なデバイスへの投資を惜しまない傾向にあり,ユーザー数も多い」という回答をいただきましたが,あれから時間が経ったところで,「ゲーム機」という市場の可能性についてあらためて聞かせてください。
もちろん据え置き型ゲーム機というプラットフォームは重要なものだと認識しています。そしてご指摘のように,私達が選択すべき総合的な戦略というものを考えたときに,PCと据え置き型ゲーム機の市場は,製品を投入するにあたって同じくらい大事だという状態が,今後何年にもわたって続くでしょう。
4Gamer:
はい。
Michal Tempczyk氏:
ですので,私達の次世代製品では,すべてが,私達の言う「新技術」を用いた,据え置き型ゲーム機互換のものになります。これ以上詳しいことはお話しできませんが,2019年に,私達にとって新しい,据え置き型ゲーム機との互換性を持つ製品が登場予定です。
4Gamer:
そのとき,既存の製品とはどう棲み分けることになりますか。それとも置き換え?
Michal Tempczyk氏:
置き換えではありません。
まず,プレミアムなヘッドセットは据え置き型ゲーム機の市場よりもPCゲーム市場によりフォーカスしていきます。これは以前にもお話ししたと思いますが,PlayStation 4やXbox One,Nintendo Switchのユーザーで,ゲーム機本体よりも高価なヘッドセットを買おうという人はあまりいないからです。
4Gamer:
でしょうね。
Michal Tempczyk氏:
弊社はプロシューマ(※ProducerとConsumerを足した語。一般消費者でありながら創作も同時に行うような人のこと)向けの市場で最も強いブランドです。
ですので,東京の街頭でランダムにティーンエイジャーを捕まえて「Sennheiserとは?」と尋ねた場合,「知らない」という回答が最も多くなるはずです。
4Gamer:
オーディオ機器のブランドとしてすら知られていないと。
Michal Tempczyk氏:
おそらくそうでしょう。というのは,弊社がより高い年齢層を顧客として有しているからです。
プロゲーマーが使うトップブランドは,ZOWIEのマウスであり,SennheiserやHyperXのヘッドセットであり,その市場で一番の人気になっているのもそれらの製品なんですよ。弊社製品で言えば,統計的に見てGAME ZEROやGSP 600が該当します。
4Gamer:
はい。
Michal Tempczyk氏:
弊社はこれから,据え置き型ゲーム機市場にもPCゲーム市場と同じくらい力を入れようと考えていますが,私達の立ち位置的には,PCゲーム市場のほうが(私達にとって)より認知度の高い,より大きなプラットフォームです。「置き換える」ということではなく,これまでどおりPCにフォーカスしつつ,(同時に)据え置き型ゲーム機の市場にも力を入れていくのだとご理解ください。
4Gamer:
方向性は分かりました。ありがとうございます。
では,具体的には?
Michal Tempczyk氏:
すべてはお話しできませんが,「次の製品発表」では2製品をリリースします。先ほどの「新技術」を実装した製品で,1つは極めてプレミアムなものです。そしてその後,より市場から受け入れられやすい価格のものを投入する予定です。
我々としては,可能な限り,PCゲーム市場と据え置き型ゲーム機の市場を含む,より広いコミュニティをターゲットにしていきたいと考えています。
4Gamer:
お披露目はいつでしょう? CES 2019ですか。
それは少し早すぎますね(笑)。
確定ではありませんが,最初の(プレミアムな)製品はおそらく2019年第2四半期になると思います。より安価な製品が第3四半期になるのではないでしょうか。
それを皮切りに,向こう2年くらいは同一のパイプラインから派生製品をリリースしていくことになると思います。
途中で企業の分離が控えていますが,その前後,これから3年くらいにリリースする製品はすべて同じ方向性を向いたものになるでしょう。
4Gamer:
もう少し突っ込んだことを2つ聞かせてください。1つは,据え置き型ゲーム機に注力するということで気になるのが,ゲーム機からのサウンドをいかにして受けるか,という部分です。要は「HDMIか,光か」という話ですが。
Michal Tempczyk氏:
私レベルでお話しできるのは,それは将来の製品を研究開発するプロダクトマネージャーの領分であるということと,少なくとも,現時点だとHDMIを使うソリューションは社内の製品ロードマップ上にないということだけですね。
それは十分すぎるほどの回答ですよ(笑)。
もう1つは,GSXシリーズと比べるとリーズナブルで,かつゲームユースに耐える単体サウンドデバイスの可能性です。それこそ光入力を受けられる単体製品などがあれば,GSPシリーズのアナログ接続型ヘッドセットと組み合わせてゲーム機で利用できると思うのです。
Michal Tempczyk氏:
そちらはもっと漠然とした回答になってしまいますが,ヘッドフォンアンプ製品の開発は継続していく戦略を保持しています。
これはまだどうなるか分かりませんが,より機能を絞りつつ,(他社の)廉価なUSBサウンドデバイスを置き換えられるような製品はリリースするかもしれませんよ。
4Gamer:
いつもながらスパスパとお答えいただいて感謝です。
ちなみにダメもとで伺いますが,その後は?
Michal Tempczyk氏:
それは誰にも分かりませんよ(笑)。現時点の私達が分かっているのは,少なくとも3年後までは,企業の分割を経ても,何も変わらないということだけです。
もちろん,次の10年もその先の将来でも,現在のメンバーでゲーマー向けの高品質な製品を開発し,販売していこうという軸は変わらないでしょう。
4Gamer:
もう1つ,プレミアムなゲーマー向け製品の市場,という観点でもご意見を聞かせてください。GSP 600やGSP 500のレビューを行って何に一番驚くかというと,「レビューを見て買った」という人の数が多いことです。5000円,1万円の製品ならともかく,2万円3万円クラスの製品がこのように売れていくというのは数年前には考えてもいなかったのですが,市場におけるこの傾向はどうご覧になっていますか。
Michal Tempczyk氏:
私見ですが,4Gamerなどのメディアや,通販サイトにおいて本当に購入した人のユーザーレビューは,プレミアムブランドにとって最も重要なマーケティングツールの1つになっています。
もちろん弊社の営業部隊はエンドユーザーに選んでいただけるように日々努力していますが,それとは別に,メーカーの人間ではないレビュワーの意見がポジティブであれば,読んだ方は「ああ,これは良い製品なんだ」と納得するわけです。
もう1つ大きなのは,通販の発達と保証期間の長さが,「何かあれば返品できる」安心感を生んだという点です。返品できるなら,ちょっとくらい高価なものでも購入をためらう必要がないというわけですね。
4Gamer:
なるほど……。返品のお話はとても興味深いです。
あとは,流行しているゲームが変わり,コミュニティのあり方が変わってきたというのも大きいでしょう。
「Fortnite」(PC / PlayStation 4 / Xbox One / Nintendo Switch / Android / iOS)のようなバトルロイヤルは本当に多くのものを変えました。一昔前は幅広いオーディエンスにアピールするタイトルってほぼありませんでしたよね。ボイスチャットは限られた仲間内で行うもので,それを揃えられるユーザーの年齢層はある程度高め。なので私達もその層をターゲットにしていました。
しかし,Fortniteのスクワッドであれば,事実上ヘッドセットは必須です。これによって私達や,競合他社にとって大きなビジネスチャンスが訪れたわけです。これには本当に感謝しているというのも本音だったりします。
4Gamer:
個人的には,据え置き型ゲーム機のオープン化によって,PCとゲーム機,モバイルデバイス感で同じヘッドセットを使い回せるようになったことも,高価なゲーマー向けモデルが売れる要因の1つではないかと思うのですが。
Michal Tempczyk氏:
それはあると思います。
現在はアナログケーブルを付け替えたりしていますが,将来的にはGoogle HomeやAmazon Alexaを使って,声で接続先を変えられるようになるかもしれません。
4Gamer:
質問は以上です。最後は雑談みたいになってしまいましたが(笑)。
Michal Tempczyk氏:
ありがとう。いいミーティングでした。
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