レビュー
税込3万円クラスのアナログ接続型ヘッドセットには「ウルトラハイエンドの凄み」があった
Sennheiser GSP 600
2018年1月,CES 2018のタイミングでファーストインプレッションをお届けしている,Sennheiser(ゼンハイザー)ブランドのゲーマー向けアナログ接続型ヘッドセット新製品「GSP 600」。3月21日の国内発売に合わせて,4GamerはSennheiserの日本法人であるゼンハイザージャパンから製品版を入手できたので,テスト結果をお届けしたい。
なお,外観や装着感といった,ファーストインプレッションでお伝え済みの情報は,最終製品における差分のみを取り上げる。なので見た目や,アナログスライダーによる側圧調整機構,「Solid Metal Hinge Design」(ソリッドメタルヒンジシステム)と呼ばれるヒンジ周りの話が気になる場合は,先にファーストインプレッションを一読のうえ,本稿に戻ってきてもらえればと思う。
[CES 2018]ゼンハイザー,新世代ハイエンドヘッドセット「GSP 600」発表。注目のGAME ZERO後継機,まずはその音を聴いてみた
SennheiserはGSP 600のオープンエア(開放型)対応バリエーションモデル的な存在である「GSP 500」も発表済みだが,そちらは5月24日の国内発売予定となっている。
●GSP 600の主なスペック
- 基本仕様:アナログ接続型ワイヤードタイプ,オーバーイヤー密閉型エンクロージャ採用
- 本体サイズ:未公開
- 実測重量:約360g(※着脱式ケーブル除く)
- 実測ケーブル長:約3m(※PC接続用),約1.3m(※ゲーム機接続用)
- 接続インタフェース:3極3.5mmミニピン
× 2(※PC接続用),4極3.5mmミニピン × 1(※ゲーム機接続用) - 搭載ボタン/スイッチ:ヘッドフォン出力音量調整,マイクミュート有効/無効切り替え(※ブームマイクの上げ下げによる)
- 主な付属品:未公開
- 対応ハードウェア:PC,Mac,PlayStation 4,Xbox One,Nintendo Switch,モバイルデバイス(※Xbox Oneの一部モデルは接続にあたって別売りアダプターが必要,モバイルデバイスは3.5mmミニピン端子が必要)
- 保証期間:2年間
- 周波数特性:10Hz〜30kHz
- インピーダンス:28Ω
- 出力音圧レベル:112dB SPL(@1kHz,1V RMS)
- スピーカードライバー:ダイナミック型
- 周波数特性:10Hz〜18kHz
- 感度:-47dBV/PA
- インピーダンス:未公開
- S/N比:未公開
- 指向性:双方向(Bi-directional ECM)
- ノイズキャンセリング機能:あり
着脱式ケーブルを除いた本体実測重量がGamma Buildから20gほど増え,最終製品版で約360gまでちょっと増えているが,見た目が同じなので,理由は不明だ。
触ってみて気になったのは,右耳用エンクロージャに統合されたサウンド出力音量コントローラダイヤルやマイクブームを上げ下げする可動部が,よりカチッとした仕上がりになったこと。Gamma Buildの時点でかなりのレベルにあった剛性が,最終製品版でさらに高まったと表現したほうがいいかもしれない。
もう1つ,使い勝手レベルにおける重要なアップデートとして,Gamma Buildだと非常に硬く,いったん外さないと再調整できなかった側圧調整用スライダーの動きが最終製品版ではスムーズになり,頭に装着したままでも動かせるようになった。一言でまとめるなら,最終製品版でハードウェア品質はさらに向上している。
これまでのヘッドセットとはレベルが異なる出力品質
といったところを踏まえて,テストに移ろう。
2017年3月時点において,4Gamerのヘッドセットレビューでは,以下のようにして実力を検証することになっている。
- ヘッドフォン出力テスト:ダミーヘッドによる測定と試聴
- マイク入力テスト:測定と入力データの試聴
一方,マイク入力の測定対象は周波数特性と位相特性で,こちらも具体的なテスト方法は「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるマイクテスト方法」にまとめてある。基本的には,それらを読まずともなんとなくは理解できるよう配慮しているつもりだが,気になるところがあれば,それぞれリンク先をチェックしてほしい。
というわけで,いつものようにヘッドフォン出力から見ていこう。ここではCreative Technology製サウンドカード「Sound Blaster ZxR」と組み合わせた状態の出力波形をダミーヘッドで出力することになる。
これは,Waves製アナライザ「PAZ Analyzer」で計測したグラフを基に,4Gamer独自ツールを使ってリファレンスと測定結果の差分を取った結果であり,リファレンスに近ければ近いほど黄緑になり,グラフ縦軸上側へブレる場合は程度の少ない順に黄,橙,赤,下側へブレる場合は同様に水,青,紺と色分けするようにしてある。
差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域(700Hz〜1.4kHzあたり,緑)中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す。
さて,結果は下に示したとおり。低域と高域の間にあるギャップが小さい,軽いドンシャリ風の波形になっている。
ここで振り返ってみたいのは,先のファーストインプレッションでテストしたGamma Buildの周波数特性だ。当時と比べて筆者の自宅スタジオ内レイアウトが変わったため,波形は取り直しになっている点に注意してほしいが,その結果は下のとおりだ。Gamma Buildと比べると,最終製品版GSP 600では,低域が大きくなってピークはむしろ高域より大きくなり,かつその高域は4kHzより上の落ち込み方が相対的に滑らかとなっているのが分かる。
置き換え対象である「GAME ZERO」(※リリース当初は「G4ME ZERO」表記)と比べても,明らかに高域はマイルドだ。
前段で最終製品版とGamma Buildでは重量が異なることを指摘しているが,いくら何でもCES 2018から2か月という短期間でSennheiser Communicationsが「トランスデューサー」と呼ぶスピーカードライバーを変更してきたとは思えない。ハウジング(≒エンクロージャ内部)の音響設計を変更してきたと考えるのが妥当ではなかろうか。最後の最後でファインチューンが入ったということなのだろう。
いわゆる鼻づまり超えはきちんとそう聞こえ,ベースは,ことさらに強かったり弱かったりすることなく,重低音の最も深い部分まできちんと聞こえる。音をカリッとさせたいときはWindows側の音量設定を上げていけば高域の強調が強まるので,試してみるといいだろう。
なお,音量は十分にある。Windows側のそれと連動するタイプであるSound Blaster ZxR側の出力音量設定を50まで落としてもなお音が大きく,GSP 600側のアナログダイヤルで若干――無段階なので正確な数値を示せないが,感覚的には1割くらい――落として,それでちょうどいいくらいだった。音量が足りないと感じることはまずないはずだ。
今回もゲームサウンドのテストには「Fallout 4」と「Project CARS」を用いているが,一聴して分かるのは,周波数のバランスがよいためか,いつも以上に音情報が多いと感じられるところだ。「周波数バランスが良好なので,特定の帯域が必要以上に他の帯域をマスクしない」と言ったほうが分かりやすいかもしれない。
Fallout 4では,ヘリコプターに乗り込む前と後のシーンをテストに用いているが,乗り込む前に周囲をぐるぐる回ってみると,音の移動は極めてスムーズ。定位が把握しやすいので,「どこで音が鳴っているか」がピンポイントで分かる。乗り込んで着席すると,ヘリのローター音は前方30度くらいに来るのだが,その音の定位も完璧だ。フロントL/Rの定位がぼやけないのは素晴らしい。
一方のProject CARSでは,敵車をパスするときの音が,明らかにレベルの異なる高解像度で聞こえる。縁石に乗り上げたり,ギアチェンジしたりするときの低域は自然で無理がなく,しかも重低域まで拾えていた。
マイク入力はS/N比が高く,アナログなのに低ノイズ
こちらもまずは周波数特性を下のとおり示すが,出力同様にスムーズで,急な凸凹がないのが見てとれると思う。
※ 2kHz〜4kHz付近の周波数帯域。プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。
超高域まで落ち込むことなく集音できるため,話者の声がボイスチャット相手には鼻づまりに聞こえる,なんて問題とは無縁だ。また,低域は若干落とし気味なので,存在はすれども,聞き取りの邪魔になることもない。
S/N比の高いマイクを採用するゲーマー向けヘッドセットはほかにもある。しかし,45Hz〜18kHzという広範囲をフラットに拾って,かつこのノイズの少なさというのは特筆に値する。実際のオンラインボイスチャットだと4kHzくらいまでしか有効でないことも多いので,チャット相手に届くノイズはほぼゼロということになるのではなかろうか。
ゲーマー向けアナログ接続型ヘッドセットとして価格は圧倒的だが,完成度も圧倒的なGSP 600
一般論として,「量産直前版サンプルと量産開始後を比較すると,前者のほうが品質は上」なんてことはけっこうよくある話なのだが,周波数バランスを調整して音をスムーズにしてきたことには「え,このタイミングで音変えるの?」以外の言葉が出てこない。
既存のゲーマー向け製品ブランドが,これまでにない技術を懸命に開発して,ゲーマー向けヘッドセットの品質を一足飛びで高めてきたところへ,ヘッドフォンおよびマイク業界の巨人が「本物のウルトラハイエンド」で迎撃にきた,と書いたら伝わるだろうか?
店頭で試すチャンスがあれば,ぜひ音を聞いてみてほしい。きっと,GSP 600の持つ凄みを体験できるはずだ。
GSP 600をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
GSP 600をパソコンショップ アークで購入する
SennheiserのGSP 600製品情報ページ(英語)
ゼンハイザージャパンのGSP 600製品情報ページ
- 関連タイトル:
Sennheiser
- この記事のURL: