レビュー
1万円以下で買えるSennheiser印のヘッドセット,弱点は1つだけ?
Sennheiser GSP 300
発売されてからだいぶ時間は経ってしまったのだが,結果として税込1万円以下から買えるようになった,Sennheiser Communications(ゼンハイザーコミュニケーションズ)製のアナログ接続型ヘッドセット「GSP 300」を今回は取り上げてみたい。
Sennheiser(ゼンハイザー)ブランドで税込1万円以下というのは,それだけでグッとくる人も少なくないと思うが,果たしてゲーム用途におけるその実力はどれほどか。今回も細かくチェックしていこう。
それに先だってお伝えしておくと,主なスペックは以下のとおりとなる。
●GSP 300の主なスペック
- 基本仕様:アナログ接続型ワイヤードタイプ,密閉型エンクロージャ採用
- 公称本体サイズ:未公開
- 実測重量:約267g(※マイクブーム,ケーブル含む)
- 実測ケーブル長:約1.9m(本体標準,3極3.5mm
× 2),約71m(3極3.5mm × 2→4極3.5mm × 1変換アダプターケーブル) - 接続インタフェース:3極3.5mmミニピン
× 2(※標準),4極3.5mmミニピン × 1(※3極→4極変換アダプターケーブル利用時) - 搭載ボタン/スイッチ:ヘッドフォン出力音量調整,マイクミュート
- 主な付属品:3極3.5mm
× 2→4極3.5mm × 1変換アダプターケーブル - 対応ハードウェア:PC,Mac,据え置き型ゲーム機,アナログ接続対応モバイルデバイス
- 保証期間:未公開
- 周波数特性:15Hz〜26kHz
- インピーダンス:19Ω
- 出力音圧レベル:113dB SPL
- スピーカードライバー:未公開
- 方式:未公開
- 周波数特性:10Hz〜15kHz
- 感度:−41dBV/PA
- インピーダンス:未公開
- S/N比:未公開
- 指向性:未公開
- ノイズキャンセリング機能:あり
素材感は価格相応ながら,随所にSennheiserらしさのある外観
言い方を変えると,ハイエンドモデルである「GAME ONE」(旧称:G4ME ONE)や「GAME ZERO」(旧称:G4ME ZERO)のような「いかにもSennheiser」な見た目を,GSP 300はしていない。また,素材感自体は悪くないものの,Sennheiserというブランドの名前から期待されるレベルでもない。
まあ,ハイエンドブランドがエントリーやミドルクラスの製品を開発すると,「ローコスト製品の見栄えをそれなりに保つ」ノウハウがないので,こういうことになりがちではあるのだが。
密閉型のエンクロージャ(※ハウジングとも言う)は,装着状態を横から見たとき,下側が鼻寄り,上側が後頭部寄りに傾いた,Sennheiserのヘッドフォンでもよく見られるデザインになっている。これは,より多くのユーザーの耳にフィットしやすくなるという,Sennheiser伝統のアナログ的な工夫だ。
右耳用エンクロージャ部には大きなダイヤルが付いているが,これはヘッドフォン出力のコントローラ。左耳用エンクロージャには大きなマイクブームがあり,跳ね上げるとマイク入力をミュートできる。
右でヘッドフォン,左でマイクをそれぞれシンプルに制御できるのは,分かりやすい配置だと思う。
ブームは中央のみ硬めのゴム製で,ここを曲げてマイク位置を調整するという,GAME ONEおよびGAME ZEROと同じ仕様で,つまり設置自由度はとても低い。ノイズキャンセリング対応とされる先端のマイク部は,口に近いほうと,その反対側に空気孔が8つずつ並んでいるが,2マイク仕様かどうかは後段で検証したい。
水色の布素材によるグリルで覆われているため分かりにくいが,スピーカードライバーは若干傾いていて,装着時,わずかにユーザーの斜め前から音が鳴るような設計になっている。最近のゲーマー向けヘッドセットで流行の仕様だが,GSP 300でも,これによりステレオ感の改善を図っているという理解でいいだろう。
なお,スピーカードライバーの周波数特性は公称15Hz〜26kHz。一般的なゲーマー向けヘッドセットよりも広い範囲をカバーしている。
エンクロージャとアーム経由でつながるヘッドバンド部だが,長さはアームとヘッドバンド部のところに埋め込まれたスライダーにより調整が可能だ。
スライダーのクリック感は,片手で調整できるほど軽い。目盛りはあるが数字はないので,ユーザーは目盛りを数えて左右の長さ調整をすることになる。
ケーブルの先端は,3極3.5mmステレオミニピン
細かいことだが,3極端子の先端部は,出力用の黄緑と入力用の桃で色分けされている。デザイン重視で色分けしない製品も増えてきたが,こういう分かりやすい色分けは実用的でよい。
出力の周波数特性はGAME ONEとGAME ZEROの中間くらい
さて,テストである。
2017年10月現在,4Gamerのヘッドセットレビューは,
- ヘッドフォン出力テスト:ダミーヘッドによる測定と試聴
- マイク入力テスト:測定と入力データの試聴
ヘッドフォン出力時の測定対象は周波数特性と位相特性,そして出力遅延だが,GSP 300は純粋なアナログ接続型ヘッドセットで,アナログ音声信号の遅延は事実上,無視できるレベルだ。そのため,USB接続型ヘッドセットのテストで行っている遅延検証は,今回は行わない。
周波数特性をテストする具体的なやり方は,「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるヘッドフォン出力テスト方法」にまとめてあるので,そちらを確認してもらえればと思う。
マイク入力の測定対象は周波数特性と位相特性で,こちらも具体的なテストの流れは「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるマイクテスト方法」にまとめてある。基本的には,いま紹介した2つの解説記事を読まずともなんとなくは理解できるよう配慮しているつもりだ。
というわけで,いつものようにヘッドフォン出力から見ていくが,今回はCreative Technology製サウンドカード「Soundr Blaster ZxR」だけでなく,Sennheiser Communications製のUSBサウンドデバイス「GSX 1000」と組み合わせた状態でも出力を行い,ダミーヘッドから計測を行うことにした。GSX 1000を用いた計測では,本体側の設定からヘッドセットモードを選択し,イコライザは無効化している。
差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域(700Hz〜1.4kHzあたり,緑)中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す。
結果は下に示したとおりで,結論から先に言うと,Sound Blaster ZxRとGSX 1000とで,ほぼ同じ結果となっている。つまり,両サウンドデバイスでヘッドフォン出力仕様はよく似ているわけだ。
もっとも,違いは存在する。45Hz付近より下の超重低域ではSound Blaster ZxRと組み合わせたときのほうが,6kHz付近はGSX 1000と組み合わせたときのほうが,それぞれわずかながら低い。
※ 2kHz〜4kHz付近の周波数帯域。プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。
実際にステレオの音楽を試聴してみると,得られた周波数特性どおり,「シャリ」の強いドンシャリ傾向がある。最近の4Gamerが比較用リファレンスとして用いているGAME ONEと比較してみると,中低域を抑えてクリアにして,プレゼンス帯域を強くした印象だ。
結果として,GAME ONEと比べて,音の重心がやや軽く感じられる。音質傾向としては,GAME ONEとGAME ZEROの中間,どちらかと言えばGAME ZERO寄りといったところか。Sound Blaster ZxRよりは,GSX 1000と組み合わせたときのほうが,プレゼンス帯域はスムーズである。
ただ,スピーカーの能力の問題かもしれないが,強いバスドラムの入った曲をやや大きめの音量で聞くと,歪みまではいかないものの,若干の飽和感があった。GSP 300は,大音量で強めの低周波を再生するのは得意でないかもしれない。
ゲームタイトルを用いた試聴では,GSX 1000を7.1chモードにした状態をメインで用いた。
GSX 1000は,最新技術であるバイノーラルレンダリングをサポートするのが特徴だが(関連記事),7.1chモードを有効化すると,前方定位がかなりすっきりする。
ちなみに,ヘリコプターのプロペラ音をたとえば右前方30度くらいのところに置いた場合,Sound Blaster ZxR+GSP 300では右斜め前45度くらいに聞こえるのだが,GSX 1000と組み合わせると,ほぼイメージどおり右斜め30度くらいに聞こえ,「前方に定位している感」が明らかに高まった。この点は特筆しておきたい。
話をGSP 300に戻すが,ゲームタイトルを「Project CARS」へ変更してみると,周波数特性からも想像できるように,縁石に乗り上げたときの超重低音まできちんと再生できるようになった。ガヤの後方定位なども良好だ。
なお,「Razer Surround Pro」をいつものように有効化してみると,面白い体験ができた。最近のRazer Surround Proアルゴリズムは,良くも悪くも高域がロールオフした(=なまった)感じになるのだが,GSP 300ではそれがなかったのだ。おそらくはGSP 300のプレゼンス帯域再生能力がしっかりしているからだろう。
マイクはとても素直で,実用的な周波数特性
ここでは周波数特性だけでなく位相特性も計測することから,リファレンスのスイープ波形と計測結果の波形を重ねて下に示しているが,まず,GSX 1000はUSB接続型サウンドデバイスということもあってか,サンプリングレートが16kHzで,計測結果でも8kHz以上ですっぱりフィルタリングされているのが分かる。逆に言うと非常に高い周波数まで,Sound Blaster ZxRはがっつり集音することになるわけだ。
1.7kHz付近の落ち込みはテストに用いているスピーカーの特性なので,これは気にしないでほしい。
さて,それ以外だとSound Blaster ZxR接続時もGSX 1000接続時も似た波形で,2kHzくらいから下がやや低く,それより上はわずかに高めの山となり,低域はなだらかに落ち込んでいく傾向が見られた。不要なフロアノイズ(=低周波帯域の定常波ノイズ)を減らしつつも,男性の声の響きを含む低周波までは極端に犠牲にしていない周波数特性ということになる。
位相は完璧で,これを見る限り,GSP 300はモノラルマイクを採用しているか,ヘッドセット側でモノラル化を行っているように思われる。
差分で見ると,Sound Blaster ZxRとGSX 1000とで2kHz以上の山の高さが異なり,スパッとフィルタリングされている部分を除けばGSX 1000のほうが低く,リファレンスに近い傾向を示しているのも分かるが,これは「高周波になるほど落ち込む」という,GSX 1000の持つ入力周波数特性がゆえだろう(関連記事)。
気になったのはノイズキャンセリングの効果で,低周波から中周波では有効ながら,ZxRだと超高域まで集音するため,高周波のヒスノイズ(=定常波ノイズ)は意外と残っている。この帯域は実際のオンラインボイスチャットだと気にならない場合がほとんどだと思うが,空調などのヒスノイズ(≒高周波ノイズ)がもし気になるようであれば,サウンドカード側のノイズキャンセリング機能なりノイズリダクション機能を併用するのも一考だ。
一方,GSX 1000と組み合わせた場合は,8kHz以上が存在しないため,どうしてもサンプリングレートの低い,ざらざらした音に感じる。ただ,ネットワーク転送の帯域幅に著しい制限がかかる,ゲーム中のボイスチャットにおいては,いつも書いているとおり,まず問題にならないだろう。むしろ「何を言ってるか」がきちんと相手に伝わることこそが重要で,その点でGSP 300の示しているこの波形は合格と言える。
低価格製品らしい外観は残念だが,製品品質は高い
しかし,外観はお世辞にも,所有欲を満たす感じがしない。何と言うか,GAME ONEやGAME ZEROと比べてコストを落としつつ,見た目をゲーマー向けっぽくしようとして,見事に失敗している印象が拭えないのだ。ここがGSP 300の抱える最大の泣きどころだろう。とくにこの価格帯では既存のゲーマー向け製品ブランドが見た目にこだわったヘッドセットを争って出しているだけに,余計そう思えてしまう。
2017年10月30日現在の9200〜1万200円程度という実勢価格は,こと音質や装着性とのバランスで言えば破格だ。
見た目さえよければ……というところに話は落ち着くのだが,読者の皆さんはどう思うだろうか。
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