インタビュー
「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」がヒットした理由とは? コロプラの馬場功淳代表取締役社長に聞いてみた
コロプラといえば,かつても今も位置情報を使ったモバイル端末向けゲームで有名だが,ここ1〜2年は,とくにスマートフォン向けゲームに注力しているという印象が強い。そこで今回4Gamerでは,魔法使いと黒猫のウィズ開発の背景を中心に,コロプラの成り立ちと現在の事業戦略,そして今後の展望などを,同社の代表取締役社長 馬場功淳氏に聞いてみた。
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AirH"Phoneに感銘を受けて「コロニーな生活」をスタート
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,4Gamerの読者に向けて,コロプラがどんな会社なのか,概要を教えてもらえますか? 個人的には,位置情報を使ったフィーチャーフォン向けゲームのイメージが強いのですが。
コロプラ自体の設立は,2008年のことです。でも,そもそもの始まりは,2003年に僕が個人で「コロニーな生活」のサービスを,DDIポケット(当時)のAirH"(現AIR-EDGE)上で提供したのが,始まりなんです。
4Gamer:
当時,なぜAirH"に興味を持たれたんですか?
馬場氏:
AirH"Phoneの端末に感銘を受けたんです。その頃,僕は携帯電話向けのコンテンツを制作する仕事をしていたんですが,当時のデータ通信の料金体系は完全に従量制だったんですよね。
そこにAirH"が定額制のサービスを開始し,さらにCHTMLをそのまま使える端末をリリースしてきたわけです。そのうえ,いわゆる「勝手サイト」であっても位置情報を登録できるという状況でしたから,何かコンテンツを作って提供してみたいと思ったんですよ。
4Gamer:
ビジネスにしようというより,まず作ってみたいという気持ちが強かったわけですね。
馬場氏:
ええ。スペックとサービスの内容に感動して端末を買った人は多かったんですが,機能を十分に使えるサイトがほとんどないという状況でしたからね。
そこで,試しに作ってみたら,大勢の方が遊んでくださったんです。
4Gamer:
いわゆる“位置ゲー”は出張の多いサラリーマンなどに,とくに好評と聞いて,目の付けどころがほかと違うと思っていたんですが,位置情報に着目したのは何か理由があったんでしょうか?
馬場氏:
端末にその機能があったから,ですね。
4Gamer:
あくまで機能を生かすために,ゲームの仕様を決めた,と。
馬場氏:
はい。当初は会社員として働きながら,一人で細々とサービスを提供していたんですが,2006年頃,NTTドコモ向けにもサービスを始めたところ,ユーザーが一気に増えたんです。
2008年ぐらいになると,もうコロニーな生活のサービスと,僕自身の会社勤務との両立が難しくなっていたんですね。そのときに,ユーザーの皆様により安定した楽しいサービスを提供したいと思い,2008年4月に会社を辞めました。
4Gamer:
AirH"Phoneの機能に魅せられて始めたコロニーな生活が,やがて生活の中心になっていったわけですね。
馬場氏:
はい。その後,個人事業主としてサービスを提供していたんですが,いろいろと間に合わなくなってきたので,2008年10月にあらためて会社としてコロプラを立ち上げました。
それからは,会社の全リソース──40〜50人くらいの力を注いで,コロニーな生活の運用に努めました。例えば,リアル連携などの事業を始めたのもこの頃ですね。
面白い位置ゲーには面白いゲームが必要
4Gamer:
リアル連携はさまざまな話題を呼びましたし,今でも根強い“位置ゲーのコロプラ”というイメージにつながる取り組みですよね。
最初のうちは企業としての実績がありませんでしたから,なかなか形にできなかったものもあるのですが,コロニーな生活を知っている方はけっこう多かったんです。なので,一つ実例ができてからは,お話を持ちかけてくださるところも増えて,すんなり話が進んだりするケースもありました。
4Gamer:
きっと先方の担当者が,最初からコロニーな生活のユーザーだったこともあったんでしょうね。
馬場氏:
ええ。しかし,そうした流れの一方で,世間では広い意味でのプラットフォームの移り変わりがありました。SNSでいえば,mixiさんに始まり,DeNAさんとGREEさんが頭角を現し,ここ数年ではスマートフォンが台頭してきました。
そういう状況を見ているうちに,コロプラもこのままじゃダメだなと考えるようになったんです。
4Gamer:
プラットフォームだけでなく,ユーザーのニーズも変化しますし。
馬場氏:
そうなんですよね。ところが……位置ゲーというのは,スマートフォンよりもフィーチャーフォンに適していたんです。
というのも,日本のキャリアさんが頑張ってくださったおかげで,フィーチャーフォンだと非常に高精度で位置情報を取得できます。しかしブーム初期のスマートフォンはそのあたりがフィーチャーフォンに劣っていて,位置ゲーを作りにくかったのです
4Gamer:
スマートフォンの地図アプリなんかも,初期はわりと大胆な誤差がありました。何度迷子になったことか……。
確かにそういう状態だと,いくらスマートフォンが普及しても,位置ゲーのサービスは作りにくいですよね。
馬場氏:
ええ,なかなか思うように事業が進まない時期でした。
それでもスマートフォンの普及が進むのは間違いないと思っていましたし,モバイル端末向けのゲームもどんどんリッチになっていくだろうと考えていました。さらに,コンシューマゲームメーカーも次々と参入してくるだろうと予想していましたし。
ここで手をこまねいていたのでは,やがてコロプラが太刀打ちできない状況に陥ってしまいかねません。そこで2011年の秋頃に,会社全体でスマートフォンゲームに向けた方向転換をしたんです。
4Gamer:
そこでゲームにこだわった理由は何でしょう? コロプラで培った位置ゲーのノウハウを応用して,たとえばマーケティング事業にシフトするといったことも可能だったと思うんですが。
馬場氏:
コロプラは,「Entertainment in Real Life」をミッションに掲げています。それを体現するものの象徴が位置ゲーですから,やはりスマートフォンでも位置ゲーを提供したい。まずその思いが強かったんです。
しかし位置ゲーは,位置情報を使ったから面白くなるわけではありません。面白いゲームに位置情報を付けるから,より面白くなるんです。つまり,まずは面白いゲームを作らなければならないと考えたんです。
そういう目的を持って面白いスマートフォンゲームを作るべく,「Kuma the Bear」というライトゲームのブランドを立ち上げ,まずは「きらきらドロップ!」というコイン落としのゲームを作りました。当時あまり競合がなかったこともありますが,これが思いのほかヒットしたことで,手応えをつかんだんです。
4Gamer:
幸先のいいスタートを切れた,と。
馬場氏:
はい。そうこうするうちに,HTML5を使って可能なかぎりリッチな表現をしようと意欲的に取り組んだ「秘宝探偵キャリー」(iOS / Android)が,かなりのヒットコンテンツとなりました。このヒットにより,コロプラはKuma the Bearというネイティブアプリと,Webアプリの2軸を事業の柱に据えることとなったんです。
前者では,ライトなゲームをすでに30タイトル以上リリースしていますし,後者では「プロ野球PRIDE」(iOS / Android),「恐竜ドミニオン」(iOS / Android),「ディズニー マジシャン・クロニクル」(iOS / Android),「SHADOWHAZE」(iOS)のサービスを提供しています。
4Gamer:
すごい勢いでリリースしてきたんですね。
ちなみに馬場さんご自身は,ゲーム好きなんですか?
馬場氏:
それは,僕が会社の採用面接で聞く質問ですね(笑)。
僕自身は,今現在も「機動戦士ガンダムオンライン」で遊んでいるくらいゲームが好きです。小学生の頃は「ドラゴンクエスト」シリーズや「サガ」シリーズ,中学生の頃は「天外魔境」シリーズなどを遊んでいました。高校時代は寮に入っていたので自由にゲームができなかったんですが,大学時代がちょうどオンラインゲームの台頭と重なったこともあって,いろいろなゲームに手を出していましたね。
その中でもとくに好きだったのは,「Age of Empires」でした。そういえば,中学生の頃はRPG以外にも「A列車で行こう」や「SimCity」なんかでも遊んでいましたよ。
4Gamer:
なるほど。そう言われると,コロニーな生活にも馬場さんのストラテジー/シミュレーション好きなところが見え隠れしているように思えますね。
馬場氏:
そうかもしれないですね。コロプラ設立以降は「モンスターハンター」シリーズにハマって,仕事の合間や自宅に帰ってからずっとやっていました(笑)。
でも,ただ遊んでいたわけじゃないですよ。弊社のフィーチャーフォン向けゲームに「キャリー・ストーリー」というものがあるんですが,2010年初頭の段階で,業界でもまだ珍しかったレイドボスバトルを組み込むことができたんです。
4Gamer:
「遊んでいるんじゃない! 研究しているんだ!」と証明できたわけですね。
馬場氏:
ええ。あれはモンハンで遊んだからこそ生まれたアイデアです。ひょっとしたら他社さんのタイトルにも,レイドボスバトルは搭載されていたかも知れませんが,ヒットコンテンツとして世に認知させたのは,キャリー・ストーリーだという自負があります。
パズドラから受けた衝撃と影響
4Gamer:
そして2013年3月に,「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」(iOS / Android)がリリースされたわけですが,これはどういった経緯で持ち上がった企画なんですか?
馬場氏:
さかのぼると,スマートフォンアプリにシフトした2011年秋当時,弊社では,スマートフォンゲームを3つに区分したんです。
一つは「Angry Birds」のようなオフラインネイティブアプリ,二つめはWeb型のオンラインゲームでした。そして三つめがオンラインネイティブアプリなんですが,これはスマートフォンアプリの開発経験やノウハウがまったくなかった我々としては,着手できなかったんですね。
そこで2012年8月頃に,僕自身が企画を立てたんです。その過程ではいろいろ考えましたが,「これまで,あまりなかったクイズはどうだろう」というアイデアが浮かび,それをKuma the Bearから出そうという結論になりました。
4Gamer:
魔法使いと黒猫のウィズを遊んだときに,やはり「パズル&ドラゴンズ」(iOS / Android)の影響を受けた部分があるのかな? と感じたんですが,そのあたりはいかがでしょうか?
馬場氏:
影響はもちろんありますね。パズドラは現在のNo.1ゲームですし,歴史を変えるゲームですから。スマートフォンゲームの市場規模を一気に数倍に拡大したタイトルでもありますし。……本当は我々がそういったタイトルを作りたかったのですが,先を越されてしまいました(笑)。
そういったことだけでなく,パズドラはソーシャル要素の位置付けも変えました。それまでは,ソーシャル要素が強ければ強いほど良いという風潮でしたが,パズドラはそうじゃないんですよね。非常にライトなコミュニケーションで成り立っているんです。
4Gamer:
ライトなコミュニケーションだと,どういう効果があるんでしょう?
馬場氏:
ソーシャル要素の強いゲームだと,サービスが継続していくほどに新規プレイヤーが入りにくくなるんです。しかしパズドラのようにソーシャル要素を弱めてあると,あまりコミュニケーションを取らなくてもいいので,どのタイミングでも始められるんです。これは特徴的ですね。
4Gamer:
確かにパズドラのコミュニケーションは,リアルのクチコミやネットの掲示板も含めて,ゲーム外でなされることが多いですよね。これまでのソーシャルゲームでは,GREEやモバゲーなどプラットフォーム側が用意するSNSでコミュニケーションを図ってきたわけですが,それとは違う時代に移っていると感じます。
馬場氏:
我々としても,プラットフォームの力に頼ることなく,いいゲームを作れば,その分ダイレクトに大きな評価が得られるようになったという実感があります。ただ,パズドラはケタが違いましたね(笑)。
ともあれ,市場の評価や反応は正しいですから,これからはコンテンツがカギになるという認識を新たにしました。
4Gamer:
なるほど。
馬場氏:
さらにパズドラは,サービスの運用方法を変えました。森下社長は「ガンホー流のおもてなし」と表現していますが,とにかくプレイヤーにアイテムをたくさん提供するんです。今ではプレイヤーがその状況に慣れているので,ほかのタイトルでも同じような運用形式をとるようになってきています。
コロプラでは,プレイヤーがいいというものは素直に認めようと考えています。つまり,皆さんが「パズドラがいい」とおっしゃるのであれば,そのコンテキストに沿ったゲームを作るべきだという意識があるんです。
4Gamer:
プレイヤーのニーズの変化を敏感に察知して,そこに向けたゲームを作ろうということですね。
ただ,そうお聞きすると,魔法使いと黒猫のウィズを企画した段階では競合となるクイズゲームがなかったわけで,つまり市場に求められていないという判断にもなっていたのでは? と思うのですが。
パズドラのようなものが受け入れられる土壌ができたうえで,きっとこれからは従来のソーシャルゲームよりも,プレイヤーの能力が結果に表れるようなものが主流になっていくだろうと考えました。
ただし,だからといって急に難しすぎては,敬遠されてしまいます。そのあたりのバランスは,これまで「Kuma the Bear」で30本以上ライトゲームを作ってきた経験から学びました。
4Gamer:
難しすぎず,それでいてプレイヤーの能力が反映されるようなものが望まれるだろうと分析したんですね。
馬場氏:
はい。ある程度の技能が必要で,ゲームを遊ぶほどうまくなったり,いい結果が出たりすると,誰だって嬉しいものですよね。
そう考えたときに,知識で勝負するクイズは最適なんですよ。必要な操作は,正解を選んでボタンを押すだけですから。
4Gamer:
問題に対して解答するという基本ルールは,誰でも知っていますし。
馬場氏:
さらに,とあるアンケート調査によると,日本人の80%以上はクイズ好きだという話があるんです。実際,テレビを観ていても,非常にクイズ番組が多いですよね。そこで企画の発端では,クイズを取り上げようと考えました。
……実は僕,クイズがそれほど得意じゃないんですけれど(笑)。
4Gamer:
そこはあくまで,市場分析などを優先しているんですね。
ちょっと遊んでみて感じたんですが,クイズの形を取ってはいても,ゲームとしての手触りは,ソーシャルカードゲームのポチポチ感に近いですよね。あの手軽さは,意識して作ったものですか?
馬場氏:
もちろんです。ライトゲームである以上,操作が複雑になってはいけないという前提があります。
でも実は,僕が考えていた企画段階では,もっと難しいゲームになる予定だったんです。開発中,チームがいろいろと手を加えて,クイズを解いているだけで進行するような内容にしてくれました。とはいえ,それだけでは面白くありませんから,デッキや3すくみといった戦略性を加えたり,あるいはターゲットはできるけれども,しなくても大丈夫だったりと,クイズの面白さを妨げないレベルでの要素を投入しています。
4Gamer:
デッキの構築や3すくみの要素が,ライト層から敬遠されてしまう要因になるのではないかという懸念はありませんでしたか?
馬場氏:
そこは,パズドラがあるから大丈夫だろうと判断しました。皆さん,一度はパズドラを遊んだことがあるでしょうから,この要素は分かるだろう,と。
4Gamer:
あー,なるほど!
パズドラの成功と普及によって,ゲーム的な要素に対する理解も進んだという判断なんですね。
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