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印刷2013/09/19 00:00

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「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった

画像集#016のサムネイル/「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった
 角川ゲームスがDMM.comでサービス中のブラウザゲーム「艦隊これくしょん -艦これ-」(以下,「艦これ」)。
 しばしば「日本では,はやらない」と言われるミリタリーモチーフのゲームで,プレイヤー同士の競争や交流といったソーシャル機能を最小限しか持たない本作が,PC専用のブラウザゲームとして80万を超えるアカウントと驚異的なアクティブユーザー率を達成している。タブレット端末の出荷台数がノートPCの出荷台数を上回り,「これからはタブレットの時代だ」と言われる中で,である。

 この驚くべきゲームである「艦これ」は,いかなるデザイン意図で世に生み出されたのだろうか? 本作のプロデューサー兼ゲームディレクターである角川ゲームスの田中謙介氏に,奔放に語ってもらった。

画像集#001のサムネイル/「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった

「艦隊これくしょん -艦これ-」公式サイト(角川ゲームス)

「艦隊これくしょん -艦これ-」公式サイト(DMM.com)



奮戦し,悲しく沈んでいった艦を忘れずにいたい


4Gamer:
 本日は「艦これ」についていろいろとお話をうかがいたいのですが,今回は「マネタイズの話をしない」をテーマの一つにしたいと思います。

角川ゲームス 田中謙介氏
画像集#002のサムネイル/「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった
田中謙介氏(以下,田中氏):
 おお,それは新しいですね(笑)。

4Gamer:
 このあたりの話はすでに多くの媒体でなされている,というのもあるのですが,実は個人的に「課金しなくても楽しめる」とか「課金が厳しくない」というのはゲームの本質とは関係なく,そことゲームの面白さを結びつけて話すのは,何か変じゃないか? と感じていまして。
 むしろ,“ゲームとして面白い”から「艦これ」を楽しんでいるのであって,今回はそのゲームデザイン部分について重点的に聞かせていただければと思います。

田中氏:
 分かりました。どーんとどうぞ!

4Gamer:
 最初にうかがいたいのは,「艦これ」が,“萌え系”の“オンラインゲーム”で“育成系”と,三本柱の揃っているゲームでありながら“データロストがある”という,比較的珍しい構成になっている点です。この「データロストがある」という仕様は,どういう経緯で実装されたのでしょうか。

田中氏:
 実は「艦これ」は,最初はほとんど自分の趣味の企画といってもいい存在だったんです。旧軍の要港があった街や,奮戦して壮烈に,あるいは誰も見ていないところで悲しく沈んでいった艦艇を何らかの形で紹介し,一瞬でもいいからみんなで共有できるようなものを作りたいというのが,そもそもの発端でした。
 だから,そういう哀しみの史実や喪失感,もしくは痛みといったものを感じさせるプロトコルとして,ロストというのは当然の選択だったんです。実際にブラウザゲームとして実装してみたら,多くの提督(「艦これ」プレイヤーのこと)から「ロストは珍しい」「やめて」とも言われたのですが,むしろそれ以外にどうやって表現するんだと(笑)。

4Gamer:
 艦娘(かんむす)をロストすると,かなりショックが大きいですからね。

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田中氏:
 ええ。実際,サービスイン初期は多くの提督から「課金アイテムでもいいので,失った艦を復活させてほしい」という要望をいただいていました。でも,「艦これ」は哲学的にもシステム的にも,沈んだ船をサルベージする構造を持っていません。完全なロスト以外に,その喪失感を感じてもらう方法がないからです。
 その代わり,ロストにはものすごく明確化されたルールがあります。ただし明示はしていないので,どこからどこまでが安全で,どこから先が危険なのかは,提督の皆さんの体感と,ネットを通じた“柔らかなソーシャル”としての情報共有の中で探ってもらえればいいかなと。
 そんなわけで実際,賛否両論あったんですが……どうですか?

4Gamer:
 実は自分も,うとうとしながらレベル上げをしていて艦娘を沈めたことがありまして……。

田中氏:
 ああ,それは……。
 よく新規参加された提督にお叱りを受けるポイントとして,「進撃」と「夜戦突入」でボタンの位置が逆になっているというのがあるのですが,あれは一応,“判断を要する特殊な行動”“ベーシックな行動”で配置したつもりなんです。でも,結果的に“GO”と“No GO”が逆の配置になっているので,うとうとしていると「ドーン!」となっちゃうことがあるんですよね。

大和
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4Gamer:
 そうなんですよ。同じように,大切な艦娘を沈めてしまった提督はたくさんいると思うのですが,現状ではイベントでしか入手できない「大和」や「伊168」などの艦娘も,のちのち建造できるようになったりするのでしょうか?

田中氏:
 「艦これ」の開発/運営の基本ドクリトンとして,イベントオンリー,課金オンリーの艦娘はなるべく設定しないようにしています。イベントなどで頑張った提督に,それにふさわしい手応えを感じてもらえるようにするのはもちろんですが,イベントに参加できなかったから絶対に手に入らないというのは,自分がプレイヤーだったら少し切ないですし,根性と愛情とほんのちょっぴりリアルラックがあればなんとかなる,そんな形にできないかなあと。

4Gamer:
 ということは,いずれ通常の建造でも手に入るようになると。

田中氏:
 そうですね。「艦これ」サービスイン後に投入した1回めのイベント「敵泊地突入!」時も,イベント限定海域で「翔鶴」と「瑞鶴」が出るようになっていましたが,「翔鶴」はイベント終了から1か月後くらい,「瑞鶴」は1か月半後くらいに,建造で入手できるようにしています。

4Gamer:
 これで安心して大和の轟沈ボイスを聞けますね(笑)。

田中氏:
 いやいや,どうでしょう……。

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何のゲームかというと,兵站のゲーム


4Gamer:
 「艦これ」はバトルシミュレーション的な側面を持ちながら,戦術レベルの指揮がまったくできないというのも特徴的ですよね。

画像集#023のサムネイル/「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった
田中氏:
 ええ。「艦これ」はいろいろな見方ができるゲームではありますが,では本質的に何のゲームかというと「兵站のゲーム」なんです。僕は,戦いで決め手になる大きな要素は「兵站」だと強く思っていまして。ええ,強く強く。幼少の頃に読みふけった本の影響かも知れませんが。
 実際の戦闘では,戦いっていろいろな局面があると思いますが,「正面装備」を揃えることと,それを支える「兵站」が大前提としてあり,派手な作戦や戦術は最後に少しあるだけですよね。でも戦いを扱ったゲームや作品は,多くが戦術級や戦闘級……時々,作戦級……くらい? だから,もうそこはいいやと(笑)。
 それで,もともとやりたかった「兵站と正面装備を揃える」という部分を,「擬人化」という技法で「抽象化」するというのが,「艦これ」の根底にあるゲーム的なコンセプトなんです。

4Gamer:
 ああ,それでたくさんのことが納得できました。私は4Gamerではストラテジーゲームを主にレビューさせていただいていますが,根っこはどこにあるかと言いますと,アナログのウォーゲームでして。

田中氏:
 じゃあまったく同じだ! 思わず握手しそうになりました(笑)。ていうか,これから呑みに行きます? この近くにうまい日本酒の……いやいやいや。すみません。そんな呑みやっちゃうと「艦これ」の運営も新規開発のゲームもえらいことに……。
 実は僕,「アバロンヒル」(アメリカのウォーゲーム・デベロッパの老舗。ブランドは残ったが,組織としてはもう存在しない)と聞くと,思わずガタッと反応しちゃう人種なんです。

4Gamer:
 ということは,「コマンドマガジン」(国際通信社が隔月で発行しているウォーゲーム専門誌)とかいう言葉にも反応しちゃう系の?

田中氏:
 コマンドマガジンや「タクティクス」(ホビージャパンがかつて発行していたアナログゲームの専門誌)は買ってましたよ! あ,タクティクスは,もうない……コマンドマガジン,頑張れ!

4Gamer:
 ありがとうございます,コマンドマガジンには私もコラムを寄稿させていただいております。

田中氏:
 えー,そこでつながりますか!
 最近はさすがに付録のゲームを遊ぶ暇がないのですが,でもプレイしなくても,アナログな固い紙のへクスシートとユニットカウンターを持ってるだけで,ある種幸せという……。確か,ああいう雑誌が台湾にもありますよね。あれも……。

4Gamer:
 「戦棋」ですね。

田中氏:
 そうそう,それも仕事で台湾に行くたびに買ってるんです。あの付録感が最高。何の話でしたっけ? ああ,いいんですか,この話で?
 それともう一つ,中学〜高校生の頃にいつも買っていたものがあって,それがホビージャパンの「デザイナーズキット」。白いヘクスマップと,ブランクのカウンターがセットになってるだけのやつ。当時はインレタ(インスタントレタリング。転写可能なフィルムのこと)を使ってカウンターに数字を転写して,兵科記号も丁寧に手で描いて,自作のウォーゲームを作って,当時の数少ない仲間を半ば強引に誘って遊んでました。最終的には碁盤をひっくり返すように独りで遊んでいましたね……今思い出すと,なんて哀しい。

4Gamer:
 やりますよね。あの時代,誰もが通る道です。

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田中氏:
 あ,そうなんですか,よかった。……今,すごい勢いで,このインタビュー記事を読んでいる読者を置いてけぼりにしてません?(笑) うちの女性広報が全力で引いてますけど……。
 ほかにも,とてもシンプルですけれど「タクテクスII」(1958年に作られた,近代的なウォーゲームの黎明を飾る作品)や「マーケットガーデン作戦」(1982年にホビージャパンが発表したウォーゲーム。1944年に実施された同名の作戦を扱う)も好きでした。
 「タクテクスII」はピアノで言うとバイエルみたいなものですよね。これはもう,誰もが通らなきゃいけない。「マーケットガーデン作戦」も長いマップの端から進む英軍機甲師団,そして橋の向こうで悪魔が天使になっちゃってるみたいなシチュエーションが好きで,一人でもよく遊びましたよ(笑)。

4Gamer:
 あれをソロプレイで遊ぶのは,結構キツイですね(苦笑)。

田中氏:
 うん,左右からの独軍の増援がね……で,そういう珠玉のウォーゲームを見渡しても,どれもほぼ戦術もしくは作戦級なんですよね。戦略級までいっちゃうと,今度は一気に広くなりすぎてロジスティックス(兵站)というよりは「マキャベリ」(1977年にアバロンヒルから発表されたマルチゲーム。ルネサンス期イタリアにおける都市国家間の外交と闘争を描く)みたいな感じになってくる。意外と「軍需」「兵站」を正面題材として扱っているゲームって少ないんです。

4Gamer:
 では,プレイヤーの立場を「提督」にするというのも,最初から明白な意図のもとに設計されていたというわけですね。

田中氏:
 はい。厳密には一艦隊の提督が兵站とかやっているのはおかしいんですけど,そこはブラウザゲームとしての抽象化ということで。プレイヤーの役割は「正面装備を揃えること」「正面装備を稼働させられるだけの兵站を整え,運用すること」の2つだけというゲームとしてデザインしました。
 ただ,正面装備といっても「艦これ」の場合は女のコなので,女のコを自分の部屋(執務室や母港)に揃えて,その子達が十分に食っていけるように食べ物(資源)を用意して,仕事(出撃や遠征)に送り出して,帰ってきたらお風呂(修理ドック)に入れるという,見方を変えると……なんだこのゲームッ! ていう(笑)。

4Gamer:
 たしかに(笑)。

田中氏:
 でもそういうインターフェースの翻訳によって,「兵站」管理という本来は死ぬほど退屈かもしれない,でも本当は超大切なもの,それを楽しくプレイしてもらえたら,これほど幸せなことはないと。その中で,「艦娘」という擬人化インタフェースを通して,先の大戦で失われていった艦艇や最期の瞬間まで奮闘した人達のことを思い出してほしい,忘れないでほしいと思って作ったもの,それが「艦これ」です。
 それが多くの提督の支えもあって,ここまで多くの人に共感してもらえて,やりたいと思っていたことが信じられないことに叶ってしまいました。本当に感無量です。

4Gamer:
 私が「艦これ」を凄いと思った理由の一つが,プレイヤーの立場が提督として首尾一貫していることだったんです。「艦これ」では「提督なのに空母のエレベーターの上げ下げを指示する」とか「提督なのになぜか艦載機の操縦をしている」とかいうことがない,これは凄いと。

田中氏:
 でもそれは,僕らウォーゲーマーからすると当然のことじゃないですか。戦闘級と戦術級と作戦級が全部混ざっているようなゲーム,そりゃ何級だ?っていう話ですから(笑)。20年前くらいによく居酒屋でした,熱く無駄な議論!

4Gamer:
 もう一つ,「艦これ」のゲームデザインで感服したのが,「進撃」か「撤退」かという選択肢です。軍事行動はとことんまで突き詰めると「進むか,退くか」になるわけですが,それを提督という視点から「進撃」「撤退」という2択に抽象化したのは本当に凄いなと思いました。

画像集#009のサムネイル/「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった

田中氏:
 究極の抽象化ですよね。三次元でもなければ二次元でもない,一次元への抽象化っていう。

4Gamer:
 進むとリスクがあるし,退くとデメリットがある。そしてその選択はプレイヤーに委ねられている。戦場における指揮官の「決断」というのは,このレベルにまで抽象化できるんだと,感動すら覚えました。
 だから大変失礼ながら,このシステムは偶然生まれたのか,それとも狙って作られたのか,どうしても聞いてみたかったんです。オチから言えば“同業者”だったわけですが(笑)。

田中氏:
 ウォーゲームの企画/制作と商売で食べていけたら幸せですが,それはさすがに厳しいですよね。だから,そういうゲームをコンシューマやブラウザゲームに落とし込みたいと思っているのですが,なかなかうまくいきませんね。

4Gamer:
 でも,「艦これ」という大きな仕事を成し遂げられたじゃないですか。

田中氏:
 いやいや。ウォーゲーム畑の人にそう言っていただけると,少し救われたような気持ちになりますが(笑)。

4Gamer:
 私も最初,知人に勧められたときは,「ああ,また萌え系のゲームかな」と思っていたのですが,遊んでいるうちに,これはどうもそれだけじゃないぞ,と。それで「進撃」と「撤退」が何を抽象化してプレイヤーの体験にしているかに気がついたとき,これは本当に凄いと思いました。
 実際,「艦これ」のお陰で,俗にいう「栗田ターン」(1944年に行われたレイテ沖海戦において,栗田提督が率いる艦隊がなぜか途中でレイテ湾への突入を回避した事例。「謎の回頭」とされる)が再注目されましたよね(笑)。

田中氏:
 栗田ターンは,史実として考えると「いったい何やってるんだ! すべての犠牲を無駄にして! ありえないッ! 俺だったらッ!」となりがちですけれど,「艦これ」を遊んでいると「いや,ちょっと待てよ」っていう気持ちになる(笑)。“あの”栗田ターンが再考されるというのは,本当に面白いですね。
 でも栗田ターンについて議論している人によく考えてほしいんですけど,あれは「艦これ」で言うと「あと3日くらいでサービスが終了する」というときに,ボス戦前なのに「撤退」ボタンを押すっていう選択ですからね?(笑)

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自由に想像を膨らませて,自分自身の感動にしてほしい


4Gamer:
 おそらく,多くの提督が気になっている「友軍艦隊」ですが,よく見ると小さく「第2期実装予定」と書かれていますよね。

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田中氏:
 この際なので白状してしまうと,「第2期実装」とかカッコつけてますが,要するに「間に合わなかった仕様」なんです。もうバレてると思いますけど(笑)。4月のサービス開始に合わせて,工数的にどこまで実装可能かを考えたとき,“強いソーシャル”要素を優先度の選択の中で,最終的に落としてしまったんです。
 だから,4Gamerさんで最初に取り上げていただいたニュースには「トレード機能があります」みたいなことが書いてあったりもしますが,これも当初は工数的な問題から実装を見送りました。今思うと,何かが導いてくれたような気持ちもありますが。

4Gamer:
 ええ,ゲーム内にソーシャル機能がなかったことで,結果としてユーザーコミュニティが活発に形成された側面もあると思います。

田中氏:
 そうですね。ソーシャルゲームと言うとき,チャットやギルドだけが「ソーシャル」じゃないと思うんです。せっかく,こんなにたくさんSNSなどの環境があるんだから,そういうものを利用しながら仲間達といろいろ情報交換して,一緒に盛り上がるのも「柔らかいソーシャル」じゃないかな,と。

4Gamer:
 ゲームシステムとして用意されたのではない,ユーザーの自発的な行動で生まれるものとしてのソーシャルということですね。

田中氏:
 ええ。たとえば扶桑・山城の最期なり,それを見ていた時雨のシークエンスなんかにしても,全部をゲーム内で語るのではなく,「なにそれ?」と引っかかった人が,さまざまなメディアを通じて調べて,ある種,自分自身の体験と感動にしてほしいんです
 キャラクターの個性を立たせて,キャラクター同士の関係性も提示するけれど,そのキャラクターがどういう将来を歩んでいくのかは,あえてあまり積極的に定義しない。さまざまなキャラクター相互の関係性に濃淡を持たせた状態で提示して,それで自由に想像を膨らませてください,というのを「艦これ」のアプローチにしたいと思って組み立ててきました。

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4Gamer:
 今年のCEDECで,スクウェア・エニックスの簗瀬さんがナラティブの講演をしたのですが,そこでも「プレイヤーが自分で調べ,自分でつなぎ合わせたことによって得られたものは,プレイヤーにより深い体験として残る」というお話がありました。
 実はあの講演のあと,簗瀬さんに「今,日本でナラティブが最も強力に機能しているゲームの一つは『艦これ』ですよね?」という質問をしたところ,確かにそうであるとおっしゃっていました。

田中氏:
 そこは実は,とても戦略的に構築した部分でもあるんです。古い言い方をするとUGC(User Generated Content)やUGM(User Generated Media)と呼ばれるもの――いわばユーザーの“想い”を,どう自分達のコンテンツの力にするかというのが,現代では非常に重要であると思っています。
 これに関連して言うと,今たくさんの人が「一航戦」とか「二航戦」といった単語を使っているのを見ると,本当に嬉しいですね。

4Gamer:
 一年前にはありえなかった状況ですよね。

田中氏:
 加賀のセリフなんかは内心「やりすぎかな」と思っていたんですが,うまくいってよかった。提督の皆さんと一緒に作っていけるキャラクター世界があるというのは,僕らにとっても喜ばしいことです。
 それが最も顕著なのは赤城で,彼女は別に色物キャラとして作られているわけではなく,むしろ素敵なお姉さん系の雰囲気なんです。でも,一番最初に入手できる強力かつ燃費の悪いキャラなので,とんでもない大食いキャラという設定が定着,そして柔らかく,速く,強いソーシャルによって,急速に広まってしまったわけで(笑)。
 でも,そのキャラクター性は,当然こちらにもフィードバックされますよね。やり過ぎない程度のバランスを大切にしながら,提督の皆さんとのコミュニケーションを大事にしながら……提督の皆さんが作っていく世界も当然のように,そしてポジティブに取り入れていく……。そんな「艦これ」です。

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4Gamer:
 トレード機能に関しては,「World of Tanks」のプレスカンファレンスで「戦車のトレード機能は入れないのか」という質疑があったとき,それに対してWargaming.netのCEOが「トレード機能を入れると,ゴールドファーミングを始め,あっという間に地上で起こる最も悪いことのすべてが起こる」ということを言っていたのを思い出しました。

田中氏:
 もちろん,やり方はあるとは思うんです。こういうトレードなら大丈夫じゃないかな,というシステムもいろいろ考えはしたんですが,ちょっと当時は工数的に間に合わなくて。
 同じように,本来はやるべきかもしれないけれどやっていないのは,ある資源をほかの資源に変換する“資源の再分配”ですね。これも気持ちとしては,「遠征」として実装しているんです。効率の悪い変換は,ある部分は遠征でカバーしたい。だって海上護衛は大事だし,みたいな。

4Gamer:
 こういうシステムがあったら,という点では,特定の艦娘を艦隊に入れるとコンボが発生したり,あるいは特別なセリフがあったりといったシステムを実装する計画はありますか?

田中氏:
 実はそれ,最初はあったんです。初期には「ストーリーモード」すらありました。ストーリーモード用の原稿もあります(笑)。せっかくだから加筆してCDドラマとかにしようかなあ……。もしくは,ある艦娘とある艦娘が一緒にいると,立ち絵が出てきて小芝居をする,みたいな。まあ,普通ですね(笑)。
 これは今でも仕様としてはありますが,実装は未定です。さっきお話ししたように,提督の皆さんが想像したそれぞれの関係性で,一人ひとりのエンターテイメントを作ってほしい,それも「艦これ」です,という思いが強くありますので。
 もう一つはブラウザゲームなので,なるべく重くしないようにしたいなと。すみません,すでに異様に重いのですが……なるべく軽くしますね。

4Gamer:
 それはぜひお願いしたいですね。

田中氏:
 それから,ある艦娘とある艦娘を同じ艦隊に入れると強くなるというのは,個人的にはやりたいのですが,結構難しいかなと思っています。扶桑・山城には百合パワーを見せてほしいんですけれど,それをやってしまうと僕らが編成を含めて「遊びを規定してしまう」ような気もして。そんなことをしなくても,北上さんと大井っちを提督の皆さんが勝手に並べて使ってくれればいいんじゃないかなあ,と。並べなくてもいいし,それが遊びかなあって。ただ,マスクデータ的な仕様は少しだけ残したいですね。
 でも,何の説明も脈絡もなく,しらーっと特定ボイスを追加して,あるシチュエーションで何かしゃべる,っていうのは,こそっとやらせていただくかもしれません。

ハイパー大井っち
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横文字の艦娘や陸軍所属の艦娘がやって来る?


4Gamer:
 ところで,非常にやり込んでいる提督の中には,すべての艦娘がレベル上限に達していて,マップも全部クリアしている人がいます。こうした人達に向けてのコンテンツの追加予定などを教えてください。

画像集#025のサムネイル/「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった
田中氏:
 申し訳ないです。まず物理的なサーバーの増設と拡張に追われていますが,本来ならすでに投入しているはずのシステムもあります。僕らの間では「ケッコンカッコカリ」と呼んでいますが,いわゆる“限界突破”的なもので,もう少し先のフェイズに艦娘と行けるようなシステムですね。レベルを1に戻したりするのではなく,今よりもさらに育てていけるシステムです。
 あと潜水艦は,実は海外艦の導入部にしたかったんです。史実ではほぼ失敗していますが,ドイツまで行ってティーガー戦車を持ってきたりとか,秋水を持ってきたりとか。そういう,なにがしかの国に遠征を繰り返していくとフラグが立って,横文字の艦娘がやって来る,というところにつなげたいなと思っています。

4Gamer:
 おお,いよいよ海外の艦娘が登場する日も近いんですね。

田中氏:
 潜水艦に関しては,この前のイベントでは本当は「大和」+伊号潜水艦3隻(伊168,伊58,伊19)の予定だったんです。ただ,いざ実装する段階になって探したら,「伊19」のボイスデータがないんですよ。でもシナリオを書いた記憶はあるし,夢の中で録音した覚えもある……簡単に言うと録音してなかったんですけどね(笑)。それでやむを得ず,とっておいた「鈴谷」と「熊野」を投入しました。
 潜水艦隊は前線で,水上艦とは毛色の違うその独自の運用法で戦わせてもいいのですが,遠征で使って海外のテクノロジーや艦娘を入手する,みたいなことができるようにしたいと思っています。赤城にスツーカとか載せるのはどうだろう,みたいな。ソードフィッシュが手に入って,「なんだこれ,性能下がってるじゃん」とかも面白いかもしれませんね(笑)。あ,だめですかね,やっぱり。

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伊168
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伊58

4Gamer:
 そのときはぜひ,ソビエト艦娘もお願いします(笑)。ほかに,直近のアップデート予定でお話しいただけることはありますか?

田中氏:
 この記事が掲載される頃に,第5海域「南方海域」を投入します。前回のイベントで「強行偵察」した海域になりますね。今はエンドコンテンツが3-4と4-4になっていますが,これらを攻略した提督への新コンテンツとなります。まさにこの記事が出たくらいのタイミングで,「ソロモン海の戦い」をメタファーにしたいくつかの新マップが実装されます。本格的な空母戦となる「珊瑚海海戦」をモチーフにしたステージも準備します。もちろん,なぜかやたら「祥鳳」がドロップしてくるという……。
 また,支援艦隊を基盤としたシステムをイベント限定で先行実装しましたが,これを中盤以降の難易度の高いガチ海域で活用できるように本実装していきます。やはりせっかく4つも艦隊があるのに,そのうちの1つでしか戦えないというのは寂しいので。これはのちのち友軍艦隊,つまりほかの提督の艦隊による支援という方向にも拡張する予定です。そうなると,強いだけの巨艦よりも,ある種,経済性の高い艦娘も大事になってくるかもですね。

4Gamer:
 新しい艦娘も用意されているのでしょうか。

ヴェールヌイ
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田中氏:
 もちろんです。だって,まだ出したい艦艇がいっぱいなんですから。ええ,駆逐艦では夕雲型や,あの美しい秋月型! 軽巡では阿賀野型がスタンバイに入っています。阿賀野型はなんといっても「矢矧」というヒロインがいますし,「大和」がいる以上は「矢矧」がいないと寂しいですよね。
 あと,どのタイミングで投入するかは明示できませんが,「明石」「大淀」も実装スタンバイ中です。“アイテム娘”や “任務娘”がなんですって? 「明石」に関しては,彼女ならではのちょっと面白い新システムを同時に実装する予定です。「響」のいわゆる「改二」にあたる「ヴェールヌイ」に続く,さらなる改装艦も続々と準備していますし,このあたりの詳細は秘密ということで!

4Gamer:
 そういえば「響」は,ソビエトに引き渡されたあと「ヴェールヌイ」に改称されていましたね。

田中氏:
 ほかにも,装備品の「第5スロット」がある艦娘が投入される予定です。これは今後,「紀伊」クラスで投入する予定ですが,「大和改」ないし「大和改二」に先行実装するかもしれません。
 あとは,陸軍所属艦娘の予定があります。あの当時は陸軍も何気にいろんな船を持っていたので,そういう船を実装して陸海軍のとんでもなく無駄でおかしく,やがて哀しい喧嘩具合も今以上に知ってもらいたいなと思っています。それ専用の装備とかも作りたいですね。これは年内に実装されるかもしれません。

4Gamer:
 それと,これは主に“宗教的な理由”でお聞きしたいのですが,新しい「メガネ艦娘」とか「褐色艦娘」は実装されたりしないのでしょうか……。

田中氏:
 そういうお問い合わせは本当にビシバシ来るんですよ。サービスイン当初はすべてのお問い合わせを直接対応していたので,ええ,各宗派に詳しくなりました,はい。
 褐色,ツインテール,メガネとかはまだ基本ですが,メカクレのご要望が多くて。それで「目が隠れてる艦娘は,もういるクマ?」と言ったら「メカクレと眼帯はまったく別のものでしょ,違うクマ!」って怒られて。いや,本気でとても勉強になっています,はい。

4Gamer:
 メカクレは……まだまだ深いですよ,その先は……たぶん。

田中氏:
 そうなんですか?
 ともあれ,提督方のさまざまなプレッシャーを日々背中に感じていますので,何かしらのフィードバックはあると思います。こないだ,しばふさんやしずまさんともいろいろ相談しました。……ぜひ,ビジュアル面も今後にご期待ください。

徳岡氏イチオシのメガネ艦娘,霧島
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4Gamer:
 あと切実な問題として,サーバーの増設に関してはいかがですか?

田中氏:
 こちらも現状,提督の方々が考えられる以上の速度かつ規模でやっているのですが,それでもプレイヤーの増加を吸収・収容しきれておらず,新規参加をご希望されている方には,ご不便をおかけして申し訳ないです。
 サーバー的な本プロジェクトの攻勢限界点を何度も越えているのですが,さまざまな人達の協力をいただいて,FS作戦を完遂したいと思っています,じゃなくて,できる限りサーバーシステムの質的・量的拡張を図りたいと思います。……攻勢限界点から折り返す時も,少しずつまた内地に近づいていく形に統合していきたいとも思っています。

4Gamer:
 これからも艦これ世界はどんどん広がっていく,という感じですね。
 では最後に,提督に向けて「クマー」以外のメッセージをお願いします。

田中氏:
 しまった,先に封じられた!(笑)
 まずは,いろいろご迷惑をおかけして申し訳ございません。サーバー環境については随時に強化・拡張していきますので,どうかご安心ください。また,システム面,コンテンツ面,メディアミックス展開なども,ここが踏ん張りどころと思い,時間的・体力的に許す限り,拡張と工夫を続けていきたいと思っています。
 「艦これ」と艦娘は,提督の皆様のおかげで,これからコンテンツとして大きな広がりを持てるようになりました。本当にありがとうございます! 「艦これ」のコアな部分はできるだけ大切にしつつ,今まで以上に提督の皆さんと一緒に「艦娘遊び」の「世界」を作っていきたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします!
 では,今からまた運営鎮守府に戻ります!

4Gamer:
 うわ。本当に貴重なお時間,どうもありがとうございました!

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