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スクウェア・エニックス吉田直樹氏と「牙狼<GARO>」雨宮慶太監督の対談が実現。人気シリーズのクリエイター2人がもの作りを語る
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印刷2015/08/15 00:00

インタビュー

スクウェア・エニックス吉田直樹氏と「牙狼<GARO>」雨宮慶太監督の対談が実現。人気シリーズのクリエイター2人がもの作りを語る

 「ファイナルファンタジーXIV」PC / PS4 / PS3 / Mac。以下,FFXIV)のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏が,雨宮慶太監督の手掛ける特撮ドラマ「牙狼<GARO>」(以下,牙狼)のイベントに登場して,その熱烈なファンぶりを披露したのはすでにお伝えしたとおり。FFXIVの中に,さまざまな“牙狼リスペクト”要素が散りばめられていることが判明し,イベントは大いに盛り上がった。本稿では,その直前に行われた吉田氏と雨宮氏の対談の模様をお届けしよう。

 雨宮氏の大ファンである吉田氏と,ディープなゲームファンでもある雨宮氏。イベントで出た話題とかぶる部分もあるが,手掛ける作品の制作秘話や,もの作りへのこだわりなど,興味深いトークが繰り広げられたので,ぜひ楽しんでほしい。

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ダークなものがないと,美しさが際立たない


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。吉田さんは大の牙狼ファンということで,今回のイベントに参加されるということですが,雨宮監督とは初対面ですか。

吉田直樹氏
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吉田直樹氏(以下,吉田氏):
 いえ,今回で3度目でしょうか。僕はもともと雨宮監督作品の大ファンで,いつかお目にかかりたいと思っていたところ,牙狼シリーズに出演されている俳優さんを通して,お食事の機会をいただいたのが最初ですね。

4Gamer:
 4Gamerが年末に掲載するクリエイターアンケートで,吉田さんは2013年2014年と,注目する人・作品に雨宮監督や牙狼を挙げていますよね。

雨宮慶太氏(以下,雨宮氏):
 ありがたいことです。

吉田氏:
 牙狼を見るために生きてますので(笑)。

4Gamer:
 吉田さんが雨宮監督のファンになったきっかけは何だったのですか。

吉田氏:
 僕がハドソンに在籍していたときの話になるんですが,隣の机に座っていた人が,雨宮監督がディレクターをされているタイトルに関わっていて,そこに送られてくる監督のキャラクター原画を見たのがきっかけですね。

雨宮氏:
 「デュアルヒーローズ」ですね。NINTENDO64の格闘ゲームでした。

4Gamer:
 64ですか。そうなると,吉田さんのファン歴は20年近いということですね。原画はやはり迫力がありましたか?

吉田氏:
 それはもちろん。すごくアメコミ的だと感じて,とにかく絵に艶があって大人っぽいところが驚きでした。周りにある絵とまったく感性が違っていて,そのインパクトに引き込まれました。

雨宮慶太氏
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雨宮氏:
 僕は子供に受ける絵が描けないんです(笑)。オタク文化の最初の大人世代でしたから。

4Gamer:
 牙狼もそうですが,雨宮監督の作品からは大人向けという印象を受けます。やはり対象年齢を高めに意識されているんでしょうか。

雨宮氏:
 いえ,あまり大人向けという意識はなくて,むしろ子供向けの特撮として作っています。牙狼は放送時間が深夜なので大人向けと思われがちですが,「生まれて初めて出会うヒーロー」という想いを込めているんです。シリーズを重ねるごとに,少しずつ大人が楽しめる要素も増えてはいますが,作っている本人からすると,意識的に入れたものではないんです。

4Gamer:
 牙狼シリーズでは,欲望や業にまみれた人がホラー(悪魔)に取り憑かれるというダークなシーンが定番ですが,あれも子供が見ることを前提にしていると。

雨宮氏:
 そうです,子供が怖がるようなものにしたいと思って。

吉田氏:
 僕もハドソン時代に「ボンバーマン」など,子供に人気があるシリーズの作品に関わりましたけど,子供が遊ぶものだからといって,変に要素を切り捨てたり,難しい話を意図的に削ったりすることはなかったですね。それをやるとプレイした人がすぐ気付くと思うのです。子供と野球やサッカーをするとき,手加減するとすぐにバレるのと同じです。

4Gamer:
 なるほど。吉田さんはFFXIVのインタビューなどでも,ダークなテイストが好きだと話されていますが,どういうところに惹かれるんでしょう?

吉田氏:
 表向きのいい話だけだと,深みがなくて,薄っぺらくなる。現実の世界って,もっとドロドロした部分がありますよね。娯楽でそこまで見たくないという人もいますが,嘘ばっかりの綺麗な話も,娯楽としてはあまり面白くなくなるので。牙狼でいう「陰我にまみれた……」の「陰我」の部分ですよね。

4Gamer:
 そこは雨宮監督も同じ意見ですか。

雨宮氏:
 基本的には同じですね。僕の根っこには,綺麗で美しいものをお客さんに見せたいという気持ちがあるんです。ただ,醜悪なものがないと,それが際立たないし,美しさ自体を発見できない。
 人間の業やえげつない部分に立ち向かうからこそ,主人公達の美しさが際立つんです。だから僕が面白いと思う作品は,悪に存在感がある作品が多いです。

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吉田氏:
 牙狼の主人公達のセリフって,今のドラマではなかなか言わない直球なセリフで,敵が悪ければ悪いほど,見ているこちらにまっすぐ届いてきますからね。

4Gamer:
 吉田さんも雨宮監督のような意図でダークな要素を扱ったことがありますか。

吉田氏:
 僕の作品は,手にとってもらう人が楽しければいいというものが多いので,あまり自己主張はしていないです。だから作品を楽しくするうえで,意図的にダークな要素を入れることはありますが,メッセージのような意味合いで入れたことはないですね。

4Gamer:
 では,雨宮監督の作品からインスパイアされたところなどはあるでしょうか。

吉田氏:
 それはもうたくさん(笑)。FFXIVでも,ボスが剣をかざすと鎧が金色になるという演出が入っているのですが,あれは牙狼を見た人なら「牙狼の黄金騎士だ」と思うでしょうね(笑)。カットシーンを作るスタッフにも牙狼好きが多いので,影響を受けているところは多いと思います。
 あとはFFXIVの作中で「希望」という言葉を使っていることが多いんですが,それも牙狼の影響かもしれません。牙狼(ガロ)とは旧魔戒語で「希望」という意味ですしね(笑)。


ゲームの遊び方は時代とともに変わっていく


4Gamer:
 雨宮監督はプライベートでもよくゲームをプレイされているそうですね。先日Twitterで,「Fallout 4」はPS4版とXbox版のどちらを買えばいいかと悩んでいるとつぶやいていましたし。

雨宮氏:
 どちらがいいと思いますか(笑)。以前「BioShock」のPS3版とXbox 360版の両方を買って,画質や操作感を比べてみたこともあります。

4Gamer:
 けっこうなゲーマーですよね。そうなるとFFシリーズのプレイ経験も……。

雨宮氏:
 スーパーファミコン向けにリリースされていた頃からずっと遊んでいて,3Dグラフィックスになった「VII」が最後でしたね。そこからは離れていましたが,先日吉田さんから「XIV」をいただいたので,今プレイしています。

吉田氏:
 久しぶりだったので,ちょっとカルチャーショックを受けられたようです(笑)。

雨宮氏:
 俺の人生見直したほうがいいのかなって思うぐらい,ショックでした(笑)。そんなことを思いつつも,ハマっています。

吉田氏:
 ありがとうございます。

4Gamer:
 FFXIVを遊んだ感想はいかがでした?

雨宮氏:
 毎日30分ぐらいずつプレイしているんですが,なかなかレベルが上がらなくて苦戦しています。吉田さんとも知り合いの和田というスーツアクターがFFXIVをやっているということで,いろいろ話してみたら「監督,モンスターを倒すだけじゃレベルは上がらないですよ」って言われて驚きましたね(笑)。ギルドのクエストとかをクリアすると上がるらしいじゃないですか。

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4Gamer:
 あぁ,それは確かにカルチャーショックでしょうね(笑)。

雨宮氏:
 昔のファイナルファンタジーやドラゴンクエストではレベル上限まで上げるプレイをしていて,最近だと「The Elder Scrolls V: Skyrim」でもモンスターを倒しまくっていたので,プレイの仕方を変えないといけないなと思いました(笑)。

吉田氏:
 確かに経験値を稼いで強くなるというのは,本来敵と戦ってこそのものなんですが,最近はそれだけでは長くプレイしてもらえない部分もあって……というお話を先日したんです。

雨宮氏:
 以前のRPGでは,経験値というものは敵を倒して得るというのが常識でしたからね。

吉田氏:
 昔は,ゲームというものは何度も挑戦して進んでいくものでしたが,今はクエストで手を引っぱってあげないと,先まで見てくれない方もいらっしゃいます。挑戦させるだけでは成り立たなくなっているエンタメでもあります。遊び方は時代とともに変わるものなので,良い悪いではなくて,価値観の多様化が進んでいる時代のゲームという考え方です。

雨宮氏:
 確かに遊び方は時代で変わるね。

吉田氏:
 どちらであってもいいんです。ただ,日本のプレイヤーには,さっき監督がおっしゃった「Skyrim」みたいに,何をしてもいいっていうRPGが意外に苦手で,「何をしていいか分からない」という方も多いんです。

雨宮氏:
 それはお前が決めるんだろ!って(笑)。冒険ってそういうものであるはずなんだけど。

吉田氏:
 そこはなかなか難しいですよね。

4Gamer:
 ゲームを作るうえでの悩みどころなんですね。ところで,さきほど話に出たように,雨宮監督はゲームにキャラクターイラストなどを提供されていますが,依頼されて描くときと,ご自身の映画やドラマ向けに描くときで何か違いはありますか?

雨宮氏:
 ゲームなど,依頼された場合は,こちらからいくつか案を用意して,そこからイメージに合ったものを選んでもらいます。決まるまで何枚も描いて,発注してくれた人の満足できるデザインに着地するまで付き合います。
 自分の作品の場合は,1枚しか描きません。描いたものが決定稿なので,時間がかかります。「まだ描かないの!?」って周りからつっつかれて(笑)。

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吉田氏:
 描くことにじゃなくて,考えるのに時間がかかるんですか。

雨宮氏:
 そうですね。いろいろ考えて,頭の中で作り上げた決定稿を描くわけですから。だからゲームのほうが気が楽なんです。考えるのは先方なので(笑)。

吉田氏:
 監督はサインをお願いされたとき,筆でためらいなく書いていきますよね。あれも頭の中で考えたものを書いているという感じですか?

雨宮氏:
 あれはとくに考えていませんね。毎回練習のつもりで書いています(笑)。僕は習字が苦手だったんで。

吉田氏:
 えっ,とてもそうは思えませんが。

雨宮氏:
 絵やイラストの場合は,デッサンが正しかったり,尖っているものがちゃんと尖っていたりといった感じで,要は「正解」があるんですが,文字には正解がないんですよ。いいのができた,と思っても次に書くともっとよかったりしますからね。題字を書くときなどは,紙の厚さにして3cmぐらい,何度も書きます。

吉田氏:
 そんなに! 牙狼のタイトルって毎回必ず違いますけど,そういうことなんですか。

雨宮氏:
 その年の気分で毎年書いてますから。

吉田氏:
 なるほど……。実は雨宮監督題字のフォントが欲しいと思っているんですが(笑)。

雨宮氏:
 ぜひスクウェア・エニックスで作ってください(笑)。

4Gamer:
 FFXIVで,雨宮監督の字を使うことを考えたりしましたか?

吉田氏:
 牙狼のオープニングには,雨宮監督の筆で描かれた絵や文字が生き物のように動くアニメーションがあるんですが,あれを新生FFXIVのオープニングに使えないものかとずっと思っていました。真剣に考えていたんですが,新生FFXIV立ち上げのせっぱ詰まった時期に,そこまで遊び心を入れる余裕はなかったんです。

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両氏が考える「FFらしさ」「牙狼らしさ」とは


4Gamer:
 吉田さんは牙狼シリーズの中でお気に入りのシーズンとか,エピソードはありますか?

吉田氏:
 やっぱりファーストシーズンの第1話を見たときのインパクトが強いですね。鋼牙が黄金騎士に変身したとき,魔導刻という時計のカウントダウンが始まるんです。後々の話で,99.9秒しか変身していられないということがはっきり分かるんですが,第1話でも,とくに説明がないのに,「魔戒騎士にとって,鎧をまとうことは完全決着をつけるための最終手段なんだ」と感じられたんです。映像によるその説得力がすごい。特撮ものでよく感じる「早く変身して倒せばいいのに!」というモヤモヤもなかったですし。

4Gamer:
 あぁ,確かに時計のカウントダウンだけで,ナレーションなどは入りませんね。

吉田氏:
 いったん変身すると,まったく苦戦することなく,一撃のもとに敵を倒したりするところにも痺れました。

黄金騎士への変身シーン
「牙狼〜RED REQUIEM〜」(C) 2010 雨宮慶太/東北新社
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雨宮氏:
 特撮のヒーローって,最終的には勝つんだけど,敵と戦ってピンチになったりして,結構弱いじゃないですか。なので,圧倒的に強いヒーローってどんなものだろうと考えて生まれたのが,敵の攻撃をものともせずにズンズンと迫ってきて,一刀両断にするという戦い方だったんです。
 ちなみに,当時の鎧は全身FRP製の総メッキで,着るのに1時間ぐらいかかってね。指紋がつくと画面に映ってしまうので,スタッフは全員手袋をして扱ってました。

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吉田氏:
 FRPだったんですか。相当な重さでしょうね。

雨宮氏:
 重くてほとんど動けなかったんですよ。値段も1着でいい車が買えるぐらいです(笑)。でも最近は技術が進んで,新しい鎧はゴム素材にメッキしたものを使っています。かなり動けるようになりました。

4Gamer:
 長く続いているシリーズだけに,そういった部分でも変化があるんですね。牙狼シリーズの作品中で,監督がお気に入りのエピソードはどれですか?

雨宮氏:
 僕は作っている側の人間なので,常に一番新しい話がお気に入りですね。

4Gamer:
 なるほど。牙狼シリーズは主人公も替わりつつ,新しいストーリーが描かれていますよね。シリーズとしての共通部分を残しながら,変化を加えていくというのはなかなか難しい作業だと思うのですが,そのさじ加減はどのように意識していますか。

雨宮氏:
 最初のうちは冴島鋼牙という主人公の生き様を描くという目的もありましたが,今は鎧が本当の主役になっているんです。黄金の鎧を着るにふさわしい人物を描くように発想を変えました。だから「鋼牙」というタイトルにしなくてよかったと思っているんです。

4Gamer:
 FFシリーズの場合はどうでしょうか。

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吉田氏:
 FFXIVはご存じの通りシリーズ中2作しかないMMORPGで,前作にも関わっていませんから,特別それまでのシリーズ作品は意識せず,自分の中にあるFF像をもとに世界観を作っています。プレイヤー自身が主人公になるオンラインゲームですから,主人公のキャラクターにもあまり色を付けていませんし。主人公はどちらかといえばドラゴンクエストシリーズに近いかもしれません。

雨宮氏:
 ドラゴンクエストの主人公は徹底して色をつけていないよね。しゃべらないし。FFの場合は,その時代に合った,感情移入しやすいキャラクターをプレイヤーに提供するという,ドラゴンクエストとは違ったアプローチですよね。

吉田氏:
 オンラインのFFXIVはちょっと当てはまらないんですが,スタンドアローンのFFは見るコンテンツになったとは思いますね。「FFVII」ならクラウドの生き様を追体験するRPGということですね。

4Gamer:
 雨宮監督はどちらのタイプがお好きですか。

雨宮氏:
 どちらも好きですけど,ゲームとしては,やっぱり何もない状況の中から自由にやれるものが好きですね。

吉田氏:
 今だと,雨宮監督が気に入るゲームは,北米のものばかりかもしれませんね……。だから僕としてはちょっと悔しいです。


死ぬ気で作ったものは,見ている人の心に響く


4Gamer:
 先ほどの話と少し被るかもしれませんが,これまで続けてきた牙狼というシリーズを踏まえて,新たなシリーズを作るときは,どんな発想から新しい内容が生まれてくるんでしょうか?

雨宮氏:
 方法論としては,過去にやったものと違うものを作るか,あるいは過去にやったものを生かすか,大きく分けて2つあると思うんです。今はどちらかというと前者で,毎回違うものを考えてはいます。お話を作るのがいつも一番大変で,とにかく毎回ひたすら考えます。

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4Gamer:
 吉田さんは,新しいものを考える方法論のようなものを持っていますか。

吉田氏:
 FFXIVを担当している間は,対象の世代ごとに違う「FFらしさ」を全員にちゃんと感じてもらいつつ,FFXIVでしかできないチャレンジのバランスを取ることに気をつけています。

4Gamer:
 世代ごとの「FFらしさ」とは,具体的になんでしょうか。

吉田氏:
 FFXIVで初めてFFに触れた方は,すごい規模の大きなゲームだと感じたと思うんです。その規模の大きさがその人にとってはFFでしょうし,モーグリやチョコボがいればFFだと感じる人もいると思います。それぞれ欠けてはならない部分になるわけなので,そこは大事にしていきたいですよね。

4Gamer:
 では雨宮監督が考える「牙狼らしさ」は,どんなところでしょう?

雨宮氏:
 お客さんの定義は人それぞれだと思うんですが,僕はいつも「牙狼」と書いて「死ぬ気でやる仕事」と読むんだとスタッフに言っているんです。死ぬ気でやっているかどうかが一番牙狼らしいところかもしれません。実際に死ぬ直前までやるわけではないですが,死ぬ思いで知恵を絞るということですね。

吉田氏:
 追い込まれるまでやると。

雨宮氏:
 そうですね。作っているのは僕も含めてスタッフ全員凡人なので,限界まで知恵を絞らないと。10分で終わってもとりあえずの形にはなるところを,1日かけて話し合ったほうが,面白くなるということです。結果で見ると,痺れる才能を持ったクールな集団が作った映像に見えるけど,実際には凡人が限界まで考えて作ったものでしかないんで。

吉田氏:
 真剣にやっている人は,みんなそうだと思いますよ。完成したものを見た人,触った人はそれに気付いてくれますし。牙狼は毎回鬼気迫るものがあります。本当に毎週このCGのクオリティを維持するのかとか,このアクションシーン一歩間違えれば骨を折ってるだろうとか,見ている側には限界ギリギリまでやっていることがちゃんと伝わってきます。ゲームでもそれは同じで,よくこの期間でこれだけのものを作ったね,って言われたら嬉しいですし。

「牙狼<GARO>〜MAKAISENKI〜」(C)2011 雨宮慶太/東北新社
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4Gamer:
 厳しい条件の中で自分を追い込むからこそ,いいものができる,ということでしょうか。

雨宮氏:
 いや,いい条件ではやらせてもらいたいです(笑)。いいに越したことはない。条件が悪い中で結果を出せることも確かにありますが,それは結果論ですから,クリエイターが言うべきことではありません。作るならやっぱり,いい条件や環境がほしい。お金も日数も,いっぱいあったほうがいい(笑)。それを勝ち取るために,がんばっているんですからね。

吉田氏:
 いい条件を勝ち取るための戦いは絶対に必要です。世の中はビジネスで回っているところが絶対あるものなので。スポンサーやクライアントを儲けさせなければ,次の新しいチャレンジができないということは必ずついて回りますから,スポンサーが喜ぶことを,面白さの一つとして入れるぐらいの努力はしないと。

雨宮氏:
 そうしないと夢がなくなって,若い人が頑張らない気がするね。いい歳したオヤジが,予算厳しい中でやってますというよりは,今一番作りたいものをいい環境で撮れているって言えるほうが,自分もいつかやってやろうという気になるはずですよ。 

4Gamer:
 やっぱり自分の業界を目指してくれる人のことを考えているんですね。

雨宮氏:
 いや,考えてないです。考えるのは自分のことばっかり(笑)。

吉田氏:
 今までいい話をしてきたのに(笑)。

4Gamer:
 うまく照れ隠しされたような気がします(笑)。では最後に,お二人から読者にメッセージをいただけますか。

雨宮氏:
 牙狼という作品は,僕が文字通り死ぬ思いをして,実際に現場で脳しんとうで倒れたりしながら作っている作品です。そんな作品をリスペクトしてくれている吉田さんのような人がいることで,僕は元気になれるので,いずれ何かの恩返しはしたいなと思っています。どこかで協力させてもらえればと。ギャラも安くしますので(笑)。

吉田氏:
 ぜひとも(笑)。僕はFFXIVを担当する前から牙狼が好きで,これほど毎回続きが楽しみな作品はなかなか出会えないと思うんです。ジャンルは違えど,死ぬ思いをしてこの長いシリーズを作っている人達がいるっていうのは,自分にも刺激になりますから,自分もFFXIVというタイトルを続けていこうという気になりますよね。お互い続けていくのは大変だとは思いますが,どちらも楽しんでいただいて,本気でもの作りをしている人達に触れてもらえると嬉しいです。
 あとはもっともっと牙狼を見てくれる人が増えてほしいです。もっと牙狼の話をしたいので(笑)。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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