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スクエニ内外で話題を呼んだ(ザワっとした)マフィア梶田の「新生FFXIV」連載から1年。まさかの「吉田直樹×マフィア梶田」対談が実現
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印刷2015/03/24 00:00

インタビュー

スクエニ内外で話題を呼んだ(ザワっとした)マフィア梶田の「新生FFXIV」連載から1年。まさかの「吉田直樹×マフィア梶田」対談が実現

 4Gamer読者の皆さんは,「マフィア梶田の珍生エオルゼア」という記事を覚えているだろうか。MMORPG「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」PC / PS4 / PS3,以下,新生FFXIV)を応援する特別企画として立ち上がったもので,2013年12月にスタートして2014年の3月に終了した全3回の連載記事である。
 なんですって? 覚えていない……そもそもご存知でないと? それはいけない! 流行に乗り遅れて後悔する前に,今すぐチェックしておくべきだ。

■「マフィア梶田の珍生エオルゼア」はこちらです。

・第1回「頼れる仲間はみんな目が濁ってる」
・第2回「だってNPCは裏切らないから……」
・最終回「俺たちの戦いはこれからだ!」


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 ……どう,読んだ? 面白かった? そうでしょう,そうでしょうとも。なにせ,新生FFXIVのプロデューサーである吉田直樹氏が同企画の連載終了を心から惜しみ,慟哭したという逸話(※編注:少なくとも慟哭は捏造です)まで残しているのだから。

 そして今回,「マフィア梶田の珍生エオルゼア」と関連して,奇跡の企画が実現。「ダメ元で打診してみます? 断られたら,それをネタにする方向で」と半笑いで編集者と話し合っていた「吉田直樹×マフィア梶田」の対談が実現してしまったのである。
 新生FFXIVの成功で世界的に注目を集めている吉田氏と,お下劣なTweetで意識高い系のフォロワーからクソリプを集めているマフィア梶田。この二人が出会ったとき,なにが起きてしまうのか! ……と,煽ってはみたものの,対談の内容自体は極めて真面目だったりする。これでも,“仕事では”ちゃんと礼儀をわきまえるタイプなのである。

 なお,新生FFXIVのアップデートに関する話題を期待している人には申しわけないが,今回の企画は,どちらかというと吉田氏本人の個性に迫るというコンセプトだ。「マフィア梶田の珍生エオルゼア」を知らずとも,新生FFXIVのプレイヤー,そして吉田氏のパーソナリティに興味があるならば,きっと楽しめる記事に仕上がっているはずなので,ぜひとも楽しんでほしい。

2014年,年末に差し掛かろうかというある日。東京秋葉原のエオルゼアカフェにて,「吉田直樹×マフィア梶田」という,まさかの対談が実現してしまった。吉田氏のパーソナリティがあまりにも赤裸々に語られた今回の対談(※編注:赤裸々すぎて調整が大変でしたとも……)。その内容やいかに
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吉田氏への一方的な信頼感が根源にあった連載記事


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。というか,あんなふざけた連載をやらかしてしまったにも関わらず,こうして対談に応じていただけたことに驚いています。

吉田氏:
 そのことなんですけれども!

4Gamer:
 は,はい!?

吉田氏:
 今日は僕から最初に二つほど質問があります! まず「連載の再開はいつですか!?」ということと,「マフィアさんと呼ぶべきなのか,梶田さんと呼ぶべきなのか」と。

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4Gamer:
 呼び方ですか(笑)。どちらでもいいのですが,「マフィア」と呼んでいただけたほうが面白い気はします。エオルゼアでの名前もマフィアですし!

吉田氏:
 了解です(笑)。マフィアさんの連載は,ゲームプレイヤーとして読ませていただいて,単純に面白いんです。ギリギリのラインをちょっと越えている感じで,「“笑い”の分かる人なら許してくれるよね?」という……ある種,メーカーに対してとても挑戦的な内容で。

4Gamer:
 まさか,そんな風に受け取られているとは。

吉田氏:
 「このゲームの面白さをいろいろな視点から伝えてやるぜ!」という心意気が伝わってくる連載でした。ですから,こちらから修正をお願いしたことはまったくなかったです(編注:これ,本当です)

呼び方も決まったところで,乾杯!
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4Gamer:
 編集者に「修正なしってマジっすか? マジっすか?」と何回も確認したんですよ。しかも吉田さんがあの連載をとても気に入っていると聞いて,「絶対ウソだ」と思っていましたから。

吉田氏:
 マジです(笑)。だから,「なぜに3回で終わるの?」と残念に思っていたんです……。

4Gamer:
 ライター冥利に尽きるお言葉です。でも,実は「メーカーへの挑戦」とまでは言わないまでも,「スクウェア・エニックスは許さないかもしれない。しかし吉田さんならば分かってくれるはず!」と勝手に思い込んでやらかしたフシはあるんですよ。
 なぜなら,以前からプロデューサーレターLIVEなどを拝見していて,「この人なら,きっとキワドイ冗談も通じる」という印象は持っていたんです。

吉田氏:
 初動のネタ振りからオチの付け方まで,終始一貫してギリギリのラインをいろいろな角度から突いていたのが素晴らしくて,修正をお願いするようなこともとくになく。
 たとえば昔,「ウルティマ オンライン」や「EverQuest」を題材に4コマ漫画を描いていたROBINさんという方がいらっしゃいます。あの方の4コマ漫画を読んで,MMORPGを始めたという人が多かったんです。マフィアさんの連載はそれに近い印象で,やはりプレイ日記は“素”だからこそ面白い部分があると思っていて。

ギリギリ……SS的にはアウトな気もする
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4Gamer:
 まさかROBINさんの漫画が引き合いに出るとは! 実は自分も,あの人の漫画がきっかけでMMORPGに興味を持ったんですよ。

吉田氏:
 おお,そうだったんですか。いまであれば,一撃確殺ブログの「光のお父さん計画」が面白いですよね。

4Gamer:
 アレもチェックしてたんですか(笑)。「光のお父さん計画」のセンス溢れる構成は,正直ライターとして嫉妬しちゃうレベルですよね……。

吉田氏:
 マフィアさんでも,そう感じるんですね。そもそも,マフィアさんの連載を,なぜこちらで修正をお願いしたりしなかったかというと,そういったプレイヤー目線のプレイ日記と同じように,「この世界が好きだ,良いところも悪いところも全部含めて好きなんだ」という雰囲気が伝わってくる内容だったからなんです。

4Gamer:
 いやはや……恐縮です。たしかに,あの連載に関しては仕事というよりも,いちプレイヤーとしてノリノリで書いてましたね。

吉田氏:
 それで,4回めはいつアップされるんだろうと期待していたんですが,一方でこれを書くのは大変だろうなと。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。正直なところ,あの連載は「初回で打ち切られてもいいや!」という心積りで,思いっきりやらかしたんですよ。コミュニティ紹介編,キャラクター編とテーマをこじつけてはいますけれども,実際は行き当たりばったりのノーコンセプトなので,あのテンションではネタ的に3回が限界でした。

吉田氏:
 たしかに,テンションを維持するのは大変でしょうね。ですので,月1でも,いや,面白いスクリーンショットが撮れたときだけでもいいので,細く長くよろしくお願いします!(笑)

4Gamer:
 ゲームはもちろん今でもプレイしていますし,連載が終わってからいろいろとアップデートもあったので,またやってみたいと,編集者さんとも話していました。
 ただ,連載のコンセプトをハッキリさせないと,行き当たりばったりになってしまいます。どうせならTwitterなどでリンクシェルのメンバーを募集して新しいコミュニティを作り,冒険に新鮮な風を取り入れるのはどうかと考えていたりします。フレンドが増えれば,変なスクリーンショットも撮りやすくなりますし(笑)。

吉田氏:
 オンラインゲームはコミュニティあってこそ,面白いエピソードが生まれますし,ぜひお願いします。まだまだオンラインゲームにハードルの高さを感じてしまう人が多いなか,マフィアさんは独自のアプローチでゲームの魅力をうまく伝えてくれたと思うので,ぜひとも,続けてほしいんです。

4Gamer:
 そう思っていただけると嬉しいです。そもそも新生FFXIVに対する自分の印象として,“ゲーム”としてのシステム面が多くの人に楽しまれている一方,RPGなのに“ロールプレイ”は軽視されがちだなと感じていたんです。
 たとえば,これはエンドコンテンツ特有の話になると思うのですが,初めてのダンジョンに挑む前にネットで“予習”をすることが暗黙のルールになっている風潮があるじゃないですか。あれって「失敗して迷惑をかけないように」という精神は素晴らしいと思うんですよ。でも,間違いなく“冒険”の魅力が損なわれますよね。

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吉田氏:
 それはあるかもしれませんね。ただ,MMORPGに関しては,グローバルスタンダードから考えると日本では何世代か間が空いてしまっていて,そこで突然FFXIVが出てきたものですから戸惑いもあったかもしれません。多くのみなさんにとっては,忙しい生活の中で時間を見つけてプレイするゲームになっているんですが,一方で「MMORPGは走り続けないと置いていかれてしまう」という雰囲気があり,どうしてもコンテンツを「突っ走る」意識もあるのかなと。

4Gamer:
 これはあくまで自分の場合ですが,RPGは「その世界を楽しむもの」だと思っているんですよ。たとえ効率が悪くても気の向くまま,思うままに旅をして,システム上ではなにもメリットがなかったとしてもログインしたら必ずお気に入りの風景をのぞきに行ったり,とくにクエストのないNPCに対しても愛着を持ったり。あと,MMOの“生きた世界”だからこそ味わえる,偶発的なプレイヤー同士の出会いとコミュニケーションにも,大きな価値を感じています。
 あの連載は,そのあたりが伝わればいいなと思いながら書いていました。結果的に多くの人から「新生FFXIVの記事としては珍しい方向性で面白かった」と言っていただけましたので,ある程度は成功したのかなと。ゴリゴリの攻略よりも,自分には,ああいうプレイスタイルが向いているんですよね。

吉田氏:
 そういった反応は,FFXIVが「コンテンツベース」のゲームになっていることからも,プレイヤー側からは出づらくなっていると思いますし,今の時代の「忙しさ」から来る効率化プレイの影響もありそうです。こちらとしても,次の課題という認識はあるのですが。

4Gamer:
 でも,ブログやTwitterで,ときどきそういうものを見かけると「このゲーム,やっててよかった」と思うんですよ。たとえば,「大迷宮バハムート」に行けないミコッテ戦士が印象的な……独特の味わい深い絵柄で漫画を描かれる方がいるじゃないですか。

吉田氏:
 ああ,いらっしゃいますね!

4Gamer:
 やはり,ご存じでしたね(笑)。あれが出てきた当時,自分も仲間うちで唯一の戦士だったので強く共感してしまったんですよ。バハムートに限らず,どのエピソードもゲームの良し悪し全部ひっくるめて「まあ,そうなるよね」ってところが実にうまく描写されていました。

吉田氏:
 そうですね。ああいう投稿を見ると僕も嬉しくなります。だからプロデューサーレターLIVEでも戦士の強化について話したときに,そのネタに触れたりしちゃうんですよね。


まさにタンクそのものだった覚悟。旧FFXIV立て直しのとき,裏で動いていた壮絶なプランとは


4Gamer:
 プロデューサーレターLIVEですけど,あれって新生FFXIVのサービスがスタートする前からやっていたじゃないですか。自分は旧FFXIVも発売日にログインしたレガシー勢ですけれども,ぶっちゃけ「ひどい目にあった」というトラウマが強く,新生FFXIVに対しても最初は不安を抱いていた一人なんですよ。
 そんなとき,吉田さんがプロデューサーレターLIVEでズバズバと歯に衣着せぬトークをしているのを見て,「この人なら信用できるかもしれない」と思ったんです。

吉田氏:
 ありがとうございます(笑)。

4Gamer:
 旧FFXIVのこともあって,クリエイターが表に出ると「吊るし上げを食らうかもしれない」という不安が絶対に付きまとうじゃないですか。にも関わらず,吉田さんはプロデューサーレターLIVEという形でプレイヤーの真正面に立った。それは本当に凄いなと感じたんです。

吉田氏:
 そこは社内でも随一,フランクな性格なので……。そもそもMMORPGの開発と運営を自分の意思で引き受けたからには,きちんと「顔の見える運営」にしなければと思っていたので,引き受ける時点から前に出なきゃいけないのは覚悟していました。ただ,それと同時に僕は,実はかなりドライな性格でもあるんです。なかなか信じてもらえないんですが,表に出るのはあまり好きじゃなくて。

4Gamer:
 そうなんですか?

吉田氏:
 僕はゲーム業界でいうと“第3世代”くらいなのですが,ちょうど上の世代がゲームメディアでもてはやされ始めていたんです。みんな若いし時代もバブル直後くらいだったので,それで有頂天になる人も多くて……。会社や打ち合わせに来ないとか,雑誌でいろいろ言うんだけど実際に仕事はしないとか……苦労するのは現場のこっちで(苦笑)。その際,「メディアって恐ろしいな」と強く思っていたんです。

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4Gamer:
 なるほど。そういう状況を一歩引いた目線で見ていたわけですか。

吉田氏:
 自分は調子に乗りやすい性格なことも自覚していますし,自分も同じような体験をしたら危ないだろうなと。だからできるだけ醒めた目で見るようにしていました。それなのになぜ,いまこのように表に出ているのかというと,さっきも話したように「MMORPG」というジャンルのゲームだから,ということがもっとも大きく,あとは僕の価値観では一緒に開発したスタッフから「次も吉田とゲームを作りたい」と言ってもらえることが大切だからなんです。

4Gamer:
 それはどういうことなんでしょう?

吉田氏:
 ちょっと遡った話になるのですが,旧FFXIVの立て直しをするかしないか協議している最中,スタッフの間で「このままだとしんどい。履歴書にも書けない」という話がありました。もちろんプレイヤーの方が一番お怒りなのは分かっているのですが,現場の開発者も人間ですし生活もあります。5年間を旧FFXIVの開発に費やして,そのあとにスクウェア・エニックスを辞めたとするじゃないですか。それでほかの会社へ行こうとしても,「前職ではFFXIVをやっていました」と言うと,「ああ,あれね……」となってしまうわけです。

4Gamer:
 エグい話ですが,それは十分にあり得ますね……。

吉田氏:
 なかには,「何度もこのままじゃダメだと言ったのに,この5年間をどうしてくれるんだ!」と悔しくて泣いていた海外スタッフもいました。彼らだって何もしていなかったわけではなく,「コンテンツのないゲームなんてありえない」とか,「グラフィックスを偏重しすぎてゲームとしての本質が疎かになっている」とか,問題点に気付いて指摘していたみたいです。しかし,意見はなかなか通らず,スケジュールも迫ってきて……。上長の責任だけではなく,いろいろな人が,いろいろなものに追われていた時期なんだと思います。
 しかし,それではあまりにも報われないし,プレイヤーの方もこのままではFFから離れてしまう。僕らもFFで育ってきた人間として,「このままでは終われない,どんなことをしてでも,なんとかしなければ」と思ったんです。

4Gamer:
 その手段として,本来ならば苦手な表舞台に出る決心をしたということですか? 具体的には,どういう意図があったのでしょうか。

吉田氏:
 旧FFXIVの問題点を洗い出し,修正を加えるためには,まず悪い基礎になっている部分を壊すしかありませんでした。プロデューサー兼ディレクターとして総指揮を執ることになったので,作ることに比べ基礎を壊すことはとくに難しくありません。しかし,それで「開発的にはまっとうな時間で」問題点をなんとかできても,実際にそれを結果としてパッチでお届けするには時間がかかる。僕は「立て直しにもタイムリミットはある」と思っていたので……精神的な予防線を張りました。
 あまりに修正までの時間が長く,プレイヤーの方が待ちきれなくなった場合,自分が表に出ておくことで,「よく分からん吉田ってプロデューサーが散々引っ掻き回したけど,やっぱりダメじゃん」となってしまったとしても,当時FFXIのディレクターとして人気のあった松井聡彦にバトンタッチして,パッチは松井の名前で出せば,盛り上がりは作れるかもしれないと。

4Gamer:
 それって,自分からスケープゴートに志願したということですか!?

吉田氏:
 僕が基礎を壊して修正し,コンテンツを作れる状態にしてさえおけば,松井の登場後,予定していたとおりのコンテンツが交代後に短い期間で実装されるので,プレイヤーの反応も「さすが松井だ!」となると考えました。僕は現場でそのまま指揮を執っても,得られる結果に違いはありません。”なんとしてでも”という覚悟のひとつだったような気がします(笑)

4Gamer:
 それは……なんというか壮絶ですね。

吉田氏:
 こうしておくことはメンタル的にもとてもプラスでした。「最悪その手が残っている」と思えば短期間で大胆に動けるし,僕は先程も言ったようにもともとメディアで人気者になりたいわけではない。開発スタッフが僕の頑張りを知ってくれていて,「また吉田と一緒にゲームを作りたい」と言ってくれれば,僕にとっては最大の褒め言葉です。今でもそう言ってもらいたい一心で,現場で必死に働いています(笑)

4Gamer:
 まんまヘイトを引き受けるタンクみたいで,滅茶苦茶カッコイイじゃないですか!!

吉田氏:
 ゲーム開発はパーティプレイですので,タンクも必要です(笑)。でも,みんなが努力してくれたおかげで,そんな最悪の手なんて使わなくて済みましたし,ほっとしています。

4Gamer:
 でも,万が一そのプランが発動していたら事情を知らないプレイヤーから見た吉田さんは完全に“戦犯”じゃないですか。それをまったく恐れなかったんですか?

吉田氏:
 そこは気にならないです。元通り引っ込んでゲーム開発を続けられれば,以前と変わりがありません。開発者の信頼を失わない限り,それで仕事がなくなるわけではないので。


ハドソン時代に培われた,ゲーム開発者としての信念


4Gamer:
 それは“ドライ”という言葉で片付けていいものなのか……。なかなか,できることじゃないですよね。吉田さんのそういう性質って,どのようにして培われてきたものなんですか?

吉田氏:
 そうですね……たぶん,最初に入った会社であるハドソン時代が大きいと思います。僕は小学生のころハドソンのゲームをプレイして育ちました。ファミコンの「忍者ハットリくん」や「スターフォース」「チャレンジャー」とか。当時はゲームの仕様にあえて隠しワザまで入れて,容量が少ないなかで、少しでもプレイヤーに楽しんでもらおうと,サービス精神旺盛なゲームがすごく多かったと思います。

4Gamer:
 自分の世代とは違いますが,たしかにそんな印象はあります。

吉田氏:
 ですが,僕が大人になるころには,ハドソンは僕が子供のころに憧れていたハドソンではなくなってきたような気がしていて……。続編が多く,オリジナルもあまり面白いと感じられなくて。だから入社の面接で志望動機を聞かれたとき,「僕が子供のころに憧れていたハドソンじゃなくなってきているので,僕が変えようと思っています!」と話したら,「バカだなお前。でも,面白いからやってみろよ」って言われて入社させてもらいました。

4Gamer:
 熱血漫画みたいっすね……。吉田さん,そのころから尖ってたんですねぇ。

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吉田氏:
 尖っていたというか必死というか,とにかくまっすぐに頑張ろうと思ってました。それを気にいってもらえて,多くの人に可愛がっていただいたので,いまでもとても感謝しています。そうして必死でやっていたのですが,流れが変わるのはなかなか遅くて……。当時は,ゲームバブルに乗っかった人達が外部から大量に入ってきていた時代でもあり,社員が450人の会社で,すごい人数の役員がいるという状況でしたし。また,ハドソンはPCエンジンの成功もあって,ハードメーカーからお金を出してもらってソフトを作ることを,日本で一番初めにやった会社だったと思います。でも,それが逆に開発力の低下にもつながったのかなと思っていました。

4Gamer:
 というと?

吉田氏:
 あとから振り返って考えたのですが,自分達のお金を使っているという感覚が薄くなっていったのかもしれません。「ヒットする,しない」ということに関するシビアさを失っていたような気はします。

4Gamer:
 うおお……生臭い話になってきた。

吉田氏:
 当時,社内には二つの思想があり,一方はキッチリ収支を出して,「会社なんだから,家族のために給料もしっかり出せるように」とシリーズものを。もう一方は「ハドソンはそんな会社じゃないはずだ」と言ってチャレンジをするんですけど,なかなか当たらないという状況でした。
 そうやって「どちらが正しい」とぶつかり合っているなか,僕は「チャレンジするゲームも,それを支えるゲームも,どっちも必要なんだけどなあ」という考えだったんです。

4Gamer:
 どちらの派閥にも属さなかったわけですか。

吉田氏:
 はっきりモノを言う方だったので,なぜかどちらからも可愛がってもらいました(笑)。入社して3年めくらいでしたが,「25万本,何とかしてくれ」というオーダーなら50万本くらい売れるタイトルを作る。25万本売るのは,会社の収支リクエストなので最低限当たり前のことで,決められた期間と予算の中でどれだけの結果を出すかということにやり甲斐を感じていました。
 その一方で,進めていた新プロジェクトを「会社が厳しいからやめて,ボンバーマンを作れ」という理由で中止にされたこともありました。まず稼がないことには新作など作れないというのは,経営上は正しいと思います。

4Gamer:
 会社を支えるものがなければ,チャレンジもできない……と。ビジネスはビジネスとして,自分のポリシーをしっかり持っていたんですね。

吉田氏:
 ただ,最後は新作の開発中に,企画部長がチームを集めて「今日の会議で中止だ!」と言われて辞めました。

4Gamer:
 それは,どんな理由で……?

※吉田氏から顛末が語られる。

4Gamer:
 ああ,それは無理です。書けませんわ(笑)。

吉田氏:
 その瞬間,「では,辞めます」ということで,退職することに(苦笑)。

4Gamer:
 いやあ,あまりにも考え方が違いますね。

吉田氏:
 僕は売上のためにゲームを作るのは当たり前だと思っていますし,そのためにシリーズ物を作り続けることも別に苦ではありません。さっきもお話ししたとおり,安定した収益がなければ,チャレンジもできないからです。誰かがしっかり確実に稼ぐ必要があります。でも,ゲームである以上はシリーズ物だろうが,完全新作だろうが,手を抜いて作っていることはありません。しかし,それとはあまりにもかけ離れたことを言われてしまったので,僕がこの会社にいてできることは,もうないのかなと……。とても寂しかったんですが。
 その後は,ハドソンから独立した創業2年めの小さな会社から「辞めると聞いたんだけど,良ければ手伝ってくれないか」と声をかけてもらいまして。恩義もあったので,そこへ行きました。自分でゲームの企画をして,クライアントに持ち込み営業をかけて,売り歩いて……「今日のプレゼンで3億の仕事を取らなければ,明日から給料なし」という状況もあったので,とにかくもう必死でした(笑)

4Gamer:
 うへぇ……完全に背水の陣じゃないですか。

吉田氏:
 ええ。でも,そういった中で実感したのが,僕は「論理型」のゲーム開発者なんだなあと。天才型の人達が生み出した発想を,確実にそのエッセンスを汲み取って,面白くしていくという方が僕には向いていると思うようになりました。ですので,旧FXIVを立て直していくというプロジェクトは,これまで経験させてもらってきたことの集大成だったような気がします。
 
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