インタビュー
“戦意”MAXで作り上げたスルメゲー,「FRONTIER GATE Boost+」は何が変わったのか? 主要スタッフに聞く
本作は2011年12月にKONAMIとトライエースがタッグを組んで世に送り出した「FRONTIER GATE」のアップデート版となるタイトル。前作の内容はそのままに,前作エンディング後のシナリオをはじめとした多数の追加要素や,新システムを搭載。“マルチプレイ可能なコマンド式RPG”という特徴的なゲーム性が大きな魅力となっている。
今回,4Gamerでは本作の発売に先駆けて,KONAMIで本作のプロジェクトマネージャーを務めた向峠慎吾氏,ディレクターを務めた小牟田 修氏,そして開発を担当したトライエースの天野佑三氏に,インタビュー取材を行うことができたので,本稿ではその内容をお届けしていこう。
「FRONTIER GATE Boost+」公式サイト
特徴的な「戦意システム」と「パートナー」
4Gamer:
本日はよろしくお願い致します。
まずは,「FRONTIER GATE Boost+」に関してあらためて簡単な説明をお願いします。
小牟田 修氏(以下,小牟田氏):
「FRONTIER GATE」は未開の大陸「フロンティア」を舞台に,15人のパートナーキャラクター達と世界の謎を解き明かしていくRPGです。FRONTIER GATE Boost+は,そのFRONTIER GATEに各種新要素を追加したタイトルとなります。
向峠慎吾氏(以下,向峠氏):
分かりやすく言いますと,FRONTIER GATEのアップデート版ですね。
4Gamer:
コマンド式のRPGとしては,戦闘システムがかなり独特でしたよね。凝ったゲームを作るトライエースさんらしい仕組みだなと。
ありがとうございます。
一番特徴的なのは,味方や敵の戦意をコントロールしながら戦う「戦意システム」です。……初めはなかなか意識できないんですが,使い方が分かってくると,どんどん戦闘が面白くなってくるものに仕上がりました。
天野佑三氏(以下,天野氏):
そういったシステムも,シナリオの流れの中で覚えられる仕組みを心がけました。「難しいシステムは覚えきれない」という方でも,安心して楽しめるのがポイントです。
4Gamer:
確かに,要所要所に“壁”になるクエストやボスがいて,自然とシステムを活用できるようになってくるという印象がありました。
向峠氏:
ええ。具体的には「ウルフリーダー」や「ティランノサウルス」あたりですね。ウルフリーダーで戦意システムを意識させておいて,ティランノサウルスという壁で活用法を学ぶという流れです。あそこで戦意システムの奥深さが伝わると思います。
4Gamer:
本作のキモとなる戦意ですが,どういった発想から生まれたものだったんでしょうか。
天野氏:
トライエースといえば奥深いアクションバトルが特徴の一つだと思うんです。でも,これがコマンドバトルであったとしても,「トライエースらしい」と言ってもらえるように,「コマンド式RPGの基本から外れずに,戦闘の奥深さを出そう」という考えから生まれたのが,戦意システムです。いわゆるHPやダメージ以外にも,何かしら戦況を左右する要素を付け加えたかったんです。
4Gamer:
なるほど。
さらに,コマンド式RPGでありながら,最大3人による協力プレイに対応している点も注目を集めていましたよね。
小牟田氏:
そこもまた,FRONTIER GATEにおける大きなコンセプトのひとつになっています。プレイヤーとパートナーのチームを3組集めて,最大6人までのパーティを作れるので,大人数で戦っているような気分でオンラインプレイを楽しめるんです。
4Gamer:
参加できるプレイヤーが3人(3組)の戦闘システムって,かなり珍しいですよね。マルチプレイといえば,2人もしくは4人というイメージがありました。
向峠氏:
今だから言えるんですが,最初から6人パーティにしたかったんです。実はこれって,「幻想水滸伝」シリーズと同じパーティ構成なんですね。小牟田がもともと,「幻想水滸伝」シリーズを担当していたということもあって。
そこで色々と考えた結果,自分とパートナーの2人パーティが3つ集まれば,6人パーティが出来上がるじゃないかと。
小牟田氏:
さすがに,6人パーティを3人集めて18人っていうのは無理があるかなと思いましたし(笑)。
4Gamer:
MMORPGのレイド戦みたいになっちゃいますね(笑)。
では,3組でのマルチプレイというのは,ゲームの設計段階から決まっていたことなんでしょうか?
小牟田氏:
まだ戦意システムすら用意していなかった,初期の企画段階から決まっていました。
4Gamer:
ということは,プレイヤーとパートナーがセットで行動するというのも最初から決まっていたコンセプトだったんですね。
このパートナーとプレイヤーの関係は,どのようにして決まったのでしょうか?
向峠氏:
マルチプレイで遊ぶなら,やっぱり自分のキャラクターは自分で作りたいじゃないですか。でも,それだとシナリオ性が少し薄くなってしまう。ならば,ストーリーを進めるためにしっかりとキャラクターが立っている人物を作ろうと。そんな流れで,パートナーというシステムが確立しました。
このあたりのシステムを決めるのに,一番時間がかかったような気がします。
4Gamer:
パートナーという形だと,思い入れも深くなってきますよね。
向峠氏:
例えば男性プレイヤーの場合なら,自分の彼女のように女性キャラクターを連れて行くのか,それとも友人のように男同士で組むのか。それはプレイヤーの自由です。……そういえば,同性同士でもそういう関係になっていいんじゃないかという話も出ましたね(笑)。
ありましたね。でも,人と人の関係は恋愛ばかりではありませんし(笑)。
4Gamer:
なんと(笑)。
当初は,パートナーキャラクターをただのNPCぐらいに思っていたんですが,遊んでいるうちにFRONTIER GATEというゲームの中でもかなり重要なポジションにいることに気付きました。
向峠氏:
パートナーって,ほかのゲームだとちょっと軽視されがちな部分なんですよね。それに対してFRONTIER GATEの場合,存在そのものがストーリーに関わってくるので。
4Gamer:
では,パートナーが総勢15人になったのには,理由があるんですか?
小牟田氏:
最初にパートナーの案が上がってきた時点で,すでに15人だったような気がします。
天野氏:
世界観やゲームの基盤になる部分でしたからね。開発スケジュールの折り合いもあって,そこは先に決まっていました。
本作はフロンティアという未開の大陸に,さまざまな国から人が集まって開拓していくお話で,その各国の特徴を表しているのがパートナーキャラクター達なんです。
ほかにも,フロンティアの先住民だったり,同郷の出身でも目的意識が違ったりと,世界観を表現するためにキャラクターを作っていたら,結果的にかなり人数が増えてしまいました。
4Gamer:
いわば,パートナーキャラクター達が,世界観そのものを表しているということですね。
天野氏:
ええ。例えば「親が本国から渡ってきた居住者だけど,生まれ育ったのはフロンティア」という設定を持っていたり,逆に「フロンティアで育った子供が本国に憧れを持つ」というのもあります。
お話を頂いた時点で世界観設定がかなりシッカリと作ってあったので,そのあたりは活かせるように努力しました。
プレイヤーからの反応は上々
4Gamer:
それらの特徴について,プレイヤーからの反応や手応えは如何でしたか?
小牟田氏:
目指していたところが「マルチプレイで楽しく遊べるコマンド式RPG」だったのですが,その点については良い評価を頂いています。まずは「してやったり!」という感じですね。
向峠氏:
RPGにおけるマルチプレイって,まずメインに1人用モードがあって,そこに添えられるような立ち位置であることが多いんですよね。それに対してFRONTIER GATEでは,最初からマルチプレイを前提とした設計をしているのが,受け入れられた要因ではないかと考えています。
4Gamer:
マルチプレイ時とシングルプレイ時で,あまり違和感なく遊べました。やはり,そういった設計思想による部分が大きいのですね。
向峠氏:
ええ。マルチプレイ時にもパーティ組み換えが不要だったり,細かな部分にも注意して作っていますから。
4Gamer:
では,とくに戦闘システムが好評だったということでしょうか。
小牟田氏:
不満点のご指摘も頂きましたが,おおむね「面白い」というご意見でした。あとは,15人のパートナーそれぞれに,しっかりと思い入れを持って頂けたのが嬉しかったです。
4Gamer:
15人も居ますからね……。目移りしてしまってもおかしくないところですが。
向峠氏:
やっぱり,それぞれの声優さんがハマり役だったのも大きかったでしょうね。けっこうベタな配役でしたが,少なくともキャストのファンの方々が求めているキャラクターにはなっていると思います。
小牟田氏:
逆に,15人ものキャラクターに別々のお話が用意されているので「一人一人のストーリーが薄い」という意見もありました。数が多いので,どうしても個々のボリュームが減ってしまいまして……。
向峠氏:
パートナーを全部で5人くらいにしてボリュームを3倍にするのと,今の路線と,一体どちらが良いのかという判断は,難しかったですね……。
4Gamer:
以前のインタビューで,「人気が出そうなパートナー」を予想していましたよね。実際にプレイヤーの声を受けてみて,いかがでしたか?
向峠氏:
きちんとしたアンケートをとったわけではないので,ハッキリと「このキャラ!」というのは分かりませんが……僕はディジー(CV:釘宮理恵)の一点推しでしたが(笑)。
一同:
(笑)
小牟田氏:
あくまで印象ですが,ディジーとクロトキ(CV:宮野真守)は人気だったように思います。
ニケ(CV:白石涼子)ちゃんみたいに話が重たいキャラクターは,なかなかトップにはなれないみたいですね。あ,いじりやすさ的に大人気だったのはアレッティオ君(CV:阿部 敦)です。
小牟田氏:
愛されていますよねぇ,アレッティオ君。
向峠氏:
人気というかなんというか……「ウザい!」っていう評価じゃないですか?
天野氏:
それはもう狙い通りですから。問題なしです!
4Gamer:
そういう人気の出方もあるんですねぇ。
天野氏:
思いの外人気が出た,という意味ではメルフィ(CV:大原さやか)もそうですね。若干年齢が高めのキャラクターなので,人気が集まっていたのはちょっと意外でした。
天野氏:
開発陣の人気はあまり高くなかったんですよ(笑)。
向峠氏:
あと,ダンデス(CV:梁田清之)の渋さには一定の人気があったと思います。本当は,ベタにレインヴァルト(CV:井上和彦)に人気が集まるのかと思っていましたが。
小牟田氏:
レインヴァルトは仲間になるのが遅いですからね。どうしても……。
向峠氏:
最初はすごく強くて,格好良く登場したのに……。ゲームバランスの関係上,彼が仲間になるタイミングではすでにプレイヤーがもっと強くなっていますからね。ラスボス撃破後なので,致し方ないことではありますが。
向峠氏:
あれだけ偉そうなこと言ってたのにね!
天野氏:
ジャ◯プ漫画の最終回直前状態みたいな(笑)。
一同:
(笑)
小牟田氏:
あ,そうだ。人気が出たキャラクターと言えば,やはりギルドマスターは外せません!
4Gamer:
公式ツイッターの顔役でもありますよね。妙に味のある受け答えをしてくれるので,ついつい気になっちゃいます。ギルドマスターのキャラクターは,なぜああいった方向性になったんですか?
天野氏:
声優さんが中田譲治さんに決まって,これはもうそっち方向に振るしかないだろうと! ……まぁ,実は彼には名前すら無いのですが(笑)。
4Gamer:
え,ギルドマスターって名前無いんですか!?
天野氏:
一度検討はしましたが,色々と考えた結果「“ギルドマスター”が一番良いのではないか」という結論に達したんです。
向峠氏:
せっかくだし,それを今度のテーマにしようよ。次の次くらいの作品で。「ギルドマスターの正体がついに暴かれる!」的な。
4Gamer:
ここでまさかの次々回作のアイディアが。
ところで,FRONTIER GATEには,さまざまな装備品も登場しますが,とくに人気があったのはどの装備品でしたか?
向峠氏:
人気があるかどうかはまた別として,「戦盾」は常に使われていたと思います。
天野氏:
しっかりと使ってほしい使われ方をして頂いていたので,こちらとしては満足しています。戦盾は本作を象徴する特徴的な武器でもありますから。ほかには回復拳があるナックルなんかもよく使われていましたね。
小牟田氏:
好みの問題で言えば,見た目的にカッコイイ「刀」や「双剣」は人気がありました。
4Gamer:
やはり,どの作品でもお馴染みの武器は強いですね。
天野氏:
スタンダードな武器でも,動きは派手派手にしています。トライエースはそういった演出を作るのが得意なので。
小牟田氏:
システム的にも一撃必殺のカッコ良さがある刀と,連撃で敵を叩き伏せるカッコ良さのある双剣とで分かれています。コマンドRPGならではの派手な演出は,やっぱり印象に残ったのではないでしょうか。
様々な“やりすぎ”から生まれた「Boost+」
4Gamer:
そんな前作の反応を受けて今回FRONTIER GATE Boost+が発売されることになったわけですが,あらためて本作が発売されるに至った経緯を教えてください。
小牟田氏:
前作FRONTIER GATEの発売後,制作現場からは「次を作りたい!」という声が強く出ていたんです。
天野氏:
小牟田さんは開発現場と密着して行動してくれていましたから,現場として「次があったらぜひ作りたい」というお話は,よくさせて頂いていました。
4Gamer:
つまり,現場の声から生まれた続編がBoost+だった,ということでしょうか。
向峠氏:
今後の展開に悩んでいたのは事実でした。その結果,現在の形で提供することになったと。
4Gamer:
では,今作がいわゆる「2」ではなく,アップデート版の「Boost+」となったのは,なぜでしょう?
先ほどもお話ししましたが,プレイヤーさんからの反応の中で一番大きかったのが,15名のパートナーキャラクターに関するものだったんです。愛着を持ってもらったキャラクターを活かして,かつ前作のデータを引き継ぐとなると,やっぱり続編よりもアップデート版を先に作るべきだろう,と。
もちろん,純然たる続編を作るとしても,何らかの要素を引き継げば良いのだとは思いますが……。
4Gamer:
じゃあ2の制作も検討されていたんですね。
向峠氏:
ええ。ただ2に関しては,まずはBoost+を発売して,プレイヤーさんの反応を見てから考えようと思っています。
ただ……今回のBoost+もただの継ぎ足しレベルの作品ではないので,甘く見ているとびっくりしますよ(笑)。
小牟田氏:
そうですね,かなりやりすぎた感があります。当初想定していたボリュームを大幅にオーバーしました。
4Gamer:
「やりすぎた」とは,当初考えていたよりも多くの要素を詰め込んでしまったということでしょうか?
向峠氏:
その通りです。僕が最初にBoost+を作る上で必須としたのは,メインストーリーの続きと,各パートナーを掘り下げていくエピソードの追加,レベルキャップやAP関連の上限開放などです。
さすがに新しいシステムを導入したり,追加モーションを入れたりだとか,そういった部分はあまりに手間がかかってしまうので考えていませんでした。
天野氏:
まぁ,やっちゃったんですけど(笑)。
4Gamer:
えっ!?
向峠氏:
男性も女性も同じ動きを使っていたはずのキャラクターモーションに,いつの間にか手が加えられて,女性キャラクターのモーションが全部変わっていたり……。
4Gamer:
全部ですか!? 指示もされていないのにそんなハードな作業を……さすがはトライエースですね。
小牟田氏:
プレイヤーさんからも意見が上がっていたんですが,男女のモーションが同じだと,どうしても違和感が出てしまう部分があるんですよ。例えば,女の子がガニ股で腰を落として杖を構えたりする姿とか,やっぱりイヤじゃないですか。モーションのデザイナーさんも気にしていたみたいで,なんかコッソリと直っていました(笑)。
向峠氏:
要するに男女のモーションを別々にした,ってことだよね。そこまでやれとは言ってないのに(笑)。
天野氏:
チームの雰囲気がすごく良かったので「前作でやり残したことをやり尽くそう」という意思のもと,団結して制作しました。
小牟田氏:
システム面では,レベルキャップが開放されてAPが増えるというのがかなり大きいんですが,それだけだと,結局それまでの遊びをそのまま拡張したにすぎません。
企画の段階で,「これだけではちょっとどうなのか」という話が出て,そこから新要素の「ブーストスキル」が登場しました。新たな成長要素を搭載することで,ただ数字を拡張するだけではなく,遊びの幅を広げられるだろうと。
向峠氏:
よく新しいシステムまで組み込めたよね。さすがにそこまで手を入れられるとは思ってなかった。
天野氏:
本当によくやりましたよ……。ぶっちゃけて言うと,最初に企画案が出た時,僕は「やめろ!」と言ったんですが,結果として作れてしまったので万事OKです。
4Gamer:
そりゃまた,随分と危ない橋を渡ったんですねぇ……。
しかし,レベルの上限が増えたということは,その間に習得できる通常スキルも増えているという認識で問題ないでしょうか?
小牟田氏:
かなり増えていますね。おかげでBoost+部分だけでも,かなりのボリュームになったのではないかと思っています。
向峠氏:
追加スキルについても,最初は「厳しかったら入れなくてもいいよ」って言ってたんだけどね。
小牟田氏:
その言葉って,逆にプレッシャーですよ!(笑)
向峠氏:
やっぱり,プロジェクトを管理する立場になってしまうと,どうしても期限を守らなければいけないので……無理はしないようにしてほしいという思いがあって。
4Gamer:
なんだか,思い描いていた現場の姿と逆ですね。上から強烈な指示が飛んでくるのではなく,下が先に行動を起こして,上の方が驚くという(笑)。
天野氏:
実際,過去に類を見ないほどのテンションを持って作られています。完成品にはスタッフ一同かなり満足しているので,自信を持って世に送り出せます。
向峠氏:
今回はFRONTIER GATEという大元があって,そこに熱意ある人達が関わってくれたのが大きいと思います。チームビルディングが良かったんでしょう。ありがたい話です。
- 関連タイトル:
FRONTIER GATE Boost+
- 関連タイトル:
FRONTIER GATE(フロンティアゲート)
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