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[GDC 2016]人気VRゲーム開発者が語る「凄い」ゲームのための方程式。プレゼンスを破壊する7つの要因とは?
ここでは初日の朝に行われた,仮想現実(Virtual Reality:以下,VR)に関する「Lessons Learned from 'I Expect You To Die': New Puzzles, New Hands」というセッションの模様を紹介してみたい。
さて,「I Expect You To Die」というゲームをご存じだろうか。Oculus Riftの開発者が作成中のゲームを公開するコミュニティ「Oculus Share」で高い評価を獲得しているタイトルなので,DK2を持っている人はもしかしたら目にしたことがあるかもしれない。
Oculus Share「I Expect You To Die」
このタイトルでは,プレイヤーは諜報部員となり,その場にあるものをうまく操作して迫りくる危機的状況から脱していくことが目的となる。VRでの謎解き要素のあるミッション型アドベンチャーといった感じのゲームなのだが,とにかく,世界最多のVR作品が集まるコミュニティで広く認められた作品であることは間違いない。
それを制作したSchell GamesのスタッフがVRゲーム作りについて語るというのだから,期待しないわけにはいかないだろう。
なお,このセッションに限らず,今回のGDCではVR系のセッションが大人気で,例年なら人もまばらなGDC前半の朝イチのセッションから長蛇の列ができたり,入りきれないので急きょ部屋を変更したりといった措置が行われていた。当然,このセッションも満員御礼状態である。
VRゲームではゲーム自体の面白さよりも「プレゼンス(実在感)」のほうが重要になり,そしてプレゼンスというものはとても美しいが極めて壊れやすいものだと,Schell氏は語る。
そしてプレゼンスを破壊する要因として氏が挙げていたのが,次の7つだ。
1 Motion Sickness(VR酔い)
2 Confusion(混乱)
3 Shallow Object Interaction(仕掛けの作り込みが甘い)
4 Too Intense(強烈すぎる)
5 Unrealistic Audio(音が不自然)
6 Proprioceptive Disconnect(体感との乖離)
7 Unintuitive Interactions(分かりにくい相互作用)
第1は,おなじみのVR酔いの問題である。これについては,HMDメーカーなどが対応を進めており,ドライバだけを見ても以前に比べるとかなり改善されてきた。ゲーム制作側としては,フレームレートを60fps以上に保つ,バーチャルなカメラは使わない,加速/減速はしない,水平線は動かさないといったことを心がけることでVR酔いを起きにくくすることができる。
第2は混乱で,ゲーム内容があいまいで何をしていいのか分からないといった状況があるとプレイヤーが醒めてしまう,という理解でいいだろうか。分かりにくい箇所では,ヒントを出すようなことも必要だろう。
第3は,オブジェクト動作の作り込みが甘い場合を指している。底が浅いゲームはダメという理解でいいだろう。Schell氏が挙げたのはネジを回す例だ。本作ではマイナスドライバーを使ってネジを外す局面もあるのだが,実はドライバー以外にナイフの刃を使ってネジを回すこともできる。解答が1通りではなく,いろんな考え方で謎を解けるほうが面白いということだろう。
第4は,なにごとも節度が必要というところだろうか。本来は素晴らしいVR体験も,度がすぎれば不快になるだけだ。
第5は,音の部分でのリアリティだ。画像がリアルでも音声が伴っていなかったら台無しになる。音は状況によって鳴り方がまったく変わる場合もあるので,注意を払って制作すべきということである。
第6は見慣れない単語だが,身体が感じる重力感や平衡感覚などをまとめたような用語らしい。要は,体感と体験が乖離しているとダメという理解でいいだろう。
第7は,ゲーム内のインタフェースの操作が体感と異なるとダメという意味だが,例えば本作では,先ほども挙げたようにネジを外すシーンがある。本作はマウスで操作するゲームなのだが,実はドライバーをネジに近づけるだけで自動的に回転するようになっている。本来ならネジを回している気になれる操作法で処理できればよかったのだろうが,マウス操作では捻るのが難しかったので,思い切ってその操作自体を無くして自動化しているわけである。
操作という点では,VR空間の操作にマウスを使うにあたって,いろいろと不自由なことも多い。そこでSchell Gamesでは現在,本作のOculus Touch対応を進めているという。実際にTouchを使って操作するデモも披露された。
その操作系をまとめてみると,まず,物を掴む動作であればそのまま実行できる。元々のマウス版の操作と同様に,掴む,使う,引き寄せる/遠ざける,といった操作が可能になっている。その場で,遠くにあるものを掴んで持ってきたり,別の場所に運んで落としたりといったことができるので,キャラクターの移動がなくても周囲の物体を自在に操作できるのは本作の特徴でもある。これまでのような,顔を横に向けたまま,手をあさっての方向に動かさなければならないといった,不自然さも解消されている。
なにより,Touchでは両手を使うことで,マウス以上に複雑な操作もできるようになっている。例えば,シャンパンのビンを掴んで,もう一方の手で栓を開けるといった,両手を使った操作がより自然に行えるようになっているのだ。手の操作を延長できるTouchというデバイスは,オブジェクトに対していろいろなことを行う本作のようなゲームに適したものだといえるだろう。
本作が好評を博したSchell Gamesでは,新しいパズルを制作するためにブレインストーミングを行ったのだという。出てきたアイデアをもとに,いくつかの指標でアンケートを集計した結果が以下の表になる。Car Puzzleとは本作に登場する自動車シーンのことで,それに匹敵するようなパズルを加えていこうということのようである。
評価の結果はどれもCar Puzzleに達していないわけだが,では何がCar Puzzleを成り立たせているのかと考えたときに挙がった,5つの項目が提示された。それは,Comfortable,On Budget,Affordances,Helpful Deaths,Feel Cleverだ。つまり,快適であり,予算内に収まり,意味があり,無駄死にはなく,賢くなったように感じられることが重要になるということだろう。
逆に障害となりそうな点も5つ挙げられ,それに対する対応策が示された。
開始時点でゴールが見当もつかないという問題に対しては,ゴールを先に見せるようなことをしたり,中間目標を作ったりといった対策が有効であるとした。中間目標の設定は注意深くやる必要がある。
自由度が少ないという点については,VRの持つ自由度を理解すること,プレイヤーにフォーカスしすぎないこと,一本道は避けて連続的な任務を与えることなどが有効であるとした。それによって,プレイヤーは責任感を持つようになる……といった具合に,それぞれへの解決策とその結果が提示されている。
それを実現した手法が「Brownboxing」であるという。それは何かというと,ダンボールで模型を作り,実地でいろいろとテストを行うことであるらしい。VRや3Dオブジェクトに持っていく前に検証を済ませているわけだ。
これらを踏まえ,彼らは5つの要件項目と,問題解決による5つの成果を組み合わせて方程式を作り上げていた。掛け算で効いてくるところが,より重要という理解でよいのだろう。全体として,VRで凄いと感じさせるものを作るためには何が必要かを端的にまとめた講演となっていた。
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Rift
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