インタビュー
「格ゲー向けは検討中」「ゲーム用の超高解像度製品はパネル待ち」。BenQ本社のディスプレイ担当者インタビュー
BenQのディスプレイ製品というと,「XL2420T」(レビュー記事,追加検証記事)や「XL2410T」(レビュー記事)といった,垂直同期周波数120Hz仕様の24インチワイドディスプレイシリーズ「XL」を思い浮かべる読者も多いと思うが,そんな同社から繰り出される次の一手は何なのか。いくつかヒントとなる発言を聞くことができたので,今回はそのあたりを中心にお届けしたい。
格闘ゲーム向けディスプレイは「検討中」
“フルHD超級”の製品は「パネル待ち」
シンガポールのイベント「Regional Media Meeting 2012 Singapore」で展示されたXL2420T |
Abdisamad“SpawN”Mohamed氏とEmil“HeatoN”Christensen氏がXLシリーズの開発に協力した |
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,発売から約1年が経過したXL2420Tを中心に,XLシリーズについて確認をさせてください。XLシリーズについてZOWIE GEARは,「BenQに協力した」と強く謳っていますが,実際にZOWIE GEARとはどういう協力体制を敷いたのでしょうか。
Scread Liao氏:
BenQがゲーム業界,ゲーマー向けディスプレイ市場へ参入するにあたっては,初期段階からZOWIE GEARのSpawNとHeatoNに協力してもらっています。それこそ,「ゲームでディスプレイを使っていくにあたって,必要なものは何か」という,ニーズの抽出からですね。
彼らから最初にあった要求は120Hzというリフレッシュレートで,次がサイズ,そして色のチューニングでした。
白飛びを防ぎつつ,暗部を見えやすくするBlack eQualizer |
1月14日に掲載したXL2420Tのレビュー記事より,Black eQualizerの設定メニュー。Black eQualizerの詳細はレビュー記事を参照してほしい |
色のチューニングというのは,Black eQualizerの「FPS」モードにつながるものですね。
Scread Liao氏:
そうです。ディスプレイの開発自体はBenQで行っていますが,開発中にあるいくつかのフェーズ(phase,段階)ごとに,できあがったものを彼らに見せて,各種チューニングに向けた意見をもらったりしています。
4Gamer:
現状,XL2420Tはフラグシップで,主にFPS向けだと思いますが,一方で今日(こんにち)のPC用プロゲームシーンは,「League of Legends」(以下,LoL)や「StarCraft II: The Wings of Liberty」(以下,StarCraft II)といったMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)系が主流になってきています。今後,新製品が出てくるとして,プロゲーマー志向であるXLシリーズはそちらの方向へ向かうことになるのでしょうか。
Scread Liao氏:
確かに状況はご指摘のとおりですが,そもそもXL2420Tは,「FPS」モードだけでなく「RTS」モードも持っており,RTS(※筆者注,Liao氏はMOBAをRTSの一種として扱っていた)に向けては韓国の著名なStarCraft IIプロプレイヤーの意見を反映させたチューニングを行っています。またLoLについてお話しするなら,著名なチーム「MoscowFive.BenQ」のスポンサーとなることにより,BenQのディスプレイをアピールしていますね。FPSだけに偏らず,RTSだけにも偏らず,プロゲームやコアゲームの市場に展開していくつもりです。
また,世界規模ではアーケードライクな格闘ゲームが人気となっていますから,今後,そちらの方向でも製品を展開していくべきではないかとも考えています。
4Gamer:
いまLoLと格闘ゲームのお話が出てきましたが,どちらにおいても,「プレイするにあたって,ディスプレイ側に120Hzの表示能力は必要なのか」という議論は出てくると思います。むしろ応答速度や色表現のほうが重要なのではないか,という意見ですね。その点はどう考えていますか。
XL2420Tは,FPSもRTSもどちらもサポートできるハイスペックモデルという位置づけです(ので,LoLのプレイには問題ないでしょう)。また,RTSにフォーカスした製品としては60Hz表示に対応したRLシリーズも展開していますが,ご指摘いただいたような「色や視野角,応答速度」に焦点を当てた製品も,いま検討中です。
4Gamer:
60Hz表示のディスプレイという観点ですと,日本市場ではいま「IPSパネルを採用して高速」と謳うディスプレイやテレビが,ゲーマーの間で注目を集めています。BenQさんとして,そういった製品を投入する可能性はありますか。
Scread Liao氏:
世界規模でゲーマーのニーズを調査してみると,2msかそれ以下の応答速度を求めている声が多いのです。なので(IPSパネルよりも高速な)TNパネルを選択するのが理に適っていると考えています。
現状,IPSやVAといったパネルで,2msや1msという応答速度を実現できるとは考えにくく,一方で,ゲーマーの需要は応答速度のほうを向いています。なので私達はTNパネルにフォーカスしているわけですね。
ですから,「BenQがIPSパネルなどを採用したRTS用ディスプレイを出すか」というご質問に対する,現時点での回答は,「ないでしょう」ということになります。
4Gamer:
遅延に関してもう1つ,格闘ゲームなどをターゲットにした場合,ゲーム機との接続にはHDMIを使うことになりますよね。HDMI接続時の表示遅延を高速化するための技術開発というものはほとんど聞かない――テレビなどで,高画質化回路をバイパスすることがあるくらい――ですが,HDMIの伝送速度を向上させる技術開発のようなものを行っていたりはしますか。
Scread Liao氏:
現時点では「検討中です」という回答になります。需要も含めて,調査研究の「調査」を行っている段階です。
4Gamer:
では一般論として伺いますが,HDMI接続のディスプレイで転送速度を向上させる技術というのは,存在しているのでしょうか。
Scread Liao氏:
HDMI自体の転送速度を向上させる技術というのは,現状,ないと思います。BenQとしては「探っている」状況ですね。
4Gamer:
遅延の話が長くなりすぎましたね。話題を変えさせてください。
ゲーマー向けのディスプレイ機器としては,ヘッドマウントディスプレイが注目されてきていると感じます。ソニーのHMZシリーズや,Oculusの「Rift」などが話題になっていますが,BenQさんとして,ヘッドマウントディスプレイを扱う可能性はありますか。
カジュアルゲーマーにとっては面白い選択肢だと思います。しかし,プロゲーマーやハードコアゲーマーの選択肢にはならないでしょう。彼らは17〜24インチ程度の,視界に収まる程度の画面サイズを求めますから。なので,回答は「ノー」です。私達はディスプレイ製品にフォーカスしています。
4Gamer:
ディスプレイ製品,というジャンルそのものの将来についてはいかがでしょう。PCが今後,広義のノート型へ向かっていくのはほぼ疑いないと思いますが,そのなかで「外付けディスプレイ」はどう生き残っていくことになるでしょうか。
XL2420Tでは,パネルエミュレーション機能により,大会のレギュレーションに合わせた画面サイズやアスペクト比での練習が行える |
Intel Extreme Mastersより,LoLクランの様子。プレイヤーによって,ディスプレイとの距離や,ディスプレイの高さ設定が異なっている |
ゲームをプレイするときの目と画面の距離感や,右から左へと視線を動かす量を考えると,17〜24インチ表示が可能な24インチクラスのディスプレイ製品がベストだと私達は考えています(※筆者注:XLシリーズは17〜24インチのパネルサイズとアスペクト比を再現できる「パネルエミュレーション」機能を持つ。詳細はXL2420Tのレビュー記事を参照のこと)。
たとえば,ノートPC向けに15インチ程度の液晶パネルを提供するとして,「それで勝てるのか?」というと,疑問符がつくと思います。
大会などでも,液晶ディスプレイの高さや距離を細かく設定しているプレイヤーが多いですから,そういった調整が可能という意味でも,単体のディスプレイ製品,サイズは24インチといったところが,ゲーマー向けでは今後も主流であり続けるのではないでしょうか。
4Gamer:
いまのお答えからすると可能性は低そうですが,せっかくなので聞かせてください。
たとえばですが,どこかのPCメーカーが展開するゲーマー向けPCに,AUOのパネルを使って,BenQブランドをOEM提供していく,たとえば「Powered by BenQ」のような液晶パネルを展開していく可能性はありますか。
Scread Liao氏:
BenQとしてどこかのPCメーカーとコラボレートする予定はありません。
主に欧州市場の話なのですが,LANパーティなどだと,ディスプレイを持って行くという形が主流です。BenQとしては,そういった人達に向けて,今後もディスプレイ製品を提案していきたいと考えています。
なるほど,だから持ち運べるように頑丈な取っ手を付けたり,ヘッドセットを引っかけられるような突起を用意したりしているわけですね。
Scread Liao氏:
そうです。それと,先ほどもお話ししましたが,高さや角度の調節機能ですね。(ノートPC上で)Excelの作業をするくらいなら話は別かもしれませんが,ディスプレイの高さや角度を調節できるというのは,(ゲームにおける)操作性,効率性に直結するところです。私達はそこを大事にしていきたいと考えているのです。
4Gamer:
視野角についてですが,最近,いくつかの会社から,アスペクト21:9のディスプレイが登場してきています。現状,流通しているのはIPSパネル採用製品なので,回答はある程度予想できますが,あのアスペクト比の可能性はどう考えていますか。
Scread Liao氏:
コンテンツの問題,アプリケーションの問題があるので,現時点では厳しいと思います。ゲームは現状,16:9アスペクトが主流ですし。もちろん,将来に向けて検討していくべき可能性だとは思いますが。
4Gamer:
ではもう1つ,24インチクラス,16:9アスペクトのまま,解像度を上げていくという可能性はどうでしょうか。
Scread Liao氏:
iPhoneやiPadを例に挙げるまでもなく,高解像度というのは重要なキーワードであり,私達もパネルが出てくるのを待っているところです。正直なところ,AUOだけでなく,(AUOと並ぶBenQの調達先である)LG Electronics(以下,LG)も,まだその(=24インチクラスの高解像度)パネルを持ってないので,作りようがありません(笑)。
来年の第3〜第4四半期には(高解像度パネルの)大量生産が始まる見込みなので,そこからですね。
4Gamer:
念のために確認ですが,それはゲーマー向けディスプレイに関してのお答えということでいいでしょうか。
レースゲームなどが高解像度にシフトしていることもありますし,実際,開発にとりかかってはいます。ただ,まだAUOもLGもパネルを持っていませんから,まだこれからの話だと思っていてください。
4Gamer:
了解です。今回はありがとうございました。
XL2420Tの完成度はゲーマー向けディスプレイとして相当に高いわけだが,その後継製品はどうなるのか。ゲーマー向けディスプレイ製品全体の展開も含めて,今後の楽しみが増えたといえそうだ。
ベンキュージャパン公式Webサイト
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