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離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る
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印刷2021/10/27 13:28

インタビュー

離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る

 バンダイナムコアミューズメントは,魚釣りを体験できるアーケードメダルゲーム「釣りスピリッツ」にて,「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」を2021年10月31日まで実施している。
 本キャンペーンにはいくつかの施策があり,メインとなるのは同社の公式Twitterアカウントに指定の投稿をしたフォロワーの中から100名に,対馬や五島列島(長崎県),佐渡島(新潟県)といった日本国内の離島で獲れた鮮魚を詰め合わせた「離島の魚ぱくぱくセット」をプレゼントするというものだ。

画像集#001のサムネイル/離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る

 ゲーム業界とは異なる分野の企業と多面的にコラボレーションを展開する本キャンペーンだが,その趣旨は大きくは2つ。
 1つはより多くの子どもたちに「釣りスピリッツ」の楽しさを知ってもらうこと。そしてもう1つは,近年社会問題として取り上げられている,海にまつわる環境問題について興味関心を持ってもらうきっかけを提供することだという。

 今回4Gamerでは,キャンペーンのキーマンであり,「釣りスピリッツ」の発案者であるバンダイナムコアミューズメントの“コヤ所長”こと小山順一朗氏に,このキャンペーンについて改めて取材した。

「釣りスピリッツ」の発案者 小山順一朗氏(バンダイナムコアミューズメント)
画像集#009のサムネイル/離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る


ぱくぱくキャンペーンは,まだ「釣りスピリッツ」を知らない多くの子どもたちへのアプローチ


 小山氏によると,本キャンペーンの発端は「釣りスピリッツ」自体の企画段階まで遡るという。小山氏が新たなプロジェクトに取り組むにあたり,どのような手順を踏むかはこちらの記事に詳しいが,本作も同様の過程を経て,「ドキドキしながら本物の釣りと同じ感覚で自分の力で魚を釣り上げられる」というベネフィット(顧客が商品やサービスから得られる効果や利益)を軸に,キッズ向けの釣り体験ゲームとして企画・開発が進められた。

釣りスピリッツのイメージ図
画像集#002のサムネイル/離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る

小山順一朗氏(以下,小山氏):
 こんなゲームはそれまでありませんでしたから,実現する手段も当然知らないわけです。そこでプロトタイプを作るにあたっては,研究中の技術や既存のデバイスを駆使しました。プロトタイプはすごく簡易なものだったんですが,子どもたちに遊んでもらったら食いつきがものすごく良かったんです。どのくらい食いついたかというと,1人の小学5年生の女の子が液晶パネルに表示された生け簀に飛び込んでしまったくらいでした。それを見て「ぜひ実現しよう!」となったわけです。

 しかし前例のないゲームなので,開発中に社内外からさまざまな意見が寄せられたそうだ。例えば釣りの対象となる魚について,「子どもは魚なんて知らない」「キッズ向けだからデフォルメした魚がいいのでは」といった議論があったとのこと。しかし,軸となるベネフィットと,何よりプロトタイプを遊んだ子どもたちの反応に沿って,小山氏らはリアル路線で開発を進める判断をしたという。

 そして2012年11月に稼働を開始した「釣りスピリッツ」は短期間でキッズメダルゲームのトップに君臨し,現在に至るまでその座をキープしている。その根強い人気は,2019年7月に発売された「釣りスピリッツ Nintendo Switchバージョン」が,1年間で70万本以上のセールスを記録した事実からもうかがえる。
 しかし小山氏は,「釣りスピリッツ」の伸び代はまだまだあると分析する。

画像集#006のサムネイル/離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る

小山氏:
 私たちの独自調査によると,対象となった5〜12歳の子どもたちのうち,「釣りスピリッツ」を知っている/プレイしたことがあるのは全体の約4分の1でした。つまり残りの約4分の3の子どもたちは,まだ「釣りスピリッツ」を知らないわけです。
 このまだ釣りスピリッツを知らない多くの子どもたちに「面白いゲームがあるよ」「自宅でも遊べるよ」と伝えたいんですが,2012年からさんざん宣伝してきたゲームですから,これまでと同じ方法でプロモーションをかけてもその子たちには響かないんですね。ゲームの文脈ではアクセスできない。そこで企画したのが,この「ぱくぱくキャンペーン」なんです。

 一方,9年間も運用されているがゆえの課題もある。「釣りスピリッツ」ではバージョンアップによってさまざまな魚が追加されていくのだが,近年では恐竜やドラゴン,あるいはメカっぽい意匠の魚なども登場している。これはリアルに存在するメジャーな魚の大半がゲームに実装されてしまったからであり,恐竜などは子どもたちにウケるのではないかという期待もあったそうだ。
 しかし,実際に子どもたちにヒアリングしてみると,プラスな意見もある一方で「そんなの釣りたくないです」「いてもいなくてもどっちでもいいです」という意見もあったという。

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小山氏:
 今の世代の子どもにとって,恐竜やドラゴンはゲームやアニメでさんざん遭遇している存在なので,「釣りスピリッツ」に登場しても何の感動もないんです。
 また私自身,「釣りスピリッツ」の稼働開始直後に,関係者に「ゆくゆくは,怪獣を釣れるようにするんですよ」と言ったところ,「せっかく子どもたちが魚に魅力を感じて魚釣りをやっているのに,魚から逃げるんじゃない」とすごく怒られた経験があるんですよ。

 そんな経験から小山氏は,「それならば,子どもたちに魚自体をきちんと知ってもらおう」と思ったのだと語る。現在「釣りスピリッツ」を遊んでいる子どもたちは,ゲームに登場する魚を「メダル3枚の魚」「メダル10枚の魚」という形で認識しており,名前を正確に把握していない。さらに実際の魚がどれくらいの大きさなのかということも分からずに遊んでいるのだという。

小山氏:
 例えば今回のキャンペーンでフィーチャーしているアカヤガラは,最大体長が2メートルにも達する大型の魚なんです。煮て良し,焼いて良し,刺身にして良しと非常においしいんですが,そういう話をすると子どもたちは目をキラキラさせるんですよね。それを見たら,「メダル10枚の魚なんて覚え方をさせるんじゃなく,本当の魚の魅力を伝えないといけないな」と強く思ったんですよ。
 この思いもまた,ぱくぱくキャンペーンと,2022年1月11日まで東京・池袋のNAMJATOWN(ナンジャタウン)で開催しているイベント「釣りスピリッツ ズカズカズカーン!大作戦」(関連記事)を企画・実施したきっかけになっています。


漁業や離島が抱える社会問題を「釣りスピリッツ」を使って提起


 魚本来の魅力を子どもたちに改めて知ってもらうべく,小山氏ら「釣りスピリッツ」チームはトロール漁を体験取材した。朝4時の出港,船の先が1メートル近く上下に揺れる波がもたらす船酔いや揚網機に巻き込まれる危険など,実際の漁は過酷な体験だったという。
 網にかかり船上に引き上げられた魚は手作業で種類別に仕分けられ,それぞれタル状の大きな容器に詰め込まれていくのだが,タル1つに付く値段はわずか8000円にしかならないのだとか。そうした状況は,若い人たちが漁業に就きたがらず,漁師の高齢化が進んでいることにもつながっていると小山氏は語る。

小山氏:
 こんな大変な思いをして捕まえた魚がなぜそんなに安いのかと漁師さんに聞いたら,「魚の値段は漁協で定められている」「スーパーの店頭に並ばないような種類の魚だと,流通する前に廃棄されてしまう」という答えが返ってきました。
 しかも,そういう見たこともない魚って天ぷらや唐揚げにすると,すごくおいしいんですよ。これもなぜ皆食べないのか聞いてみたら,「水産庁や漁協で流通する魚が定められている」と言うんです。「イワシは大衆魚で,明治時代に国民の健康に寄与したから,このくらいの価格で流通させること」みたいに決まっているんですね。
 そんな理由で,漁師さんが苦労して捕った魚の4割くらいが廃棄されてしまう。この大きな問題を「釣りスピリッツ」を通じて世の中に知らしめることができれば,ゲームで社会問題を提起できるんじゃないかと考えたんです。

 そうした水産資源の問題を解決することは,国連加盟国が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)に貢献できると小山氏は語る。
 また,小山氏らが小学生から大学生の子どもがいる家庭を対象に調査してみたところ,SDGsにもっとも関心があるのは小学3年生女子だったそう。水産資源の問題提起や海を守ろうという呼びかけは,大人よりも子どものほうが刺さるという結果が導き出され,これもぱくぱくキャンペーンを企画・実施する後押しとなったとのこと。

 そして,水産資源や海における具体的な社会問題について調査するべく,小山氏らは長崎・対馬の伊奈にある「フラットアワー」を取材したそうだ。この会社では,釣った魚をeコマースを使って漁協を通さずに,直接東京の消費者や高級レストランに販売しているのだが,方針は「海を荒らさないよう漁法は1本釣りのみ」「水産資源保護の観点から釣る対象は成魚だけ」とSDGsに配慮している。

画像集#008のサムネイル/離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る

小山氏:
 朝5時の出港こそキツいものの,午後3時には仕事が終わり,見たこともないようなおいしい魚を食べている。そして消費者にも,そのおいしい魚を新鮮な状態で提供して喜ばれている。人口20人の小さな漁村で営まれる豊かな暮らしを目の当たりにしました。
 そういった取材を生かして,ぱくぱくキャンペーンの公式サイトには,離島の魅力や問題を伝えるコーナーも設けたんです。
 また,9月には東京で展開している鮮魚店・sakana baccaさんと,生産者から消費者に直接魚を届ける「うおポチ宅配便」とのコラボも実施しました。具体的な数字などはお伝え出来ないんですが,「釣りスピリッツ」ファンのご家庭がオンラインで魚を買うというこれまでにない流通ルートができたそうです。加えてsakana baccaさんの店舗ではコバンザメのような普段見られない魚が販売されており,訪れた家族が「この魚何だろう?」と盛り上がる様子が多く見られるなど,コミュニケーションに一役買っていたようです。


HOSSY
画像集#007のサムネイル/離島で獲れた鮮魚が届く「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」の狙い。10周年を控えたシリーズの新たな取り組みを生みの親・小山順一朗氏が語る
 もう1つ,伊奈の取材で小山氏らは,別の角度から離島で起きている問題に直面した。それは海岸に打ち上げられた,いわゆる海洋プラスチックゴミだ。それら海洋プラスチックゴミは,日本からだけでなく周辺諸国から流れ着いており,住民だけではとても取り除けないような状態になっているという。
 そこでぱくぱくキャンペーンでは,参加のツイート画面を対象店舗でスタッフに見せると,先着1万名に魚型クリップ「HOSSY」をプレゼントする施策を展開している。このクリップはアルミ製で,プラスチックゴミにならないところが大きなポイントだ。

小山氏:
 HOSSYは,もともとモンディアルさんが海洋プラスチックゴミの問題を提起するために作った魚型の洗濯ばさみだったんです。しかし洗濯ばさみでは子どもたちに響かない。
 そこで私が,“綺麗な海を守る釣りスピぱくぱく隊の隊員バッジ”という形で子どもたちにHOSSYをプレゼントさせてくださいとお願いしたところ,「ぜひお願いします」と快諾してくれたんです。「『釣りスピ』のイメージカラーは青だから,色もキャンペーン限定カラーのマボロシ☆ブルーにしましょう」と,あちら側からも価値を高める提案もしていただきました。

 以上をまとめると今回のぱくぱくキャンペーンは,「釣りスピリッツ」のプレイヤー層をより拡大するべく,従来のプロモーションとは異なる形で,魚本来の魅力を伝えたり,社会問題解決の文脈からアプローチしたりするための施策である。
 また小山氏は取材の中で,ぱくぱくキャンペーンは来たる10周年に向けての準備であるとも語り,ファンが喜ぶような施策を準備していることを匂わせていた。10周年という節目を目前に新たな取り組みを進めている「釣りスピリッツ」の今後に期待しよう。

小山氏:
 ぱくぱくキャンペーンを実施したことによりゲーム業界だけでなく,水産業界紙の取材を受けるなどこれまでなかった経験をしており,「釣りスピリッツ」の存在を知る新たな層の開拓に手応えを感じています。「釣りスピリッツ」の今後の発表にも,ぜひ期待してください。

「釣りスピリッツ ぱくぱくキャンペーン」特設サイト

「釣りスピリッツ」公式サイト

  • 関連タイトル:

    釣りスピリッツ

  • 関連タイトル:

    釣りスピリッツ Nintendo Switchバージョン

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