インタビュー
「デーモンハンティング」の開発者にインタビュー。クライアントタイプのMMORPGタイトルに見劣りしないブラウザゲームを目指して
2005年には実現を視野に入れていた3DグラフィックスのブラウザMMORPG
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはBeijing Leeuu Technologyが,どのような会社なのかについて教えてください。
Zheng Lin氏(以下,Zheng氏):
もともとあるポータルサイトの開発部門に所属していた開発者達が,自分達のゲームを作るべく,2005年に独立して設立したデベロッパです。設立後,初めて手がけたのはソーシャルゲームで,そのタイトルは,中国で今でもサービスが続いているほど人気があります。
「デーモンハンティング」は,私達が手がける,本格的3DブラウザMMORPGの第2弾です。最初に開発したソーシャルゲームを手がけたスタッフが多く携わっていることもあり,グラフィックスのテイストなどは似ていますが,さまざまな部分を進化させ,完成度を高め,満を持して日本で展開します。
4Gamer:
会社の規模はどれくらいでしょうか。
Zheng氏:
スタッフは60名程度です。中国のゲーム会社としては少ない人数ですが,社内では少数精鋭をモットーに,プロジェクトチームごとにコスト管理などを行っています。
4Gamer:
では,現在進行中のプロジェクト数を教えてください。
Zheng氏:
開発中のものも含めて,5つのプロジェクトを進めています。
このように少数精鋭でプロジェクトを進められるのは,会社の設立に携わったメインの開発者達が,「デーモンハンティング」でも使っている「GboxIIエンジン」のベースとなるゲームエンジンの開発を,2002年頃に着手していたからです。つまり2005年の会社設立当時には,すぐゲーム開発を始められる自前の環境が整っていたのです。
Beijing Leeuu Technology プロジェクトリーダー 禹 維朴(Yu Weipu)氏 |
Beijing Leeuu Technology 企画総責任者の鄭 林(Zheng Lin)氏 |
4Gamer:
ブラウザベースで,本格的な3DグラフィックスのMMORPGを作ろうと思った理由はなんでしょうか。
Zheng氏:
2005年当時,すでに世の中には,ブラウザベースで動くオンラインゲームが多数ありました。しかし3DグラフィックスのMMORPGはまだありませんでしたから,ほかのタイトルと差別化を図るべく挑戦したんです。実際,ゲームエンジンも3Dグラフィックスに対応できていましたし。
Yu Weipu氏(以下,Yu氏):
2005年といえば,クライアント型のMMORPGで3Dグラフィックスが一般化して来た頃です。その当時から,私達はブラウザゲームで3Dグラフィックスを実現しようとしていました。実際,その狙いは当たり,中国市場では非常に大きな反響がありました。
4Gamer:
しかし,実際に会社として初めてリリースしたのは,ソーシャルゲームということでしたよね? それはなぜでしょうか。
Zheng氏:
当時,すでにブラウザベースで3Dグラフィックスを実現する技術はあったのですが,ほかにはない試みですから,設立したばかりの会社が手がけるにはリスクが大き過ぎたのです。そこでリスクを軽減すべく,まずは2.5Dのソーシャルゲームの運営/開発を手がけ,ノウハウを蓄積したのです。
4Gamer:
ちなみに「デーモンハンティング」は,ブラウザベースのタイトルですけれども,最初にEXEファイルをPCにインストールしなければなりませんよね。
Zheng氏:
ええ,GboxIIエンジンをインストールする必要があります。実際には,インストールしなくとも大丈夫な仕様にもできるのですが,さまざまな環境下で確実な動作を保証するために,現在のスタイルを採用しています。ちなみにFlashやUnityでも,GboxIIエンジンと同じ表現ができないか試してみたこともありますが,満足できる結果が得られませんでした。
先行してサービスインした中国/北米では高い評価を得たグラフィックス
4Gamer:
それでは,「デーモンハンティング」についてお聞きします。開発期間はどのくらいでしょうか。
Zheng氏:
開発スタートが2011年7月ですから,およそ1年半です。2012年6月に,中国で最初のテストプレイを行い,以降半年間,テストと修正を繰り返してきました。
4Gamer:
現在,何か国でサービスを展開しているのですか。
Zheng氏:
2012年12月に中国と北米でサービスインしました。次いで,2013年1月に日本でのサービスインを実現しました。そのほか,ベトナムと契約を交わしていますし,韓国および台湾をはじめ数か国で交渉が進んでいます。
4Gamer:
中国と北米での反響を教えてください。
Zheng氏:
とくに北米での評価が高く,SNSなどでも悪い評価がほとんど見られません。パブリッシャも,運営上の問題点を常に改善していますし。
Yu氏:
北米も中国も,同時接続者数などの数字が非常に好調ですね。どちらの国も,クオリティの低いタイトルはすぐに数字が下がってしまうのですが,おかげさまで「デーモンハンティング」はそんなことがないようです。
4Gamer:
とくに,どういった点が評価されているのでしょうか。
Yu氏:
やはり,ブラウザベースでクオリティの高い3Dグラフィックスを実現している部分です。さらにゲームとしても,ペットシステムや装備強化システムの作り込みが評価されているようです。
4Gamer:
なるほど。中国と北米で高い評価を受けたのは,デベロッパとして狙い通りといったところですかね。
Zheng氏:
いえ,私達の予想を遥かに超える良い反響でした。とくに北米のプレイヤーから高い評価を受けたのは,予想外でしたね。実のところ,サービス開始前は,開発コストを回収できればくらいに考えていたのです。
4Gamer:
グラフィックスのテイストは中国というよりも欧米寄りですよね。企画段階から,海外展開を考えていたのですか。
Yu氏:
ええ,企画当初から世界を視野に入れて,かつプレイヤー層も限定せず,大人から若年層まですべてをカバーしようと考えていました。
4Gamer:
なるほど。ところで,日本における「デーモンハンティング」の反響をどう捉えていますか。
Zheng氏:
ベクターからは,非常に好調との報告を受けており,うれしい限りです。しかし,まだまだ日本向けの調整が必要です。とくに一般フィールドでのフリーPKに関しては,日本ではあまり受け入れられないとのことなので,どうするかベクターと相談しているところです。今は,暫定的に,フリーPKできない設定にしています。
4Gamer:
日本のプレイヤーに,「デーモンハンティング」のどこに注目してほしいですか。
Yu氏:
グラフィックスはもちろんですが,ペットや装備強化などの遊びの部分にも,ぜひ注目してほしいです。とくに開発者達は,かつて「Diablo II」を遊び倒すことで,どうすればプレイヤーに楽しんでもらえるかということを研究しました。その成果は「デーモンハンティング」の遊びのシステムにも反映しています。洋ゲーをやっていたというプレイヤーさんならば,ぜひ,そういった部分も感じ取ってもらえればと思います。
4Gamer:
今,注目してほしいポイントの一つとしてペットが挙がりましたけれど,中国では非常に高額なペットが公式に販売されていると聞いて驚きました。実際に購入するプレイヤーはいるのでしょうか。
Yu氏:
ええ,もう20体以上売れています。中国では,1タイトルにつき,数十人の高額課金プレイヤーがいるものなのですが,そういった人達に向けてステータスと感じてもらえるような高額アイテムを用意するんです。中国には「デーモンハンティング」より高いアイテムを販売するタイトルもたくさんありますよ。
4Gamer:
お国柄の違いですかね。日本では,注目を集めることはできても,そういった高額アイテムを購入するプレイヤーは,あまりいないでしょう。
Yu氏:
ええ,日本では事情が違いますから,同じペットをキャンペーンやイベントなどの賞品として提供する予定と聞いていますし,北米でも販売するかどうかは未定です。
また,こうしたアイテムは,見た目こそ派手で目立ちますが,ゲームバランスを壊さないように,能力設定にはかなり配慮しています。
4Gamer:
そのほか,こだわっているポイントはありますか。
Yu氏:
ゲームバランスですね。一度サービスインしてしまうと,あとからバランスを大きく変更するのは困難ですから,極めて慎重に調整しています。ゲームバランスはプレイヤーの利益に関わるだけでなく,タイトルの寿命にも関係する最重要項目ですから,社内で納得できない段階では,絶対に公開しません。
4Gamer:
開発上で,苦労したエピソードがあればぜひ教えてください。
Zheng氏:
やはり開発上の意見が割れたときですね。ここにいるYuと私とでも,意見が食い違って会議が6時間以上に及ぶことは珍しくないです(笑)。それは,いいゲームを作るために絶対必要な過程だと捉えています。
4Gamer:
なるほど。今後,どういったコンテンツを追加する予定ですか。
Yu氏:
レベルキャップ開放に伴う新たなマップや装備の追加はもちろんのこと,さらなる強化システムの実装を予定しています。また2013年2月に中国で実施する旧正月イベントにて,ペット「麒麟」を公開しますので,日本でも追って提供する予定です。
2013年以降の世界市場を見据えモバイルゲームにも注力
4Gamer:
それでは,今後の御社の展開について教えてください。
Zheng氏:
中国ではここ数年,PCブラウザゲームが大きく成長しましたが,最近ではモバイルゲームの急速な成長が目立ちます。数年後には,今のブラウザゲームはモバイルゲームに取って代わることも十分あり得る勢いですので,それを踏まえた準備が必要だと考えています。
4Gamer:
一時期は,中国国内だけでも莫大な売上があると言われていましたが,今は事情が変わったのでしょうか。
Zheng氏:
中国国内は,あまりにも競合タイトルが多すぎるんですよ。毎年1000タイトル以上がリリースされますから。
そうはいっても,βテストを開始した瞬間に,終了が決まるタイトルも多いですけれどね(笑)。実際にローンチできて,サービスの継続につながるタイトルは年間100前後です。
そういった状況で生き残るためには,大手ポータルを介して,上手にプロモーション展開することも重要です。自社サイトだけでは,十分なプロモーションは難しいですからね。
とはいえ,大手ポータルサイトはライバルが多くなりますので,その中で目立つ施策をしっかりと用意することが大切です。こういったことができていないと,良いゲームを作ったとしても商業的な成功は難しいですね。
4Gamer:
ある意味,日本のモバイルソーシャルゲームみたいな状況になっているようですね。ちなみに,日本市場について,何か思うところはありますか。
Yu氏:
「デーモンハンティング」で進出したばかりですから,何とも言えないのですが,日本でもオンラインゲーム/ブラウザゲームの需要が高まっていると聞いています。ぜひ,多くの要望や意見を寄せていただきたいと考えています。
Zheng氏:
そういう意味では,ベクターの運営手腕に大きく期待しています。
4Gamer:
ありがとうございました。
「デーモンハンティング」をプレイして驚くのは,やはりこれだけの3Dグラフィックスを持つMMORPGが,ブラウザで動作する点である。数年前はこのレベルのグラフィックスを実現するために,結構なスペックのPCを要求されたものだが,それが今やブラウザ上で動いてしまうのだから驚きだ。しかし,こうしてあらためて話を聞いてみると,それを実現するGboxIIエンジンの開発は,前身のものから数えて10年以上にわたり取り組んでいるとのことで,一朝一夕に実現した技術ではない。こうした技術に裏付けされ,かつゲームバランスにもこだわっているという「デーモンハンティング」の今後の展開にも期待したい。
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