インタビュー
セガネットワークスは,スマートフォン向け「デーモントライヴ」をなぜ“本気”で作ったのか――プロデューサーの脇 康平氏とディレクターの山田理一郎氏にインタビュー【後編】
ストーリーモードや育成要素などがしっかりと用意されているのはもちろん,バトルでは,最近話題のDotA系とも呼ばれるMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)タイトルが持つ,戦略/戦術の要素を盛り込んでいる。なお,ゲームの詳細や本作の開発経緯などは以下の記事に詳しいので,合わせて目を通してほしい。
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インタビュー後編では,秘密結社というモチーフを採用するに至った経緯や,グループエス・エヌ・イーによる監修が本作にもたらす造詣の深さ,そしてビジネスモデルはどのような形になるのかなどの話を,プロデューサーの脇 康平氏とディレクターの山田理一郎氏に聞いている。本作に注目している人は,ぜひ最後まで読み進めてほしい。
「デーモントライヴ」公式サイト
4Gamer:
「デーモントライヴ」では,秘密結社というテーマを採用していますよね。ゲームではなかなか類を見ないテーマですが,これはどういった経緯で決まったのでしょうか。
順にお話ししていくと,まずパッケージゲームの場合は,価格が障壁になることがありますが,フリーミアムのゲームであれば,当然,価格は関係ありません。何か一つフックになる要素があれば,プレイしてもらえるかもしれませんよね。
スマートフォン市場を見渡すと,ソーシャルゲームやゲームアプリはそれこそ星の数ほどありますから,まずはその中で目立つ必要があります。エンターテイメントでは“普通”と言われてしまうのが一番まずいので,目立つためには,何か尖った部分を作らないといけないと考えていました。
そこで,「デーモントライヴ」をどう“尖ったゲーム”にするか考えたときに,「セガで尖ったものを作るならこの人しかいないだろう」と,植田を引っ張ってきたんですね。
4Gamer:
「ジェット セット ラジオ」シリーズでアートディレクター,「龍が如く」シリーズでゲームディレクターを務めた,植田隆太氏ですか?
山田氏:
はい。そして,植田を交えたミーティングで出てきたアイデアが秘密結社だったんです。なかなか例のないアイデアだったので,これならコンシューマゲームを遊んできた人にも興味を持ってもらえるし,日本だけでなく世界も狙える可能性があるという手応えを感じたんです。
男性の方なら思い当たる節があると思うのですが,子供の頃に秘密基地を作って遊んだ経験がある人って多いと思うんですよ。だから,自分で秘密結社を作っていくという設定には,そのような記憶も手伝って,ワクワクさせられるんじゃないでしょうか。
山田氏:
秘密結社って何というか,昭和の匂いがする“ダサカッコいい”響きがありますよね(笑)。
4Gamer:
世界観について,日本におけるテーブルトークRPG普及の草分け的存在である,グループエス・エヌ・イーが監修しているんですよね。これはどういった経緯で実現に至ったのでしょうか。
脇氏:
「世界観や設定をできるだけ奥深くしよう」と話していたときに,植田から「どうせなら,そういうことに日本で一番詳しいグループエス・エヌ・イーさんに監修をお願いしてはどうか?」と提案があったんです。
それで,植田と私で神戸まで行って,安田 均さんに企画のプレゼンをさせてもらったんです。その際,安田さんに「小説やトレーディングカードにも展開できそうだし,楽しそうだね」と言っていただけたことで話が進み,最終的に監修をしていただけることになったんです。
山田氏:
極論ですが,ゲーム性だけ考えたら,合成に使う素材は組み合わせさえ正しければ,名前は何でもいいわけじゃないじゃないですか。
でもグループエス・エヌ・イーさんは,そういった部分にまできちんとこだわりがあって,その一つ一つの積み重ねがすごいんですよ。たとえば合成に使う素材一つをとっても,素材それぞれに由縁があるから,「この武器にこの素材が使える/使えない」という理屈を成立させているんです。
最近はこういった,設定が硬派なゲームは少なくなりましたし,そこに真正面から取り組んでいる会社もそうないでしょうから,面白いトライだと考えています。
グループエス・エヌ・イーさんに監修をお願いしたことで,非常に細かい部分まで作り込むことができて,開発チームからも,かなり勉強になったという声が出ていました。最初の頃は,グループエス・エヌ・イーさんに,「オニキスは,そういうものじゃありません」とか,けっこう怒られましたけど(笑)。
「デーモントライヴ」では,世界設定はもちろん,キャラクター1体に至るまでこだわり抜いて,それこそコミックやアニメ,映画にできる次元で,設定を作り込んでいるんです。
山田氏:
どこまでストーリーを打ち出すかというのも,難しいところではあるんですが……。
4Gamer:
それはどういうことですか?
山田氏:
そもそもユーザーは,シミュレーションゲームや対戦型のゲームには,あまりストーリーを求めないという傾向があります。「デーモントライヴ」も,どちらかと言えばストーリーがいらないジャンルに分類されるゲームでしょう。
普通のRPGのように長々と文章を連ねるわけにはいきませんし,ストーリーを語るときは簡潔に,しかもちょっとした一言で,「何か」を感じ取れるようにする必要があるのかなと。
4Gamer:
具体的には,どのようなことなのでしょうか。
山田氏:
「神は細部に宿る」という言葉がありますが,僕らとしては,ゲームのフレーバーとなるテキスト一つをとっても世界観が伝わるよう,細かいところまでこだわりたかったんです。
たとえば,僕が「機動戦士ガンダム」で最も好きなシーンが,アムロとララァが出会う回で,アムロが「天気の予定表ぐらい,くれりゃいいのに」とぼやくシーンなんです。セリフはたった一言ですが,「スペースコロニーの天気って管理されているんだ」とか,「天気の予定表があるんだ」とか,そこからイメージがぱっと広がるじゃないですか。
「どういう理由で」「何が」「どうなる」というところをきちんと作らないと,フワフワした表現になってしまい,“ちょっと変わったゲーム”で終わってしまう。「デーモントライヴ」では,世界観を細部まできちんと作り込むことで,そういう表現を目指しています。
脇氏:
植田が自らセリフを書いていますからね。
たとえば,エージェントには一人一人,組織に所属している理由があるといった背景まで作り込んでいるのは,そういった設定から想像をふくらませて,ゲームをプレイして先が見たくなるように仕向けるという意味があります。
また我々も,せっかくやるなら「デーモントライヴ」を大きなIPに育てたいという思いがあります。ゲーム本編であまり語れないストーリーの部分はコミックで表現できないかと考えてみたり,キャラクターがバトル時に変身する姿ではフィギュア化を意識したりというように,さまざまな展開の元ネタにできるよう,細部まで作り込んでいるという側面もあるんです。
4Gamer:
「デーモントライヴ」は,iOS端末でのサービスが予定されていますが,スペック的にはどの世代からプレイできるのでしょうか。
山田氏:
スペック的にはiPhone 3GSでも動かないことはないんですけど,解像度の問題などから,対応機種はiPhone 4以降のモデルとなっています。もちろん高解像度でのプレイもサポートしているので,iPadや最新モデルもおススメです。
脇氏:
iOSのバージョンは5.0以上であれば大丈夫です。
4Gamer:
では,Android端末向けのサービス予定はないんですか?
山田氏:
Android端末向けのサービスの予定は,今のところ未定です。
正直に言えば,僕らとしてはiOSにこだわっているということではなくて,今,ユーザーに手に取ってもらえる可能性が一番高いプラットフォームがスマートフォンで,その中でも規格が統一されているから新しいことに挑戦しやすい,というのがiOS端末を選んだ理由なんです。
脇氏:
まずはiOS向けのサービスを成功させることが第一ですから,ほかのプラットフォームでの展開を検討するのは,そのあとの話になります。ただ,ここまでの規模で作っていますので,ご期待いただければと。
4Gamer:
ビジネスモデルは,基本プレイ無料のアイテム課金制を採用するとのことですが,無料でどこまで遊べるのか,何を収益とするのかなど,具体的な計画は決まっているのでしょうか。
脇氏:
マネタイズに関しては,相当研究を重ねています。詳細はまだお話しできないのですが,プレイヤーが納得してお金を払おうと思えるような形にすることが重要なので,そこは強く意識しつつ検討を進めています。
山田氏:
お話できる部分でいえば,無料でひと通り遊べるということが大前提で,そのうえで,より「高みを目指したい」「強いデーモンを育てたい」という人からお金をいただく,というイメージですね。
でも,「このデーモンさえ鍛えておけば絶対勝てる」というようなゲームにはしたくないです。基本的には,自分で育てたデーモンを使って,みんなで楽しめるものがいいと考えているので。
4Gamer:
ただ,対戦型のオンラインゲームではとくに,「お金を払えば強くなる」バランスになってしまうと,それで面白くなくなった非課金プレイヤーが去って,過疎化にもつながる危惧もあると思うのですが。
山田氏:
そこは気をつけている部分です。とくにストラテジー系のゲームは競技性が高く,「実力のある人が強い」という傾向が強く出やすいので,多くの人に向けて間口を広げようと考えたときに,少し厳しい面があります。だからこそスキル重視のゲームにして,揺らぎの要素を入れているんです。
たとえば「Kingdom Conquest」は,SRのカードをたくさん持っている人が強いのではなく,スキルを研究してきちんとデッキ編成をしたプレイヤーが強い,というゲームです。「デーモントライヴ」も同じスタンスで,操作の部分が素早くできない人でも,デーモンの育て方と戦略次第で勝てる,というような「揺らぎ」の部分を重視しました。
脇氏:
対戦は,同じくらいの強さのプレイヤー同士の対戦になるようなマッチングのシステムを導入しています。基本的にはオートマッチングですが,相手が強すぎて一方的に負けるようなことにはならないはずです。
それから,対戦は1対1だけでなく,チームで協力して戦う3対3の対戦形式も用意しています。身体を張って味方を守る役や後方支援する役など,チーム内で役割分担もできますから,アクションが得意でない人にも,活躍できる場があります。
4Gamer:
山田さんは,「サムライ&ドラゴンズ」(2012年3月リリース)のプロデューサーを担当していましたよね。ということは,「サムライ&ドラゴンズ」と「デーモントライヴ」を並行して手がけていたということですか?
山田氏:
僕が「デーモントライヴ」のプロジェクトに参加したのは,PSPの「J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!7 EURO PLUS」が発売されて,プロモーションが一段落したタイミングでした。
そのあと,社内的な理由で「サムライ&ドラゴンズ」のプロデューサーも僕が引き受けることになって,「デーモントライヴ」と同時進行していくことになったんです。
結果的には,開発にそれほど支障は出ませんでしたし,「デーモントライヴ」にも「サムライ&ドラゴンズ」の運営開発のノウハウを反映できたので,いい経験になったと思います。僕個人は超大変でしたけど(笑)。
4Gamer:
コンシューマゲームと開発のスピード感に差はありましたか?
山田氏:
きちんと作るための手間自体は,ほとんど変わらないですね。オンラインゲームでは,スピード感を持って臨まなければならない,という気持ちはありますが,労力はどうしてもかかるものですから。
4Gamer:
「サムライ&ドラゴンズ」は,プラットフォームこそPlayStation Vitaというコンシューマ機ですが,内容は基本プレイ無料のオンラインゲームですから,それまで手がけてきたタイトルとは勝手も違ったのではないでしょうか。
そうですね。
たとえば「サカつく」シリーズなら,僕自身がファンでもありましたから,「何を求められているか」が分かるんです。ところが「サムライ&ドラゴンズ」は,コンシューマ機のフリーミアムゲームというレアケースだったので,何がゴールなのか分からず,やれることは何でもやったという感じです。
ただ,「サムライ&ドラゴンズ」は,基本プレイ無料とは言え,ゲーム好きの人に向けたタイトルですから,一般的なソーシャルゲームの運営開発とは少し,ノウハウが異なっていると思います。
世間的には,フリーミアム=ソーシャルゲームという定義が根付きつつあるかもしれませんが,僕の中では「サムライ&ドラゴンズ」はソーシャルゲームではなくオンラインゲームですし,「デーモントライヴ」でも,そこは同じかなと。
ただ,ソーシャルゲームにも,手軽さをはじめとした長所がいっぱいありますから,それらをうまく組み込んでいこうというスタンスですね。
4Gamer:
それでは最後に,「デーモントライヴ」に注目している読者に向けて,メッセージをお願いします。
山田氏:
「デーモントライヴ」では,シンプルで分かりやすく,短い時間で楽しめて,逆転の要素もあるゲームデザインを目指しました。そんなにゲームに詳しくなくても何となく楽しめる――そういう部分を大事にしています。
やり応えや面白さに関しては,多くの方に安心してプレイしていただける内容だという自信があります。ゲームが好きな人にはとくに遊んでほしいですし,それほどでもないと言う人も,仲間と一緒に盛り上がってもらえると嬉しいです。
僕個人としても,セガからオリジナルタイトルを出せることは感慨深いです。やはり新しいゲームを提供することこそ,これまでゲームを作ってきた人間がやるべきことだと思います。願わくば,「デーモントライヴ」には,セガの歴史に名を刻むようなIPになってもらいたいです。
ゲーム業界の新しい時代を切り開くという強い決意と覚悟を持って,全力で「デーモントライヴ」の開発に取り組みました。その結果,グラフィックス,サウンド,世界観,通信対戦技術など,ありとあらゆる面で,現行のスマートフォンゲームの最高峰と呼ぶにふさわしい内容に仕上がったと自負しています。
1月末から初回特典付きの事前登録も始まっていますし,早く皆さんに触っていただきたいです。今後も,プロモーション展開含めて面白い仕掛けを数多く用意していますので,ぜひご期待ください。
4Gamer:
ありがとうございました。
2012年11月以降,スマートフォン向けタイトルを続々とリリースしているセガネットワークスだが,その中でも“最大のタイトル”として予告されていたのが,この「デーモントライヴ」である。
インタビューを読めば,スマートフォン向けゲームではありながら,コンシューマとなんら変わらない姿勢で,脇氏や山田氏をはじめとしたスタッフが,“セガらしい”ゲームに仕上げようと,開発してきたものだということが分かってもらえると思う。
ちなみに筆者は,サービス前に本作をプレイさせてもらい,そのレポートを「こちら」に掲載している。バトルはリアルタイム制のアクションゲームとしてしっかりと作りこまれており戦略性や戦術性が高く,また,スマートフォンのタッチ操作でも十分遊べるという印象だ。
なお,本作では現在,事前登録キャンペーンを実施しており,登録するともれなく,“日本一有名な悪魔”である「デーモン閣下」をモデルにした限定レアデーモンが入手できる(関連記事)。このキャンペーンが行われるのは,サービス開始前日までなので,本作に興味を持った人は,早めに事前登録をしておこう。
「デーモントライヴ」事前登録ページ
「デーモントライヴ」公式サイト
- 関連タイトル:
デーモントライヴ Ver.2.0
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(C)SEGA Networks