紹介記事
「黒い砂漠」の人気キャラメイク職人はどのように“顔”を作っているのか。考え方やブラッシュアップの過程を紹介してもらった
「じゃあ,芸術の秋ということで,キャラメイクについて書こう!」と思ったのだが,キャラメイクにおける筆者のやりこみなどたかが知れている。そこで,黒い砂漠のプレイヤーであり,人気キャラメイカーであるつき乃さんに,お話を聞いてみることにした。ほぼ毎日キャラクターをアップロードしているつき乃さんは,どのような観点で,あるいは「想い」で,キャラクターメイキングに取り組んでいるのだろうか。
黒い砂漠のキャラメイク機能は超細かい
はじめに,黒い砂漠のキャラメイク機能の概要を簡単に紹介しておきたい。
キャラメイクと言えば,ヘアスタイルや化粧の選択など様々な調整項目が思い浮かぶと思うが,黒い砂漠はとくに「顔の形」項目で調整できる部位が豊富なことが特徴だ。
「顔の形」項目で形状を変更できる箇所はいくつあるのか改めて数えてみると,顔の半分+センターパーツで26箇所にも及ぶ。
その中から動かしたい箇所を1つ選び,“コントローラー選択”から3種類のコントロール(正式名称は不明だが,移動,回転,サイズ変更のようなイメージ)を選ぶ。さらに,それに対応する縦幅,横幅,深さという3つのスライダーで三次元的に調整を行う。
つまり,「右目尻」といった1つの小さなパーツに対し,3コントロール×3軸で9通りの変形方向があり,それぞれの軸は無段階と感じられるくらい細かな調整が可能となっている。瞳も,瞳孔,虹彩に対してそれぞれ色や形,透明度を編集できるなど,初めてプレイしたときには驚いたものだ。この細かすぎるキャラメイクのためだけに,黒い砂漠を始めたプレイヤーも少なくない。
圧倒的な数のキャラを作り続けるつき乃さん
今回お話を聞いたつき乃さんも,黒い砂漠のキャラメイクに魅せられた一人である。つき乃さんの黒い砂漠プレイ歴はおよそ2年半ということだが,その間ほぼ毎日キャラクターを作ってきた。その証がキャラクターのアップロード数だ。
ここ1年でのビューティーアルバムのアップロード数は770キャラクター,通算のアップロード数はなんと2000キャラクターを超えるという。つき乃さんがアップロードしたキャラクターは,最近1年で24万回以上ダウンロードされている。
そんなつき乃さんの創作への情熱は幼少期まで遡る。レゴブロックを与えておけば何時間でも一人で過ごせるような子ども時代だったという。
「自分の中にあるものを自由に表現できるコンテンツが好きなのは,『黒い砂漠』でキャラメイクをし続けている今と変わりません。表現する活動は,小さい頃からずっと形を変えながらも途切れずに続けてきました。その過程で出会ったのが『黒い砂漠』のキャラメイクです。私にとってキャラメイクの最大の魅力は,自分の『好き』を自由に表現できることです。そして,それがとても手軽にできるというのが,本当にすごいところだと思っています」
もちろん,最初からうまかったわけではない。
「私は表現活動が好きですが,才能があるというわけではありません。むしろ不器用で要領が悪いほうだと思います。一番初めに作ったキャラクターは本当につたない出来でした。ただ,続けてさえすれば,いつかはうまくなるだろうと思い,本格的に始めようと決めたときからひたすらに続けてきました」
キャラメイクを始めたきっかけ
そもそもつき乃さんは何故ビューティーアルバムに投稿を始めたのだろうか。それは,黒い砂漠をはじめた当初,同じような顔のキャラクターを見かけることが多く,自由度が高いゲームなのにもったいないと思ったからだそうだ。
「こんなにもひとりひとりの『好き』が表現できるコンテンツなのですから,もっと多様な個性が存在する場になればいいのにと思ったのです。それを実現するためにはどうすれば良いかを自分なりに考えた末に,自分自身でいろいろな顔のキャラクターをたくさん作ってビューティーアルバムに載せていこうと思いました」
そして,日々の投稿が始まったというわけだ。
ただし,キャラメイクの「知識」はあえて調べたりはしなかったという。
「私がキャラメイクの『知識』を取り入れてこなかったのには理由があります。それは,自分の『好き』を表現するのに,『ここはこういう風にするといい』とか『こうしてしまうと造形が崩れてしまう』といった具体的な知識や情報が,逆に,自分の自由な発想を制限してしまうと感じたからです」
これは黒い砂漠のキャラメイクに限らず,表現者に共通する感情かもしれない。近道をしようとすれば対象からの影響を少なからず受け,枠を作ってしまう。自分の中にある純粋な「好き」という気持ちにブレーキを掛けてしまうこともあるだろう。
「『良い』ものをたくさん見て刺激を受けることがいつでも良い方向に働くとは限らないことを,私はこれまでの表現活動を通して経験してきました。上手な方と比べてうまくできない自分,そこから感じる焦りや羨む気持ち。『苦しい』が増えすぎると『楽しい』が感じにくくなってしまいます。そういった心理状態にならないようにするために,自分に入れる知識や情報はできるだけコントロールするように気を付けてきました」
テクニックの幅よりも「好きでいること」というモチベーション管理が,2年半で2000件のオリジナルキャラクターを公開する上でもっとも大切なのかもしれない。本記事作成の上で,つき乃さんはこれからキャラメイクを始める人を気遣っていた。
「知識や情報を入れないというやり方は,たくさんの人におすすめできるというわけではありませんが,『輪郭を滑らかに』とか『どの方向から見ても美しく』とか,そういった一般的な基準は一度忘れて,ときには自分が思うままに,自由に『好き』を表現してみるのも良いのではないでしょうか。もしかすると,人の価値観に左右されない,自分らしいキャラクターができあがるかもしれません」
ブラッシュアップの実例
つき乃さんは情報を仕入れずに手探りで作り上げてきたことにより,キャラメイク関連のテクニックなどについては,他の人より知らないことも多く,いわゆる技術的な「ハウツーの紹介」はちょっと難しいとのことだった。
とは言え,ベテランプレイヤーがどのようにキャラを作っているのかは気になる人も少なくないだろう。そこで,今回はつき乃さんに,3つのキャラクターで,仕上げやイメージ変化など「ブラッシュアップ」の過程をどのように進めているか教えてもらった。
「好き」の形は人それぞれなので,私は「このようなパラメーターにすれば,良いものができる」といったことを書くことはできませんが,ここでは普段私がやっているブラッシュアップの過程をお伝えできればと思います。
●レンジャー
まず1つめは,レンジャーです。初めてキャラメイクをしたときのデータを元にして作ってみようと思います。私が最初にレンジャーを選んだのは,もともと遠距離職が好きで,エルフのような見た目が好きだったからです。淡い色合い,柔らかい雰囲気にしたいと思ってキャラメイクしました。穏やかな印象にするために,輪郭をふっくらさせたことを覚えています。では,ここからざっくりと作り変えていきたいと思います。
できました。淡い色合いで,柔らかく仕上げることは意識していましたが,全体的なバランスは見ず,とりあえず気になるパーツをラフに作り直しました。ここからは,作りたいもののイメージに近づけるために,じっくり全体を眺めながらブラッシュアップしていきます。
まず,直したものは元より少し幼い印象になり,最初のイメージとは離れてしまうので,大人っぽくすることを意識して作り直すことにしました。
次に,顔の形と体のバランスは直した後のほうが好みに近いのですが,額から髪型にかけてのバランスが気になるので,輪郭や各パーツの位置などを全体的に調整していきます。
あと,目元は最初に作ったものをもう少し生かして作ることにしました。そうして作り直したものがこちらです。
先ほど作ったものよりは,最初に作りたかったイメージに近づきました。ここから手直しを加えていきます。私はいつもこのへんの段階で,「最初のイメージのままで本当にいいのか」とか,「もっと良いようにならないかな」とか考え出して,結局全然違った風になってしまうこともよくあります。
ただ今回は長々と脱線してもいけないので,そろそろ終着点を見つけて完成させることにします。顔や体と,額から髪型にかけてのバランスがやはりまだ気になるので,そのあたりのバランスを調整することにしました。そして,完成させたのがこちらです。
最初よりは少しキリっとした印象になりましたが,元のデータよりも作りたかったイメージを表現できたと思います。きっと時間が経てばまた直したいところがたくさん出てくると思いますが,手直しするのは私にとってすごく楽しいことです。楽しみを取っておく意味で「次の手直しは来年くらいかなぁ」と,気になる点があってもそのままにすることもあります。
●ウィッチ
次は,ウィッチのキャラメイクをやっていきたいと思います。
これは,1年半ほど前に,赤系の大人っぽい色合いを使いたくてキャラメイクしたものです。ずっと手直ししようと思っていたのですが,なんとなく大改造になりそうだったので,おいそれと手が出せなかったキャラクターでもあります。
最初のレンジャーのときとは違い,今回は作り直す方向が自分の中ではっきりとしていません。そういったときはいろいろ迷ったり,完成まで行きつかなかったりすることもあります。ただ,触っていく中で見えてくることもあるので,今の気分でなんとなく形にできるとこまでやってみようと思い立ちました。
なんとなく手直しをしてみてこんな感じになりました。一番直したかった目元を大幅に作り変えました。髪型も気分で変えてみました。思ったよりクールな印象になったので,もう少し女性らしい印象が加わるようにしていきたいと思います。またここから,全体を見てさらに作り直していきます。
最終的に,こんな感じになりました。それぞれのパーツの形はあまり大きく変えていませんが,結構時間をかけてフィールドとエステルームを行き来しながら微調整をしていきました。「女性らしさって何…??」と悩みながら,ああでもない,こうでもない,と何度も手直ししました。気になるところはまだありますが,なんとなくは形にできたと思ったので,いったん完成にしました。こうして懸命に作り直しても,結局前のほうが良かったかも? というのはよくあることです。ただ,私は「マイペース」がモットーなので,次に手直しをする機会を楽しみにとっておこうと思います。
●ウォーリア
最後は男性クラスのキャラメイクをしていきたいと思います。ウォーリアを作ります。
ブラッシュアップするのは,2年前に作ったこのキャラクターです。男性クラスは女性クラスに比べて各パーツの可動域が狭いため,作るのがとても難しいです。このキャラクターも,試行錯誤しながら作ったのを覚えています。この機会に少しでも上達につながればいいなと思います。今回もウィッチと同じく,前もってイメージをもたずに作るので迷走しそうな予感がしますが,とりあえず大まかに作り変えていこうと思います。
迷走してしまって元データよりも好みから離れてしまいました。これもよくあることです。ただ,作る中で自分がどういう風にしたいのかがなんとなく掴めてきました。渋い感じにしたいこと,少しリアル寄りにしたいこと。そういう方向でもう少し進めてみることにしました。
こんな感じになりました。まだまだ「なにかが違う」感はあるのですが,先ほどよりは自分の「好き」に近づいてきています。作りたい形はなんとなく自分の中にありますが,それが作れたとして本当にそれは正解なのかが分からないような状態です。とにかくやってみるしかありません。目元を中心に手直しをしてみることにしました。あともう少し頑張ってみようと思います。
できました。全体的に調整しましたが,目元を大きく変えて完成です。男性キャラクターは,年齢層が少し上目の渋い感じが好みなので,そういった感じを目指しましたが,自分の中のイメージよりは少し若い感じに仕上がりました。私は「好き」の範囲が広い方なので,どこに落ち着いても「こういうのもたまにはいいかもしれないな」となることが多いです。
「昔のキャラメイクデータ」を元に,今のつき乃さんの技術でブラッシュアップするということで,変化も見応えがある。
筆者が個人的に驚いたのは,フィールドに出た時点がもっともよく見えるように丁寧に調整されていることだった。実際のところ,黒い砂漠はキャラメイク画面がもっとも鮮明にキャラクターを映し出す。だからこそ,フィールドに出ると「劣化」を感じやすい。その点,つき乃さんの作例ではフィールドに降り立ったときにキャラクターが最適化され,キャラメイクの画面より活き活きとした感じに仕上がっている印象だ。
「私は,キャラメイクを始めてからエステルーム内とフィールドの間で印象が大きく変わってしまわないように気を付けて作ってきました。クラスによっても違いはありますが,エステルームからフィールドに降ろしたときに『思ったのと全然違う』という経験を何度もしてきたからです。
こまめにフィールドに降ろして確認し,また作るというのを何度も頻繁に繰り返すことで,『エステルーム内でこういう風に作れば多分フィールドではこんな感じになるな』というのがなんとなく掴めるようになってきました」
そして,すべてが思い通りに行かないとしても,作り終えて「これもいいな」と満足しているところがとてもいい。自分が創り上げたものに愛情を持つことは,創作活動を続ける上でとても大切なことだと筆者は思うのだ。
「課題はまだ山のようにあります。でも,課題があるということは,成長の余地があるということです。私はそれが楽しくて,まだキャラメイクを楽しんでいけそうだなと思うのです」
秋の夜長,久々に筆者もキャラメイクをじっくり楽しんでみたくなった。
「黒い砂漠」公式サイト
「黒い砂漠」4Gamerサテライトサイト
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