レビュー
ソニーの720pヘッドマウントディスプレイ,その強化ポイントをチェックする
ソニー HMZ-T2
そんなHMZ-T2について,4Gamerでは先行して基本スペックや基本的な使用感をテストレポートでお伝えしており,先週には開発者インタビューもお届けしているが,今回は,ゲーム用途での使い勝手を中心にチェックしていきたいと思う。
ソニー,720p&立体視対応ヘッドマウントディスプレイの新型「HMZ-T2」を国内発表。さっそく使ってみた
ソニーの開発者に聞く,ヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T2」。第1世代からズバリ何が変わったのか?
HMZ-T1より軽量化し
装着感も向上
カタログスペック上は,HMZ-T1が420g,HMZ-T2が330gで,約20%――ソニーいわく「コンビニのおにぎり1個分」――軽量化されているとのことだが,手に取った感じでは,重量感にそう大差はない。
しかし装着すると,HMZ-T1よりもHMZ-T2の方がしっくり来る。HMZ-T2もHMZ-T1も鼻の近くは凹んでいるのだが,HMZ-T1はどうしても本体と鼻筋が当たってしまうのに対し,HMZ-T2ではそういう事態が生じないのだ。
鼻に当たる部分で凹み部の横幅を比較してみると,HMZ-T2のほうが実測で7mmほど大きくなっているので,スペック表からは見えない部分が改善されているようである。
重心も,「接眼位置あたりにある」という点ではHMZ-T2とHMZ-T1で大きな違いはないのだが,装着してみると,HMZ-T1が前下がりになりがちなのに対し,HMZ-T2のほうがしっかりと安定して頭部に固定される。これは,90gの軽量化と,固定バンドの配置最適化によるものだろう。
固定バンドの話が出たので調整周りについて続けると,HMZ-T2では,HMZ-T1から,各種調整系に細かく手が入っている。以下,写真中心にチェックしてみよう。
■上面ライトシールド追加
もっとも,額に当たるヘッドパッド周辺の開口部からは光が入ってくるので,完全な遮光を考えるならば室内の照明を落とすべきだろう。
■ヘッドパッドの前後調整機構追加
■目幅の調整機構が左右独立型に
しかし,1ステップでの調整幅が実測3mmと大きい点はHMZ-T1から変わっていない。ソニーはこの点について「レンズ設計のマージンを踏まえた刻み幅にしている」と述べ,どうしても左右の位置が合わない場合は本体を微妙に左右方向へずらすなどの対応をするよう勧めているのだが,個人的には,調整幅が粗く感じられる。現状と比べて半分かそれ以下の単位で調整できるようにしてほしかったところだ。
ボタンの操作性は若干改善
HMZ-T1譲りのUIは使いやすい
HMZ-T1は,音量変更の[+][−]ボタンと電源ボタンとが近い位置にあった。そのため,「音量を変えようとして電源ボタンを“誤爆”してしまう」という事態が生じやすかったのだが,HMZ-T2では,音量変更ボタンと電源ボタンの距離が離された。具体的には,電源ボタンが本体向かって右下というのは変わらず,音量変更ボタンが左下へと移されている。
ただ,今度は電源ボタンとメニュー操作用ボタンの距離が縮まってしまい,十字ボタン操作時に電源ボタンを押してしまいそうになる。形状が露骨に異なるため,HMZ-T1ほどの心配はないのだが,電源ボタンというのは,それほど頻繁に押すわけではない一方,押すときは確実に押したいものでもあるので,せっかく配置を見直すなら,ほかに何のスイッチもボタンもない,たとえば底面中央などへ移設したほうがよかったのではなかろうか。
なお,メニューの操作感自体は,HMZ-T1と同様,HMZ-T2でも良好だ。カーソルはキビキビと動き,カーソルで選択しているメニューアイテムの基本解説も画面内で表示されるため分かりやすい。
コントラストや階調表現はHMZ-T1と変わらずも
色表現が向上。映画再生時は「24コマ表示」も効く
ここからは性能評価に入っていきたいと思うが,その前に,筆者の連載「(善)後不覚」でも扱った「HDMI階調レベル」の話に触れておこう。
手持ちの初期型PlayStation 3(型番:CECHB00)を接続して実験してみたところでは,「RGBフルレンジ(HDMI)」設定を「フル」(0-255)ではなく,「リミテッド」(16-235)にすることで正常な階調が得られたので,この点には注意してほしい。後期型PlayStation 3では未確認だが,このあたりの確認方法は連載バックナンバーにまとめてあるので,参考にしてもらえれば幸いだ。
さて,まずは画質から。「画質は,高彩度・高コントラストのゲームグラフィックスより,実写映画のほうが評価しやすい」という理由から,映像評価用の定番Blu-rayソフト「ダークナイト」を用いて検証するので,その点はあらかじめお断りしておきたい。
階調も同様で,正しいHDMI階調レベルに調整できてさえいれば,暗部付近の微妙な明暗による表現もしっかりと見える。暗い映像でも情報量が多いのはHMZ-T2,T1で共通だ。
では,違いはないのかというと,そんなことはない。「色」が異なるのである。
ソニーは,HMZ-T2とHMZ-T1で光学系は同じものを使っており,有機ELパネルの世代も同じだとしているが,HMZ-T2には有機ELパネルの色特性を最大限に活用するとされる機能「14ビットリニアRGB3×3色変換マトリクスエンジン」が新搭載されており,これが非常にいい具合で効いてくれるのだ。
しかもこれ,「分かる人には分かる」というレベルではなく,2台並べて比較すれば確実に分かるレベルの違いだったりする。
一見すると彩度が上がっただけのように感じるかもしれないが,暗部でも明部でも色情報量が上がっているので,単なるブースト処理ではないことが分かる。
これは,映画やアニメに多い毎秒24コマの1080/24p映像を,2-3プルダウン処理などを経ることなく,リアルに24コマ表示してくれる機能だ。2-3プルダウン表示の場合,映像の1コマを2フレーム時間分表示している時間帯と,3フレーム時間分表示している時間帯とがあるため,カクツキ感が生じるのだが,リアル24コマ表示ではこれがなくなる。
実際,カメラが左右にパンしたり,奥に進んでいく3Dスクロール的なシーンでは,この効果が大きかった。ゲームにはあまり関係のない機能にはなるが,HMZ-T2を100%ゲームにしか使わないというのでなければ,憶えておいて損はしないだろう。
フォーカスの安定化にはヘッドパッドの調整機構が貢献
表示遅延は「安定して」約2フレームに
まず,HMZ-T2とHMZ-T1でPlayStation 3版の「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション Ver.2012」(以下,スパIV AE Ver.2012)をプレイしてみたが,普通に遊べる。ただ,ふと気づくと,なぜか首が傾いていたり,右に向いていたりする。
なぜこんなことが起こるのか。
要するに,画面中で自キャラが移動するとき,それを目で追うだけでなく,反射的に首も動かしてしまうので,結果的にそんな事態が生まれるのだ。FPSやTPS,あるいはドライブといったジャンルなら,視点は(基本的に)画面中央で固定されるため,そういったことは起こらない。なので画面内をキャラクターが動き回るゲームはHMZ-T2でプレイするのに適さない可能性がありそうだ。
もっともこのあたりは,HMZ-T1のレビュー記事でも似たような指摘があるので,「HMZ-T1から変わっていない」という認識のほうが正解だろう。
「劣化!?」と早合点することなかれ。実はこれ,HMZ-T2の新要素として上で紹介したヘッドパッドの前後調整がうまくいっていなかったために生じた現象だった。ソニーの開発者が述べているように,まずここを調整しなければならなかったというわけ。ここをきちんと調整すれば,HMZ-T1と同等の見え方になる。
もし,中央にだけフォーカスが合い,外周がぼけて見えにくいと言うときは,ヘットパッドの前後調整を試してみることを強くお勧めしたい。
HMZ-T2やHMZ-T1はヘッドマウントディスプレイであり,左右の目は,それぞれ個別の映像パネルを見ている。平面視映像を見る場合,HMZシリーズは両方の目に同じ表示内容を見せて1つの映像として見せているので,左右ズレや回転軸ズレはボケとしてシビアに“効いてくる”のだ。この点は,ヘッドパッドの調整問題と同じか,場合によってはそれ以上に注意したい。
■気になる表示遅延も確認
ゲーム用途と言えば気になるのが表示遅延だろう。
今回,HMZ-T2では「スタンダード」および「ゲーム」,HMZ-T1では「スタンダード」の画調モードで計測を行ったが,結果,ほとんどのケースで約33msの遅延を確認した。60Hz換算で約2フレームの遅延であり,現行のソニー製液晶テレビシリーズ「ブラビア」と同等ということになる。
ちなみに,いま「ほとんどの」ケースでとしたのには理由がある。インタビュー記事でも簡単に触れてあるとおり,HMZ-T1では遅延に揺れがあったのだ。
下に示した10枚の写真は,手前に写っているのがヘッドマウントディスプレイ(※写真内に「T1」という表記があるものはHMZ-T1で,ないものはHMZ-T2)で,奥が東芝製テレビ「レグザ 26ZP2」(メーカー公称遅延時間60Hz時0.2フレーム。テレビとしては業界最速)。HDMIスプリッタ経由で「LCD Delay Checker」の画面を出力しているが,すると,HMZ-T1では設定によって遅延にブレが生じるのに対し,HMZ-T2では安定した遅延状況になっているのが分かる。
ちなみにこの2フレームというのは,一般的な(もしくはやや高速な)テレビに接続したときと同等のものであり,より低遅延のディスプレイデバイスとつないで格闘ゲームや音楽ゲーム,弾幕シューティングなどをプレイしている人だと,若干の遅れを感じる可能性があるレベル。要するに,ほとんどの人にとって遅延は問題ないレベルだが,全員にとってではない,というわけだ。
ただ,せっかく「ゲーム」という画調モードが用意されているにも関わらず,「スタンダード」と遅延周りが変わらないというのは残念に感じた。ソニーはインタビュー記事内でその理由を語ってはいるのだが,さらなる低遅延モードを実現する工夫が欲しかったところではある。
パネルドライブモードのクリア設定は,いわゆる黒挿入とかインパルス表示と言われる明滅表示になるわけだが,60Hz映像ではそれほどフリッカーも感じられず,明るさも必要十分だ。ただ,「24p True Cinema」とパネルドライブモードのクリア設定を併用して映画などの24Hz映像を表示させると強いフリッカーが出るので,この特性には念のため注意しておきたい(※ゲームで24p True Cinema」を有効にするケースはないので,ゲーム用途では関係ないが)。
また,いずれの画調モードでも,階調バランスは良好で破綻がない。肌色の自然さは「スタンダード」と「シネマ」が良好なので,人物が出てくる映像を視聴するときにはこの二択になるだろう。「ゲーム」は彩度が高い画調で,記憶色再現志向といったところだ。ユーザーが設定できる「カスタム」の初期状態における色合いは,HMZ-T1と似ているので,HMZ-T1のような飾り気のない画調を好む人は,“HMZ-T1モード”的に「カスタム」を選ぶのもいいかもしれない。
今回は「グランツーリスモ5」を3D立体視でプレイしてみたが,アクティブシャッターグラス方式の3D立体視における「左右の目で時間差を伴った3D映像」ではないため,ただ「立体感が得られる」という以上に自然に見える。慣れてくると,あまりにも自然なので,立体視していることを忘れてしまうほどだ。迫り来る敵車の後部バンパーが視界いっぱいになって追突しそうになったときに,思わず「ワッ」とビクついて,やっと「ああ,そういえば立体視だったんだっけ」と気づくくらい自然である。
音のサラウンド感はHMZ-T1と同じ傾向
着脱可能なヘッドフォンで音質は向上した
HMZ-T2に付属してくるのは,市販のソニー製インイヤー型イヤフォン「MDR-EX300SL」をベースとするカスタム――というか,ケーブル長が短い以外は同じに見える――モデルだ。
HMZ-T1は,ソニー独自の「VPT」(Virtual Phones Technology)を用いたバーチャル5.1chサラウンドサウンド機能を提供していたが,これはHMZ-T2でも同じ。基本技術が同じこともあって,サラウンド感はHMZ-T1とHMZ-T2であまり変わらないように聞こえる。一方,音質的には,HMZ-T2付属イヤフォンのほうがクセはない印象で,相対的に音質は向上しているといえるだろう。
HMZ-T2の場合,工場出荷時点ではVPTの挙動がインイヤータイプのイヤフォンに向けて設定されているが,メニューの「音質・音声設定」にある「ヘッドフォンタイプ」から「オーバーヘッド」に切り替えると,インイヤーではない,被るタイプのヘッドフォンに向けて挙動を切り替えることができる。
筆者はアラウンドイヤータイプのヘッドフォンとしてBOSEの「QuietComfort 2」を愛用しているため,これをHMZ-T2に接続してみたが,「ヘッドフォンタイプ」を「オーバーヘッド」に切り替えると,確かにインイヤー型イヤフォンをつけているときと同等のサラウンド感が得られた。
もう少し具体的に述べると,リアチャネルは概ね「真横の肩口よりやや後ろ」に来る感じで,フロントチャネルは映像の左端と右端にある感じだ。真後ろにまで音がしっかり回る感覚はさすがに得られなかったが,それでも,音像が動くとその移動はきちんと立体的に感じられる。マルチチャネルスピーカーセットの設置された部屋の後ろ側に座っているような音像をイメージしてもらうのがいいだろう。
ちなみにセンターチャネルはHMZ-T2にプリセットされているサウンドモードによって聞こえ方が劇的に変わる。「シネマ」と「ゲーム」では映像中央前方に来る感じだが,「スタンダード」と「ミュージック」では頭部に近い位置で定位している感じで聞こえる。
「サラウンドらしいサラウンド」効果が得られるのは「シネマ」と「ゲーム」で,ゲームではこの2つを常用するといいと思う。「シネマ」は音像がユーザーよりも遠く,「ゲーム」はやや近い感じがあるので,好みやコンテンツの種類に応じて感覚的に決めればいいと思う。
「ミュージック」はよくあるホールやライブハウスの残響を再現するものではなく,指向性と輪郭重視のHi-Fi志向というか,スタジオサウンドライクなチューニングになっている。
HMZ-T1を持っている人は買い換えなくてもいいが
これから新規で買う人には強くお勧めできる
重要なのは,光学系の仕様が共通でありながら,HMZ-T2でHMZ-T1から画質が向上している点で,いまからHMZ-T1を選ぶ理由はないと言ってしまっていいだろう。
HMZ-T2を「バーチャル大画面」としたとき,ソニーは2012年,ゲーム用途に最適な「リアル大画面」として,超短焦点性能×超高輝度性能を持ったプロジェクタ入門機「VPL-BW120S」を発売している。実勢価格は6万8000〜8万円程度(※2012年10月13日現在)で,解像度は1280×800ドットとなっているため,(スクリーンのコストを無視すれば)HMZ-T2と張り合う製品なのだが,こちらは表示遅延が60Hz時に1フレーム強と,HMZ-T2より良好なのだ。
HMZ-T2でせっかく設けた「ゲーム」画調モードだけに,低遅延の方向へぜひもう一歩先へ進んでほしいと思えてならない。
そしてもう1つは,やはり,1080pモデルへの期待だ。
幸いなことに,過半数の家庭用ゲーム機向けゲームは720p解像度のレンダリング解像度なので,ゲーム用途に限ればHMZ-T2の1280×720ドット解像度に不満はないのだが,PCゲームをプレイしたいとか,それこそBlu-ray Discの映画も本格的に楽しみたいということであれば,1080p対応はやはり欲しいところだ。
ただ,HMZ-T2(とHMZ-T1)では,0.7インチで720p解像度を実現する有機ELパネルを採用しており,これが1080p化するにはもう少し時間がかかるだろう。仮に来年“HMZ-T3”が登場するとして,それがフルHD対応かというと,そういうことにはならないと思われる。
ヘッドマウントディスプレイを使ったコンピュータエンターテイメントはまだ立ち上がったばかりだが,注目度,そして認知度は確実に上がりつつあり,今後の動向が注目される。HMZシリーズはその先駆け的存在として,これからもテクノロジーリーダーであり続けてほしいものだ。
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