レビュー
待望のシリーズ最新作は,よりプレイしやすくロジカルに
Europa Universalis IV
ストラテジーゲーマーにとって,2013年の夏は注目タイトルが相次いでリリースされた嬉しいものになった。8月13日に発売されたParadox Interactiveの最新作「Europa Universalis IV」(以下EU4)は,7月に発売された「Sid Meier's Civilization V」の最新拡張パック「Brave New World」,そして9月に発売された「Total War: Rome II」と並ぶ,ストラテジーファン待望の作品と言っていいだろう。
「Europa Universalis IV」公式サイト
そこで,今回はそんなEU4の製品版をプレイしてのファーストインプレッションをお届けしたい。なお,オスマン帝国,ヴェネツィア,オーストリア,ポルトガルのいずれかの国を選んで1492年からの28年間をプレイできるデモ版がSteamでダウンロードできる(要Steamクライアント)。
「Crusader Kings II」などParadoxの最新タイトルが普通に動くPCなら,EU4もおおむね動くと言われているが,古めのグラフィックスカードとは相性が悪いという報告も公式フォーラムに寄せられているので,遊んでみたいがPCのスペックはちょっと不安だという人は,まずデモ版を試してみよう。
Europa Universalisシリーズとは何か
コアなファンには説明するまでもないことだと思うが,まずはお約束。このシリーズについて簡単におさらいしたい。
2000年に発売された「Europa Universalis」は,同名のボードゲームをParadoxがPC用に移植したもので,そのヒットによってシリーズが始まった。対象となる時代は,ヨーロッパが大航海時代を経て世界各地に進出していった15世紀から19世紀初頭にかけてで,次々にやってくる歴史の荒波にもまれつつ,自国を繁栄させるのがおおまかな目標だ。Paradoxのほかのゲームとの関連では,Crusader Kings II(中世盛期〜末期)と「Victoria 2」(近代)の間にあたる時代を扱ったシリーズだと言えるだろう。
こうした時代背景から,シリーズで主役を務めるのは西ヨーロッパ諸国および,彼らと互角に渡り合ったロシアやオスマン帝国などであり,ゲームシステムもこうした国々を念頭においてデザインされている。だが,Europa Universalisシリーズの面白いところは,ヨーロッパ以外の地域,それも明や清,ムガール帝国のような有名超大国だけでなく,国の名誉のためにあえて名前は出さないものの,いわば「通行人A」的な国家でさえもきちんとフォローされている点だ。
シリーズ2作目以降になると,ほかのParadoxの作品と同様,ゲームに登場するほぼすべての国が(難度はさておき)プレイ可能になり,ゲームの核となるデータベースについても国ごとの程度の差こそあれ,バージョンアップのたびに充実してきた印象だ。
このため,プレイヤーはヨーロッパ諸国が世界各地に勢力を伸ばしていくさまを追体験できるだけでなく,アジア,アフリカ,アメリカの国家としてその過程を反対側から眺め,あわよくばヨーロッパの侵略を覆すことも不可能ではないのだ。
インタフェースは情報量過多?
いえ,これこそがParadoxのストラテジー
こうしたスケールの大きさこそが,日本のファンに“パラドゲー”とも呼ばれるParadoxストラテジーの魅力でもあるのだが,その半面,プレイヤーが扱わなければならない情報量もかなりのもの。前作に比べてEU4のユーザーインタフェースはかなり改善されている印象だが,ゲームシステムも大幅に変更されているため,シリーズ従来作をプレイした経験のある人にとっても,戸惑うことが多いように思われる。そこで,基本となるゲーム画面と各種ウインドウについて簡単に説明することで,EU4がどのようなゲームなのか紹介してみたい。
まず基本となるゲーム画面全体についてだが,画面左上のバーの数値は,左から資金,人的資源,安定度,威信,そして正統性(共和国の場合はその伝統)を表している。また,その右には各地に派遣できる商人,植民者,外交官,宣教師のアイコンが見える。さらにその下では,プレイヤーが担当する国の国名と,行政,外交,軍事の統治力(Monarch Power)が確認できる。これらのステータスは,ゲームをプレイするにあたって常に考慮すべき最も重要な情報といっていいだろう。
画面右のリストには,陸軍,海軍それぞれのユニットの規模と配置場所,あるいは植民や改宗など,プレイヤーが現在進行形で行っているアクションが表示される。これらは,画面右下のミニマップにおけるさまざまなモードと同様,プレイヤーの必要に応じて取捨選択できる。限度があるとはいえ,多くの情報を並列処理しなければならないEU4において,インタフェースをカスタマイズできる余地が増えたことは大きな進歩といえるだろう。
次に,画面左上に表示されている国旗をクリックすると開く,各種ウインドウについて。画面を見れば分かるように,インデックスのアイコンは全部で10種類あるので,ここでは便宜的に左から順に番号を付けて紹介していこう。
まず,1番めの政府(Government)ウインドウだが,ここでは君主や後継者の情報といった国家全体に影響を与えるステータスが確認できるほか,行政(Administrate),外交(Diplomatic),軍事(Military)の各顧問を雇用可能だ。これらの顧問は,職種によって異なるボーナスが得られるほか,統治者のステータスに依存する月々の統治力増加量を底上げしてくれる。このため,統治者の能力が低い場合でも,顧問さえいれば国家運営はなんとかなることが多い。
3番めの経済(Economy)ウインドウと4番めの交易(Trade)ウインドウでは,自国の経済活動の概略が分かる。月ごとの収支が赤字になった場合には,これらのウインドウを開いて軍事費を抑えたり交易活動の最適化を考えることになるはずだ。
5番めの技術(Technology)ウインドウでは,プレイヤーがこつこつ溜め込んだ統治力を消費して,行政,外交,軍事の各技術レベルを上げることができる。レベルを1つ上げるのに必要な統治力は,西欧諸国で500ポイント以上,それ以外の地域だとさらに追加コストがかかるので,建造物を建てたり文化を転向したりといった,こまごまとした部分に気を取られすぎると,どれだけたっても技術革新ができないということにもなりかねない。統治力のご利用は,計画的に。
一つの理念をアンロックするのに必要な統治力は400と,技術革新に必要な統治力に近い大きなコストを必要とする。3つの理念をアンロックするたびに,各国固有の理念(National Idea)に基づくボーナスが得られるので,技術革新を優先させるのか,それとも理念を優先させるのかの判断は,楽しくも悩ましいものになりそうだ。
7番めは使命と政策(Missions and Decisions)だ。両者は共に国家の中間目標としての役割を持っており,条件を満たすことでプレイヤーにさまざまなボーナスを与えてくれる。
8番めは安定度と拡大(Stability and Expansion)のウインドウで,EU4では「安定度の上昇」も統治力を使って実行できるようになった。
さらに,国家の非現実的な膨張を防ぐために用意された過剰拡大ペナルティ(中核プロヴィンス以外を支配すると上昇する)に対応したアクションを,各プロヴィンスをクリックせずに国家全体として行うのにも,この画面を使うことになる。
使命と政策(Missions and Decisions):カスティーリャ固有の政策としては,スペイン成立がある。史実どおりに婚姻政策でいくのか,それとも武力統一を目指すのかはプレイヤー次第 |
安定度と拡大(Stability and Expansion):EU4では統治力を消費することで,戦争による疲弊度を減らせる。長期の戦争の際に役に立つコマンドだ |
9番めは宗教(Religion)だ。イスラム教やキリスト教といった特定の宗教では,宗教的な威信をどう維持するかが大きな課題となるが,そのコントロールをこの画面で行う。EU4では前述の過剰拡大ペナルティ同様,異教のプロヴィンスを支配することで「宗教的統一性」が減少し,それによって国内の統治が困難になってくる。
これを防ぐため,宣教師を異教のプロヴィンスに派遣して改宗していくわけだが,それに関連した管理を一括して行えるのが,このウインドウのポイントだ。
10番めは軍事(Military)に関連したもので,自国兵力の確認などができる。Europa Universalisシリーズでは,雇用できる最大兵力(ユニット数)を超過した場合,追加維持費がかかるため,ここで確認できる雇用限界(Force Limit)には注意しておこう。
宗教(Religion) |
軍事(Military) |
不可解なランダム性を減らしたゲームシステムは
一見の価値あり
シリーズ従来作からの変更点については,2013年1月に掲載した記事などでもお伝えしたとおりだが,実際にゲームをプレイしてみると,やはりいろいろな違いを感じた。
最も大きな変化は,プレイヤーのアクションに大きな影響を与える統治力システムの導入だろう。ゲーム中では気軽に統治力を消費してしまいがちになるが,統治力は毎月微々たる量しか入ってこないため,本当に必要なときに足りず,ヤキモキすることになりかねない。とくに技術や理念のアンロックには莫大な統治力が必要になるため,長期間の利用計画を立てておくことが必要になる。
また,外交関係の変更も大きい。EU3までのシステムだと,宗教が違うだけでどんどん友好度が下がり,同盟関係を結ぶことが非常に厳しかった(これにより,史実にあったフランス=オスマン同盟がほぼ実現不可能に)が,EU4では外交官を派遣することで,資金を使わずに関係改善ができるようになった。そのため,異なる宗教の国家に対して積極的に外交を行う意義は格段に上昇した。さらに,小国であっても大国との友好関係を構築するのが容易になったことも,新たな外交システムのメリットだ。
交易システムも大きく変わっている。世界中に張り巡らされた交易結節点(Trade Node)と交易路(Trade Route)を使った新システムは,マニュアルに加えて公式フォーラムに追加説明が用意されるほど複雑なものだが,この変化により,マルタ島やセイロン島など,交易路に面した島の戦略的価値が格段に上がった。
経済システム,あるいは植民や改宗などもそうだが,EU4は総じて,プレイヤーの行動を判定する際のギャンブル性を抑え,その代わりプレイヤーの選択に対して必ず何かの見返りがあるようにデザインされている印象。EU3で「理屈のうえでは,数回のトライで成功するはず」の商人の派遣や改宗に何度も失敗した筆者としては,これは嬉しい改善点だ。
現状では,「反乱軍が強すぎる」「改宗や文化転向のテンポが速すぎる」といった,ゲームバランスが不安定な部分もあるとはいえ,ゲームを破綻させるようなバグがほとんど見受けられないことも付け加えておきたい。
さらに,EU4の興味深い点は,こうした「ゲームとしての見通しのよさ」を追う一方で,国家戦略にとっての最適なアクションは何かという問いの答えが簡単に見つからない点にある。いつ発生するか分からない歴史イベントと相まって,プレイヤーの探究心を刺激してやまない「底の見えなさ(パラドゲーらしさと言い換えてもいいだろう)」は本作でも健在だ。前作を楽しめた人なら,EU4は間違いなく面白いゲームだろう。シリーズ未経験の人が,1回のプレイでゲームシステムを理解することは厳しいかもしれないが,プレイを重ねていくうちにゲーム中のシステムの意味が徐々に分かってくるはず。気になる人は,まずデモ版を試してみることをオススメする。
最後に余談だが,Paradoxのこれまでのサイクルに従うと,Europa Universalisシリーズのリリース後には,「Hearts of Iron」シリーズの新作が出ることになる。2013年2月にParadoxのCEOであるFredrik Wester氏にインタビューをした際には,「予定はないけれど,4作目を出すとすればマルチプレイ用に外交面を改善したいね」とのことだった。こちらも気になるところだ。
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