レビュー
状況証拠とテストからGK208コアの正体に迫る
GK208コア版GeForce GT 640&630
(ZOTAC GeForce GT 640 2GB 64BIT DDR5,
ZOTAC GeForce GT 630 ZONE Edition 2GB 64BIT DDR3)
NVIDIAのパートナーであるカードメーカー各社は,搭載カードの発表にあたり,両GPUが未発表の新コア「GK208」を搭載する製品であるとしていたが,果たしてこのGK208とは何なのか。DDR3をサポートしたGeForce GT 640(以下,GT 640 DDR3),あるいは「GeForce GT 440」のリネーム品にして,Fermi世代の「GF108」コアを採用した従来型のGeForce GT 630(以下,GT 630 Fermi)※とは何がどう違うのだろうか。
※NVIDIAは,「28nmプロセス技術で製造したFermiコア」を採用する「GeForce GT 630 OEM」を,OEMとなるPCメーカー向けには出荷しているが,それが小売り市場へも投入されたかどうかは明らかにされていない。
今回4Gamerでは,ZOTAC International(以下,ZOTAC)のGT 640 GDDR5搭載カード「ZOTAC GeForce GT 640 2GB 64BIT DDR5」(型番:ZT-60209-10L),同じく同社のGT 630 Kepler搭載カード「ZOTAC GeForce GT 630 ZONE Edition 2GB 64BIT DDR3」(型番:ZT-60409-20L)を独自に入手できたので,その仕様や性能を確認してみたいと思う。
果たしてGK208とは何なのか
そのスペックから正体を考察してみる
GT 630 Kepler GPU。ダイ上の刻印は「GK208-301-A1」だ |
GK208コアのブロック図(※4Gamer推測)。ちなみにL2キャッシュ容量は512KBである |
GK107コアをはじめとする第1世代Keplerアーキテクチャ採用GPUの場合,シェーダプロセッサ「CUDA Core」192基が,L1キャッシュや16基のテクスチャユニットや,「PolyMorph Engine 2.0」と呼ばれる1基のジオメトリエンジンとセットになって,演算ユニットたる「Streaming Multiprocessor eXtreme」(以下,SMX)を構成。そのSMXを2基まとめ,ラスタライザと組み合わせて“ミニGPU”とした「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)を構成する。そしてGK107の場合,GPCの数は1基なので,SMXの数は2基,CUDA Core数は384基となるわけだが,このあたりはGK208でも同じだ。
右に示したのは,GK107コアのブロック図を基に,4Gamerで推測したGK208のブロック図だが,実のところ,64bitメモリコントローラと,8基のROPユニットをひとまとめにしたROPパーティションを1基ずつGK107のブロック図から削って,配置を整えただけだったりもする。
ではなぜNVIDIAは,GK107から64bitメモリコントローラを削っただけのGPUに,“GK108”ではなくGK208という型番を与えたのか。
ここから先は推測になるが,理由はCUDA周りにある可能性が高い。
少しGPUとCUDAの話をさせてもらうと,CUDAに対応したTeslaアーキテクチャ以降,NVIDIAはGPUに「Compute Capability」という値を与えている。「X.X」という形で表記されるCompute CapabilityはNVIDIAの開発者向けページで確認できるのだが,数字の意味は以下のとおりだ。「GPUコアの世代」と「CUDAプロセッサとして何をさせられるか」が,このCompute Capabilityを見ると分かるようになっているわけである。
- 小数点の前:メジャーリビジョン。コアアーキテクチャによって規定される。Teslaなら1,Fermiなら2,Keplerなら3
- 小数点の後ろ:マイナーリビジョン。新機能が追加されると上がる。Keplerアーキテクチャの尖兵となったGK104コアは0,「Dynamic Parallelism」や「Hyper-Q」に対応したGK110コアは5といった具合
その意味において,型番は“GK118”でもよかったように思われるものの,少なくともGK208が“GK108”に相当しないコアであることは分かると思う。
NVIDIAが,「GK110と同じCompute Capabilityを持たせた新型GPUコア」を,エントリーやローエンド市場向けにわざわざ開発した理由は,正直,なんともいえない。このクラスのGPUはノートPC向けと基本設計を共用していることからすると,「NVIDIAのGPU出荷計画を左右できるほど大手のOEMから,最新世代のCUDAに完全対応したGPUを要請され,それに応えるついでにデスクトップ市場へも投入してきた」というのが現実的な線ではないかと思われるが,実際にそうなのかどうか,NVIDIAが説明してくれる可能性は限りなくゼロに近いからだ。
いずれそういうノートPCが出れば「ああ,なるほど」ということになるだろうし,出てこなければ「ああ,頑張ってGK208を作ったけど,IntelとのOEM獲得争いに負けたのかもなあ」ということになるのではなかろうか。
GT 630 Keplerは,GT 630 Fermi(のDDR3版)を,CUDA Core数とテクスチャユニット数,ROPユニット数で上回る一方,動作クロックとメモリバス帯域幅では置いて行かれているわけで,それが実際のテストでどういう結果を生むのかが,後述するテスト段における重要なチェック項目となるだろう。
入手したカードは2枚ともカード長実測148mm
GT 630 Kepler搭載カードはファンレス仕様
カード長は2枚とも実測約148mm |
Low Profileに対応するのも同じ |
カードの長さはどちらも実測約
なお,本稿では以下,GPUクーラーの取り外しを行っているが,GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為であり,取り外した時点で保証は受けられなくなる。その点は注意してほしい。
■ZOTAC GeForce GT 640 2GB 64BIT DDR5
ZOTAC GeForce GT 640 2GB 64BIT DDR5は,アクティブクーリング方式を採用する,エントリー市場向けグラフィックスカードだ。GPUクーラーは2スロット仕様で,GPUと接するヒートシンクを,50mm角相当のファンで冷却する,シンプルな構造の製品といえる。
動作クロックはコア1046MHz,メモリ5000MHz相当(実クロック1250MHz)なので,リファレンスどおりだ。
■ZOTAC GeForce GT 630 ZONE Edition 2GB 64BIT DDR3
ZOTAC GeForce GT 630 ZONE Edition 2GB 64BIT DDR3は,ここまでに示してきた写真からも分かるようにファンレス仕様のグラフィックスカードである。パッシブヒートシンクは2スロット仕様で,かつ,一部がカードの背面にまで回り込むような形状となっている。
先ほどLow Profileに対応すると述べたが,クーラーがこういう形でカードから縦方向に10mm飛び出しているため,Low Profile対応システムで使う場合は,PCケースとの干渉などを念頭に置く必要があるだろう。
動作クロックはGPUコアが902MHz,メモリが1.8GHz相当(実クロック900MHz)と,こちらもリファレンスどおりだった。
従来のGeForce GT 600シリーズなどと比較
新生FFXIVベンチやPSO2ベンチも実施
テスト環境の構築に話を移そう。
今回,主役となる2製品の比較対象としては,表1でその名を挙げたGPU,従来型GeForce GT 640およびGeForce GT 630としてのGT 640 DDR3とGT 630 Fermi,そして,GT 640 GDDR5の上位モデルとなるGTX 650を用意した。ただし,本稿の序盤でもお伝えしたとおり,GT 630 FermiというのはGT 440のリネーム品となるので,今回はGT 440をGT 630 Fermiの代わりとして使う。
また,今回用意したカードのうち,GT 640 DDR3搭載製品「ZOTAC GeForce GT 640」は,メモリクロックがリファレンスより若干低いため,テストにあたっては,EVGAのオーバークロックツール「Precision X」(Version 4.2.0)を用いて,リファレンスレベルにまでクロックを引き上げている。
そのほかテスト環境は表2のとおり。テストに用いるグラフィックスドライバ「GeForce 320.49 Driver Beta」は,テスト開始時点の最新版だ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション14.0準拠。ただし,今回のテストに用いるGPUがエントリークラス以下であることから,
- 解像度は1280×720ドットおよび1600×900ドットとする
- 「高負荷設定」およびそれに準ずるテストは行わず,一方,「エントリー設定」が用意されているテストでは積極的にエントリー設定を採用する
- 「3DMark」(Version 1.1.0)では,「Fire Strike」テストの「Extreme」プリセットを省略し,代わりに「Cloud Gate」テストを実施する
- このクラスのGPUを使うユーザーにとって主用途となり得るオンラインRPGから,「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク ワールド編」(以下,新生FFXIVベンチ)と「PHANTASY STAR ONLINE 2 キャラクタークリエイト体験版 ver.2.0」(以下,PSO2ベンチ)のテストを実施する
ので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
なお,新生FFXIVベンチにおいては「標準品質」,PSO2ベンチにおいては「簡易描画設定3」を選択し,いずれも解像度ごとにテストを2回実行し,平均をスコアとして採用することにした。
また,これはいつものことだが,テストに用いたCPU「Core i7-4770K」では,自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効果がテストによって異なる可能性を考慮して,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から同機能を無効化している。
GT 640 GDDR5はGTX 650とGT 640 DDR3のほぼ中間
一方,GT 630 Keplerは足回りの弱点が露呈しやすい
以下,3D性能を見るグラフでは,基本的に主役→従来製品→GTX 650という並びにしてあるが,見にくい可能性を考慮して,グラフ画像をクリックするとモデルナンバー順に並び変えたものを表示するようにしてあると案内しつつ,グラフ1の3DMarkから見ていきたい。
GT 640 GDDR5は,GT 640 DDR3から11〜15%程度高いスコアを示し,GTX 650に対して80〜90%程度のところに迫っている。GT 640 DDR3とGTX 650の間にある最も大きな違いがグラフィックスメモリの仕様であり,また,GT 640 DDR3ではメモリ周りのスペックがスコアの足を引っ張っていただけに(関連記事),GT 640 DDR3比で40%弱のメモリバス帯域幅向上を実現したGT 640 GDDR5が素直にスコアを伸ばすのは,極めて順当な話といえる。
一方のGT 630 Keplerは,Cloud GateこそGT 440とほぼ同じスコアだが,Fire Strikeでは59%ものスコア差を付けて圧倒した。描画負荷が大きくなると,地力に勝るGT 630 Keplerが優勢になるということなのだろう。
続いて「Far Cry 3」の結果がグラフ2となるが,ここでもGT 640 GDDR5はGT 640 DDR3の約117%,GTX 650の85〜86%と,両者のほぼ中間といえる位置に収まった。GT 630 Keplerも,GT 440に対して16〜17%程度高いスコアを示しており,64bitメモリインタフェースの不利をまったく感じさせない。
しかし,グラフ3に結果をまとめた「Crysis 3」では,若干異なる傾向が出た。GT 640 GDDR5とGT 640 DDR3とのスコア差は7〜11%程度に縮まり,GTX 650に対しては69〜71%のところまで離されてしまった。また,GT 630 KeplerはGT 440に逆転を許しており,総じて,64bitメモリコントローラがかなりのネックになっていると分かる。
グラフ4の「BioShock Infinite」でも,Crysis 3と似たような傾向になっている。GT 640 GDDR5のスコアは,GT 640 DDR3と比べると14〜16%程度高いレベルなので,Crysis 3よりは改善しているが,GTX 650を前にしたときのスコアは75〜78%程度と,離され方がやや大きい。GT 630 KeplerもGT 440を超えられずにいる。
公式の高解像度テクスチャパックを導入し,グラフィックスメモリ周りの負荷を高めてある「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)。その結果がグラフ5となるが,ここでは,メモリ性能に応じたスコアが出ている印象だ。GT 640 GDDR5が,1280×720ドットで平均50fpsを超えてきているのも注目すべきだろう。そこそこグラフィックスメモリヘビーな設定であっても,GT 640 GDDR5であれば,けっこう快適にプレイできてしまうわけだ。
対するGT 630 Keplerは,かなり厳しい。スペックから想像できる話ではあるが,グラフィックスメモリ性能が“効く”タイトルや設定にGT 630 Keplerは向いていない。
グラフ6は「SimCity」の結果だが,ここではGT 640 GDDR5は,GT 640 DDR3に対して26〜29%程度と,かなりのスコア差を付けている。SimCityではグラフィックスカードの総合性能が問われるので,GT 640 GDDR5のほうがGT 640 DDR3よりもスペックのバランスがよいということなのだろう。
GT 630 Keplerも,SimCityにおいてはGT 440に対して約6%高いスコアを示せている。
グラフィックスメモリ負荷があまり高くないタイトルの代表となる「F1 2012」だと,GT 640 GDDR5は,GTX 650の90〜92%程度にまで迫っている(グラフ7)。1280×720ドットなら,グラフィックス設定を最高にしても快適にプレイできるレベルというのも見逃せないところだ。
GT 630 Keplerも,GT 440に対して21〜26%程度も高いスコアを示した。
グラフ8は新生FFXIVベンチのテスト結果で,GT 640 GDDR5は,GT 640 DDR3の約118%,GTX 680の86〜88%程度と,やはり両製品の中間の位置に納まっている。標準品質でのテスト結果ではあるものの,1600×900ドットのスコアが,「非常に快適」とされるスコア値である7000を超えているのは立派だ。
一方,GT 630 Keplerは,わずかながらGT 440の後塵を拝し,メモリ周りの弱点を露呈させている。
PSO2ベンチのテスト結果をまとめたグラフ9だと,GT 640 GDDR5はGT 640 DDR3の143〜146%程度,GTX 650の69〜70%程度。絶対的なスコア差は開いたものの,「GTX 640 GDDR5がGT 640 DDR3とGTX 650の中間にある」という点では,3DMarkや新生FFXIVベンチなどと同じ傾向にある。
GT 630 KeplerはGT 440の81〜83%程度に留まり,ここでもメモリバス帯域幅の狭さが足枷となったのを見て取れよう。
GK208採用でアイドル時の消費電力が低減。GT 630 KeplerはGT 440(=GT 630 Fermi)から最大52Wも
というわけで,お待ちかねの消費電力測定だ。
今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体での消費電力を比較することにした。テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ10で,まずアイドル時はGT 640 GDDR5が69Wと,最も低い消費電力を示したが,GT 630 Keplerも70Wなので,両者はほぼ互角と述べていいだろう。73WのGT 640 DDR3も互角とみるかどうかは意見が分かれるところだと思うが,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.7.2)でGPUコア電圧を見てみると,GT 640 DDR3が最低0.95Vのところ,GT 640 GDDR5は0.837V,GT 630 Keplerは0.887Vまで下がっているので,GK208コアでは,アイドル時の動作電圧低減が,消費電力にも影響を及ぼしている可能性はある。
アプリケーション実行時だと,GT 640 GDDR5はGT 640 DDR3から3〜7W低いスコアを示した。TDPの49W対65Wと比べると違いは小さいが,「確実に」消費電力が下がっている点は評価できる。
一方のGT 630 Keplerは,GT 440から実に36〜52Wも消費電力が下がっている。Fermi世代のローエンドGPUを圧倒する消費電力であり,GK208で消費電力の低減が実現できているのは間違いないと述べていいだろう。
3DMarkの30分間連続実行時を「3DMark時」とし,アイドル時ともども,GPU-ZからGPU温度を追った結果がグラフ11だ。テスト時の室温は24℃。システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラックに置いた状態での結果となる。
搭載されるGPUクーラーがグラフィックスカードごとに異なり,ZOTAC GeForce GT 630 ZONE Edition 2GB 64BIT DDR3に至ってはファンレス仕様なので,横並びの比較にはまったく向かないのだが,GT 640 GDDR5のスコアは,GPUの立ち位置を考えれば妥当と述べてよさそうだ。GT 630 Keplerも,さすがに温度は高めだが,筐体内のエアフローが確保されていれば,まあ問題ないのではないか,といえるレベルにはまとまっている。
なお,毎度筆者の主観で申し訳ないが,ZOTAC GeForce GT 640 2GB 64BIT DDR5のファン動作音はけっこう静かな印象を受けた。高負荷環境においても,ファンの動作音が気になることはあまりないのではなかろうか。
悪くないバランスのGT 640 GDDR5,低消費電力が魅力のGT 630 Keplerだが,現時点では価格が課題
ただ,搭載カードの実勢価格は1万1000〜1万4000円程度と,1万円以下が当たり前で,安価なものなら7000円台から購入できるGT 640 DDR3カードや,1万〜1万4000円程度で手に入るGTX 650カードと比べると,明らかに割高だ(※価格はいずれも2013年6月29日現在)。純然たる3D性能ではGTX 650のほうが明らかに高い以上,現時点でGT 640 GDDR5を選ぶ理由はない。
一方のGT 630 Keplerも,実勢価格は8000円〜9000円と,5500〜8000円程度で販売されているGT 630 Fermiと比べ,こちらも割高感が否めない。しかも,この市場には(今回は比較対象に入れていないが)4000円弱から購入可能な“コストを最重視する人のための絶対王者”「Radeon HD 6450」も控えているのだ。GT 630 Fermiよりさらに弱い足回りの話をするまでもなく,GT 630 Keplerは魅力に乏しい。
低い消費電力という,明らかなメリットはあるのだが,現時点ではあまりに価格が高すぎる。両製品がエントリー以下の市場で選択肢となるには,もう少し時間が必要ではなかろうか。
NVIDIAのGeForce GT 640製品情報ページ
NVIDIAのGeForce GT 630製品情報ページ
- 関連タイトル:
GeForce GT 600
- この記事のURL:
(C)Copyright(C)2012 NVIDIA Corporation