インタビュー
想像以上に難産だった? 「アーシャのアトリエ」,ディレクター岡村佳人氏が産みの苦しみと次回作への展望を語る
可愛らしいキャラクター,なじみやすいカートゥーン調の3Dモデル,そして変化こそあるものの安定して遊べるゲームシステムは,発売前の段階でも評判は良かった。
しかし,この作品が産み出されるまでには,ディレクターである岡村佳人氏,そしてガスト開発陣の大きな苦しみがあったようだ。その理由は,1年に1本というアトリエシリーズのリリースサイクルの早さと,開発を先導する立場である岡村氏の内面にあるという。
今回のインタビューでは,岡村氏がそんな自身の内に抱えた産みの苦しみと,早くも浮かびつつある次回作の構想を話してくれた。
“ガスト”というチームが持っているアトリエのノウハウ
4Gamer:
岡村さんがディレクターになられたのは,「ロロナのアトリエ」からという認識でいいんですよね。
そうですね。4〜5年前くらいからになります。
4Gamer:
ということは,その頃から毎回新作のアイデアは岡村さんが出されていると。
岡村氏:
基本的に,ガストは分業で開発を進めていくんですよ。もちろん,メインのアイデアを出すのは私ですが,その先はシナリオのセクション,キャラクターデザインのセクションというように,各工程に分岐していきます。実作業は相談しながら進めていきますが,私というよりは,チームで作っているというイメージです。
4Gamer:
では,世界観みたいなものは岡村さんが作っていると考えていいんでしょうか。
岡村氏:
そこは難しいですね。アーランドに関しては,それまでのアトリエにあった“ふわふわ”とした,中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を元にしています。現実にありそうなものを残して細かい部分を語らないというのが,アトリエのテイストを出すための重要な柱になっていますので,実はあまり世界観というものを考えることはないんですよ。
4Gamer:
毎回変わる街の設定はどうでしょう。あれも,別のセクションで考えられているんですか?
岡村氏:
街は,私を含むシナリオとかデザインを統括する人間が相談をして「こういうことがしたいので,こういう場所を出しましょう」というように決めます。例えば,「ハゲルが出てくるから武器屋は必要だよね」といったように,流れで決まっていく場合が多いですね。
アトリエというのは,1年に1本,実際の開発期間で言うなら9か月くらいで作っていくものですから,決められることはアトリエのお約束からはみ出さない範囲でどんどん決めていきましょうというのが,アーランドまでの作り方だったんです。
4Gamer:
ということは,アーランドには岡村さんの持っている味は,あまり出ていないんですね。
岡村氏:
そうなんです。今回のようにインタビューなどがあると私が露出するので「アトリエは岡村が作った」というイメージを持たれがちですが,実際はマリーのアトリエを先導した吉池真一さんによって生み出されたものがベースなんです。吉池さんが作ったもの以外は,あくまでガストの中にあるアトリエというイメージを,今風にアレンジしたものでしかありません。それは,アーランドも同じです。
4Gamer:
なるほど。では,岡村さんはマイナーチェンジを先導していく立場と考えていいのですか。
基本的にはそういう認識でいいと思います。ガストには,「アルトネリコ」や「シェルノサージュ」を手がけた土屋という人間もいますが,同じディレクターでも私と彼は明確に異なる仕事をしていますね。
4Gamer:
確かに,土屋さんは自分の持っている確固たるイメージを表現していくタイプですもんね。
岡村氏:
そうですね。彼は自分の構想を膨らませていって,それをどうやってゲームにしていくか,というのを考えている人間です。
一方の私は,1つの大きな方針の元にチームを動かします。ロロナなら「原点回帰」,トトリなら「旅と母親探し」がテーマでした。そういうコンセプトを最初に提示したうえで,開発メンバーやプレイヤーから出てくるフィードバックを基礎にして,ゲームを作っていくんです。なので,僕は「ここはこうして」と明確な指示をあまり出しません。
4Gamer:
つまり,岡村さんを先頭にした凸型の陣形ではなくて,全員が横並びで戦っているようなイメージなんですね。
岡村氏:
ええ。そして,僕もその横並びの中の一部です。戦闘だったり調合だったり,データを見ながら,プランナーの仕事も並行しながらやっています。……言ってしまえば,アトリエのディレクターというのは広く作業を行う一人のスタッフですね。権限は弱いです(笑)。
4Gamer:
どちらかといえば,アトリエというブランドのほうがディレクターという立場よりは強いと。
岡村氏:
そうかもしれませんね。
4Gamer:
しかしそうなると,個人の味を出して行くのは難しそうですね。
岡村氏:
それは毎度葛藤しています。実は,僕の作りたい物や,本来持っている畑は,アトリエの世界とは必ずしも一致していません。そういう中で,どこに自分の達成感とか,ディレクターとしての成功を見いだすかは悩んでいます。
4Gamer:
岡村さんの持っている畑といいますと?
岡村氏:
もともと僕は「ウィザードリィ」といったハードコアなゲームばかりをやっていた人間なんです。ゲーム性という部分ではアトリエにつながる部分もありましたので,そこは経験を活かせていますけど,キャラクターや趣向という意味ではかけ離れていますね。
4Gamer:
それは意外ですね……。
岡村氏:
まぁただ,自分の持っているものとアトリエの世界が違う畑であることは,以前ほど大きな問題だとは思っていません。僕はガストに入って10年ほどですが,やはり最初の頃は自分の面白いと思うもの,作りたいものを,どうプレイヤーにアプローチしていくかが,クリエイターとして重要だと考えていたんですよ。ですが,あるときから自分が面白いと思うものだけを提示しても,それに興味を持ってもらえなければ意味がないと思うようになりました。
4Gamer:
そういう考え方に行き着いたのは,いつ頃ですか?
岡村氏:
「マナケミア」の頃ですね。アトリエのシリーズでは9作目にあたります。そのとき,僕は戦闘をメインに開発していて,自分としてはとてもいい戦闘システムができたと思っていたんです。実際,プレイしていただいた方からの評判も良かったんですけど,その作品の分母は数万人規模で,決して多くはなかった。もっと多くの方に遊んでもらった上で評価してもらえるタイトルを作りたいと,心から思いましたね。
4Gamer:
ということは,アーランドはある意味でたくさんの方にプレイしてもらうことを目的としていて,それを成功させたうえで改めて自分の力を試してみたいと考えていたんでしょうか。
岡村氏:
そういう気持ちもありました。おかげさまで,アーランドは一定の評価をいただいて,プレイヤーの数も盛り返しましたから,その試みの一段目は成功したと言えるでしょう。
トトリは久しぶりの10万本越えでしたからね。
岡村氏:
ええ。10万本は1つの大きな壁だと思っています。アーランド以前のアトリエも,いろいろと試行錯誤していたんですけど,結局それは先細りしていて,プレイヤーがどんどん減っている状態でした。作品にとって一番かわいそうなことは,埋もれてしまうこと,注目されないことだ,というのは身に染みて分かっていたんです。
4Gamer:
言い方は悪いですが,シリーズが痩せていく姿を,開発者として間近で見ていたわけですもんね。
岡村氏:
そうですね。ですから,とにかくまずは注目してもらいたかった。アーランドに関しては,キャラクターデザインの岸田メルさんがとても良い仕事をしてくださったおかげで,キャッチーなビジュアルを実現できましたから,それを前面に出してプロモーションを進めることができました。岸田さんには,本当に感謝していますよ。
岡村氏が作ってみたいのはFalloutのようなアトリエ?
4Gamer:
ところで,岡村さんが新作の構想を練る際の引き出しは,やはり映画や本などから得られるんでしょうか。
岡村氏:
ゲームや映画,本を見て「こういうものが面白かったから,じゃあそれを取り入れてみよう」というのはあまりないですね。単純に,自分達が提供したものに対して周りから出てくる反応を,日常の中でちょっとずつ溜めていきます。「こういう意見があるなら,次はこうしたら面白いんじゃないか」という小さな発想が,あるとき,例えばマスターアップしたあとのちょっとした時間にまとまって,「こうやってみようかな」という道になって見えてくるんですよ。
4Gamer:
なるほど。ということは,メルルがマスターアップしたときには,アーシャの構想はあったわけですか。
岡村氏:
イメージは,2011年3月くらいにはありましたよ。次はこういう形にしましょうというのがある程度出ていました。まぁアーシャに関して言うならば,アーランドをメルルで一度区切るというのは大分前から決まっていましたから,早かったですね。
4Gamer:
アーランドは人気の高いシリーズでしたけど……なぜその決断を?
岡村氏:
アーランドはどちらかといえばキャラクターで売っていくゲームでしたが,当時,同じように可愛い女の子で売っていくゲームがPS3に増え始めていたんですよ。本来ガストはそういう売り方が肝のゲームを作っているわけではありませんから,このままでは埋もれてしまうのではないかと思ったんです。
メルルの頃には露骨な売り方をするタイトルも多数出てきていましたが,こういったものは発売前に騒がれるけれど,実はプレイしている人はそこまで多くなかったりする。それなら,むしろ将来のことも考えて正統派で行ってみようかなと考えたわけです。
4Gamer:
確かに,アトリエには“あざとさ”みたいなものは少ないですもんね。どちらかといえばさわやかな可愛さがあります。
岡村氏:
ゲーム内に,騒がれる要素を入れていたのは確かなんですけどね。
4Gamer:
でも何十枚ってあるイベントCGの中の一枚とかじゃないですか? そういうお茶目なところは,ずっと昔の作品からあるような……。
岡村氏:
そうなんですよね。それも,プレイヤーが喜んでくれるおまけ要素として入れているだけです。プレイしている中で,数分もない,一部分でしかでてこないものなんですけど,インターネット上で広がると,そういうゲームだって思われてしまうんでしょう。アーシャのアトリエは,そういう部分をさらに薄くして,一般的な王道のRPGを目指している。言うなれば,それが今のアトリエの方針ですね。
4Gamer:
アーシャのアトリエが生まれた経緯はそのあたりだったんですね。
では,そういう方針転換の元に生まれたアーシャのアトリエには,岡村さんのやりたいことがある程度は反映されているんでしょうか。
岡村氏:
……2,3割くらいかな(笑)。
4Gamer:
あれ,思ったより少ない(笑)。
岡村氏:
何を隠そう,僕は今回「Fallout」のような世界でアトリエをやりたかったんです。
4Gamer:
……まったく意味が分からないんですけど,とりあえずオープンワールドで?
無論,オープンワールドで。
いえ,冗談です。オープンワールドは「ふざけんなよ」って社内から言われちゃうと思うんで……。ただ,「Fallout」のようにアフターホロコーストみたいな世界でやってみたかった。滅びかけて,衰退していく世界に存在する錬金術,そしてそこに出てくるキャラクター達の生活というのを描きたかったんですよ。
4Gamer:
ということは,アーシャのアトリエは本来もっと暗いイメージの作品だったんですか?
岡村氏:
もう少し世界が滅びにむかっていく描写を入れようと思っていました。ですが,やっぱり最初の方向転換が大きすぎると,プレイヤーも戸惑うでしょうから,今回はこれで良かったのかなと思っています。ビジュアルの担当とも相談して,方向転換の1発目はちょっと抑えめに,新たな世界の土台作りをしようということになりました。
4Gamer:
ただ,街の雰囲気などは,語らないことで黄昏れている感じが出ているような印象を受けました。
岡村氏:
ちょっと飢饉があったり,滅びを示唆する台詞はポツポツ入っていますね。実は今回,お話の中にも滅びに関する伏線がたくさん入っているんです。しかも,ほとんど投げっぱなしで。
4Gamer:
回収してくださいよ……。
岡村氏:
でも,その投げっぱなしのおかげで,続編の構想はバッチリです!
4Gamer:
本当ですか。楽しみですが,それは言っちゃって大丈夫なんですか?
岡村氏:
いやちょっと,ダメかも(笑)。
ですがアーシャには,これまでプレイヤーの方からいただいたフィードバックなどを盛り込む準備をしつつ,次はもっと面白いことをできるように仕込んであります。ですから,次の作品こそが,ある意味で本当に僕のやりたかったアトリエになるかもしれません。
4Gamer:
次は本当に“Falloutのようなアトリエ”を実現する……と?
岡村氏:
まぁ,「新鮮な肉だー!」とかそういうものにするわけじゃないですよ。滅びるとはいっても,いつ滅びるかは分からないし,そもそも生活している人達が滅亡をどれくらい感じているのかも分からない状態です。それでも,その人達の生活は続いていくので,そこに錬金術というのがどういう形で関わっていて,その人達の生活をどう変えていくのか,そういう話を作りたいなと思っています。
4Gamer:
随分と大きな枠になるんですね。錬金術の役割も非常に大切になってきそうです。しかし,実際に錬金術を使える人間というのは,物語の中でも限られてきますよね。そんな少数の力で滅び行く世界に影響を及ぼせるほど,錬金術は大きな力になるんでしょうか。
岡村氏:
アーシャのアトリエの冒頭で「ここは豊かな場所だ」とキースが言いますよね。ほかにもマリオンとか,ほかの場所からアーシャのいる土地へと来た人は「ここにはまだ,豊かさが残っている」というニュアンスのセリフを残します。それはつまり,アーシャの行動範囲外に,まだまだ世界が広がっていることを意味しています。
4Gamer:
さらに言えば,そういう外の世界がより滅びに近い状態にあると考えることもできますね。
岡村氏:
あり得るでしょうね。普通に旅をしていく中で,言葉とか建築物などの端々から何かを感じ取っていただければ,今後の展開がちょっと見えてくるかもしれません。
4Gamer:
過去の面影を残す遺跡なども,至る所にありますもんね。
岡村氏:
物語の中では大きく語られませんが,どの場所にも意味があります。あと,今回はゲーム内にチラシが出てくるんですよ。
4Gamer:
出てきますね。実はすごく気になっていたんですよ。公式サイトもチラシ風になっていますよね。
岡村氏:
ええ。あれは全部英語で書かれているんですけど,ちゃんと意味があります。きっとマニアックな方は,解読されるでしょうね。
4Gamer:
しかし,かなりの数がありますよ。
岡村氏:
でも,数十枚程度です。モンスターの情報とか,その場所のこととか,あとは過去に起きたことに関する新聞の切れ端とか。そのあたりも見てもらえると,面白いと思いますよ。
試験的要素が散りばめられた「アーシャのアトリエ」
4Gamer:
チラシの話が出たので少しゲーム内にも目を向けてみたいと思います。
アーシャのアトリエは,これまでのシリーズと比べて王道のファンタジーRPGに近づきましたよね。さきほども,“一般的な王道のRPGを目指している”とおっしゃっていましたが,今回,そういう方向に振ったのはなぜでしょう。
さきほども少し話しましたが,アーランドはおかげさまで大きな反響をいただいて,ガストとしては大成功と言える結果を残せました。ただ,あの形のアトリエとしてできることは,ある程度やりきったんです。ならば,まったく別の物にすべきだろうと考えるのは自然ですよね。それが仮にアーランドよりも評価が低かったとしても,「新しいことをしているんだ」というのをプレイヤーの方に示すことが大事だと思いました。
4Gamer:
おっしゃることは分かりますが,新しいことをするために,なぜ王道のファンタジーRPGを選んだのですか?
岡村氏:
今はゲーム業界全体を見ても,RPGというジャンルのタイトルがかなり減ってきています。事実として各社さんかなり苦戦されているというのはすごく伝わってきますし。であれば,コア向けの作品を作っていたガストが,ここで一般層に向けたRPGに振るのもありかなと思ったんです。
4Gamer:
アーシャの世界よりもゲーム業界のほうが黄昏の時代だと。
岡村氏:
うまいこと言いますね(笑)。
やっぱり,RPGというジャンルは作るのも大変ですし,かつてほど主流じゃなくなっているという話はあるんです。それでも,腰を据えて遊びたいと願う方は,まだまだいます。だから,そこに向けてアトリエを発信してみようと思ったのが,きっかけですね。
4Gamer:
“納期”すらも廃されて,本当にRPG寄りになりましたもんね。
岡村氏:
今回も“納期”はあるんですよ。進行状況によっては,あるタイミングでばっさり切られます。
4Gamer:
もしかして,冒頭でキースが言っている3年くらいでしょうか。
岡村氏:
そうですね。ただ,今回はアトリエの雰囲気を一新することが目的でしたから,時間の制約はこれまでよりも弱くなっています。今までの「何年の間に目標を達成する」というお約束は,ある意味でアトリエの特徴でしたから,それを変化させれば,イメージも変えられるのではないかと思ったんですよ。
ただ,既存のシステムに慣れている方は,最初に戸惑うかもしれません。“納期”の束縛が弱くなって自由が増した代わりに,何をすべきかという明確な目的が薄くなりましたので。
4Gamer:
確かに,そのあたりはちょっと難しいかもしれませんね。オープンワールドの作品に慣れていれば,何をしていいか分からない状況を楽しめるというか,耐性があるんですけど,そもそもゲームに慣れていない人は目的がないと……。
岡村氏:
そうなんですよね。そこは非常に試行錯誤した部分でもあります。一応,やるべきことがまとまっているノートというシステムで,できる限りフォローする形になっています。
4Gamer:
あのノートは使いやすくていいですよね。戦闘中以外はワンボタンでアクセスできますし,どういう経緯でそれが目的になっているのかも確認できる。
岡村氏:
担当がかなり苦労していましたからね。作っては消し,作っては消し……。今思えば,開発側も,アーランド以前の環境に慣れすぎていたのかもしれません。
4Gamer:
……と,いいますと?
岡村氏:
例えばマナケミアの時代は1本道のRPGで,1年を12コマに割ってその中で何かをやっていくという流れでした。あのときは,ユーザビリティというものがすごく考えられていたんですよ。先ほどのノートに関しても,次は何をするんだっていうのが非常に明確でした。でも,アーシャのアトリエは,具体的な指示がなく,アーシャに分からないことはプレイヤーも分かりません。そこが受け入れてもらえるかは,ちょっとだけ不安です。
……これは本当に申し訳ないんですが,アトリエって新シリーズの1作目は挑戦的要素が強いんです。
4Gamer:
新シリーズの1作目というと,アーランドで言うならロロナですよね。
岡村氏:
そうですね。そしてそれが,トトリ,メルルの流れのようにブラッシュアップされていく。今だから言えますが,ロロナはガストの中での評価は低かったんです。物語と岸田さんのイラストが引っ張ってくれた作品なんですよ。
ロロナ |
トトリ |
メルル |
アーシャ |
4Gamer:
初のPS3向け作品ということで,3Dポリゴンを採用するなどの驚きもたくさんありましたが,確かにゲームとしては単純でしたし,客観的に見たらキャラクターのモデルもクオリティが高いとは言いづらかったですね。
岡村氏:
そのとおりです。ただ,ゲームとして単純化したことで逆に,これまでのアトリエ作品よりも難度が下がった。結果的に物語やキャラクターを楽しめるようになりました。実際にプレイヤーの方からも,「これくらいの難しさならお話を楽しめる」というような意見をいただいて,恥ずかしながらそのときに「あ,これくらいでいいんだ」って気づいたんです。
4Gamer:
なるほど。言われてみると,世界を一新した1発目である今回のアーシャも,ロロナのように挑戦的な要素がたくさん入っていますね。
岡村氏:
ええ。今回もいろいろと試行錯誤していますよ。PS3での開発にも慣れて,クオリティに関して言えばロロナの頃とは比べものになりません。ただ,実現できなかったものもあります。たとえば戦闘。本当は,セミオートの入り乱れバトルにしたかったのですが,いろいろな兼ね合いがあって実現できませんでした。
4Gamer:
戦闘は一新されたというほどの驚きはありませんでしたが,テンポも上がって,メルルからの正統進化という意味では,すごく良くなったと思いますよ。
岡村氏:
今回はメルルの戦闘をベースに,新しいものにつながりそうな原石を散りばめて,一番いいバランスに落とし込むことを目的にしましたからね。本来やりたかったことが100%実現できたとは言いませんが,最終的なバランスはいい感じになっていますよ。
4Gamer:
では,アトリエ最大の特徴でもある調合はどうですか? ここも,アーシャでは少し変わりましたけれど。
岡村氏:
悩みました。当初から目的としていた「視覚的に何が起きているか分かりやすく明示する」ことには成功しています。ですが,最初はライトユーザーにも分かりやすい調合というコンセプトだったのに,いつのまにか詰め将棋のようになってしまいましたから。
4Gamer:
最大効果のアイテムを作ろうと思うと,かなりシビアですもんね。
岡村氏:
シビアです。しかも,熟考することになります。素材を投入する順番を入れ替えるとかですね。ただ,今回は,裏技というか,抜け道が用意されています。例えば,ストックヤードに付いた効果によって,属性の数値は変わるんですが,あるスキルを使うと,同じアイテムをひたすら入れ続けられるんです。そうやって,数値がガンガン上がっていくのを見ると……なんというか,脳から何か分泌されますね(笑)。
4Gamer:
そんな抜け道があったんですか……。
岡村氏:
ええ。そういうものを使って,今までとは違った試行錯誤ができるのは面白いと思います。ただ,これも次の作品でバッと変わる可能性はありますよ。本当は今回,黄昏の時代で錬金術が過去の遺物であり,マップなどで錬金遺物的なものを掘り出したりできるようにしたかったんです。調合アイテムそのものを手に入れて,それを研究するなんて要素も構想にありました。
4Gamer:
なるほど。研究によってそのアイテムを構成する要素を発見し,逆に生み出せるようになるというわけですか。
岡村氏:
そんなイメージですね。まぁただ,今回に関していえば,戦闘や調合といったゲーム性よりもむしろ,ビジュアル面の強化のほうが目立っていますよ。
4Gamer:
ビジュアル面というと,3Dのキャラクターモデルでしょうか。
岡村氏:
そうです。アーランドまでのイベントは2Dイラストの立ち絵で作っていたのですが,今回はそのほとんどを3Dモデルで,カメラを動かしながら作りました。あの立ち絵によるイベントというのは,アーランドがゲームとして“ギャルゲー”っぽさを残していた部分だったので,王道を進むにあたって廃止したんですよ。
4Gamer:
あ,そういう意図があったんですね。
岡村氏:
あとは,イラストレーターの負担も大きかったんです。キャラクターデザインから,立ち絵,差分,イベントCGまで全部ですからね。3Dに移行して,それを減らしたかった。……結局,工数はあまり変わってないんですけど,3Dへの移行はうまくいったと思っています。ただ,まだリップシンクと視線の制御がしっかりできていないので,次はぜひやりたいなと思っています。
4Gamer:
さらっとおっしゃいますけど,普通の企業でそれを言ったら,プレイヤーから怒られちゃいますよ。
岡村氏:
ガストはそういうことを隠さないんですよ。むしろ,そこを正直にやってきたからこそ,アーランドは認めてもらえたんだと信じています。
とにかく,次はカメラワークや構図を自動化する仕組みをもっと取り入れて,3Dに関してはさらに拡張していこうと思います。アトリエはイベント数が400〜500くらいあるんですが,それをすべて3Dでやっても,これまでと同じ時間で作れたんです。次はもっとすごいことになりますよ。
開発が苦しんで産み出した新たな世界
4Gamer:
それにしても,お話を聞いていくと,岡村さんがアーシャのアトリエに満足していないという感じが節々から伝わってくるのですが……。
岡村氏:
今回は産みの苦しみがあったからでしょうね。次はきっと,ここで見つけたさまざまな問題への答えが提示できるはずだという気持ちが,出ちゃっているんでしょう。繰り返しになりますが,アーランドはガストとして成功だったんです。アーシャのアトリエは,その成功に満足しないで,次にどうするべきかという問題を提起する意味合いが強かった。我々がどこへ向かっていくべきなのかを模索した作品と言うべきものです。ここからさらに,プレイヤーからの意見と我々の提示するものをぶつけ合って,進んでいけたらなと思います。
4Gamer:
開発内でも苦しまれたんですか?
岡村氏:
ええ。Falloutのような世界でアトリエがやりたいとか,たまにちょっとふざけたことは言いますが,元来の僕は明確に「これがやりたい!」という意識が希薄な人間です。多分,誰かの構想をどうにか形にしていくという作業のほうが,性には合っているんだと思います。下積みも長かったので。実はそういう僕の内面のせいでうまくリーダーシップを取れず,今回はチームを混乱させてしまったという反省もあります。本当に,たくさん迷惑をかけました。
4Gamer:
気質はどうあれ,決断や判断を求められる立場ですからね。
岡村氏:
そうですね。実際,ちゃんと言えばディレクターというのはある程度自分のやりたいようにできるポジションなんです。でも,どうしてもそれはやりたくなかった。いろいろなところから上がってきた意見を吟味して,より良いものをチームで選んで進んでいきたかったんです。……本当に,何が正しいのかという判断は難しいなと思います。
4Gamer:
ただ,ゲームは多くの人間が関わって作るものじゃないですか。クリエイター一人主導の風潮が最近は少なからずありますけど,その人が作品のすべてを構築しているわけではないですよね。
岡村氏:
現場ではよく,表に出ている人間の裏には,数多くの屍があると言われますね。
4Gamer:
そう考えると,岡村さんの立ち方は必ずしも間違っていないと思うんです。等身大の指導者といいますか。
ただ僕が,どれだけ現場の不満や意見をくみ上げられているかは不明瞭ですよね。自分の名前を出すということは,名前を出した人間が責任を持つということです。ですから,ゲームを出したあとの反響は,私が責任を持たなければいけません。表に出る人間というのは,そういう責任を背負いつつリーダーシップを取り,さらに現場の仕事もこなしていかなければいけないんです。まぁそれは,ガストという会社が,少人数ながらも毎年1本作品出す,というサイクルができあがっているから,そう思うのかもしれませんけどね。
4Gamer:
アトリエを1年に1回出すというサイクルは,今後も変わらないんですよね。
岡村氏:
語弊はあるかもしれませんが,ガストはアトリエを出さないと死んでしまう会社なんです。だから僕としては,そのサイクルを続けていくなかで,アトリエというものが「釣りバカ日誌」とか「寅さん」みたいに,定期的に出て,長く愛されるタイトルになってくれたら,それが一番いいと思っているんですよ。
4Gamer:
あ,そう言われるとしっくりきます。
岡村氏:
一種の恒例行事のように業界内で落ち着くというのも,シリーズものの1つの形でしょう。
4Gamer:
今後,初夏がアトリエの季節と呼ばれるようになるといいですよね。
それでは最後に,アーシャのアトリエのプレイヤーに一言お願いします。
岡村氏:
新シリーズということで,今までの流れをリセットして新たな世界に挑戦しようという気持ちで作りました。それに対して,賛否両論はあると思いますが,遊んでいただいた方には,どんな意見でもいいので,アンケートなどで私たちにぶつけてほしいと思います。それを元に,今後のアトリエをより良いものしていきたいと思っています。手にとっていただいて,本音を言っていただく。それが,最高の幸せです。
4Gamer:
最後に確認の意味も込めて聞きますが,黄昏の世界はまだ続くんですね?
岡村氏:
それは,どうでしょうね(笑)。
4Gamer:
岡村さんのやりたいことが十二分に詰め込まれたアトリエが見られる日を,今から楽しみにしています。
1年に1本,安定した作品を産み出していくというのは簡単なことではない。それがRPGともなれば,なおのことである。にも関わらず,アトリエシリーズがそれを可能にしているのは,ベースとなるシステムや,言葉にしなくても共有されている作品特有のイメージが,ガスト内部にあるからだ。
岡村氏が今回産みの苦しみを抱えることになったのは,そういう根本となる部分に手を入れようと試みたからなのかもしれない。アーシャのアトリエは,これまでのアトリエをベースに高いレベルでバランスを調整しつつ,その先へとつながる要素をいくつも散りばめた。来年の初夏に見られるであろうA15が,ガストに新たな根をめぐらせることに期待しつつ,今はアーシャのアトリエでの原石探しを楽しみたい。
「アーシャのアトリエ〜黄昏の大地の錬金術士〜」公式サイト
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